第610話 ゾンビ化人間の開頭手術
目的の大学に到着すると、救急車などが乗り捨てられていた。俺が大学に気配感知を張り巡らせると、どうやらゾンビだけじゃなく人間の気配もある。
「降りるか」
トレーラーを降りると、あたりにゾンビはおらず静まり返っている。
「ゾンビ、いないな」
だが、俺は首を振る。
「中だ、ただ外に出ていないだけだ」
「そうか……」
「だが、人間もいる」
「なに?」
俺達が入り口に近づいて行くと、自動ドアの方に向かって中からゾンビが来る。
「お。おいでなすったな」
「まずは片付けていくか」
「あけるぜ」
「やってくれ」
タケルが自動ドアの隙間に手を入れ、グイっと引っ張るとバギンと音がした。
「鍵がかかってた。鉄がちぎれちまったな」
デルが乾いた笑いをした。
「どんな馬鹿力だよ……」
自動ドアを開けミナミが入り込んで、ゾンビを切り捨てる。それを見ていた研究者たちがざわめいた。
「えっ! サムライ?」
「アニメみたい」
「えっ! アニメ好きなんですか!!」
「はい!」
「わたしも」
なるほど、日本のアニメはいろんなところで人気があるらしい。
「私も好きなんですよー!」
「日本人は、剣士がいっぱいいるんですか? あなたのような女の子でも、剣を使うの?」
「あー、いません。でも、剣道とか得意な人はいますけど」
「おもしろいですね」
俺達が中に進むと、ツバサが指をさす。
「監視カメラ」
そこで、タケルがカメラに向かって手を振った。
「きっと、どっかに立てこもってんだな」
「でしょうね」
気配感知を張り巡らせると、人が固まっている方向が分かる。
「こっちだが、ゾンビもこっちに固まってる」
病院の通路を進んでいくと、ぽつりぽつりとゾンビが立っていて、見つけては狩り始めた。
「服装からすると、こりゃあ……怪我人とかか? 病人みたいだな……」
「運ばれて来た人じゃない?」
「ああ……なるほど。ゾンビに襲われたりして怪我をした人か」
「そうみたいね。噛まれ痕とかあるし」
更に先に進んでいくと、通路にびっしりとゾンビがいた。
「おー、いるいる」
「いくわよ」
俺とタケルとミナミが、一気にゾンビを斬り倒して進んでいく。ゾンビが通路にばたばた倒れて行き、その先にあるドアの前で俺達は止まる。そして、ミオがみんなに告げる。
「この先に人がいるわ」
「生きてる人か?」
「そう」
ミオがドアをノックして、声をかける。
「すみません。ゾンビは倒しました! ひとまず安全です! 開けてください!」
だが答えが無い。
コンコン!
「ゾンビはここにはいません! 開けて下さい!」
すると答えが来る。
「だめだ。感染者がいるかもしれない!」
確かに研究員やデルは、ゾンビ感染者だ。だがミオは嘘をつく。
「いません。ここには正気を失っている人はいません!」
「……」
しばらく待っていると、中からゆっくりとドアが開かれた。その男は消火器を持っていて、その隣にいる男はメスを握っている。
「あなたたちは?」
中の人間に聞かれデルが前に出て、声をかけた。
「海兵隊だ。スマンが入れてくれないか?」
少し沈黙していたが、諦めたようにドアを開けて俺達を中に入れる。白衣を着たやつらが、数人いた。
「良く生き残ったな」
「軍服だが、米軍が助けに来てくれたのか?」
「残念ながら、海兵は俺一人だ。あとは、研究者や一般人だ」
白衣のやつらが、がっくりと肩を落とす。
「助けに来てくれたんじゃないのか……」
「実は治療が必要な人間がいるから、ここに連れて来たんだ」
そう言った途端に、白衣の人間達に戦慄が走った。
「さっきは、感染者はいないと……」
「ちがう。爆弾を体内に仕掛けられた者達がいる。それをどうにかしたいんだ」
「体内に……爆弾?」
白衣の人間達は、目を見開いている。すると奥から、禿げ上がった初老の男が言う。
「いったい、体内のどこに?」
デルが頭を指さしながら、残念そうに言う。
「ここだ」
「頭……」
そこで俺達の一番後ろの方から、アビゲイルが前に出てきた。それを見て、白衣の連中が言う。
「あ! あなたは!」
「なんで……」
「アビゲイル・スミスです。お願いです。ここで手術をさせていただけないでしょうか?」
禿げ上がった男が聞く。
「その、爆弾を取り除くつもりですかな?」
「そうです。しかも金属製なので、CTなどを使わずに行います」
「そ、そんな馬鹿な。どのあたりにあるか、分っているのかね?」
「わかりません」
「そんな、無茶な」
そこで俺が言う。
「おおよそなら分かる」
「あんたは、医者かい?」
「違う」
「どうやって?」
「異物の位置を探ればいい」
「そんな事が出来るわけない」
「だが、どうしてもやらねばならない」
「……」
アビゲイルが更に言う。
「彼らは、優秀な研究員なのです。彼らが、このゾンビ騒ぎの収束の鍵を握ります」
「彼らが?」
「工科大学から連れてきました」
「ちょっとまってくれ」
白衣の連中が、部屋の奥に行って集まり話を始めた。俺達はただそれを待ち、研究者たちは気まずそうにしている。しばらく待っていると、禿げ上がった初老の男が振り向いた。
「わかった。我々も手伝おう」
「本当ですか?」
