第588話 セーフティエリアに担ぎ込まれる罹患者たち
ワシントン一帯を、米軍と一緒にゾンビ破壊薬でセーフティーゾーンに変えた。その事で境界線あたりには、ゾンビの死体が転がり始める。街道などは生存者が入って来るかもしれないので、ゾンビを除去しつつ開けておかねばならない。
その状況を確認した大統領は、さらに多くの米軍の兵士をこの地に呼んだ。
「また来たか」
ヘリコプターが飛んできて、ぞろぞろと軍人たちが下りて来る。米軍基地は壊滅しているところもあるので、まずはここを拠点にしようという事になったのだ。さらに、米軍が入って来た事で、生き残っていた生存者が建物などからぞろぞろと出てきた。
それを見てミオが言う。
「パンデミックの日本と違うのは、アビゲイル博士が居てくれたことと、ヒカルが居てくれたことだわ。セーフティーゾーンがあるだけでも、全然ちがってくる」
タケルが大きく頷いた。
「ああ。後はどれだけ薬品製造が間に合うかだな。製薬工場も市民からでた薬品に精通している人らのおかげで、急ピッチで生産出来ているらしいぜ」
すでに、地下に居た専門家たちも地上に出て、解放されたペンタゴンで作業をしつつある。既にホワイトハウスも奪還し、大統領たちはそちらに本部を作り上げていた。
そしてクキが言った。
「復興までの動きが、俺の想定よりも早い。どうやらアメリカは、緊急時のプロトコルがあったようだ。ここまでの甚大な災害も、ある程度想定されていたらしい。まあ、凄い国だよ」
「日本には無かったのか?」
「残念ながらな。自衛隊がいつでも戦えるようにしていても、政府や国民が平和ボケしていた。どうしようもなかったと言うところが、正直なところだな」
「なるほど」
アメリカ軍がせわしなく走り回り、あちこちから生存者を連れてきているようだ。病院も復活させて、そこに運び込んでいるらしい。
「あとは、ファーマー社から、ここが嗅ぎつけられる事を警戒しなければならん」
それを聞いてタケルが頷いた。
「ヒカルはしばらく動けねえだろうな。奴らがミサイルをぶっ放す可能性はある」
そこでオオモリが言う。
「衛星が五割しか機能して無くて、迎撃システムが動かないんだそうです」
「「「「……」」」」
それは……俺達のせいだ。
「あれだ。やっぱり、俺がいた方がいいだろう」
「そ、そうだな」
「そうね……」
微妙な空気がながれた。
いま俺達は、軍用車両の側に立っており、そこを拠点にして薬品工場を警備する事になっていた。そして、アメリカ兵達が銃を持って周辺を囲んでいる。
そこに軍人が来る。
「外からの生存者搬入が始まりました!」
それにクキが答える。
「それは良かった」
「ですが……」
「死ぬ奴が出て来たか?」
「はい」
「それは、重度の感染者だ。ゾンビに変わる寸前だったんだろう」
「体調不良になる者も続出しており……」
「それは、直ぐに治療をした方が良い。放っておけば衰弱する」
「死ぬのは阻止できますかね?」
「残念ながら、ゾンビ破壊薬にはそんな機能はない」
それを聞いて俺が言う。
「ゾンビ因子除去施術をやればいい」
「ああ」
そこでクキが、兵隊に言った。
「体調を崩した生存者や、感染していて死ななかった者を、ここに連れてくる事が出来るか?」
「可能かと」
「なら、ここに大型のテントをはって、治療所をつくってくれ。そして次々に連れて来い」
「治療が出来る?」
「そうだ」
「わかった! 直ぐに手を打つ」
そう言って兵隊は去って行った。
「死ぬ奴が出たか」
「そうじゃないと、ゾンビが増える」
「そうだな。発症するまでにヒカルがなんとかすれば、生き延びられるか?」
