第622話 世界最大の危機が始まる
米政府への通信を何度も試ても、繋がらない状態が続いていた。カナダの首相がいら立ちを隠さずに、通信の管理官に聞く。
「まだかね」
「アメリカ国内に対しての衛星通信で、妨害が出ているようです」
「妨害?」
俺達が、顔を見合わせる。そしてクキが、カナダの首相に言う。
「ファーマー社は、各方面に手を伸ばしています。奴らは、核ミサイルすらも撃ってきた事があります。どこかの国の軍隊には、奴らの仲間が潜んでいる可能性があるのです」
「と言う事は?」
「下手をすると、アメリカ軍がアメリカ軍の阻害をしている可能性があるということです」
「なんと……」
それを聞いてオオモリが、にんまりと笑って言う。俺ですら、場違いな顔だと思う。
「妨害している人らのシステムを、逆探知するチャンスですね。面白くなってきました!」
「な、なにを」
「愛菜さん。ちょっと手伝ってもらっていいですか」
「わかったわ」
「通信システムと、端末を貸してもらっていいですか?」
管理官がカナダの首相に目を向ける。そして、静かにうなずいた。
「では」
オオモリがパチパチと用意されたパソコンを操作し、ポケットからUSBを取り出して差し込む。
「なるほどなるほど。確かに、妨害されてますね」
通信していた人が聞く。
「しかし、特定できません。なぜか、ギリギリで遮断されます」
「あ、もう特定しました」
「えっ……」
技師たちが顔を見合わせた。
「無防備に、妨害なんかするから。妨害するにもね、二重三重に壁を作って鍵をかけないと。手の内を、あっさりと見せているようなものです」
「そうなんですか?」
「はい」
「でも、それが分かったからと言っても……」
「突破しました」
「えっ!!」
「今は、相手のシステムにいたずらを始めた頃だと思います。どうやら、九鬼さんの言っていたように、同じ軍隊内に妨害していたやつらがいた可能性がありますね」
「そこまで……?」
「いずれにせよ。僕の、AIウイルスちゃんが増殖すれば、まもなく機能しなくなるでしょう」
「は、はい」
「では、バトンタッチです」
そう言って管理官に変わると、すぐにアメリカ政府に通信が通った。
「し、信じられない……繋がりました」
カナダの首相が、すぐに通信を変わった。アメリカ政府の事務官につながり、カナダの首相が話すと、まもなくアメリカ大統領が通話に出る。
「大統領」
「何かありましたかな」
「ファーマー社のデータより、アメリカの核ミサイル基地がマーキングされたデータが見つかりました。それが何を意味するものかが分りませんが、緊急事態だと思われます」
「なんと……」
「彼らが教えてくれました」
「ミスター九鬼に、代わっていただけますか?」
そしてクキが通話を変わった。
「大統領」
「ミスター九鬼。君は、君らはこの事態をどう見る?」
「はい。実は一瞬だけ、GOD社のテッド・グローバーと通話が通じた瞬間があったのです」
「な、彼はどこに?」
「わかりません。ですが、アメリカ海兵がそれを聞きました。代わります」
「海兵?」
そして、デルが通信を変わる。
「大統領! ネイビーシールズ所属の、デル・ブライトン中尉であります! 彼らから、ノーフォーク海軍基地にて救出されました。そして、行動を共にしテッド・グローバーなる人物と、ネットワーク回線による通話を数分だけしたのです」
「なんと言っていたのか?」
「スクラップアンドビルドであると、そんなことを。まるで、新時代を作るかのような話でありました。また、ゾンビウイルスに耐性のある人間を探しているようです。アメリカを壊滅状態に追い込んだのは、恐らく大きな理由があると考えられます!」
「大きな理由とは、何だろう?」
「怖れながら、こちらで話し合った結果の答えを申し上げます!」
「言ってくれ」
「奴らは、世界を壊滅させようと考えているのではないかと、その上でゾンビを使って新たな何かを始めているのではないかと思われます!」
「……リセット……」
「は!」
「ミスターヒカルはそこに?」
「いる」
「今の動きを、阻止する方法はあるかね?」