「だが地下にある非常電源を付ける為の、ガスタービンを回して発電しなくちゃならん。この電力じゃ、手術に耐えられん」
「ではやりましょう」
「しかし……館内には奴らがうようよしているんだ。ゾンビが」
タケルがドアを開けて先を見せて言う。
「大丈夫。ぜーんぶ、こうしてやっからよ」
「な、これをあなた達が? 銃声もしなかったが?」
するとミナミが、するりと仕込み刀を抜いてみせる。
「これよ」
「カタナ?」
「そ」
「……」
「なら、私が地下に案内しよう」
そこで俺が言った。
「なら、俺とミナミが一緒に行こう。他は、ここで皆を守っててくれ」
それを聞いた、初老の男は驚いたように言う。
「二人だけ? しかも、この女の子?」
「そうだ」
「海兵の君はいかんのかね?」
「すまんが、足手まといになる」
「……」
「急ごう」
俺とミナミが、初老の老人と一緒に部屋を出た。病院内のあちこちにゾンビがいたが、俺とミナミが切り落とす。それを見て、初老の老人はポカンとしていた。
「あんたら……何者なんだ?」
「あー、ゾンビ倒すのはもう慣れちゃったの。ただそれだけ」
「慣れ……とか……あるのか」
「ある」
俺達は、暗い地下の通路に辿り着いた。初老の男は異常なほど汗をかき、少しの音でもビクビクしているようだ。
「大丈夫だ。安心しろ、凄い汗だ」
「な、なんで、そんなに安心していられる。いつ暗がりから、奴らが出て来るか分からんのに」
「安心もなにも、出てきたら倒せばいいだけだ」
「……」
先に進むと一つのドアがあり、そこの先だと言った。男が鉄のドアに手をかけるが、鍵がかかっていて開かなかった。
「鍵が開かん! 守衛室に行って鍵をとってこないと!」
「守衛室はどこだ?」
「一階だ」
「面倒だ」
俺がそのドアの鍵を切り中に侵入していく。初老の男が後に続き、ミナミが後ろをついて来る。
「それを動かすんだ」
「どうすればいいの?」
「分からん……」
「分かんないの??」
「私は医者だ! ボイラーの動かし方など!」
だが、ミナミはもう聞いていなかった。すぐにスマホを取り出し、ミオに電話をする。
「これから、ボイラーカメラで撮るから、誰が動かし方分ったら教えて」
そしてスーッとボイラーを移すと、ツバサが言う。
「あー、多分わたし分る。きっと操作パネルがあるわ」
探すとそれが見つかった。それからツバサのいう通りに、レバーを回し鍵を捻ると、ぶるんと音がしてそれが動き出す。それと同時に、一気に地下室も明かりがともる。
「ついた!」
「よかったわ。こっちも明かりがついた」
「ありがと。翼」
そうして俺達は、元来た道を戻っていく。皆の元に戻ると、早速、禿げ上がった初老の男が言う。
「では、オペ室に行こう」
白衣の女が怯えたように言う。
「でも、ゾンビが……」
「いや。彼らとなら、むしろ安全だ」
「ドクター……?」
「本当だ。この目で見た」
白衣の人らは、顔を見合わせて頷いた。
「わかりました」
納得した白衣の人らが出て来て、手術室へと向かう。倒れているゾンビを恐怖の顔で見ているが、動かないのを見て少しは落ち着いてきたようだ。
「ここだ」
初老の男が言い、俺達がそこに入り込むとエイブラハムが頷いた。
「確かに最先端じゃな」
そこでアビゲイルが言った。
「早速、手術の準備を」
初老の男が言うと、白衣の人間達が忙しなく動き出した。そうやら、彼らは医療行為のプロらしい。
禿げ上がった男が言う。
「幸い私は、外科だ。少しは役に立つだろう」
アビゲイルが喜ぶ。
「それは心強い! では、早速取り掛かりましょう」
研究者の中から黒人の女が、率先して手を上げる。
「私から! 万が一があっても、死ぬのは私だけで済むから!」
「……わかりました。では、あなたから。ミスターヒカルもよろしい?」
「わかった」
白衣の人間達が準備した手術台に立ち、皆が手袋をして準備を終わらせた。
アビゲイルが俺を見たので、寝ている黒人の女の頭に手を当てる。魔獣の弱点を見抜く時のスキルだ。すると俺の意識の中に、黒人の女の頭の違和感が出た。
「ここだ。この奥。首の付け根の上の、後頭部の部分に白い光がある」
「そいつは……そこを爆破すれば、脳も死ぬが体の神経が切断される」
禿げ上がった初老の男が言うと、アビゲイルが答える。
「はい……それが目的で設置されたようです」
「なるほど。酷い事をする……」
頷いて、エイブラハムも言う。
「わしも医者じゃ……町医者じゃがの」
「それは心強い。手伝っていただけますね?」
「うむ」
アビゲイルも言った。
「私も手伝います」
だが、その時、白衣の一人が驚いた。
「えっ?」
「どうした?」
「……麻酔が……効きません」
「麻酔が効かない?」
どうやらゾンビ化して、休まず働くようにされたと言っていたが、麻酔が効かないらしい。その時、腹ばいに寝そべった黒人の研究員が言う。
「いいんです。このまま、やってください」
「こ、このままかね?」
「はい」
白衣の連中が驚いた顔をして、顔を見合わせている。だがそこで、アビゲイルも言う。
「やりましょう」
「博士……」
そして、その禿げ上がった初老の男に、メスが手渡されるのだった。