「ああ。そして施術後に、必要ならポーションを飲ませてみよう」
だが、そこでクキが言う。
「アメリカの許可をもらってないぞ。万が一死んだら……」
「いや。俺がヒールで何とか持たせる」
「わかった」
それはすぐに来た。ヘリコプターで運ばれ、次々に担架に乗せられてくる。
確かに死にそうだ。
「連れて来たぞ!」
俺達の脇では、テントが張られ始めている。
俺はすぐに、運ばれてきた奴に手を当ててゾンビ因子除去施術を施した。
「なるほど、ゾンビ因子は死んでいるが、それが体内に詰まってるんだ」
「ヤバイな」
施術のおかげで、次第に真白になった感染者は目をパチリと開けて起き上がる。驚いたように言う。
「あれ?」
「どうだ?」
「なんともないです」
すると兵士が言う。
「なぜ真白なんだ?」
「ゾンビのウイルスが外に出たんだ」
「ウイルスが?」
「これが詰まると、死んだり具合悪くなったりする」
そこに、医師であるエイブラハムが呼ばれてきた。直ぐに兵士に、どうなっているかを伝えて来る。
「主に血管や神経が詰まる。特に、脳、心臓、生殖器、リンパに集中的に出てしまうのじゃ」
「だから死ぬのか?」
「そう言う事だ。それを、病院の医者にも伝えるのじゃ!」
「わかった!」
米兵が腰から通信機をとり、今のエイブラハムが言った事を伝えた。
「伝えてくれたのじゃな?」
「伝えました。ドクター」
「これで、軽傷の者はどうにかなるじゃろ。重度の者はここに連れて来るのじゃ」
「は!」
そして兵隊は走り去っていった。更に矢継ぎ早に体調不良者が連れて来られ、俺は次々にゾンビ因子除去施術を施して行く。
すると、すでに意識を失い死ぬ寸前の奴が連れて来られる。
「おい、クキ。コイツでやってみよう」
「……そうだな。悪いが試験だ」
俺がゾンビ除去施術を行うが、白くはなったものの目を開ける事は無かった。薄く呼吸をしているが、時間の問題で死ぬだろう。
きゅぽっ。出来上がった赤いポーションを、おもむろにそいつにかけてみる。すると淡い光を放ちながら、薄っすらと目を開けた。
「う、うう」
「起きた」
「これを飲め! 薬だ!」
「ゴク! ゴク! ゴク!」
しゅわあああ。
ガバッ!
突然、起きた瀕死の奴をみて米兵たちが銃を構える。
「違う! これはゾンビじゃない!」
起きた奴が、びっくりしたように周りを見回した。
「お、なんだ? あんたらは何者だ? なんで俺はここに?」
エイブラハムが笑って言う。
「あんたは助かったんじゃよ」
「あ、妻は? 子供は?」
すると米兵が言う。
「子供は保護している。残念ながら、奥さんは分からない」
「こ、子供に会わせてくれ!」
「なら、病院に行こう!」
男は連れていかれた。それで、エイブラハムが俺に言う。
「一人の子供の未来が救われたのじゃ」
「そうか……」
「一人でも多く救えるように、わしらもなんとかしよう」
「そうだな」
そこにまたアメリカ兵が来る。
「すまない! もうゾンビ薬の補充はできるだろうか!」
それを聞いて、ミオが言う。
「聞いてきます」
「すみません」
クキが兵士に聞く。
「セーフティエリアは拡大してるか?」
「はい。だいぶ広がりました。ですが薬の量が足りてません」
「ヘリコプターのローターを回し続けろ。風が起きれば、広範囲に散らばる」
「わかりました」
中からマナとツバサとミナミが、ゾンビ破壊薬の入った段ボールを運んできた。
「持って行ってください!」
「ありがとうございます!」
慌ただしく米兵がそれを持ち去り、それと入れ替わりに感染者が運び込まれてくるのだった。




