第620話 レベルアップしたタケルの新しい力
階層を上がったところの、軍人の死体が転がっているエリアを過ぎようとした時だった。
「すまない! 彼らの、ドッグタグを回収させてくれないか!」
カナダ兵が俺達に言い、そこでデルも俺に助言した。
「彼らに回収させてやってくれないか? 死んだ人間の、識別をしなくちゃならないだろうから」
「かまわん」
カナダ兵は、バラバラになった死体から鉄のプレートを取っていく。兵士を特定する事になるらしい。血の匂いが蔓延し、一人の奴が嘔吐していた。
「仲間の酷いありさまを見たんだ。仕方ない」
回収しているところで、俺が兵隊たちに言う。
「早くした方が良い。まもなく、敵がやって来る」
「な、なに? わかるのか?」
「上階から、こちらに降りてきている」
「外の監視を潜り抜けたのだろうか?」
「さてな。もしかしたら、もともと内部に巣くっていた可能性がある」
俺が感知しているのは、ゾンビの気配だった。だが、それは確実に思考を持った動きで、こちらに向かってきている。止まっている時は、他のゾンビと見分けがつかない。しかしゾンビ化人間は、知能が人間のままなので人と同じ動きをする。
すると、カナダの兵士が言う。
「これで全員分だ……」
「なら、俺達の後ろをついてこい」
俺が気配感知しながら進み、手を上げて軍人を止める。
「隠れていろ」
「そう言う訳には、我々も戦おう」
だが、デルが言った。
「彼らは、エキスパートだ。いう通りにした方が良い」
「……わかった」
そして兵士達は、デルと一緒に通路脇の部屋に入っていく。
「んじゃ、いっちょやりますかあ!」
「ああ。銃は気にするな、全てタケルが狩っていい」
「りょーかい」
俺達が壁に張り付いていると、走って来たゾンビ化兵が通路を曲がって来た。次の瞬間、既にタケルがゾンビ化兵の中心に躍り出ていた。俺はすぐに、ゾンビ化兵が持っている銃を無力化する。
「刺突閃、五連」
全ての剣線が、ゾンビ化兵の持っているマシンガンに命中する。
「がぁ!」
「うおっ!」
「な!」
タケルが、にやりと笑った。
「よいしょぉ!!!!!」
ドゴン!
三人のゾンビ化兵が、タケルのスキルに飛ばされて壁に激突した。
ベチャ! ベチャ! ベチャ!
レベルが上がり、ゾンビ化兵がまるで水風船のように、壁に激突して染みに変わる。
「なっ!」
慌ててゾンビ化兵が、ナイフを握るが、もう遅かった。
ドッ!
二人まとめて、首から上が無くなった。
ドサドサ!
タケルが首を傾けて言う。
「なんだぁ? 随分あっけねえなあ」
「タケルのレベルが上がったからだ。おそらく、何か一つスキルが身についている」
「マジかよ。自分でコントロールできてねえから、よくわからねえや」
「そうか。確かにこの世界では、スキルが見れないからな」
「前は見れたのか?」
「そうだ。自分のスキルは全部見えた」
「そういうのがあれば、もっと楽しかったな」
「この世界じゃあ、必要なさそうだがな」
「ま、十分か」
そう。タケルは何か新しいスキルを身に着けたようだ。今の加速力は、かなりの物だった。そして俺が部屋の扉を開けて、カナダ兵達に言う。
「終わった。行こう」
「あ、ああ」
カナダ兵が首のない死体と、壁でトマトのように潰れている死体を見る。
「どうやったら、こんな事になるんだ」
タケルが、だるそうに答えた。
「あー、これ、銃じゃ死なねえからな。潰すか、完全に首を飛ばすかしねえと」
「こいつらは、リビングデッド……ということか?」
「そっ。人の知恵のある、リビングデッド。ファーマー社が開発した奴」
