第603話 監視兵制圧と敵地潜入
ファーマー社は、空になったヘリコプターをくまなく探し離れていく。すると突然ヘリコプターが爆発を起こして飛び散った。
「あいつらヘリをぶっ壊しやがった」
タケルが言うが、クキが首を振ってこたえる。
「もう、燃料が無かった」
「そっか」
ヘリコプターの爆発につられて、ゾンビ達が集まって来る。ファーマー社が逃げていく方角を確認し、俺達は地図を見ながら拠点の位置を推測する。すると、アビゲイルが言った。
「やはり……大学の方角です」
「推察通りか」
するとデルが聞いて来る。
「基地じゃないのか?」
「恐らくは違う」
「工科大学にあると?」
「そうだ」
疑問に思っているようだが、皆はすぐに出発の準備を始めていた。
「もう、行くのか?」
ミナミが答えた。
「陽がおちるでしょ、ベストなタイミングなのよ」
「まるで、プロだな」
「慣れよ」
室内が暗くなり、部屋を出て階層を降りていく。暗がりから出て来るゾンビは、俺とミオが指示を出し、タケルとミナミがあっさり駆逐した。
「暗視スコープも無く見えてるのか?」
「俺はそうだ。ミオは感じてるんだ」
「感じてる……シックスセンス……か?」
それを聞いて、シャーリーンが答えた。
「そのようなものです」
ビルの入り口に集まり外を見ていると、爆発したヘリコプターのあたりにゾンビが多かった。
そしてクキがデルに言う。
「すまんが、その胸の手榴弾を一つヒカルにやってくれ」
「なっ! これを使ったら、敵に位置がバレるだろう」
「だからだ。バレない為にそれを使いたい」
「ど、どういう……」
「くれたらわかる」
デルが俺に手榴弾を渡して、クキが俺に言う。
「ヒカル、重さはどうだ?」
「いい重さだ」
クキがデルに聞く。
「この榴弾は、爆発までは何秒」
「五秒だ」
「ヒカル。爆発まで五秒だそうだ。何メートル投げれそうだ」
「五秒か、五千メートルといったところか」
「ブッ!」
デルが目を見開いて言う。
「マッハ3だぞ! そんなわけあるか!」
「どうだ? ヒカル?」
「問題ない」
デルが首を振る。
「言ってる事は分からんが、手榴弾がもたん! 直ぐに爆発する!」
それに俺が答えた。
「大丈夫だ。結界で包んでやる。五秒後に解放だ」
「い、言ってる事がわからん」
クキがそれを無視して、俺に言った。
「そのピンを抜いて、投擲してくれ」
「了解だ」
俺は手榴弾に結界を施し、ピンを抜いてビュンと投擲した。
タケルが言う。
「えっと……投げた?」
「ああ」
デルがあっけに取られて言う。
「投げた素振りを、してないじゃないか」
「いや。普通に投げたが」
そんな話をしていると、五キロ先でパン! と破裂した音が鳴った。
「ほら」
「うそ……」
直ぐに間髪入れずクキが言う。
「向こうに気を取られているうちに行くぞ! 」
俺達は、一斉に薄闇の中を走り出す。デルも慌ててついて来て、一直線に大学の方角へと向かう。
「なんで、じいさんがこんなに走れるんだ」
「ふぉっふぉっ! ワシもまだまだ元気なんじゃ」
だいぶ離れた場所に来て、俺達は一度すぐそばの建屋に身を隠した。中にいたゾンビをさっと潰して、そっと耳を澄ませているとツバサが言う。
「先頭車両が、手榴弾が爆発したところに向かってるみたい」
「罠に、かかったみたいだな」
そして俺が言う。
「急ごう」
そこでデルが叫ぶ。
「まってくれ! まあ、いろいろ言いたいことあるが、それよりあんたら銃は? 武装をしていないぞ。まさか、その刀やこん棒で戦うと言うのか? 相手はゾンビではないのだろう?」
クキが答える。
「銃は音がするからな。コンバットナイフで処理する。あとは、それぞれの得物だな」
「自殺行為では?」
「いや、とにかく、デルは戦闘に加わらず、援護に周ってもらった方が良い」
「これでも、ネイビーシールズなのだが……」
「わかっているさ。だが、敵は人外の魔物だ。すこし、鍛えた人間くらいじゃ無理なんだ」
