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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第57話 ビル地下の確認

 侵入した二階を周り階段を探す。すると上と下に続く階段を見つけた。俺はそこで皆に告げる。


「この階にはゾンビが居ない。奴らがやって来るとすればこの階段からだ。俺が感知した距離からすると、ゾンビがいるのはすぐ上の階じゃない」


 俺が言うとタケルが答える。


「ならすぐ上に行くっきゃないだろ」


「まて。ゾンビは下の一階に二体と恐らく地下に五体いる。俺が単独でそいつらを始末して全ての入り口を確認してくる。タケルとヤマザキはここで女を守れ」


 そう言って俺はヤマザキにもバールを渡した。するとツバサが不安そうに言う。


「まって。もしかして、私達ここで待つって事?」


「そうだ」


「ヒカルと離れるの?」


「大丈夫だ。まだ上階のゾンビは俺達に気づいていない」


 すると女達がざわつき始める。またツバサが俺に言う。


「まって、それなら一緒に下に行く方が良い」


「それだと効率が悪いが?」


「効率よりも安全第一じゃない?」


「入り口の確認もするから万が一の場合は、ここの方が安全なんだ」


 すると今度はミナミが言う。


「万が一、何処からか人間が入って来たら?」


「周囲に人間を探知していない」


「でも…」


 するとヤマザキが言った。


「翼と南は空港で襲撃を受けているからな。その時の精神的ショックが抜けないんだろ?」


「うん」

「怖いんだ」


 なるほど。俺はそこまで気が回っていなかった。前世のパーティーじゃ、精神的ショックで動けなくなるなんて奴は一人も居なかったから。だが彼らは平和な世界に生きて来た人間だ。極限の状況を体験して精神がやられたのだろう。


 聖女のエリスがいたら、精神系の魔法で軽減してやれるんだがな。俺には使えない。


「ならば一緒に降りるか…」


「そうして欲しい!」


「わかった。なら隊列を組もう。俺が先頭を動く、しんがりはヤマザキとタケルが受け持ってくれ。皆は周囲に気を付けて転んだりしないように注意だ。ゾンビは心配するなアイツらが気づく前に俺が消す」


「了解だ!」

「ああ」

 

 ヤマザキとタケルが返事をし女達も頷く。俺達は階段を下へと下りて行くのだった。一階には二体のゾンビがいる。俺がすぐにそこに向かって消せばすぐに終わるのだが、皆をひき連れている為に動きが悪くなる。そして俺は皆に止まるように言い、角の向こうにいるゾンビに向かっていく。もちろんゾンビが気づく前に始末する。


 俺がゾンビを始末して帰るとミオが言った。


「ねえ。地下にプールがあるよ…、てかゾンビいる」


 一階の吹き抜けから下を覗くと、そこには水を溜めた場所がある。水は濁っているがプールにゾンビが二体居た。水の中をウロウロしている。どうやらさまよっているうちにハマってしまったらしい。


「まずは、一階の入り口を全て確認する」


 皆が黙ってうなずいた。そして俺達はビルの一階の入り口を確認していく。正面に自動ドアがありそこを確認すると、鍵がかかっていなかったので俺達はそれを締める。


「壁伝いに行く」

 

 俺がそう言って先頭を歩いた。


 やはり…時間がかかる。外のゾンビに気づかれれば危険性は高まる。既にみんなを連れて来てしまっているからこのまま行くしかないが、彼らの安全の為にも断固として一人で来るべきだった。もちろん前世のパーティーのようにはいかないのは分かっている。それに精神系の魔法が使えない俺としては、彼女らの心に何かあった場合対処できない。仕方がないのは分かっているが、皆を危険にさらしている事に変わりはない。


