第597話 うまい魚と増える敵
俺達が来た後も、その岬には何人かの避難してきた人達がいた。だが命からがら逃げてきたために、食料を持っていないようだった。すでに、ここにある食料も底をついている状態だったので、食料問題について話合っている。
そして俺のところに、シャーリーンがやってきて聞く。
「岸壁で釣りをするそうです。旅行者用の釣り具があるみたいで、釣りをして邪魔になりませんか?」
「自由に釣ってくれていい」
「分かりました」
すると次々に、釣竿をもって人が岸壁に座った。釣り糸を垂らして、釣りを始める。通信機を耳にしたオオモリを見るが、特に変化はないらしく首を縦に振った。難破船はまだ沖にいるのが確認できており、試験体が動いている気配はない。
「あんたら、ずーっと海を見てるけど飽きないねえ」
「ああ。海は良い」
「そうかい。そりゃいい」
「ああ」
波がちゃぷちゃぷと音を立て、ようやく一人目が小さな魚を釣りあげた。
「うーん。小さいな」
「食料には程遠い」
「まあ仕方ないさ。ゾンビのいるところには行きたくない」
「そうだね」
俺が、釣りをしている人達に言う。
「そこにはいないぞ」
「えっ?」
そして魚の気配がしている方向を指さして、彼らに伝えた。
「釣るなら、あの、標識のあるところから、海に降りて釣った方が良い」
「ん? 今の時間はここなんだがなあ」
どうやら、このあたりに住んでいる人間らしい。
「そうか。だが、今はそっちにいる」
「そうかい……じゃあ、そっち行って見るか」
釣り人たちは、そこのガードレールを越えて下りていく。そして少ししたら、直ぐに声が上がった。
「おお! 連れた!」
「十五インチはあるぞ!」
「また釣れた!」
「ヒラメか!」
「入れ食いだ!」
それはそうだ。魚がいるところに釣り糸を垂らしたのだから。しばらく歓声が沸いていたが、だんだんと静かになって来た。
「釣れなくなってきたな」
そこで俺はそいつらに声をかける。
「おーい! 今度は、そっちにいるぞ!」
釣り人がそれを聞きつけ、そちらに移動し始める。釣り糸を垂らすと、まもなく魚が連れ始めた。
「な、なんだってんだ!」
「本当だ。こんなに釣れるなんて!」
「いや。魚のいるところに垂らせば釣れるだろう」
「そんな、簡単に……」
釣り人が、しばらく釣っていると、また静かになった。
「今度はそっちだぞ」
「わかった」
そうして三カ所目に移り、次々に魚を釣り上げた男達が言う。
「もうボックスがいっぱいだ。まるで漁でもしたみたいになってる」
「直ぐにさばいた方が良いな。痛みが出る前に、焼いてみんなで食べた方が良い」
「そうしよう」
そして釣りをしていた人たちは、魚の入ったボックスを肩に下げて建物の方に戻って行った。
オオモリが言う。
「いっぱい、釣れたみたいっすね」
「そのようだ」
「アメリカの魚料理だと、刺身はないだろうなあ……」
「刺身か。こちらにはそう言う風習はないのか?」
「ないんですよー」
それから一時間、何の変化も無く海を見つめていると、人がパックに入れて魚を持って来た。
「塩焼きだ」
俺とオオモリがそれを受け取り、ぱくりと一口噛んでみる。
「うま!」
オオモリが喜んでいた。俺も食ってみるが、まあまあの味だ。持ってきた男が言う。
「それにしても、ずっと海を見て、よく飽きないな」
「まあな」
そして少し沈黙して、俺達に聞いて来る。
「なあ、救出とかあるのかな?」
「途中のアメリカ軍基地はダメだった。しばらくは難しいだろう」
「そうか。とにかく食料がな……」
「しばらく、まて」
「だな。待つしかないだろうな」
男は戻っていった。確かにあの人数の食料を維持するなら、さっきの分では今日一日がいいところだ。
「あ、ヒカルさん! 通信を傍受しました!」
「来たか」
「船は、あと一時間以内に接触するようですね」
オオモリが方向を指さすと、そちらを進む船の気配を感じた。
「軍艦か」
「ですね。通信は……アメリカ軍の回線です」
「了解だ」
俺の耳にも音が飛び込み、人の気配が伝わって来る。難破した船まで百メートルぐらいに迫った時に、村雨丸を抜いた。
「空接瞬斬」
新しく到着した船の、動力プロペラを全て斬り落とした。
「通信です」
「メーデー、メーデー! 船舶航行不能! 救助できない!」
「なんだって! こっちは気が気じゃないんだ! どうなってる?」
「だが! 推力を失った!」
「マズいぞ!」
オオモリが手を叩いて笑う。
「あーっはっはっはっ!!! また増えた!」
「さて、奴らはどうするかな」
「どうするんでしょうね!」
そして通信を聞いていると、そいつらが言い出す。
「船を捨てよう! ゴムボートで岸まで行くしかない」
「まて! タイタンを放棄はできない!」
「防隔壁が破られたら、全員死ぬぞ!」
「船舶のエネルギーが切れれば、押さえられなくなる」
「だからだ!」
オオモリがうれしそうにいう。
