第608話 工科大学からの脱出
ガブリエルが持っていたスマートフォンを、オオモリが直ぐにロック解除して通信の履歴を確認した。するとそこには、GOD社への通信履歴とファーマー社の通信履歴があった。
オオモリが言う。
「しかも、ほんの少し前ですよ」
通信時間は、我々が研究者たちと接触して話している頃だった。
「ここの襲撃は、既に敵に伝わっているという事だな」
「そうですね九鬼さん。むしろ、指示を仰いだのではないでしょうか?」
「その線が濃厚だな」
それに対してデルが、慌てたように言う。
「おいおい! なら、増援が来るんじゃないのか?」
俺が答える。
「だろうな」
「だ、だろうなって、そんな悠長にしてられんだろ」
「そのときはそのときだ」
「な、なんだ、その行き当たりばったりは」
「むしろ、探しに行って殲滅する手間が省けていい」
「……なんだその理論」
その話を遮るように、アビゲイルが言う。
「この子達を、連れ出すわけにはいきませんか?」
それにオオモリが答える。
「範囲性の起爆装置は解除しました。あとはメインシステムごと破壊し、装置をヒカルさんの例の技で、消したらいいと思います」
「わかった。そうしよう」
俺がクキに言った。
「敵がいる。俺が先に出るから、十秒遅れて皆で付いて来てくれ」
「露払いしてもらって悪いな」
「俺の仕事だ」
思考加速と身体強化をかけて、瞬時に廊下に出、待ちかまえていた部隊の後方に出る。
「屍人真空裂斬」
シュパ!
血を飛び散らせずに、全ての兵士を両断した。
「炎蛇鬼走り」
死体を一気に焼き捨てる。数秒して、クキが研究者たちを連れて出て来た。
「ふふっ。この子らを、怯えさせない配慮か……ヒカル」
「いちいち、足をすくませていたら出るのが襲くなるからな」
「だ、な」
皆が出て来て、俺を先頭に進んでいく。それからは、全ての場所で敵兵を俺が先に処理をして行った。走りながら、俺は全員に伝える。
「外に車両が集まっているようだ」
デルがマズそうな顔で言う。
「敵に囲まれたって事か?」
「そう言う事だ。戦闘車両が囲んで、上空にヘリコプターが飛んでいるようだ」
「ガブリエルが呼んだんだ……」
クキがデルに言う。
「デル、あれっぽっちでは、足止めにもならんと思うぞ」
「そうなのか……?」
「大丈夫なんでしょうか?」
「ここに居た方が安全では?」
若い研究者たちも震えはじめる。だが、タケルがニッコリ笑って言う。
「大丈夫だって! せいぜい戦車の十台や二十台だろ? なんてことねえってばよ」
それを聞いて、更に若い研究者たちが怯え始めた。それを受けて、デルが言う。
「流石に絶望だろうが」
「まあ、だまって見てろって、軍人さんよ」
外を見れば、大学の敷地内には戦闘車両が入り込んでおり、ファーマー社の私兵たちがこちらを警戒していた。デルが、それを見て慌てて言う。
「おいおい。M1エイブラムスじゃないか……なんで、米軍の……主力が」
クキが答える。
「だから。行っただろう、グルだって」
「そういうことかよ」
どうやらアメリカ軍の主力の戦車もいるらしい。その周りにも、機関銃を構えた武装車が並んでいた。それに対して、タケルが言った。
「あいつらバカじゃね。敷地内に全部入れたら、まとめてやってくれって言ってるようなもんだ」
「まとめて? いや逆だろう? まとめて、俺達をやろうと思ってるんだろ?」
「あ、普通はそう考えんのか。でも、そんなに研究者をビビらせんなよ」
「俺は、現実的な話をしている!」
「きっ……キレんなって。俺もふざけてねえからよ」
「……すまん。だが、どうするつもりだ? 逃げられんぞ!」
俺が言う。
「もちろん、逃がすつもりは毛頭ない」
「……お前達との会話は、頭がおかしくなりそうだ」
俺が、するりと前に出る。
「そんな防備に……」
「申し訳ないが、少し爆風が来るかもしれん」
そう言って入り口を出た瞬間、銃火器が一斉に火を噴いた。もちろん俺の結界を破る事は出来ないが、後ろの奴らに被害が出てはまずい。
「大地裂斬!」
ゴゴゴゴ! ズゴォオォォ!!