「あった」


 小さなガラスの入り口があった。俺がそのドアを押してみるが鍵がかかっていた。


「ここは問題ない」


 皆は黙って俺について来る。周囲にゾンビがいるかもしれないという恐怖なのだろう。


 唯一、恐怖に支配されていないのはタケルだけだ。むしろ若干の興奮状態にあるようだ。


「よし、もう一カ所見つけた」


 そしてその扉も鍵がかけてあった。するとヤマザキが言う。


「これは、自動ロックだな。みろ、ドアの脇に番号のボタンがある。さっきの所にもあったしな」


「そうか。だからゾンビが入らないのか」


「恐らくはそういう事だ」


「なら、このまま先に進もう」


 先に進むと最初の自動ドアがある反対側にも自動ドアがあった。そして皆がそのままそのドアに進もうとするので俺はそれを止める。


「まて」


「ど、どうした?」


「外にゾンビがいる。願わくば気づかれたくない、構造的にこの扉が最後だろう。お前達はここで待っていてくれ」


「わかった」


 ヤマザキが答える。俺はすぐさま気配遮断で気配を断ち自動ドアに向かっていく。外にはウロウロとゾンビがいるが。阻害系の魔法を行使し見えないようにした。


 ここも開いていたか。


 俺はその自動ドアの鍵を閉めた。これでゾンビは一階からは入ってこないだろう。すぐに皆の元へ戻りその事を報告する。


「一階は大丈夫だ」


 俺の言葉に皆がため息をついた。


「安心するのはまだ早い。地下にもゾンビがいるが、このビルの地下は深いぞ」


 するとタケルが冷静に言って来る。


「さっき壁に各階層の案内があったけどよ。地下一階はトレーニングジムがあるみてえだ。あと地下三階まであって全部駐車場だった」


「でかしたタケル。少しは動きやすくなる」


「ヒカルと動いているうちによ、見るべきもんが分かって来た感じだな」


「ならまずは、あのプールのゾンビ二体を片付ける」


 皆が頷いた。地下に降りると様々な機器が置いてある。それを見て俺が言った。


「これは、体を鍛える為のものだな。DVDで見たぞ」


 するとミオが言う。


「そうだよ。ヒカルには必要ないかもしれないけどね」


「いや、やってみたいな」


「じゃあこのビルが安全になったら、やりに来ればいいんじゃない?」


「そうしてみよう」


 そして奥の扉を開けるとそこにプールがあった。俺達が無造作に入って来たので、プールのゾンビがこちらへと向かって来た。だが汚れた水の中なので動きは遅かった。俺はプールの縁に立ってドライバーを二つベルトから抜き取り、ゾンビの頭に穴をあけた。

 

 それを見ていたタケルが言う。


「百発百中だな」


「ああ、気…意思の力で操っているからな」


「笑えるぜ」


「なら笑って言え」


 俺達のやり取りを見て女達がくすりと笑った。俺とタケルには阿吽の呼吸だったが、それが面白かったらしい。


「良い相棒よね」


 ユリナが言うとユミが答えた。


「まったく。でもタケルが嬉しそうでよかった」


「だね」


 プールを見ていたマナが言う。


「でもこのプールは使えないね。どろどろだしさ」


 それにミオが答えた。


「プールよりお風呂入りたいよ」


 するとタケルが言った。


「風呂は次の目標だからな。まずは安全確認してからだろ」


「わかってるって」


「じゃあ下の階に降りるぞ。まだ三体ほど居る」


 皆が頷いた。


 むしろ、皆を連れてきて良いのかもしれないな。


 俺はそう思った。これからこの世界で生きていく上で、俺のやる事は皆の参考になるだろう。時間をかけてでも、俺がやる事を皆に見せておくのは悪い事じゃない。


「いいか? 警戒を解くな。ゾンビはいつ上がって来るか分からない」


 皆にそう言って俺が地下二階への階段を下りていく。そして後ろをついて来るヤマザキに、俺が言った。


「暗いな。懐中電灯は持って来ているか?」


 ヤマザキは頷いて答えた。


「もちろんだ」


「ならば使え。階段が危険だ」


「分かった」


 ヤマザキが懐中電灯で照らし俺が先を進んでいく。真っ暗闇の中に懐中電灯だけの灯りになった事で、皆の息遣いが荒くなってきた。恐らく恐怖で身がすくんでいるのだろう。


 一人を除いては。


「ふっ、タケルは余裕か?」


「だって、もっと怖え時があったしよ。ヒカルが側にいて怖えっつう感覚はねえな」


「なら女達の手を握ってやれ」


「あ、ああ。ならそれぞれ手を繋いでいったらいいぜ」


 女達がコクリと頷く。地下二階に降りると、懐中電灯の灯りの中に自動ドアが見えて来た。どうやらそこから駐車場に出入りする事が出来るようだ。だがそこでもヤマザキが言う。