「おーおー! 揉めてますねえ!」
「そのようだ」
しばらく聞いていると、話し合いの上で次の策が出たようだ。
「時間が無い」
「まて、空輸をする! ヘリを呼ぶ!」
「仕方ない、急げ!」
そして通信が切り替わり、ヘリコプターを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ファーマー社に連絡だ! 対応策を! ヘリを要請する!」
「状況を!」
「慌ててますね」
「試験体が問題なのだろう」
通信を聞いていると、今度はファーマー社のヘリコプターが来ることが確定した。
オオモリが、俺に言う。
「九鬼さんを呼びましょう」
俺は指笛を鳴らす。するとクキとシャーリーンとクロサキがやって来る。
「どうなった?」
「船舶二隻を航行不能に。試験体を止めておく船の動力が切れると、終わるらしい」
「大変なことになっている訳だ」
オオモリが、クキに言った。
「それもそうですが、通信の種類と内容から判明した事があります」
「なんだ?」
「アメリカ軍とファーマー社の私兵が、合同でこれにあたってます」
「やはり、内部に離反者がいるか」
「そうみたいです」
シャーリーンが言った。
「試験体を上陸させるわけにはいかないですね」
「その通りだな」
そして俺が言う。
「遠距離でも、船のどてっぱらに穴をあける事が出来るが、そうすれば試験体を逃がす事になる。試験体を仕留めるなら、近距離まで行く必要がある」
「もう少し様子をみよう。ヘリがやってきたら処理を頼む」
「わかった」
しばらくすると、ヘリコプターが飛ぶ音が聴覚強化した耳に入って来た。
「来た」
「仕留められるか?」
「簡単だ」
村雨丸を空に向けて構える。
「閃光孔鱗突! 二連!」
ヘリコプターの二つのプロペラを吹き飛ばすと、それは真っ逆さまに海に落下していった。
そしてクキが俺に聞いて来る。
「その技はどんな技なんだ?」
「超遠距離から、鋼鱗龍や炎龍を撃ち落とす技だ。ヘリコプターはそれより、遥かにもろい」
「その鋼鱗龍ってのは、そんなすごいのか?」
「鉄より硬い鱗に覆われた、三十メートルくらいの龍だ。大抵は番でいる事が多い」
クキもシャーリーンもクロサキも苦笑いした。
「そんなものと戦っていたんだな」
「大したこと無い。火球を吐くから、都市に入る前に落とさなきゃならん。だからこの技を編み出した」
「えーっと、それを使える人は、いっぱいいたのか?」
「俺だけだ」
クロサキが聞いてくる。
「三十メートルもある、鋼鉄の龍が大したこと無いのですか?」
「そうだな。Sランク冒険者パーティーが、四つほど集まれば仕留められる」
「何人くらい?」
「俺達は四人パーティーだったが、大抵のSランクは六人からだ」
「でも……二十人で狩れるんですね」
なるほど、この世界にそう言う概念はない訳か。
「分かりやすく言うと、タケルはBランクからCランク相当のパーティーにいる強さだ」
「「「えっ!」」」
「あのレベルは、そう少なくない。都市に一人くらいはいるもんだ」
「「「……」」」
「俺にとっては、船やヘリコプターは造作もない」
するとクキが笑い出して言う。
「奴らは……誰を相手にして戦っているか分かってないか……同情……はしないがな」
「悪党は無条件で叩き潰して良い世界だった。こちらは、法律がいろいろあるらしいが」
それを聞いてクロサキが言う。
「あの、ここまできたら、もう法律とかどうでもいいです。徹底的にやっちゃってください!
ヒカルさんの思うままに!」
珍しくクロサキが冷静じゃない。クキが突っ込む。
「おいおい。公安がそんな事言っていいのかい?」
「かまいません。こんなに世界中をめちゃくちゃにして、天罰を下しましょう」
「まあ……そうだな」
オオモリが、通信を聞いてクキに言う。
「どうやら、パニックになってますね。流れからすると、船舶を爆破して放棄するようです」
「そいつはまずい。情報も消えるし、試験体も解き放たれる」
俺は皆に伝える。
「じゃ、ちょっと行って来る」
「行って来るって?」
「行って試験体を始末して、船の爆破を阻止する」
「そんな。爆薬が何処にあるか分からんぞ」
「確かに」
するとシャーリーンが言う。
「私を連れて行けますか?」
「いや、息が続かないだろう……」
「酸素ボンベが無いか聞いてきます。ここはダイビングなどをする観光客も来るようです」
「……わかった」
直ぐに白い家に戻り聞くと、どうやら潜水の装備があるようだ。建物の住人が聞いてくる。
「いいけど、ウェットスーツとボンベ? この状況で何をするつもり?」
「理由を聞かずにかしてください」
「まあ……自由に使ってください」
俺にもウエットスーツを着るように言って来たが、感覚が鈍るのでと断った。俺は海水パンツを履き、酸素ボンベを取り付けたシャーリーンを抱いて、岸壁から海に飛び込んだのだった。




