第592話 ワシントンを緊急離脱する
拠点に戻り、すぐに建屋の奥の一室へと進んで、俺は大統領にもらったメモを開いてみる。
「なるほど、見てくれ」
俺は、クキにみせた。
「大統領は、感づいている」
「やはりそうか。俺達を、慌てて帰したからな」
「軍や関係者が激しく入り出して、そこに敵が含まれていることを感じとっているようだ」
「盗聴を気にして、メモにして渡したわけだ」
大統領がわざわざメモにした理由、それを知って俺達は少し沈黙する。大統領のメモには、既に敵が入り込み、情報が伝わっている事を俺達に知らせて来ていた。
「既に……敵に伝わっているか……」
「と言う事だな」
大統領は既に、軍や専門家が機能しない可能性を考えているのだ。このパンデミックで壊滅した状況を見て、この結論に至った事をメモに記していた。
クキが腕組みをして、小さな声で言った。
「俺達が人払いをしたのは正解だが、核心に及びそうになり、話を聞かれたくなかったという事だ」
「どうするべきか?」
「大統領に託されるとはな……ヒカルはだいぶ信用されていたようだ」
「何故かは分からん」
「力を知ったからだろう。大統領は、ヒカルにアメリカを託そうとしているのかもしれん」
「敵を倒すことぐらいしか出来んがな」
だがクキは少し頭を傾げながら、呟くように言う。
「それと……アビゲイル博士を、守る為だったのかもしれん」
「アビゲイルを?」
「あの時、確かに大統領は慌てていた。様々なことが想定される」
「狙われるのは大統領だけではなく……」
「俺達も……だろうなあ。ゾンビ破壊薬なんて、作っている奴らを排除したいと思うだろう」
そこで俺は、ニヤリと笑って言った。
「俺を標的にしてくれるならば、いくらでもやりようがあるのだがな」
「まあな。だが、そろそろ俺達は姿をくらました方が良いのかもしれん」
「何故そう思う?」
「敵になるのは、ファーマー社だけじゃない可能性が出てきた」
「米軍か……」
「そうだ。万が一、軍上層部に裏切者が居れば、軍を率いてここに来るかもしれん」
その時だった。バンッ! と、ツバサが入って来た。
「ヒカル! なんか変だよ!」
「噂をすればだ……」
「……そのようだ」
そう、この拠点に向かって、かなりの台数の軍用車両が向かっている音がした。
クキがにやりと笑って言う。
「大統領が慌てるわけだ」
「だな。ツバサ、皆は?」
「変だったから、食堂に集めた!」
「よし」
俺とクキがツバサを連れて、食堂に駆け込むと、皆が焦った顔でこっちを見た。
「アメリカ軍にも裏切りが出ているようだ!」
それを聞いたタケルが落ち着いて言う。
「んじゃ、逃げっかね。下手をすれば、裏切ってねえ軍人も相手するってこったろ?」
「そういうことだ」
俺達は、すぐに工場の裏口に向かっていく。
「監視されてるな……」
するとクキがにやりと笑って言う。
「米軍からくすねておいた」
そう言って取り出したのは、手榴弾のようだった。
「それは?」
「煙幕弾だ」
そう言って、入口の方に戻り、それを引いて外に放り投げた。
「行くぞ」
そして裏口に着いた時に、俺がクキに言う。
「開けてくれ。同時に、狙っている奴を仕留める」
「了解だ」
ガチャリとドアを開け、直ぐに俺は剣技を繰り出す。
「空接瞬斬!」
俺達を狙っている気配が消えた。そして俺達は、悠々と路地を歩いて行く。
「どこかのビルに入ろう」
俺達がビルに入り、通路を抜けて反対側の路地に出て確認する。そこには、敵か味方かが分からない、米軍の車が通りを行き来していた。
「さてと、ヒカル」
「ああ、あの中の一つを奪えばいいんだな?」
「ということだ」
俺は縮地で、直ぐに通りかかった車両に飛びついて、ハッチを開けて中に侵入する。
「な、なんだ!」
次の瞬間、思考加速を発動させて、車に乗っていた四人の意識を狩る。そして操縦席に行くが……操縦方法が良く分からなかった。だがそこに、タケルが飛び込んで来る。
「任せろ」
キュウウと車両が止まり、仲間達が乗り込んでくる。意識を刈り取った軍人の服を剥ぎ取り、近くの路地裏に四人を捨てた。クキが男達に言う。
「武、大森、米兵の軍服を着ろ」
「了解」
「わかりました!」
「では私も」
そう言って、シャーリーンも軍服を着こんだ。クキも米軍の軍服を着て、タケルとシャーリーンとクキが操縦席に座る。
「あとは皆隠れてろ」
そう言われて、俺達は後部の装甲で囲まれた部分に座り込む。
「行くぞ」
俺達が奪った軍用車両は、そのままワシントンの郊外に向かって走り出した。しばらく進んでいくと、セーフティーエリアの端に辿り着く。
そこにはゾンビが詰み上がっており、それの処理で軍人が追われていた。
「手伝いに来た!」
クキが言うと、歓迎するように兵隊が言う。
「助かる! どんどん増えて処理が追い付かない」
「よし! 変わってやる。お前達は少し休め!」
「ふうー。たすかったぜ」
作業をしていた軍人が奥に消えたので、車両を降り、ゾンビ達があふれる都市の外へ飛び出していく。
ゾンビがうろついていたので、とりあえず全てを斬り捨てる事にした。
「飛空円斬」
「これでアイツらの仕事も少しは楽になるだろ」
「手伝うって言ったのは嘘じゃないな」
俺達十二人は、荒廃した街へと走っていく。ここまで来ると既に米兵はおらず、周囲にはゾンビの気配しかなかった。
「生存者はセーフティーエリアに逃げたか。全滅してしまったか……」
「とりあえず、拠点を探そう」
「ああ」
それから俺達は車を入手し、郊外へと走り続けた。
「このあたりにするか」
「ここにしよう」
そこは、四階建ての建物だった。中に入り、ゾンビを駆除しながらも上へ上へと昇る。ゾンビを倒し、そして屋上に上がった。
「おお、いいね。見晴らしがいい」
「ヘリコプターが飛んでいるわね。バレないかしら?」
「まあ、ゾンビだとでも思うだろ」
「確かに」
そこで俺は皆に、どうしてこうなったのかを説明するのだった。もはや逃亡には全員が慣れてしまい、誰一人として理解できないものがいない。
「大統領やオリバー達が心配だな」
「それは仕方がない。だが、全員が敵と言う訳じゃないぜヒカル。」
「確かにな、無駄に軍人を殺すのだけは避けたかった」
「その通りだ。俺達は、米軍に追われる事になっちまうからな」
「ああ」
だが、アメリカが窮地に立たされている事には変わらない。俺達は一度、無駄な火種を出さないようにしたまでだった。




