第579話 大統領だけが知る秘密の施設
俺達は、ホワイトハウスに居た大統領と専門家たちを連れて、来た道を戻り川を前にした。
「ポトマック川の先だ」
大統領が言うと、グレイブ・クレイトンが答える。
「行先は、ペンタゴンかい?」
「ペンタゴンは、恐らく占拠されているかもしれん」
それにオリバーが答えた。
「そこにいくなら、大統領。ラッキーボーイに任せて良いと思いますよ」
「はなからそのつもりだ。君らの連れてきた日本の自衛隊はゾンビを切り抜けられるのだろ」
俺は自衛隊じゃないが、大統領はそう思っているらしい。それにクキが答える。
「日本の底力を見せて差し上げますよ」
川の先にはゾンビがひしめいている。それをみて、大統領補佐官が言う。
「大統領。危険ではないでしょうか?」
「いや、この子供ですら、恐れてはいない」
大統領がルーサーの息子を指さして言った。それにオリバーが答える。
「彼は、あのルーサー・ブルースの息子ですよ」
「なんだって! そりゃ肝が据わっている訳だ。伝説のチャンプの息子とはね」
「そうです」
一緒に来た専門家たちも、騒然としており橋の先に行くのを反対していた。
「本当に行くのですか? あの中を?」
そう言われた大統領が、がクキに確認する。
「いけるのだろう?」
「問題ないさ。なあヒカル」
「ああ、皆は後から来い」
ドシュッ! 俺は高速で走り出し、四百メートルの橋を通過してバリケードをジャンプして越える。ゾンビ達の中心に降り立つと、俺に気が付いたゾンビ達が振り向いた。
「みんな……なりたてか……」
つい最近まで生きていただけあって、欠損もしておらず腐っても居なかった。青白い顔でこちらに駆け寄って来る。
「飛空円斬!」
俺を中心に見える範囲のゾンビが倒れた。そして俺はすぐにバリケードに戻り、村雨丸を振るう。
「断鋼裂斬」
ジャキッ! 斜めに切れたバリケードが、ズルズルとずり落ちて川の横に倒れた。すると橋の中腹あたりで、タケルが俺に手を振っていた。俺も手を振り返して、全員が橋を渡りきる。
大統領が言う。
「い、一体どうなってるんだ。なぜ、ゾンビが全て倒れているんだ。なぜ、バリケードが……」
「倒した」
「倒した……?」
だがそこでクキが言う。
「大統領。悪いが、聞かないでくれ。これは、日本の最高機密だ」
「そ、そうか自衛隊の……。分った……国交が回復した折には、いろいろと聞かせてもらおう」
「お互い国が残っていればね」
「それは、そうだな……」
そしてオリバー・クレイトンが言う。
「大統領……ラッキーボーイは不可侵だと思いますがね」
「そうか……」
ゾンビの残骸が散らばる街を進み、ある建物の前に来た。大統領が言う。
「中が無事だと良いんだが」
そこで俺が言う。
「中は殆どゾンビで埋め尽くされている」
「なんと……連絡が取れない訳だ」
「一度広がれば、こうなってしまう」
「だが、上の建物に用は無い」
……どうやら下に人の気配がする。
「クキ、下に人がいる」
「下?」
「かなりの下だ。建物の下じゃない」
「大統領、もしかすると」
「そうだ、そこに用がある。こっちだ」
大統領が先導して、建物を回って行くと地下に向かうエスカレーターが現れた。
「まだゾンビがいるぞ?」
「この下に用があるんだ」
「なら、俺が先に行く。クキとミオは俺と一緒に、他の仲間達は殿を頼む」
「おうよ」
俺がエスカレーターを下に下りていくと、ゾンビが蠢いていた。どうやらこのエスカレーターから入り込んだらしい。俺は次々とゾンビを切り捨てていく。
「暗いな」
「電源が切れてるんだ」
ミオとクキが電灯で照らし、その内部を照らす。すると大統領が言う。
「こっちだ」
更に下に続くエスカレーターがあり、俺達を先頭にして下に下りた。ゾンビは全て片付けているが、後から出てきた奴らはミナミとタケルが片付けるだろう。
