第609話 研究者たちを救うために北へ
トレーラーが走り出してすぐ、数機のヘリコプターがこちらに向かって飛んで来た。
「ヒカル! 止まってやり過ごすか?」
「いや。墜とす」
「わかった!」
トレーラーは止まらずに進み、一機のヘリコプターに発見される。
「気づいたようだ!」
「よし!」
そして俺がトレーラーの屋根に飛び乗り、そちらの方角に向けて構える。
「ん?」
どうやら、ヘリコプター群は鉄の入れ物のような物をぶら下げていた。
「どうしたヒカル? 墜とさねえのか?」
「ヘリコプターの下に、試験体がぶら下がっている。墜とせば、試験体が街に放たれる」
「どうするよ!」
「停めてくれ!」
トレーラーが停まると、他のヘリコプターたちも、こちらに向かいはじめた。
「バラバラに墜とされると、処理が大変だ。引き付けるしかない」
「厄介だな。つうか、ゾンビも寄って来た」
トラックに気が付いたゾンビが、周りに集まってきていた。
飛び降りて剣技を放つ。
「飛空円斬!」
見える範囲のゾンビは切れ落ちる。その間にも、試験体を運ぶヘリコプターがこちらに向かっていた。
「合計五機だ! タケル、わざとゆっくり走ってくれ」
「おうよ!」
トラックはゆっくりと進みだして、あえてヘリコプターに見つかるようにする。すると位置を正確に把握したためか、一直線にこちらに向かって来た。
「早く、試験体を放て……」
すると近づいて来た最初の一機が、試験体が入った箱を落とす。それを皮切りに他のヘリコプターも、次々に箱を落下させていった。
「よし! 全機、墜とした!」
俺は日本刀の狙いを定める。
「閃光孔鱗突! 五連!」
遠方に逃げかかっていた、アリのような大きさになったヘリコプターたちが、次々にプロペラを無くして落下していく。
「ヘリは墜とした! クラクションを鳴らしながら走れ! 試験体をひきつける!」
「おうよ!」
トラックはスピードを上げ始め、クラクションを高らかに鳴らし始める。
「こい」
「ヒカルは試験体に集中してくれ! 集まって来たゾンビはどうにかする!」
「頼む!」
しばらくすると、後方から勢いよく最初の一匹が飛び出して来た。それは、シャーリーンと船で見た、蛇のような形状をした試験体だった。
「あいつは、バラけるんだったな……」
屍人斬でやっても、斬れた先で復活するかもしれなかった。俺は、違う剣技を使う事にする。
「タケル、追いつくようにゆっくり走ってくれ」
「おう」
すると追いついて来た、試験体がバッ! とジャンプをして、トラックに飛びかかって来る。
「次元断裂!」
バシュン! そいつは次元の裂け目に消えて行った。また後方から次々に、四匹の試験体が出て来る。そして追いついたと同時に、次々に飛びかかって来るのだった。
「次元断裂! 次元断裂!」
次々に空中で消えて行き、残り二匹が俺の剣技を割けるように動きだす。
「遅い」
それは思考加速の前には、全く意味をなさなかった。
「次元断裂! 次元断裂!」
バシュン! 最後の試験体が消えて俺はタケルに言う。
「スピードを上げて良いぞ。クラクションももういい」
「おっけ」
トレーラーが更に北へと進むと、次第に建物が無くなっていき、自然の森に囲まれた道になってきた。
俺がクキにに聞く。
「このまま行くと、どうなる?」
「このまま北に進めば、ニューハンプシャー州に繋がるようだな」
広い道路に出れば、ゾンビの数は一気に減り、障害物だった車も少なくなってくる。
「よし。停めよう」
一旦、トレーラーを停めた。皆を降ろして、これからどうすべきかの話し合いをする。
アビゲイルが言った。
「彼らがやろうとしていた、リンクという技術を開発する研究者はここに居ます。最高の頭脳を失えば、その研究は遅れるでしょう」
