第595話 待ち伏せ作戦
ワシントンを通り過ぎ、ゾンビエリアで回収したトラックに乗って走っていた。このあたりもまだ、セーフティーゾーンになっておらずに、ゾンビがうろついている状況だ。壊滅状態にあると言っても良く、逃げ遅れた人達は餌食になってしまったのかもしれない。
「それでも、あちこちに生存者はいる」
「何とか助けたいわよね」
「そうだなミオ。もっと、セーフティーゾーンを広げるしかないのだが」
だがアビゲイルが言う。
「セーフティーゾーンを拡大できるだけの、ゾンビ破壊薬はあるはずなんですが」
それを聞いてクキが言う。
「組織が二つに分かれているから、軍の作業が進んでないんだ」
「広げられたら困る勢力がいるんでしょうね……」
「かもしれん。もしかしたら、薬は敵に全て抑えられた可能性もある」
そしてクキが、オオモリに聞いた。
「敵は本当に、この、チェサピーク湾に入り込んで来ると思うか?」
「ええ。湾外では、無線を傍受されるため、聞かれたくない話は直接だと思います」
そして俺は、スマートフォンでスライドしながら、主要な四人の顔と声を覚えていた。
マーガレット・ブラッドリー。ガブリエル・ソロモン。モーガン・ウイリアム。テッド・グローバー。この四人が、この大災害を起こした張本人。こいつらに辿り着く手がかりを、見つけなければならない。
道すがら回収した双眼鏡で空を眺め、オオモリとマナが回収した通信装置を改造していた。湾に入って来れば無線が傍受できるらしいが、外海からの攻撃もあり得るようだ。
そこで俺達は湾の入り口にある、パタクセント・リバー海軍航空基地へ向かっている。
「タケル。止めろ」
「あいよ」
トラックが止まり、俺達は動かずにじっとした。するとヘリコプターの音が聞こえ始め、遠くの空からその機影が見えてくる。じっとしていれば、アイツらは過ぎ去る事に気が付いた。
旋回し、ヘリコプターが飛び去ったのを確認して言う。
「タケル、もういいぞ」
「へいへい」
再びトラックが動き出し、ゾンビが彷徨う道を突き進んだ。
すると、運転席の窓からタケルが顔を出して言う。
「ウォル〇ートだぜ。寄って食料回収するか?」
「そうしよう」
駐車場に入ると、ゾンビ達が一斉にこちらに寄って来た。俺が飛び降りて、剣技を出す。
「飛空円斬!」
ゾンビが倒れ、そのまま入り口付近にトラックが止まった。
「だめだな。ガラスが割れてる」
「そのようだ」
経験上、こうなってしまうと食料はほとんど残っていない。だが、ゾンビがうろつくため、生存者が途中で襲われてあちこちに散らばっているパターンだ。
「それでも、いくらか腹に入れといたほうがいいだろう。行くぞ」
クキの呼び声に、俺達はトラックを降りてスーパーに入り込んでいく。すると、ゾンビ達がこちらに向かって歩いて来た。だが皆は易々とそれをかたずけて、落ちているスナックの袋や缶詰、ペットボトルや割れてない瓶などを拾った。ある程度溜まったので、皆がそれをもってトラックに戻る。
するとタケルが笑う。
「渋谷のときは、みんな身動きもとれなかった。それが、まあ……随分余裕になっちまった」
「当たり前じゃないタケル。私達がいつまでもヒカルにおんぶにだっこしてたら、ヒカルが大変だわ」
「俺は……おんぶにだっこでも別に構わないが」
「たまには、のんびり私達の後ろをついて来たっていいのよ。ヒカル」
「そうそう。じゃないと、訓練にもなりやしない」
ミナミが言うと、皆が頷いた。そう言われると、そうかもしれない。
「そうだぜ。那須高原での訓練開始から、どんだけ成長したと思ってんだよ」
「わかった。たまには楽させてもらおう」
「ま、そういうこった。食おうぜ! 缶詰やスナックじゃ、物足りねえけどな」
皆が缶詰を開けバタフライナイフや、拾ったへらなどで食い始める。これも手慣れたもので、スナックに缶詰の肉や野菜を乗せて食っていた。オオモリが、飲み物を飲みながら言う。
「ラッキーです。ドクターペッパーがあって」
「マウンテンデューも懐かしいわ」
炭酸を拾って喜んでいる。そこで俺が言った。
「俺は、コーラがよかったな」
それを聞き、タケルがにやりと笑う。
「日本で物資回収してるとき、よく自動販売機ぶっこわして飲んだっけな」
「ああ。アメリカには、道路に自動販売機が無いんだな」
「こっちじゃ、直ぐぶっ壊されて、金も飲み物も全部とられっからな」
「お国柄……というやつか」
「まあ、そんなとこだ」
一通り食べ終わり、腹ごしらえが出来たところでクキが言う。
「じゃ行くぞ」
「よし」
それから数十分、パタクセント・リバー海軍航空基地の側までやってきた。すると次第に、ゾンビの数が増えて来る。どうやらここも、生存者を連れてきているうちに、パンデミックを起こして壊滅してしまったパターンのようだ。
「剣技でゾンビを減らす」
俺は道の先を見て、視界に入るゾンビを全て斬り倒した。
「フェンスを突き破った奴がいるんだな。だから、外にゾンビが出て来てるんだ」
道沿いに進むと、交差点がありそれを基地方向に進んでいく。ぽろぽろいるゾンビは無視し、俺達は基地の中へと進んで言った。すでに基地は壊滅しており、俺達のトラックは構わず湾岸に向かって進んだ。
「さて、管制塔を探すぞ」
トラックが止まると、皆が折りて建物に入り込んでいく。内部にもゾンビがうろついており、俺達はそれを駆除しながら進んだ。そしてようやく管制塔を見つけ登っていく。軍人のゾンビを排除しつつ上に登りきると、管制室があり適当に配置についた。オオモリとマナが、ここにあるシステムを動かし始め、まだ電源が来ている事を確認した。
「動く! よかったです。何かあれば傍受できます」
「でかした」
クキに言われ、オオモリがにやりと笑う。だがシステムに繋いですぐ、マナが言った。
「あら、ラッキーね。もう、何らかの通信がなされてるわ」
皆がそれぞれの席について、ヘッドホンをつけた。そこら中に死体が転がったままだが、もうすでに、誰もそれを恐れるものはいない。
そしてまもなく、ツバサが手を上げた。
「多分。これ、敵側の通信だと思う」
オオモリがメインのスピーカーにつなげた。
「国務長官の指示通りにやっている。本当に大統領はこれを指示してるのか?」
「そうだ!」
「その通達は来ていないが」
「壊滅して、命令系統が機能していないだけだ。間違いない」
「……了解だ」
そして通信が途絶えた。それを聞いて、俺達は間違いないと確信する。
「何かおかしい」
「でしょ?」
「多分……動くだろうな」
皆が頷いて、再びヘッドホンを耳につけて情報を探し始めるのだった。




