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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編

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第590話 適合者の脅威が迫るワシントン

 壊滅していたワシントンの町は、少しずつ人の暮らしが復活してきていた。戒厳令が敷かれ、市民達は軍が割り当てた住居に住み、食料の配給なども始まっている。既にスーパーマーケットや食料品店は軍の管轄下に置かれ、食べ物は必要な分だけ支給するという方式になっていた。


 セーフティエリアの範囲も、ワシントンの外へと広がっており、軍のヘリコプターがひっきりなしに行ったり来たりしている。


 クキが持っているスマートフォンが鳴って、電話に出た。


「どうした? わかった。すぐヒカルに変わろう」


 クキがスピーカーにして俺の前に差し出す。


「ヒカルだ」


「あ。ヒカル。いたわ、多分適合者」


「わかった」


「私と武が見張ってる。いまそっちに、黒崎さんと南が向かってる」


 と言ってるそばから、二人の気配を感知した。


「二人を感知した」


「では、後ほど」


 クキがアメリカ兵を呼びつける。


「あー、申し訳ないんだが、一旦、治療は中止だ。治癒師がいなくなる」


「わかりました」


 そして車が乗りつけられ、ミナミが俺を呼ぶ。


「ヒカル! 来たよ」


「わかった。じゃあ、行って来る」


「よろしく頼む」


 俺が車に乗り込み走り始めると、道の上の軍人がどけた。クロサキが言う。


「車を自由に使わないように、軍人が路上に出ているんです」


「混乱しているようだ」


 ミナミが状況を伝えてくる。


「ヒカル、見つけたのは臨時の住宅に居る市民よ。本人はもちろん、たぶん周りも気が付いていないわ」


「そうか……」


 車が閑静な住宅街に入り込んでいくと、ミオとタケルが待っていた。


「ヒカル!」


「待たせた。どうなってる?」


「出かけてはいないわ。多分家にいる」


 俺が気配感知で探って探ると、確かに家の中にいた。


「生きている。と言う事は、ゾンビ破壊薬が利かないという事だ」


 タケルが頷いた。


「つーことはよ、ルーサー・ブルースも大丈夫ってこったよな?」


「そうなるだろうな」


「それを聞いて、安心したよ。ルーサーが生きてりゃロスにくるだろうからな」


「まず、ここの奴に会いに行ってみよう」


 俺達は建物の前に立ち、呼び鈴を鳴らした。しばらく待っていると、筋肉の発達した男が現れる。


「なんだい?」


 クロサキが答えた。


「保健所の見回りです。変わった事は無かったですか?」


「……いや……」


 続けて、ミオが言う。


「家にもう一人いますね? 誰ですか?」


「……母親だ」


「具合悪くはなってませんか?」


「な、なってない」


「……感染、してますよね?」


「帰ってくれ」


 ドアを締めようとしたので、タケルがグイっと扉を抑える。


 バギン!