「この人らを敵に渡すわけにはいかんな」
「はい」
オオモリがデルに地図を見せて、聞いてみる。
「米軍基地から離れたいですね。どのあたりに?」
するとデルが指をさす。
「ここらだ」
「では、そこからは距離を取りましょう」
するとアビゲイルが聞いて来る。
「総合病院か、大病院は無いでしょうか?」
研究者の女が答えた。
「であれば、ダートマス医療大学があります」
「なら、そこに」
そしてシャーリーンが聞く。
「そこで、ゾンビ薬の開発を?」
「いえ。彼らの頭の爆弾を取ります」
それを聞いて、研究者たちがざわついた。
「できるんですか?」
「私と祖父でやります」
タケルが、みんなに目配せをして言った。
「んじゃ、決まりだな」
オオモリがその位置を調べてくれた。
「だと、ここから二時間ほどです」
「出発だ」
タケルの決定に、誰も反論は無かった。デルも従い、研究者たちも大人しくトレーラーに乗りこんだ。俺達のトレーラーは、大自然の中を更に北へと走り始める。俺がトレーラーの屋根に座り、敵の監視や護衛をすることにする。しばらくトレーラーが走っていると、コンテナの中に異変が発生したようだった。俺が後ろから入ると、研究者の様子がおかしくなっていた。
「どうした?」
ミオが答える。
「みんなが弱り出してしまって……」
研究者たちが座り込み、肩で息をし始めている。
「アビゲイル。これはどういうことだ?」
「調べなければわかりません」
だが答えは、研究者から出た。
「大丈夫です。節約のために薬をとめておいたので」
「なにを?」
研究者たちが、ポケットから小さなケースを取り出す。
「このタブレットを飲めば、収まります」
全員がポケットからケースを取り出し、そこから一つカプセルを取り出して飲んだ。しばらくすると、皆が苦しみから解放され始める。
アビゲイルが言う。
「そのカプセルを見せてください」
一人が、一粒を取り出してアビゲイルに渡す。それを見ると、青緑色の液体が入っているようだ。
「これは何でしょうか?」
研究者の黒人の女が言う。
「これで、今の現状を維持しているのです」
「えっ……」
俺達の仲間も、デルも絶句している。
「これで……?」
「飲まなければ、体の崩壊が始まるようです」
「ひどい……」
それを聞いて、デルが言った。
「じゃあ、奴らの下から、出てこない方が良かったんじゃないのか?」
だが、研究者たちが首を振る。
「あそこで自由を奪われて、人間じゃない生き方を強いられるくらいなら、このほうがいい」
「そうです。私達は、ただひたすら奴らのために技術研究をし続けてた」
「逃げれば……こうなる事は分かっていました」
どうやら、彼らはこの薬が無いと崩壊してしまうらしい。デルの崩壊がが始まらないのは、元々の細胞がそうできているからだろう。作られた彼らは、この薬物によって体を維持していたのだ。
「みんな……」
「いいんです! アビゲイル博士に会えましたから!」
「そう! 我々からしたら雲の上の人です!」
「そんなことは……」
アビゲイルは涙をためて、俺を見た。だが、俺にもなすすべが無かった。ここで、ゾンビ因子除去施術をすれば、全員が維持できなくなってしまうだろう。
だがエイブラハムが言う。
「なら! その薬を、お前が研究すればいいのじゃろ!」
アビゲイルにきつめに言う。
「お爺ちゃん」
「わしも、お前もレベルアップしとるのじゃ! やるしかないのじゃ!」
「……そうね。わかったわ。やりましょう!」
「うむ」
それからしばらくして、俺達はダートマス大学のある街へと到着する。
「すんごい田舎だなあ……」
タケルが言う。それにシャーリンが答えた。
「どうやら、長閑な森林地帯にあるようですね」
「見えてきた!」
そして俺達は、目的の大学へと到着するのだった。