目の前の戦闘車両の下の地面が割れ、吸い込まれるように次々に奈落へと落ちて行った。このまま、剛龍爆雷斬を使っては、後ろの仲間にまで被害が及ぶ可能性があったからだ。だからまずは、地割れを起こさせて車を地底に落としてやる。
「剛龍爆雷斬!」
地割れの穴に、大きめの火の玉が落ちて行った。それが、地下に着弾した瞬間。
ボッゴォォォォ!
穴の大きさに沿って、真っすぐ上に火柱が上がる。すると、上空にいたヘリコプター二機も、計算通りに蒸発してくれた。
「よし」
振り向いて皆を呼ぶ。出て来たデルと、研究者たちが唖然としている。
「今の爆発音は何だ! なんで学校の前に、こんなバカでかいクレーターがある!」
研究者も言う。
「なんで……建物が壊れてないんですか? 物理的におかしい」
「いや、君らに被害があってはダメだと思ってだな」
「なんという力だよ……」
そしてオオモリが言う。
「じゃ、いきましょう!」
「わ、わかった」
地割れを避けて回り込むと、爆発の音を聞きつけたゾンビ達が大挙して押し寄せて来た。それを見て、研究者たちが怯む。だが、俺達は足を止めずに、大挙して来るゾンビの方に向けて足を進める。
「お、おいおい! ゾンビ来てるぞ! 群れで!」
「集めた方が手っ取り早い」
研究者の女も青ざめて言う。
「たぶん、私達は襲われません! むしろ、あなた達が、ひとたまりも無く飲まれます!」
俺は構わず進み、俺を見つけたゾンビ達が一斉に集まり始めた。
「飛空円斬!」
俺を中心に、輪が広がっていくようにゾンビが倒れていく。
黒人の研究者が、信じられないように言う。
「ど、ドミノ倒し……」
更に剣技を繰り出す。
「推撃!」
ちぎれたゾンビ達を吹き飛ばして、道を開ける。
タケルが言う。
「ヒカル! どっかで、トラックかバスを手に入れようぜ!」
「そうしよう」
街に行けば、早速大型のトレーラーが乗り捨てられていた。
「あれにすっか」
タケルが駆け寄ってドアを開けると、ゾンビが出て来たが、タケルが頭を掴んでちぎった。そして体を思いっきり外に投げ出す。
研究者の男が言う。
「まさか……あなた方もゾンビ化を?」
「いや。ヒカル化だ」
「ひ、ヒカル化? なんですそれ?」
「いいから。トレーラーの後ろを片付けっぞ!」
トレーラーの後ろを開けると、果物の良い匂いがしてくる。
「グレープフルーツか。まだ、新しいな」
「悪いが捨てて行こう」
「まあそうだけどよ。もったいないから、皆で食う分はとっとこうぜ」
「そうしようか」
俺達は次々に、グレープフルーツの入った木箱を外に運び出す。道路わきに積み重ねて、仲間と研究者たちを乗り込ませ、デルも後部に乗りこむ。
そこで、オオモリが言った。
「じゃあ、ヒカルさん。起爆のシステムのある工科大学を吹き飛ばしてください」
「わかった」
だいぶ距離があるので、俺は魔力を強めて剣技を放つ。
「剛龍爆雷斬!!」
火の玉が飛んでいき、真白に輝いた後で爆発を起こす。大きな火柱が上がり、キノコ雲が立ち上った。それを見て、デルも研究者もあっけに取られている。
「核弾頭と……一緒とは、こういうことか」
「そういうこった。んじゃいくぜ! ゆっくり、グレープフルーツでも食っててくれ」
タケルとクキとシャーリーンが運転席に行き、エンジンがかけられた。俺も仲間達と共に、コンテナに乗り込んで出発する。
するとマナが言う。
「ヒカル。これきっと美味しいよ、剝いてあげる」
「ああ」
口にすればみずみずしく、酸っぱさの中にも甘さのある美味い果実だった。その時、オオモリが言う。
「あ、あの! 愛菜さん! あの! 僕も、剝いてほしいです」
「自分でどうぞ」
「えっ」
それを見ていた、アビゲイルが言う。
「ミスター大森。私が向いて差し上げます」
「あ、ああ。ありがとうございます!」
そうして俺達は、工科大学を後にするのだった。




