第601話 ネイビーシールズのゾンビ適合者
トラックが走る先に港が見えて、何隻かの船舶が停泊していた。それを見て、クキが言う。
「よし、空母がある」
「運がいい!」
トラックを近くまで走らせ、俺達が降りると米兵が言った。
「まだ、生き残っている人がいるかもしれない!」
「いや……」
俺が気配感知で探る限りでは、生存者は確認できなかった。伝えようとするが、いきなり走り出した。しかも適合者のため、筋力が増加していて速い。
「おい! 待て!」
俺の言葉も聞かずに、空母の下まで走った。そして米兵は大声で叫ぶ。
「おい! 助けてくれ! おーい!」
すると、空母の上に蠢くものが現れ、それが声につられてやって来る。空母から岸壁に落ちて来たり、海に落下したりし始めた。つぎつぎに堕ちて、それがゆっくり立ち上がり歩きだす。
「うわああ! リビング・デッドだ!」
米兵はあっという間に囲まれてしまい、逃げ場を失った。
「まずい。飛空円斬を使うと、アイツまで斬ってしまう」
「助けるか?」
タケルの言葉に、俺達が急いで駆け寄ろうとした時だった。立ち上がったゾンビ達は、米兵を素通りして俺達の方へと歩きだす。米兵は呆然と立ち尽くしているが、ゾンビが襲う気配はない。
「なんだ?」
「クキ。おそらくは同類だと思っているんじゃないか?」
「ゾンビに知能があるって事か?」
「いや。あれは本能のようなもので、同類を襲わないようになっているんだろう」
すると、それを聞いてアビゲイルが言う。
「ゾンビ因子は……発病していないものだけを狙って、移るという性質があるんです。恐らくあの米兵は発病していると、ゾンビ因子が認識しているのです」
おおおおおおおお。と呻きながら、軍服を着たゾンビたちが襲ってきた。俺達はそれぞれ武器を取り、次々に潰していく。落ちてきた数はそれほど多くなく、一気に殲滅した。
「大丈夫か?」
「な、なんなんだ? なぜ、俺は襲われなかった?」
そこで、クキが言う。
「教える。だから、まずはその銃を降ろせ」
「……」
そいつはゾンビを警戒しているのか、銃を構え続けており、どうすべきかを考えている。
「貴様ら……なにかを、知ってるのか?」
「そうだ。知っている」
「や、やはり。アイツらの仲間か!!」
「まて、おちつけ!」
引鉄に指がかかりそうだったので、俺は思考加速と身体強化で加速し取り上げる。
「あれ?」
「落ち着け」
「な、なな! なんだ! 貴様ら!」
一般市民だと言っていたが、今の動きで完全にパニックを起こしている。
「俺達は敵じゃない!」
「おかしいだろ! なぜ、俺の銃をそいつがもってる!」
「話を聞いてくれ」
「うるさい!」
今度は、腰の拳銃に手をかけようとしたので、縮地で現れて手を抑える。
「な、どこから。放せ」
「いいから、落ち着け」
俺が押さえていると、目の前にアビゲイルが来て告げる。
「私は、元ファーマー社の研究員でした」
ジリッ、と米兵から汗が滴る。
「確か……やつらの、マークもそんなだった……」
「違うんです。元、です」
「信じろと?」
「はい」
緊迫した雰囲気が漂うが、男は抵抗するのをやめた。すっと、力が抜ける。
「なら、この……俺を押さえつけている男は何だ? 俺はシールズだぞ。なんで、全く動けないんだ? かなりの戦闘訓練を受けているはずだ。というか……何かに挟まれてるみたいだ……。」
それには俺が答える。
「いや、訓練はした事無い。実戦しか」
「……言っている意味が分からんが、とにかく分った。この男のような力があるのなら、俺はもうこの世にいないだろうからな」
だいぶ、冷静に判断できるようになっている。そこで俺は、パッと手を離した。
「いてて。まるで大型重機にでも挟まれたようだったぞ」
「すまん。軽くやったんだが」
「軽く……」
そしてアビゲイルが話を続けた。