「ここも暗証番号で開けるタイプのドアだ。恐らく不審者対策なんだろう」


「ならばこのドアは開かないと言う事だな、ゾンビはこの外だ、このまま階層の入り口を確認しよう」


 そして地下二階を回ると、もう一か所に扉があったがそこも鍵がかかっていた。どうやら駐車場からは、番号を知っている人間しか出入り出来ないようになっているらしい。するとタケルが向こうからこっちに声をかけて来た。


「おい、こっちの鉄の扉は開くぞ」


 俺達がタケルの元に行くと、そこに鉄の扉があった。


「鍵は?」


「いまかけた」


 それを聞いてヤマザキが言う。


「ヒカル。恐らく下も同じ構造だろう」


「なら確認しないとな」


 そして俺達は地下三階へと下った。ヤマザキが言うように地下三階も同様の構造になっていた。ゾンビは外にいるようで中には入って来れない。


 だが更に下の階に続く階段がある事に気が付いた。


「もっと下があるな」


「なんだろう?」


 流石にヤマザキにも分からないようだった。


「降りてみるしかねえべ」


 タケルが言う。下の階にゾンビの気配はないが、念のため確認しておいた方が良いだろう。


「行くぞ」


 そして皆で地下四階に降りる。すると階段の最下層の脇に、すぐに扉があるが開かなかった。懐中電灯でヤマザキがドアを照らす。


「機械室って書いてある」


 俺がヤマザキに質問する。


「機械室? 何の機械だ?」


「恐らくはビルの空調や暖房の管理をするところだろう。ボイラーなどがあると思う」


「そうか。それらを動かす事は出来るのかな?」


「いや。専門家じゃないと無理だろうな。あと恐らくガスとか燃料が必要になるはずだ」


「わかった。ひとまずここは問題ない。上に上がるぞ」


 俺達は、ゆっくりと上に上がり一階に到着した。


 するとユリナがため息をつきながら言う。


「ふう、やっぱり暗いと怖いね」


「そうだねー、ゾンビが居ないってヒカルに言われても落ち着かない」

「まったくね。本当に不便だよね」


 すると最後にミオが言った。


「ごめんねヒカル。ヒカル一人ならあっというまだったよね?」


 ミオは気にしていたようだ。だが俺はこれは必要な事だと思い始めていた。


「これから皆で生きて行かなきゃならん。俺がやる事を見て覚えるのも一つだ。念には念を入れるというのが大事だな」


「わかった」


 常に俺と動いたタケルと違って、彼女らはこういう動きは不慣れだ。もちろん最初から度胸が据わっているタケルと彼女らでは、慣れ方も動きも全く違う。だが俺はそのうち効果が出てくるだろうと思うのだった。


「上に行くぞ」


「「「「「「はい!」」」」」」


 女達が声をそろえて返事をすると、タケルが茶化したように言う。


「よろしい! みなヒカル先生の言う事をよく聞いて学ぶように!」


 するとユミが言った。


「何よ偉そうに! タケルだってヒカルが居なくちゃそんな偉そうに出来ないでしょ」


「へへっ、そういうなって。俺は俺なりに動けるようになってきてんだよ」


 タケルの言葉に俺が付け加える。


「タケルの動きは良い。タケルは恐怖心のコントロールが出来ているんだ」


 するとタケルが言う。


「そんな大それたもんじゃねえよ。なんつーか、気合いだろ! こんなもん!」


「気合か…そうかもしれんな」


「まあ女にこんなこと言うのもなんだけどよ。ビッとして行けばいいんだよ。ビッと!」


 女達がポカンとしている。タケルが女達の反応を見て間抜けな顔をした。


「な、なんだよ?」


 するとユミが言った。


「ごめん。全然わかんない。ビッとするってなに?」


「気合入れろってこった。ビビんなってこと」


「ごめん。それが出来ないから苦労してるの」


「…ま、そうだよな」


 皆に笑いが生まれた。少しだけリラックスできたようだ。タケルの存在はこのパーティーに大きな影響を与えている。平和な世界に生きて来たタケルの生き様を聞いてみたくなる。


「無駄話はこのくらいにして、気を引き締めて行くぞ」


 俺が言うとタケルが付け加える。


「このビルは二十一階まであんぞ。全部階段で行くんだからな!」


 ミオが言う。


「ビッして行こう!」


「「「「「オー!」」」」」


 俺達はビルを上に向かって登っていくのだった。

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