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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第611話 最先端の医療大学の名医

 緊張感が漂う手術室では、初老の禿げ上がった男がゴクリと喉を鳴らし、黒人女の後頭部を見ている。そして俺が、その寝ている後頭部に指をさして言った。


「このあたりだ」


「わかった。剃毛してくれ」


 助手が、ショリショリと音を立てて、その辺りの毛を剃った。毛がふき取られ円形に皮膚が出るよう、ばさりとビニールのようなものがかけられる。スッとメスを降ろして頭皮を切り、頭蓋骨が露出した。


「なるほど、ここに穴が開いてるね。ここから入れられたか……」


 初老の男が、頭蓋骨の穴を指をさす。


「やはりそうか……」


「麻酔が効かないのであれば、痛みで暴れるといけない。おさえるのを手伝ってくれ」


 タケルと俺とクキで体を押さえこみ、いよいよ頭蓋を開ける。


「ドリル」


 キュィッィ! ガリガリ! という音を立て、頭蓋骨に小さな穴があけられ患部の頭蓋骨を外される。


「ぐっ」


 黒人の女の体に力が入るが、動かないように俺達が抑え込んだ。アビゲイルが、患部を見て言う。


「どうやら、脳を破壊しないように、計算されて刺しこまれたようですね」


「そのようだが……問題は深さだが」


「はい」


 だが、それには俺が答えた。


「それほど深くはない。頭の中心には行ってない」


「そうか、脳を破壊しないようにはしているわけだ」


 露出した脳の周りを器具で固定しながら、初老の男がいう。


「内視鏡」


 ワイヤーのような器具を持って、そっとその器具を降ろす。すると、近くのモニターに、内部の様子が映し出された。白い脳の奥に進むと、何かの異物が見えてきた。


「金属だ。掴めるかな?」


「ドクター、慎重に……」


 その器具の先でそれを摘み、ゆっくりと抜き取っていく。初老の男が、独り言のように言う。


「放すなよ……」


 すると細長い管の先が見えた。そのままするりと数センチ出ると、初老の男が言う。


「鉗子」


 助手が渡し、その管を掴んでするりと抜き取った。


「取れた。どうだ? これか?」


 それを俺に見せる。


「そうだ。あとは、頭には何も入っていない」


「良し……縫合しよう」


 そして頭蓋を戻し、助手に言う。


「プレートで固定」


「はい」


 頭蓋骨を何かの器具で固定し、皮を戻して縫合していった。


「意識は?」


 そう言うと、黒人の女性が答える。


「はあはあ……あ、あります」


「凄いな。よく我慢した」


 そこで、アビゲイルが男に言う。


「先生。ここに居る、研究員の全員が埋め込まれているんです」


「……一気には出来んが、もう一人やろう」


 すると、白人の女が手を上げた。


「じゃあ、君」


 手術は同じように行われ、その子も鉄のパイプを取り除かれる。


「ふう……スマンが休憩しよう」


 そうして、一旦手術を終わらせようとした時だった。取り除いた二人の女が、荒く息をついている。


「フーフーフーッ!」

「アウう……アア……」


 俺が言った。


「正気を失いかけているな」


 アビゲイルが慌てて言う。


「あの薬を!」


「はい!」


 他の研究者が薬を持って来て、手術を終えた二人に飲ませた。するとスーッと狂気の雰囲気が消えた。だが、それを見ていた、白衣の人らが騒ぎ出す。


「か、感染者では?」

「今……なりかけてませんでしたか! あれに!」


 流石に医療関係者だけあって、すぐに異変に気が付いてしまったようだ。


 初老の禿げ上がった男が言う。


「感染は、していないと言っていたではないか!」


 そこで、アビゲイルが観念したように言う。


「あの……お話をさせていただきます!」


「……」


「騙していたのではありません。彼らは、被害者なのです!」


「だが……」


 そこで、エイブラハムが口を挟む。


「まってくれ。ちょっと話を聞いて欲しいのじゃ」


 彼らも理性的な人間らしく、どうやら聞く耳は持っているようだ。


「わかった。聞かせてほしい」


 そこで、アビゲイルが話し始める。白衣の連中も、黙ってそれを聞く。


「このゾンビ騒ぎは、恐らく大陸全土で起きているかと思われます」


「そのように、ネット情報では出ていたが……」


「あれは、真実です。既に、ネットワークもテレビもないですが、私達は見てきました」


「そんなに、ひどい状態なのか……」


「そうです。あちこちの米軍基地も壊滅状態でした」


「米軍が?」


「感染者を救助しまくった結果です」


「なるほど……確かに、この病院でも同じ現象が起きた……」


 自分達も現実に目の当たりにしたので、分かっているのだろう。ため息交じりに落胆している。


 そこで、デルが口をはさむ。


「ノーフォーク海軍基地も壊滅した。俺はそこから脱出してきた、シールズだ」


「ノーフォークが?」


「ああ」


