第587話 ゾンビ除去作業とホームシック
薬品工場内には、アメリカ兵の声が鳴り響く。
「クリア!」
「前進!」
「クリア!」
既にゾンビ破壊薬を散布して薬が充満しつつある建屋内には、転がったゾンビしかいない。米軍はそれでも安全を確認しながら、建屋内に進んで行った。
俺が言う。
「もう、ゾンビはいないが?」
「なぜわかる?」
「気配がしない」
「そ、そんな感覚的な事で、部下に命をかけさせられん。徹底させてもらう」
「わかった」
そしてタケルが、ボソリと言う。
「気配感知なんて概念は、この世界にはないからな。俺達の中でもヒカルとミオしか出来る奴いねえし」
「なるほどな」
なので仕方なく、米軍の作業が終わるのを待つしかなかった。しばらくして、エントランスに集まって来たアメリカ兵が、上官に報告を始める。
「二階奥まで動くゾンビは確認できませんでした!」
「地下室にも、動くゾンビは確認できませんでした!」
「工場にも動くゾンビは確認できませんでした!」
そりゃそうだ。
「そして俺が言う」
「ゾンビ因子が破壊され、普通の遺体になってる。腐敗が早くなるから、死体を片付けよう」
「聞いた通りだ! 直ぐに死体を外に運び出そう!」
「「「イエッサー」」」
「あと、臭いと病気が広がる可能性があるから、急いで焼却をしないとだめだ」
「しかし、家族の元に返してやらんと」
「その市民すら、ゾンビになっている可能性があるのにか?」
そこで軍人たちが話し合った。どこかに連絡し、結論が出たらしい。
「わかった。焼却しよう」
「ああ」
「それでは、館内の死体を運び出すぞ!」
すると軍人の一人が、上官に向かって言う。
「この中を、我々だけでありますか?」
「あと誰がやるんだ? 動ける隊は少ないんだぞ!」
「わかりました」
工場のあちこちに、ゾンビの残骸が転がっている。その一体に、軍人が手をかけようとしたところで、俺がその手を止めさせる。
「まて」
「な、なんだ」
「まさか、一体一体持って行くつもりか?」
「そうだ」
「いや、十体くらいまとめて縛り上げてくれ」
「は?」
「そうしてくれたら俺達が運び出す」
「二人で?」
「そうだ」
はじめはキョトンとしていたが、俺がじっと見ていると、隊長が諦めたように言う。
「いう通りにしてみてくれ……」
「は!」
そうして軍人たちが死体を集め始め、十体で縛り上げてくれた。
「じゃあ」
そうして俺が、その十体の死体が連なった一つを担ぎ上げる。
「「「「「「「えっ! 一人で?」」」」」」」」
「ぼさぼさするな。次をまとめてくれ」
ポカンとしている兵士たちの前を、俺は十体の死体を担いで運んでいく。そのまま真っすぐにいくと、公園が見えて来たのでそこに捨てて縄を解く。すぐさま薬品工場へ戻って行くと、十体の死体を背負ったタケルとすれ違った。
「どこに捨てた?」
「あの公園だ」
「了解」
そうして俺は、薬品工場の中に入る。すると次の荷物を作っているところだった。
「まだ五体だ。ちょっとまってくれ」
「俺も持ってくる」
そう言ってすぐに二体持ってきた。
「えっ。あっ。いま、消えた? なんで二体持ってんの?」
「いや、普通に持ってきた」
ポカンとしている前に死体を置くと、ようやく兵士が来て死体をまとめた。それを無造作に背負うと、それを見ていた兵士が言う。
「いやいや。おかしいだろ! さっきから!」
「なにがだ?」
「五百キロ以上あるはずだぞ。いやそれ以上かもしれん」
「別に問題ないだろ。それに、これ以上まとめたら、入り口の出入りが出来ん」
「そういうことじゃない! そもそも増やすなんてありえん。なんで、お前達はそれが持てるんだ?」
「ああ、そっちか。鍛えているからな」
「「「「「……」」」」」
「持って行って、いいか?」
俺は、また外に向かっていく。するとタケルが戻ってきた。
「あのあたりも、ゾンビの死体だらけだったな。しかも燃えたのが多い」
「どうせ燃やすんだ。一緒だろ」
「そっか」
そして公園に持って行き、縄を解いて死体を下ろす。見れば、あちこちに焼けたゾンビが倒れており、これを掃除するにはもっと多くの人手が必要だ。日本では市民が協力したが、その市民がいない。
「仕方ないか」
