第596話 正体不明の船を航行不能にする
俺達はスーパーで回収してきた菓子を食いながら、敵に動きが無いかをずっと待っていた。俺はジュースを飲み、海の方を眺めている。時おりゾンビがうろついているが目標を失い、ただ彷徨うだけだった。
ツバサがオオモリに言う。
「大森君、スピーカー繋げて!」
「はい」
また、通信がモニターから流れる。
ガガ!
「こちらブラックオーガ、ゴーストプラント、聞こえるか?」
「ゴースト、聞こえる。どうぞ」
「タイタンを受け取った。スローンチェックを終え次第、顧客に届ける。オーバー」
「了解。タイタン、確認した。デッドフィッシャーの状況を伝えよ」
「デッドフィッシャーは眠っている。だが、顧客は飢えている。臨界は近い。オーバー」
「了解。スイッチを入れる許可を待て。繰り返す、許可を待て」
「ブラックオーガ、了解。アウト」
「ゴーストプラント、アウト」
そして通信が途絶える。それを聞いて、皆が顔を合わせた。クキが言う。
「かかった」
オオモリが画面に、通信先の地点を表示する。
「やはり海か」
そこでオオモリが言う。
「会話、めっちゃ怪しいっすけど、どんな意味ですかね?」
クキが答える。
「恐らくは、試験体。もしくはそれに準ずるものを運んで来るって事だ」
腕を組んでシャーリーンが言う。
「ミサイルなどの兵器攻撃ではないという事ですか」
「それだとバレるからな。恐らく今のは、ファーマー社の通信を傍受したんだろう」
「アメリカ兵の裏切りも考えられますね」
「ああ」
おおよその通信地点から、船が何処に向かうかを推測し始める。
だがそこで俺が言った。
「いや、この湾に入って来るのだとしたら、すぐそこで捕まえればいい」
するとクキがニヤリと笑って言う。
「そう言えばそうか、ここにはヒカルがいる」
「なら、この地点に行きましょう」
オオモリが指さしたのは、湾の入り口のほうの先端だった。
「よし」
俺達はすぐにトラックに乗り込み、その半島の先を目指して進む。その間もオオモリとマナが、改造した通信機を調整していた。俺達が目的地に到着すると、海のそばに白い建物があり、なんとまだそこにはゾンビ感染が広がっていなかった。
「あの建物に行って見よう」
俺達がそこに行くと、周りには乱雑に車が止まっている。俺達もトラックを止めて、そのまま白い建物に向かう。建物周辺には、結構な人数の人が話合っていた。
「君らも逃げて来たのか?」
中年の無精ひげの男が俺達に聞いて来た。
「そうだ」
クキが話を合わせると、その男が聞いて来る。
「食料は無いか?」
飲み物くらいしかないが、俺達はそれを差し出す。
「助かる!」
すると逃げて来た、周りの人間達も寄って来た。なので、俺達は飲み物を全て渡してやった。
「あんたらも、避難して来た人らか?」
「そうよ。逃げて来たの」
「そうか」
まだ生きている人が居るのは良いが、建物の中にゾンビ感染者の気配がした。
「建物の中には入らないのか?」
俺の問いに、一人が答える。
「いや。感染している人間を中に入れている。閉じ込めて広がらないようにしているんだ」
「だが、まだゾンビではないのだろう?」
「いや、君らは知らないのか? ああなれば、じきにゾンビになる」
「俺を中に入れてくれ」
「何言ってるんだ? あんたも感染するぞ」
「大丈夫だ」
そして俺は人を押しのけて、建物に近づいた。入り口がぐるぐるに縛られて、窓は外から打ち付けられている。すると、銃を持った警官が俺に言った。
「下がってくれ。中にいるのは感染者なんだ」
「大丈夫だ。俺達は、治癒の方法を知っている」
すると、後ろからクロサキが俺を擁護してくれる。
「本当です。保健所の者です」
「……わかりました」
そしてドアが開けられて、俺とクロサキが中に入った。すぐさま、ゾンビ除去施術の魔法を発動する。バッと光が広がり、建物内に寝ていた人間が真っ白になる。
すると、寝ていた人らがムクリと起き上がって言った。
「あれ? スッキリしてる」
「あんなに頭が痛かったのに」
「噛みあとも塞がってる……」
そこでクロサキが言った。
「保健所の者です! 今、特殊な薬品で皆さんを治しました! もう大丈夫です!」
皆が立ち上がり始め、入り口に向かって行くので、俺が先に出て言った。
「治った。これでもう大丈夫だ!」
「うそだろ……」
警官があっけに取られている。そして真っ白になった人間達が、外に出てきて言った。
「治った! もう痛くない!」
「ま、マジかよ」
するとクロサキが、また同じことを言う。
「特効薬を使用しました。これでもう発症する事はありません」
「「「おお!」」」
するとそこに、家族と思われる者達が駆け寄って来る。
「あなた!」
「おお、心配をかけたね!」
「ジョディ!」
「お母さん!」
抱き合う家族たちを横目に、俺とクロサキが仲間達の下に行く。
「ゾンビにならずに済んだのね」
「そうだ」
「ここに居た人達は、ついているわ」
ミオが嬉しそうに言った。そして俺に、オオモリが言う。
「そしてヒカルさん、そろそろ出番かも知れません」
「わかった」
「こっちの方角から来ます!」
俺はオオモリに言われるままに、海沿いに立ちそちらに気配感知を放つ。
「いた……」
「見つけました?」
「試験体の気配だ」
「よかった。見つけたんだ」
「ああ」
艦艇で運んできたようだった。俺はするりと仕込み刀の村雨丸を抜いて、海に向かって構える。
「動力を斬る」
「ああ、くれぐれも沈める事の無いように」
「空接瞬斬」
遠い距離から、あたかも近くにいるような斬撃を飛ばす剣技で、その船の推進部分を二つ破壊する。
それで、船は推力を失い、ただ海を漂うしかなくなる。
オオモリが言った。
「通信を傍受しました!」
「こちらブラックオーガ、メーデーメーデー」
「どうした?」
「動力損傷。航行不能! タイタンの配達が不能になった!」
「わかった! 至急、救出部隊を出す」
「早くしてくれ! タイタンが暴れ出したら終わりだ」
「了解!」
受信を聞き、俺達はニヤリと笑う。そこに生存者たちがやってきて、俺達に声をかけてきた。
「まだ水は出るんだ。煮沸して飲むことが出来るようだ! ティータイムはどうだい?」
建物を開放した事で、水が飲めるようになったらしい。
そしてクキが答える。
「いただこう」
俺とオオモリがそこに残り、クキ達が生存者から情報を聞きに行くのだった。
そしてオオモリが俺に言う。
「まさか、彼らは、ここで軍艦を航行不能にしてるなんて思わないでしょうね」
「まあ……そうだな」
「さてと、餌は撒きましたし、接触して来る救援部隊とやらを待ちますか」
「そうしよう」
そしてオオモリは、ポケットからチョコレートを取り出して俺に半分くれた。
「実はまだもってました」
「いいんじゃないか? お前はこれが無いとダメなんだろ。全部食え」
「甘いものが無いと頭が働かなくて、でもヒカルさんと食いたいんです」
「そうか」
そして俺とオオモリは、チョコレートをかじりながら海を見つめるのだった。