「恐ろしい」
「とにかく急ごうぜ」
「あ、ああ」
俺達は、そのまま地上に出てカナダ軍と合流した。待っていた隊長が、出てきた兵士達に声をかけた。
「おお! 生きていたか!」
「はい! ですが……」
そう言って、ドッグタグを上官に渡した。
「ほとんど……ダメだったか」
「はい」
「とにかく、良く戻ってきてくれた」
「彼らが、連れ帰ってくれました」
すると上官が、俺達に敬礼して礼をいう。
「仲間を助けてくれてありがとう」
そこで俺が言う。
「今からの戦いで相手にする事になるのは、言葉の通じない化物だろう。アイツらには今までの常識が、通用すると思わない事だ。とにかくゾンビというのは、数が多くなると厄介なんだ」
「肝に銘じる」
「そうしてくれ」
そして、俺とタケルとデルが、再び施設に向かって振り向く。
「ど、どうするんだ?」
「あんたらだけじゃない、あっちの警官の仲間も入ったんだろう? ドッグタグはいいのか?」
「警官は、バッジだろうな」
「なら、安全に集められるようにしてやる」
「また、三人で?」
「充分だ」
俺達は、再び施設に向かい、ゾンビをしらみつぶしにしていく。何カ所かの部屋を回っているうちに、またゾンビ化兵達が群がって来た。
「キタキタァー!」
タケルが暴れまくり、あっという間にゾンビ化兵を始末していく。
「どんな感じだ? タケル」
「なんかよ。先に分かるんだよ。相手がどう動くか」
「ほう。それは、絶対予見だ」
「どんなもんだ?」
「少し先が分かる感じじゃないか?」
「そんな感じだ」
「いいスキルが発動したな。それなら、極めれば銃を避けられる」
「えっ! ヒカルみたいに!」
「いや。俺は斬っているんだ。避けてるんじゃない」
「違う力か?」
「そうだ。少し先の、時の流れを読む力と行った方が良いかもしれんな」
「ふーん。悪くねえな」
「もう、この世で、タケルと喧嘩して勝てる奴は一人もいない。俺以外ではな」
「しねえよ。喧嘩なんて。で? あとゾンビは?」
「これで終わりだ。館内は全て掃除した」
「よっしゃ」
すると後ろで、デルが呆れたように言う。
「おいおい、X〇ンたち。間違っても、一般人と喧嘩なんかしないでくれよ。ゾンビが怖くない理由が分かってきた」
タケルが言う。
「いやいや、大物みたことないからそんな事言うんだ。デカ物や、大量の試験体なんて、俺は無理だぜ」
「そんな事が?」
「もう、世界のあちこちで」
「そんな事になっているのか……。世界は……どうなるんだ?」
「さてな。俺達は、目の前の出来る事をやってくしかねえぜ」
「……そうだな。その通りだ」
「じゃ、上の人らに伝えようぜ」
「ああ」
そして俺達は施設を出て、ゾンビを始末した事を告げた。だが、次の瞬間だった。
ドン!
地響きが鳴り響く。そこで俺が、軍と警官隊に言った。
「ここから離れろ! 爆発の音だ!」
タケルが天を仰いで言う。
「結局、ここもかよ……」
「逃げろ!」
カナダ兵や警官隊が大急ぎで離れていく。すると、一瞬、敷地内が地盤沈下した。
ドウッ!
大爆発を起こし、建物が吹き飛び火柱が上がる。軍人や警官が慌ただしく動き、どこかに連絡し始めた。結局、カナダのファーマー社でも、今までと同じ結果になってしまった。
「しかたねえ。あとは、軍隊に任せて一旦戻ろうぜ」
「そうしよう」
俺達が、一緒にきた政府関係者に状況をつたえると、政府の奴らが、軍隊の隊長に話を付けてくれた。そして俺達は再び、先導してきた政府関係者と共に、パトカーに先導されて研究所へと向かうのだった。




