第616話 カナダの首相と接触する
俺達が部屋に隔離されて、もう半日が経過していた。現状の状態から、悠長にしている場合ではない。こうしている間に、時期にカナダにもその脅威はやって来るだろう。パンデミックが始まったばかりで、広がっていないだけに過ぎなかった。
「リーさんよ。どうなっている?」
「まだ、連絡がない。待機していてほしい」
「もう、待ったなしなんだがなあ」
「とにかく、私に判断は出来ません」
エイブラハムがいくらつついても、埒が明かなかった。
ガチャン! と、ドアを閉めてリーが出て行ってしまった。
「さてと、どうするかね」
エイブラハムが言い、俺達は腕を組みながら決まった事のように答える。
「出よう」
「そうしよう」
禿げ上がった医師が言う。
「軍隊に追われてしまうぞ」
「むしろ、こんな悠長なことはやってられん」
「まあ、確かにそうだが、軍が出ている」
そこで、シャーリーンが言った。
「というより、もう間違いなくカナダは浸食されている。ゾンビは、荒野も山脈も歩き続けるんです」
「そうか……だが、そうだとしても……」
「彼らは、それを分かっていない。パンデミックから数日たち、そろそろ都市部にも影響するはずです。デトロイトやシアトルのような大都市は、軍が防衛してるでしょうが、荒野部は恐らくノーマークです」
それを聞いて、医師が言う。
「もう、入り込んでいると?」
「間違いないでしょう」
「それを、理解してもらうには、どうすれば?」
「無理です。大きなパンデミックが起きないと、理解はしません」
「アメリカの事は……対岸の火事だとでも?」
「ええ」
そして、シャーリーンがドアに手をかける。
「鍵がかかっていますね」
「それはそうだろう」
それを見た俺が言う。
「そこから出たら騒ぎになるだろう?」
「し、しかし、ここには窓が無い」
「問題ない。むしろ、大きく騒ぎを起こそう。もう外は準備ができている」
「それは、どういう?」
俺は、日本刀を構えた。
「大龍深淵斬!」
シュピっ!
そして俺が壁を押すと、全ての壁が外に倒れ込んだ。
ズズーン! するとそこに、軍用車両の一団が来た。
「ナイスタイミング」
「タケル達の気配をよんだ」
「だろうと思った。じゃ、行くか」
俺達は、部屋を出て軍用車両に飛び乗っていく。すると後方から、車両が走って来る音が聞こえた。
「追手だ」
「急げ」
全員が車に乗り込み、一気に車両が飛び出していく。だが追跡は続いていた。
「止めるか?」
「そうしてくれ」
タケルがスピードを落として、するりと一番最後尾に下がる。俺が飛び降りて、道脇に走る。
「大地旋風斬」
竜巻が起こり、太い木々を斬り倒して後ろの道へとばら撒いて行き、すぐに車に飛び乗って出発する。大木で行く道を遮られた追手の車が、立ち往生して追いかけて来なくなる。
「すぐに、どこかで待ち伏せされるだろう」
「道路はまずいかな」
案の定、空にヘリコプターの音が響き始めた。
「おいでなすったぜ」
タケルが言うと、クキが答える。
「問題ない。とにかく医師たちをどこか安全な所に降ろせばいいだけだ」
「おっしゃ」
しばらくすると、サイレンが鳴り響いて来た。
「警察に要請したようだぜ」
「そのようだな」
ヘリコプターで位置を確認し、この先で待ち伏せをしているらしい。俺達はかまわずにそのまま進み、道の先にパトカーがバリケードをはっているのが見えた。
「タケル、先頭へ」
「おうよ!」
俺は天井に登り、剣を構える。警察官たちが銃を構えて、俺達を待ち受けていた。
「止まれ!」
「強推撃!」
剣撃が飛んでいき、バグン!と車を押しのける。押された警官たちが、吹き飛ばされて茂みや近くの、住居の庭に吹き飛んで行った。警察車両の間をすり抜けて進むが、ヘリコプターは追いかけてきた。
「殺すわけにはいかんな」
俺が言うと、クキが答えた。
「このまま、都市部へ入り込もう。流石に、そこで攻撃はしてくるまい」
ヘリコプターを連れたまま進んでいくと、突然ヘリコプターがそれて行った。
「あれ? ヘリが追うのやめたなあ……」
しかし俺達の先に、軍の車両が大量に止まっていた。
「どうする?」
そこでクキが言う。
「逃げ続ける事は無理だな。とりあえず、停めろ」
俺達が車を止めると、銃を構えた軍人たちが急ぎ俺達の車列を囲んで行った。俺が道路に降り立つと、軍人の後ろから人がやって来る。
「抵抗はしないでください! あなた方を、攻撃するつもりはありません!」
そう言われて、俺とクキが顔を合わせる。
「どういうことだ?」