 タケルの力と、男の力でドアの木が折れる。


「うわ」


「失礼します」


 俺達は強引に、中に入って寝室に向かう。すると瀕死の状態になった、年老いた母親が床にふせっていた。


「母は感染していない!」


「いや。直ぐに治療が必要です」


「まってくれ」


 そこでタケルが男を押さえ、俺が母親のところに座って施術を施す。


「やめてくれ……殺さないでくれ」


 なるほど、ここまでの道すがら、感染者は殺されてきたらしい。


「殺さない」


 母親はあっという間に真っ白になり、ムクリと起き出した。


「こちら、薬です。直ぐに飲んでください」


 クロサキがポーションの蓋を開けて、年老いた母親に渡すと、それをぐびぐびと飲んで治癒を始めた。体温の上昇がみられ、少し若返ったように見える。


「り、リアム!」


「気が付いたのか! ママ!」


「ああ、この通りさ! ピンピンしてるよ!」


「おお!」


 二人は少しの間抱き合い、リアムが俺達に言う。


「ありがとう! ゾンビの薬があるのか?」


「皆に聞くわけではありません」


「でも、たすかった!」


 俺達は目を合わせて、ミオが母親にそっと告げる。


「ちょっと、息子さんとお話がしたいのですが、よろしいですか?」


「え、ええ。あなた方は?」


「保健所の者です」


「わかりました」


 寝室を出て、リビングのテーブルにリアムを腰かけさせる。皆が周りを囲み、前にクロサキが座った。


「すみません。突然で驚きましたよね」


「いや……助かったし。で、話って?」


「驚かないで聞いてくださいね」


「ああ」


「あなたはゾンビ因子に感染してます」


 リアムの顔がみるみる険しくなり、睨みつけるような顔になった。だがクロサキは顔色一つ変えずに、そのまま相手を見返している。


「ど、どういうことだ? 全然具合悪くならないぞ」


「あなたは、あのようなゾンビにはならない体質なのです」


 筋肉質の腕を、ダンとテーブルに置いてリアムが言う。


「も、もしかして……この体となんか関係あるのか?」


「なにか、変わりましたか?」


「俺は……もっと痩せていたんだ。だが、何もしていないのに筋肉が大きくなってきて……」


「はい、それも関係してるんです」


 リアムは少し諦めたような顔をして、軽く項垂れるようにした。


「気づいていたのですね?」


「ああ。何か変だとは思っていた。だが、ゾンビにならないのはいい事だろ?」


 だが今度は、クロサキが渋い顔をして答える。


「お母さまが死にかけたのは、実はあなたの体質のせいなんです」


「な、なんだって!?」


「残念ながら……あなたと接触したためです」


「そんな、俺のせいで?」


「現在、この周辺で見つかったのは、あなたが最初です」


 男は項垂れた。どうやら母親の死にかけた原因が、自分だという事にショックを受けている。


「なら、ママとは一緒にいない方がいいのか?」


「いえ。あなたのお母様は、抗体を手に入れましたので大丈夫です」


「よかった。俺が守らなければ、ママは年だからな」


 ホッとした顔をしているが、クロサキは続けて言った。


「ですが、ここを出歩かない方が良いです。人との接触を避けてください」


「なんでだい?」


「他の人に移るからです」


「そうか……」


「多分見つかれば、軍があなたを連れて監禁するでしょう」


「そ、それは困る。ママを守れない」


「ならば、しばらくはおとなしくして、軍の配給を待ってください。近隣に来た、避難民との接触をしないようにお願いします」


「わ、わかった。そうする」


 リアムの深刻な顔を見て、タケルが言う。


「まあ、とにかく隠れていた方が良いのは確かだけどよ。あんたとおふくろさんは、ゾンビにならねえ。それだけでもホッとするんじゃねえか?」


「そのとおりだ」


 俺達はリアムと母親に挨拶をして、その家を去る事にした。車に乗り込んで、治療所に向かう。


 そしてクロサキが言う。


「生存者……ということは、適合者である可能性も高いということなんですね……」


 それを聞いたミオが頷く。


「確かに。そもそも、ゾンビの多発地域から生きて出て来られると言う事は、適合者だからゾンビにならなかったとも考えられる。下手をすれば、次々にここに集められる可能性があるわね」


「これは……ちょっと持ち帰って相談じゃねえか?」


「そうね武」


 そして俺達は治療所に戻り、九鬼を含めた仲間達を、会議室に集める事にした。医療工場の会議室に俺達だけ集まり、見て来た事を全て伝える。


 それを聞いてクキが言う。


「なるほどな……そうなってくると、セーフティーゾーンを違う場所に作るかどうか迷うな」


 シャーリーンが頷いた。


「そうですね。適合者を見つけて守る事も出来なくなりますし、手が届かなければファーマー社が必ず嗅ぎつけるでしょう。そうすれば、どんどん適合者を回収されてしまう」


「そのとおりだ……」


 だがそこでアビゲイルが言う。


「あの、地下のシェルターにあった施設。あそこで、その適合者を調べられないでしょうか?」


「あそこは、大統領権限で無ければ入れない」


「そう……ですね」


「何かあるんですか? 博士」


「適合者の体組織を調べれば、何か解決策が見つかるかもしれません」


 だがそこでシャーリーンが首を振る。


「大統領の周辺、及び軍関係者が全て白だとは限りません。直ぐに、ファーマー社から嗅ぎつけられる可能性があります」


「確かに……」


 そこでクキが言う。


「現状は、今のやり方で押し通すしかあるまい。都度対応しつつ、俺達以外に情報を伝えない事だ」


「「「「「「「はい」」」」」」」


 それが一番の最善策だと、誰もが思った。ファーマー社が適合者を集めて、何をしようとしているのか分からないが、みすみす情報を嗅ぎつけられる事もあるまい。


 会議を終えて、また俺達は何食わぬ顔で元の業務に戻る。


 だが……懸念はすぐに現実とものとなる。


「ミオからの電話だ」


「ああ」


 スマートフォンの先から、ミオの残念そうな声が聞こえた。


「多分……また適合者」


「そうか……すぐ行く」


 そして電話を切ると、クキが俺に言った。


「やはり生存してここに来てると言う事は、適合者である確率も高いという事だ。この短期間に二人目となると、想像しているよりもマズい状況だな。ファーマー社じゃなく、米軍が集めている事になってる」


「そのようだ……まず、行って来るか……」


「そうしてくれ」


 俺は迎えに来た、クロサキとミナミの乗る車に乗り込むのだった。 

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