俺がすぐに戻ると丁度、次の死体の塊を作っているところだった。タケルがそれを背負いあげる。
「荷造りが遅いな」
するとアメリカ兵が答えた。
「これでも急いでいる! いっぱいいっぱいだ!」
俺は軍人に向かって言う。
「いちいち、ここに運ぶのは時間がかかる。死体のある場所に行って集めた方が早い」
「そこから運ぶのか?」
「そうだ。ここまで運ぶのは手間だ」
「わかった」
そして場所を移し、死体が転がっているところで積み上げてまとめる。それを担いで出て行くと、タケルが戻ってきた。
「場所を移しつつやっている」
「そっか」
「あっちだ」
「あいよ」
それから一時間半ほどで、館内に転がっていた死体は全て無くなった。米軍の指揮官が言う。
「ありがとう。君らが居なければ、一日仕事になっていただろう。それにしても凄い怪力だ」
「「鍛えているからな」」
俺とタケルの声が重なる。それに対して、アメリカ兵は微妙な表情だ。続けて俺が言う。
「それで、積み上げた死体だが、直ぐに焼き払った方が良い」
「わかった。でも、ゾンビが集まるんじゃないか?」
「いや、集めるんだよ。ゾンビ破壊薬を撒いたからな。寄って来れば勝手に死ぬ」
「まるで、殺虫剤だな」
「ああ、博士はそんな風にも言ってたな」
「わかった! よし! 火炎放射器の準備をしろ!」
「死体は公園に重なっている」
アメリカ兵は、装備を整えて公園の方へと向かって言った。
「次は電源の確保だ」
「地下にガスタービンの非常電源の設備があった。あれを稼働させる」
「頼む」
そしてアメリカ兵の何人かが、直ぐに地下に向かって走って行った。
俺がタケルに言う。
「流石はアメリカ兵だ。俺達より段取りも良いし、手際がいい」
「だな。まあ、俺達は素人みたいなもんだ」
それを聞いていた、指揮官と兵士が言う。
「いやいやいやいや! それは違う。あんたらはゾンビエキスパートだ」
「そう。少しは隊に損害が出ると覚悟していました。それが、一人として怪我すら追ってない。他の地域では、精鋭部隊が壊滅していると聞いている。これはあり得ない事だ」
そこで俺が言う。
「大統領に言われたんだ。大事な兵士に怪我人を出させないでくれと」
「大統領が……」
「そうだ。とにかく、これで薬品工場は確保できた。あんたらが警備をして、俺達は仲間を連れて来る。ここには、ゾンビ破壊薬をまいたから安全圏だ」
「本当にか?」
「実証済みだ」
「わかった。なら、ヘリで連れて行こう」
指揮官が兵士二人に命じて、俺達を外へと連れて行った。ヘリコプターのところに戻ると、後部ハッチが開き始める。
「彼らを! ペンタゴンへ連れて行ってくれ!」
「了解だ!」
そして俺達を乗せたヘリコプターは、あの秘密の地下基地がある場所へ飛んだ。
「よし! タケル! このあたりにも破壊薬を散布するぞ」
「へいへい!」
俺達がヘリコプターの窓から破壊薬をふりまき始めると、乗っていた軍人二人もそれを手伝い始める。ペンタゴンからその周辺にかけて、どんどんふりまいて行くと動くゾンビが居なくなる。
「降りよう」
「了解」
ヘリコプターが降りて、俺が兵士達に言う。
「あとは、そっちの上の指示に従ってくれ」
「わかった」
直ぐに、タケルと俺が秘密の入り口に向かう。前に立つと勝手に入り口が開いた。俺達が入るとすぐに閉まり、エレベーターに行くと扉が開く。
「これで、第一段階が終了だな。ヒカル」
「ああ。次は物資だ。みんなの食料と薬品の材料集めだな」
「懐かしいなあ。日本に居た頃を思い出す」
「ああ……なぜか、俺も思いだしていた。みんな元気にやってるだろうか?」
「やってるさ。アイツらはヤワじゃない、それに由美に居てもらわないと俺が困る」
「そうだな。早く終わらせて、帰りたい」
「なんだ? ヒカル。ホームシックか?」
「もう、戦いは飽きた。前世でも、こっちでも戦いどおしだ」
「ちがいねえ。早くアイツらの顔を見るために、がんばろうぜ」
「ああ。タケル、お前が言うと力が出るな」
「そりゃ、こっちの台詞だ」
俺はつい、前世でのレインとの会話を思い出していた。どこかあの相棒と、タケルが重なる。
俺は思わず、タケルに肩を組んで笑いかけるのだった。