「ここだ」
大統領の言葉にクキが言う。
「壁のようだが?」
「いや……」
そして大統領が壁に掲げてある、番号プレートのような場所に手を触れた。
《指紋承認》
すると壁を割って、何かの機械が這い出て来る。そこに大統領が顔を近づけると、青い光が大統領の顔をなぞるように照らした。
《骨格承認、網膜承認、大統領と判別しました》
ゴウンゴウンと音を立てて、その壁が左右に開いて行く。
「みんな、入ってくれ」
そして大統領、補佐官、専門家や俺達が全員入ると、ゴウンゴウンと音を立てて入り口が締まる。すると中の通路に、一斉に明かりが灯り、先まで見渡せるようになった。
「ここは、私と一部の人間しか知らないルートだ」
タケルが興奮している。
「すげえな! まるで、映画みてえだ!」
「喜んでくれてよかったよ」
そしてその通路を奥に入ると、既にゾンビの気配はなかった。
「ゾンビはいない」
「数人の限られた人間しかいないよ。数カ月単位で交代制で、ここに入り管理をしている人らだけだ。下手をすれば、外で何が起きているのか分っていないかもしれない」
「へえ……」
大統領が次々に、扉に顔を近づけて開いて入っていく。するとそこに、数機のエレベーターが現れた。
「下に行ってくれ。どうせ止まる場所はひとつしかない」
そうして各自が、エレベーターに乗り込み下のボタンを押す。エレベーターが下り、開くと他のエレベーターも開いてみんなが出てきた。
「ここが、緊急防衛センターだ。いろんなものが揃っている」
「なるほど」
大統領に続いて先に進んでいくと、ある部屋の前に止まり自動ドアが開く。
「えっ」
中にいた奴が、テーブルに足を乗せてゲームをしていた。ゲームからピロピロと音がする。
「こ、これは! 大統領! 失礼しました」
「いやいや。無事でよかったよ」
そいつはマイクをとって、直ぐにどこかに通達した。
「大統領が来た。コード発令」
そしてしばらくすると、数名の人間がやってきた。大統領が言う。
「という訳だ。ここは、私が来ない限り動かない」
「なるほど」
そして大統領が、ここに揃った連中に言う。
「緊急コード発令だ。施設を稼働させてくれ」
「「「「は!」」」」
係の人間達があちこちを操作し始める。
すると、周辺のパネルが輝いて、映像が移り込んだ。
「ここで、ある程度の情報は取れるはずだ」
グレイブが聞いた。
「ある程度の情報? 国内外の情報さ。ただ……」
「ただ?」
「そうだな。言ってもいいだろうな」
「何があったんです?」
すると大統領が椅子に座り、皆に向かって言った。
「しばらく前の話になるんだが、軍事衛星が消滅したんだ」
それを聞いて、俺達が一瞬顔を見合わせる。だが、大統領が気づかずに話を続けた。
「CIAも軍も調査したようだが、その原因は撃墜によるものとされた」
グレイブもオリバーも、驚いたような顔で聞いている。
「中国かもしくはロシアか、さらに他の国の仕業かわからない。だが、調査結果……世界の軍事衛星が消えた可能性がある。もちろん、直ぐに代わりの衛星は何機も上げたが、また撃墜される可能性もあるかもしれん」
「そんな事が……」
いや……それは、俺達がやった事だ。おれが、富士山に登って、剣技でオオモリに指示された衛星を壊しまくった結果だ。
だが、しらじらしくクキが言う。
「へえ……そんな不思議な事があるもんだねえ。ファーマー社やGOD社の可能性は?」
「大企業とはいえ、国家レベルの軍事力があるとは思えないんだ」
「なーるほどねえ……」
なるほど、しらばっくれる方向で行くらしい。恐らく、これがバレたら、国同士の争いとか、俺の立ち位置がおかしくなったりするんだろう。俺達仲間も、全く何の事か分からない顔をして聞いていた。