「世界最大規模の海軍基地なのに……」


「感染者を受け入れただけじゃない。故意に、ゾンビを増やされたんだ」


「故意に?」


 アビゲイルが、強い口調で言う。


「これは、人災なのです!」


「人災……??」


 白衣の人間達は、研究者たちを見渡す。


「彼らは、その被害者です」


「いったい、誰が……そのようなことを」


「私達が掴んでいる黒幕は、ファーマー社、GOD社、そして政府の高官が黒幕です」


「政府も!!!」


「マーガレット・ブラッドリー国務長官」


「そんな上層部の人間が?」


「多くの組織が絡んでいるようです。米軍の一部は、国務長官についています」


 白衣のうちの一人が、声を荒げる。


「金ですか! 金に目がくらんでこんなことを! 利権がらみじゃないんですか!?」


 だが、アビゲイルが軽く首を振る。


「私達も、最初はそのように思ってました。ですが、彼らの目的はもっと違うところにあるのではないかと思っています」


「なんですか?」


「分りません。日本、ベルリン、ローマ、各地で同じ事が起きて、仲間達がそれを阻止して来たのです。ですが、アメリカは同時多発で、大陸中にばら撒かれました。これでは経済は破壊されます。そう考えると、金品目的だけでは無いと思われるのです」


「たしかに……」


「そしてファーマー社は、人格を破壊せず、知的なままゾンビ化する方法をみつけたのです。それが、彼ら研究者です。ゾンビ化しながらも、体が崩壊せずに人格を保たせる薬を飲まされています」


「それで……先ほどの……」


 デルが手を上げて言う。


「そして……俺のように、薬に頼らずゾンビ化したまま、人間で居られるやつもいる」


「なんと!」

「え!!」


 アビゲイルが付け加える。


「ファーマー社が探しているのは、ゾンビに対しての抗体がある人間なのです。そして彼ら研究員はゾンビ化した人間を、操る為の技術開発を強要されていました。その技術にGOD社が関係しているのです」


「そんな……」


「彼らを不眠不休の奴隷にして、研究を続けさせていた。だから私達は、彼らをファーマー社から奪還して来たのです。今度は私と共に、対ファーマー社の研究をしてもらおうと思っています。だから彼らに、滅びてもらっては困るのです!」


「「「「「「……」」」」」」


 白衣の人間達が、沈黙して呆然としている。常軌を逸した今の事を聞いて、頭の中で整理がついていないのかもしれない。そこで、クキが言った。


「我々が、あの敵に対抗できる、唯一の組織だと思ってもらっていい」


「そうか……。でも、あんたらはゾンビじゃないのか?」


「違う。我々はゾンビにならないように、体を変えた」


「体を……変える?」


「そうだ、だが、従来の人としての機能があるかどうかは、はっきりとしていない」


「改造人間? ……わけがわからん。じゃあ、ゾンビにならない人らと、ゾンビになっても意識を保っていられる細胞を持つ人間と、作られた知的なゾンビが一緒に行動していると?」


「そういう事になる。我々は、なんとしても彼らを守り、奴らに対抗できる手段を見つけねばならない」


 皆が言葉を失い、呆然と立ち尽くしている。研究員も、俺達を不思議そうな顔で見ている。


「あなた達は、ゾンビにならないのですか?」


「そうだ」


「そういう、手術があるんですか?」


「まあ、そんなところだ」


「では、私達を戻す事が出来るのでは!?」


「残念ながら……」


 クキが首を振ると、研究員たちはがっくりと肩を落とした。しかし、アビゲイルが声をはる。


「治せないとは言ってません! ただ、今は見つかっていないという事です。そして私は、ぞのゾンビ因子を見つけた張本人、一度はゾンビ破壊薬を作りました。治癒薬も、不可能ではないと思います!」


 それに、研究員が首を振る。


「だって……生物学的には、私達は死んでいます。だから、それはありえない」


「いえ! 奇跡はあります! 彼らと一緒に旅をして、何度も奇跡を見た! 奇跡は! あります!」


 アビゲイルが力説した。すると、初老の禿げ上がった医者が言う。


「これは……休んでなど……休んでなど居られないぞ! 残りの研究員も、何とかしよう!」


「ドクター!」


 そして俺がドクターに言う。


「あんた。こっちに来てくれ」


「ど、どうしてだ?」


「いいから」


 俺は、禿げ上がった初老の男の腕をつかんだ。


「ヒール」


 淡く輝いて、男が目を見開く。


「軽くなった……なんだ、さっきは集中しすぎて、もう目の焦点が合わなかったのに!」


「これで手術できるだろう?」


「……君は、いったい……」


 アビゲイルが再び答える。


「奇跡……その一端が分かってもらえましたか?」


「奇跡か……よし! すぐにオペを再開する!」


 掛け声とともに、白衣の助手たちも一斉に動き出した。それから、何度も初老の男にヒールをかけて、夜が明ける頃には全員の手術が終わったのだった。

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