第621話 カナダファーマー社のデータにあった危険な情報
俺達がカナダ兵を救出した事は、すでにこちらの本部にも入っていた。軍が勝手に突入したとなると、他の場所でも同じことが起こりえる。カナダ首相は、トロントとバンクーバーは包囲する事に留める事、そして救出活動は行わない事を、絶対条件として通達をだしていた。
「あとは現場を信じるしかない」
デルが言う。
「そうですね。冷酷かもしれないが、犠牲になった人らは諦めた方が良いですね」
「やはりそうかね」
「アメリカのノーフォーク海軍基地ですら、あっという間にゾンビに飲まれました」
「わかった。有効な情報をありがとう」
クキも合わせて言う。
「隔離しか手段がないのです。アメリカとは地続きですから、山や渓谷を抜けて、奴らはやってきます。その前に、博士の破壊薬の量産を急がせるしかない」
「君らだけが、頼みの綱だ。よろしく頼む」
「もちろんです」
話し合いをしている間に、オオモリがデータを解析していた。ファーマー社がどんな動きをするのか?次に狙っている事が、何かを考える必要があった。
タケルが言う。
「それにしても、テッド・グローバーの言ってたことが気になるぜ」
ミオが言う。
「世界の再生、スクラップアンドビルドとか言ってたのよね?」
「そうだ」
俺が聞く。
「どういう意味になるだろうな」
「そのままなら、世界を壊してやり直すってことよね」
「なるほど。それで、ゾンビを使って壊しているという事か?」
「そうね。そうじゃない?」
カナダの首相が言う。
「世界を壊して、何をしようと言うのだろう」
皆が答えられない。その答えは、ここに居る誰もが持ち合わせていない。
「いずれにせよ、阻止するしかないでしょう。世界を滅ぼしてやり直すなんて、バカげてる」
「その通りだ」
「首相。各地で、ゾンビの症状が発生していないかどうかを、SNSも駆使して調べた方が良い」
首相が頷く。
「もうやらせている。サイバー部隊が、情報をかき集めているところだ」
目の前の大きなディスプレイには、カナダ国内のファーマー社の拠点が記されていた。要注意の地域としてピックアップされ、警察や軍隊が重点的に調査をしているのだ。保健省管轄の組織も動いているが、そこで首相は懸念している事があった。
「保健省にはファーマー社出身の者がいる、敵が潜んでいる事も否定できない」
それを聞いて、クキが頷いた。
「ですが、それを調査する時間はないでしょうね」
「その通り」
「獅子身中の虫を抱えたまま、動かねばならないと言う事ですか」
「調査員を送ってはいるが、いまはリビングデッド対策で手いっぱいだ」
「そうですね」
そこで、クロサキも言う。
「日本ではゾンビの件で潜入捜査をしていましたが、かなり危険だと思います。核で焼かれた東京でも、捜査を続けていましたが、奴らはいろんなところに潜んでいます」
「あなたは?」
「日本の、警察官でした。ファーマー社に潜入捜査をしていましたが、仲間は全員死んでしまいました。奴らを侮ってはいけません」
「もう入り込んでいる調査員には、より注意をするように通達しよう」
「はい。ですが、連絡する時もご注意を、奴らは通信も傍受します」
「接触方法を考えよう」
そこでクロサキが、様々な留意点を告げると、カナダ首相は全て聞いて伝達していた。
そして首相が言う。
「経験者の意見はありがたい。まだ国内で大きなパンデミックが起きていないのは、君達のおかげだよ。国内に、経験した人間など一人もいないからね。では会議は切り上げて、私は一度政府に戻るとしよう」
「お気をつけて」
そして首相が、ボディガードと共に出て行った。
関係者がいなくなったところで、クキがデルに言う。
「さっきのテッド・グローバーの、スクラップアンドビルドの話だが、ビルド後の世界を生きる人間は、デルのような適合者を指してるんじゃないだろうか?」
「俺のようなか……」
「研究員のように作り出された人はビスク製剤が無いとだめだが、デルの場合は勝手に適合した人間だ。彼らのように、崩壊の兆しも見えていない」
「だが、アビゲイル博士は言っていた。通常の人間よりも、テロメアの崩壊は早いと。ということはだ、寿命が短いという事だ。だが、死んだらどうなるんだ? ゾンビか? それとも知恵のあるゾンビか? それは長く生きる、と言う事になるんだろうか?」
「すまないが、それは、なってみないと分らんだろうな」
「ああ……俺がどれだけ、この状態を維持できるのか分らない」
「そうだな……」
そこで、勢いよく扉が開いた。
バン!
「九鬼さん!」
「どうした?」
「これを!」
そしてテーブルに置かれた、タブレットの画面を見る。クキが目を見開かれた。
「なんだと……」
「なぜ、アメリカを壊滅に追いやったのか! それは、目的があるからです!」
それを見た、シャーリーンも唖然として言う。
「まさか……そんな」
ファーマー社から奪ってきたデータの中に、アメリカ軍の核ミサイル基地の場所がマーキングされた、地図が表示されている。
タケルが言う。
「なんで……核ミサイルの基地が、マーキングされてるんだ」
クキが答えた。
「意味がない訳はだろうな。しかも、極秘ファイルに保管するなんて」
「どうするべきですかね?」
「……首相に伝え、アメリカ大統領に通達すべきだ」
「ですよね」
そしてすぐに、クキが扉を開けて、政府関係者を呼び寄せる。
「首相にすぐに話がしたい」
「首相は政府に向かわれました」
「電話連絡でもいい」
「わかりました」
そして政府の人間から、電話を繋いでもらいクキが言う。
「首相、緊急のお話が」
「どうした」
「ファーマー社の情報に、アメリカ核ミサイル施設をマーキングした地図がありました」
「なん……すぐに戻る!」
そして電話を切り、まもなく首相が戻って来る。
「どういうことだい?」
地図を見せると、顔色が失せる。そして政府関係者に言った。
「衛星通信を! とにかく、急いでアメリカ大統領府に繋ぐんだ!」
「は、はい!」
政府の人間が慌ただしく動き出す。
そしてカナダの首相が言った。
「これは……どういう……」
クキがはっきりと答えた。
「奴らが、アメリカを先に壊滅させたのには……理由があるのかもしれません」
「なんと言う事だ……」
カナダの首相だけではなく、仲間も顔色を無くしている。この事は、ゾンビ以上の緊急事態のようだ。そして、ようやく衛星通信の機器が持ち込まれ、通信を始めるのだった。