「すこしって……わかった。確かに……さっきの手榴弾」
「今は、ちょっと説明する時間が惜しい」
オオモリが、スマホを確認しながら言った。
「この先の橋を渡れば、大学があります」
「迂回するべきだろう」
「はい」
俺達が進んでいくと、川岸に何かが乗り上げているのが見えた。
「遊覧ボートだ」
そこで俺が言う。
「あれを使おう。橋は目立つ」
「よし」
だがそこで、デルがまた口を挟む。
「エンジンがかかるか分からんぞ。それに、エンジン音でバレる」
「エンジンなどかけん」
「どういうことだ?」
「とにかくみんな乗り込んでくれ」
それは屋根付きの遊覧ボートだった。中に数体の、ゾンビが蠢いており仲間達が乗り込んで討伐する。死体を川に投げ入れて、全員が席に座った。
デルが乗り込む前に言う。
「ま、まてまて。この船は、乗り上げてるんだぞ」
俺が答える。
「いいから乗れ」
デルを乗せて、俺はスーツを脱ぎ始め、靴と一緒にボートに投げ入れた。
「ミオ畳んでいてくれ」
「もちろんよ」
座礁した遊覧船をグイっと押した。そのまま水まで、押し込むとデルが驚いた声で言う。
「な、何トンあると思ってるんだ……」
「いいから静かにしろ」
そして俺は水中に沈みこみ、遊覧船の底に手を当てる。そのままグイっと押すと、川の中央に向かって動いた。そのまま後部にうつって船のプロペラあたりに手を当て、一気にバタ足で進み始めた。スピードを出せば怪しまれるので、程よく流されている程度に動かす。
ガコン。
対岸についたので、俺はそのまま船を押し込んだ。陸地に乗り上げて、ボートは止まる。
ザバ!
「よし」
「あ、あんた一人で……泳いでこれを押した?」
「ああ」
「いったいどうなってやがる……」
すぐ仲間達と一緒に陸地に上がり、俺は魔力を体に流し込んで体温を上げる。体が乾いたので、ミオからスーツを受け取って再び身を包み込んだ。
「そもそも、なんで、あんただけ、ハイブランドのスーツなんだ?」
「気に入ってる」
「……そうかいそうかい」
俺達は、公園のような場所を木々を縫うように進んでいった。先の大通りを渡りきると、住宅街になっている。だがゾンビがうろついており、騒がれる前に俺が斬る。
「飛空円斬」
見える限りのゾンビが倒れ、俺達は音も無く進み始める。
「こんなゾンビだらけのところに、敵が潜んでんのか……」
「そうだデル。むしろ、その方が周りの目を気にせずに研究できるからな」
「やつらは、いったい何がしたいんだ?」
それに、皆が沈黙する。
デルのような適合者を探し出して、研究している事を知っているから。少し気まずい空気が流れたが、タケルが明るく言った。
「だからぁ! そいつをこれから調べに行くんだよ!」
「な、なるほど。そうか」
すぐ俺の気配感知に、ゾンビ以外が引っかかる。
「ビルの上にいくつか監視がいるな」
「そろそろ、敵さんのお出ましか」
クキが指をさして側の建物のに向かい、駐車場の入り口に身を潜める。
「俺が仕留めて来る。合図するまで待て」
「どうする気だ?」
デルが聞いて来るが、皆がデルを見て首を振る。
「あ、聞いても理解が出来ないか」
全員が頷いた。俺はすぐに駐車場の入り口を出て、四階建てのビルの上に飛びのる。精神を集中し敵の場所を確認していくと、一定の距離を置いてかなりの数がいた。身体強化を施し、屋根伝いに飛ぶ。
トン。とほぼ音を立てずに着地すると、そこに数人の男達がいて機関銃を構えていた。
……暗視スコープか。あれは視界が悪い……。
死角だらけ。俺は次の瞬間、その建物にいた奴らを全て斬り落とす。
次だ。
次々に屋根の上を渡り歩いて、あちこちにいるファーマー社の私兵を殺していった。
一通り片付けて、皆の元へ戻り伝える。
「終わった」
そして、クキが答えた。
「応答が無ければ、敵は動くだろう。急ぐぞ」
そして俺達はスマートフォンで示された、工科大学に向けて一気に走り込むのだった。