「このゾンビ騒ぎ、あなたが言っている、リビングデッドパンデミックはファーマー社がやったのです」
「やはりそうなのか……」
「ええ。私達は、それを阻止するために動いていた。そこに、たまたまあなたがいたんです」
「あんたらは、ファーマー社の敵か?」
「そうです」
「なるほど……」
俺に抑えられた手首を撫でながら、米兵は頷いた。そしてゾンビの残骸を見て、言う。
「あんたら、銃も持っていないのに、あっさりと殲滅したな」
それにはタケルが答える。
「ああ、慣れてっからな」
「慣れ?」
「もう、何年もの付き合いだ」
すると、シールズの男が何かに気が付いたようだ。
「アジア人が多いという事は……あんたら、日本人か?」
「あたりだ」
それを聞いて、そのシールズの男が納得したような表情になる。そこでようやく、アビゲイルが核心を告げる事にしたようだ。
「あの、恐らく気が付いていると思いますが、あなたの体に大変なことが起きています」
「わかるぜ。強くなったし、さっきなんかゾンビが俺を素通りしやがった。俺の体に何が起きている?」
「ゾンビに感染しています」
「……」
複雑な表情を浮かべて、俺達を睨みつけた。だが、スッと表情が溶ける。
「同類、だから襲われなかった?」
「そうなります」
「ふう……俺は、ゾンビか」
「ですが、人格は保ったままの新しい人です。私達は、これまでもあなたのような人を見てきました」
「そうなのか?」
「適合者と呼んでいます」
「適合者……」
そしてアビゲイルが、更に真実を告げた。
「私は、ファーマー社でゾンビ因子を発見した。アビゲイル・スミス」
「あ……若くしてノー〇ル賞を取った人? あんたが?」
「そうです」
更に複雑な表情になる。
「あんたが、これの、張本人ってわけか……」
「そうなります」
だがそこですかさず、ミオが口を挟んだ。
「でもちがいます!! アビゲイル博士は、そのファーマー社の企みを挫こうと立ち上がったんです!!今は、その道すがらという訳なんです」
「だんだん、見えてきた。なるほどな、だから、あんたらは知ってるんだ」
「そう言う事です」
腕組みをして、米兵が言う。
「で、これからどうするつもりだ?」
「手がかりをつかんだのです。奴らの、出所の目安が付きました」
「そこへ行くために、ここに来た?」
「そうです」
男は空母を見上げて、合点がいったような顔をした。
「辻褄はあってるな……」
そしてアビゲイルは、男が聞きたくないであろう事実を告げた。
「そして……すみません。あなたのまわりで、急にゾンビになった人はいましたか?」
「いた」
「それは、あなたの体内のゾンビ因子を製造する細胞に起因しています」
「なっ!」
アビゲイルは申し訳なさそうに、目を伏せる。
「残念ながら……」
米兵はしゃがみ込んで、地面を殴りつけた。
「くそ! 俺のせいか!」
「いえ。あなたのせいではありません。ファーマー社のせいです」
「くそ! くそ!」
そこでクキがしゃがみ込んで口を開いた。
「悔しいのなら、俺達と行動してみるか?」
ミオが驚いたようにクキを見る。
「九鬼さん?」
皆がざわつく。だが、クキはじっと見つめて、米兵に手を差し伸べた。しばらく、にらみ合いの状態になっていたが、ようやく米兵が手を掴む。
「俺が触れても大丈夫なのか?」
「ふふっ。俺達だけは特別なんだ」
「日本人だからか?」
「いや……レベルアップしたからだ」
「意味が分からん」
そして男を引っ張り上げて、クキが改めて言う。
「俺の名は、シュウヘイ・クキだ」
「デル・フライトンだ」
二人には、何か通じるものがあったのだろう。それだけで、あとは多くを語らなかった。そしてクキが空母を見上げて、皆に告げる。
「さて、ヘリを盗むぞ」
皆が頷く。
俺達は、適合者の兵士デルフライトンを連れて空母に乗り込んだ。俺達が乗り込むと、軍服を着たゾンビ達が、ぞろぞろとこちらへ向かって来るのだった。