クキが聞くと、その軍人が言う。
「衛星通信でアメリカと通信が取れました。大統領は存命で、あなた方が使者だと確認が取れました!」
「そう言う事か……」
クキが言った。
「すまない。国境の施設を少し壊して、警察車両を破壊してしまった」
「それは、不問とします! すぐにカナダの首相との話し合いを」
「なるほど……こちらが勝手に焦ったという訳か」
するとそこに、ヘリコプターが降りて来て、見慣れた顔がやって来る。それはリー・ドーソンだった。
「だから! 待ってと言ったんです!」
「いや。こちらも切羽詰まってたんでな」
「とにかく! このまま、モントリオールへ! 首相がお会いになります!」
「わかった」
俺達は、軍の車両に誘導されてモントリオールへと入るのだった。モントリオール市庁舎へと到着し、丁寧に会議室のようなところに通された。不機嫌そうな、リー・ドーソンを尻目に、俺達は座って待つ。
「だから、言ったのに……首相が来ると……」
ブツブツ言っているが、無視をした。しばらく待つと、カナダの首相が数人の要人と共に姿を現す。
「よくぞ来てくださいました!」
いきなりの、歓迎の言葉に、俺達の方が動揺してしまう。そして、エイブラハムが話した。
「は、話をしたいのじゃが!」
その時、カナダの首相がエイブラハムの手を取る。
「あなたが? アビゲイル博士? もっとお若かった、いや……女性だったような」
そこで、隣のアビゲイルがサングラスを外した。
「あ! あなただ! ノー〇ル賞の!」
「はい」
「リビングデッド関連で、おいでくださったのでしょう? ここに来るのに一日を要してしまいました。お時間を取らせてしまって、申し訳ありませんでしたね」
チラリと、リー・ドーソンを見ると、ふてくされた顔をしている。
「なるほど、すみません。こちらの早とちりでした」
「いえ。ワシントン付近の様子が変わって来たので、衛星通信を試みていたのです。するとようやっと、大統領との通話がつながり、あなた方の事を知ったのですよ」
「首相。この事を誰が知っていますか?」
「えっ? 私と、私の関係者、軍関係者と国境警備隊でしょうか?」
「ならば、まずは、今起きている危機を話さねばなりません」
そうして、俺達はカナダの首相に起きている現状の出来事を話したのだった。彼が敵だったとしても、既に協力を仰がねばならない状況。もしこれが裏目に出ても、騒ぎを起こして逃げる準備は出来ている。
だが、カナダの首相が言った。
「実は、もう、国境沿いの村々で……そうではないかと思える、事案が浮かび上がってきているのです」
「やはり……」
「なにか、手立ては?」
アビゲイルが身を乗り出して言う。
「ブリッジISC製剤を完成させました。それで、ゾンビの発症をおさえることができるでしょう」
「あれは、未完成の技術では? 打てば死人も出るのでしょう?」
「完成したのです。すぐに、研究者を集めていただきたい!」
だが、その時、慌てて事務官が走り込んできた。すぐに、首相に耳打ちをする。
「なんだと!」
「どうされました?」
「トロントで……大暴動が起きたと……」
「それは、暴動ではありません」
「リビングデッドでしょうか?」
「その可能性が高い」
「なんと、首都に近いところでそのような……」
「首相。すぐに軍を動かしてください」
「わかりました。すぐにトロントに……」
「いえ、手遅れです。トロントから国内につながる所に、軍を配備してください」
「わかりました。それでは、あなた方のアドバイスが欲しいのですが!」
「わかりました。それが、賢明です」
俺達はすぐに、その部屋を出て、職員が働く場所に出る。そこで、首相が大声で言った。
「緊急で館内放送を!」
「はい!」
首相は、トロントが被害にあっている事と、事態が急を要する事を伝えた。すぐに軍に要請を出して、トロントからの道を全て封鎖するように告げる。
だがその時だった、嫌な情報は重なるもので、また他の事務官が告げる。
「首相……バンクーバーで、暴動が起きています」
「なんだと……」
そこで、アビゲイルが首相に言う。
「できましたら!国で最高レベルの、製薬研究所へ案内してください! すぐゾンビを阻止するための、薬品を量産する必要があります! まだ、人もライフラインも無事なうちに!」
「わかりました! では、カナダ保険局の研究機関へ」
彼は出来るトップだった。アビゲイルの助言をすぐに聞き、なんとしても国を守るという意識が高い。そして俺達は市庁舎を出て、すぐに研究施設に向かうのだった。