「敵より速く動き、全ての敵のやる事を封じ込める。それ以外に方法はない」
「そうか……。だが、奴らは既に世界中にいるか」
「世界中で止めるしかない」
「……」
するとカナダの首相が代わる。
「大統領。各国の元首に連絡を取り、協力をしてもらいます」
「この状況で他の国々が、そして東側が動くだろうか」
「私が、やってみます」
「わかりました。とにかく、アメリカ国内の危機を対処しつつ、経過を教えてください」
「はい。あと、アメリカ軍の一部が、通信の妨害をしておりました」
「それは、予想がつきます」
「お気をつけて」
「わかりました。では、急ぎますので」
「はい」
そして、通信が切れた。カナダの首相が、俺達に告げる。
「ありがとう。君達の動きで、危機を早く知る事が出来た」
クキが首を振る。
「いや……早かったかどうかは……とにかく、すぐに対策を」
「わかった。では、官邸に戻らせていただく」
「ええ」
そうして、今度は本当に出て行った。
「どっちが早いか。かなりきわどい」
クキの言葉に皆が頷き、デルが答える。
「アメリカ軍の内部に入り込まれているってのが、とにかく難しいところだ」
「だな。堅牢なミサイル施設に、いとも簡単に入れる可能性もある」
「いや……むしろ、入り込まれていた……と言う事もないだろうか」
「あるだろうな」
タケルがため息をついて言った。
「いくらヒカルでも、世界中は一回で守れないぜ」
タケルの言葉に、俺も無力感を感じていた。
だがミオが言う。
「諦めないわ。絶対に! 博士たちが頑張ってるし! 絶対に活路は開ける。そう、ヒカルが言ってた。もちろん、めちゃめちゃやられたと思う。だけど、それでもいつか必ず勝ち取れる!」
ツバサも立ちあがる。
「そうよ! 徹底的にやるしかないわ」
ミナミも頷いた。
「そうね。邪魔者は斬らなくちゃ」
マナも腰に手を当てて、立ち上がる。
「よーし。私達の底力見せるしかないわね」
そう言ってマナが、手をさしだした。それにミオとツバサとミナミも手を乗せ、タケルも乗せたので、俺も重ねクロサキも、オオモリも、クキも重ねた。
ミオが言う。
「シャーリーンさんも」
「ええ」
「やるよ!」
「「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」」
俺達が、声を合わせる。もちろん、状況はかなり絶望的ではある。だが、みな、強くなった。前世のパーティーのように、絆で繋がっていると実感できた。
そこに、アビゲイルが入って来る。
「一便、が出来ました! 破壊薬! そして、ビスク製剤も更に改良を重ねて、常温で四十八時間持つようになりました」
「よし!」
俺達はすぐに薬品室に向かい、薬の段ボールを見た。
「おお、結構できてる!」
そして、クキが政府関係者に言う。
「薬が出来た! すぐに、デトロイトとバンクーバーに向けて、輸送させるんだ!」
「わかりました!」
次々にカナダ軍の兵士が入ってきて、段ボールを次々持ち出していった。隊長クラスの人間を集めて、アビゲイルが薬の使用方法を告げる。
「ゾンビ破壊薬は、パンデミックの地域にヘリコプターで散布してください。ビスク製剤は保健省の局員に渡して、トロント、バンクーバー周辺地域の病院に輸送してください。感染者に投与を!」
「「「「「イエッサー」」」」」
動き出した。世界が更に悪い方向に進んでいるが、人々は生きる望みを捨ててはいない。
だが、軍人たちが慌ただしく運んでいく中を、逆走してくる政府の事務官がいた。
「来てください!」
俺達がついて行くと、モニターに映し出されたのはどこかの地図だった。それを見て、クキが言う。
「アメリカ……」
「はい……核ミサイル基地に……動きが出たようです」
「衛星か」
「民間の衛星ですが、リアルタイムです」
そこに移っていたのは、ある基地の周りに、車が集まっており何かが始まっている様子だ。
「先ほどの通信で、米軍が動いたのだろうか?」
「そうであってくれればいい」
どうする事も出来ない映像を見ながら、俺達は固唾をのみこむのだった。




