第576話 ホワイトハウスに居た人間達
ワシントンに到着するが、あちこちにバリケードが設置されている。これ以上は、容易には進めないようだ。それ以上にゾンビがあふれており、そこを車で進むのは難しそうだった。
「車は捨てよう」
「ぞ、ゾンビがウロウロしとるがの」
「むしろ、車のまま近付いたら軍隊にやられるかもしれん」
「なるほど」
俺達は車を降り、ゾンビを片付け始める。やはり、大都市の方が被害が大きい。閑静な住宅街だが、あちこちで煙が上がっており、争った跡がある。街路樹に突っこんだ車に、頭を打ちぬかれた死体、集合住宅にはゾンビの気配が蠢いている。
「なぜこんなに一気に広がったんじゃ」
オリバーの父親のその言葉に、アビゲイルが残念そうに答える。
「ファーマー社が、ゾンビ化促進の薬物を開発したのです」
「ゾンビ化促進?」
「その薬品を接種もしくは吸い込んでしまうと体が弱り、体内から免疫の物質が抜けて、それにかかりやすくなってしまうようなのです。そして、爆発的にゾンビが増えてしまいます」
「ジャパンはそれでだめになったのかい?」
「そうです。政府が徹底的に推進して国民に摂らせたのです」
「国民は、それがゾンビ因子だとはしらなかった?」
「ファーマー社には特許があります。成分を調べる事は禁止されていました」
「契約が邪魔をしたか……」
見える範囲のゾンビを片付けるが奥にもいるので、そのうち、こちらにはみ出てくる事だろう。
「とりあえず。ホワイトハウスとやらに行こう」
するとオリバーの父親が頭を振る。
「そんな簡単にはいかん」
「なぜだ? ただ行けばいいだけだろう」
「不審者がぞろぞろ行ったら、逮捕か射殺される」
「守ればいい」
「……」
「て、わけだ。行こうぜ!」
タケルが、頭の後ろに手を組んで前を歩きだした。ひょいひょいとゾンビの残骸を飛び越えて、するすると進んでいく。
「い、いくのか?」
「その為に来たんだろーがよ」
「そうだが、そんな正面からとは」
「だって、連絡とれねーじゃん」
「その通りだがな……」
俺達が見える先のバリケードに到達するが、その先にもゾンビはいた。クキが言う。
「恐らく防ぎきれずに、撤退したんだろう」
「それじゃあ、このバリケードは必要ないな」
それは縦に五メートルくらいあり、道を塞いで橋の先に入れないようになっている。
「は、橋の上にもうじゃうじゃいるが」
「まとまっているので片付けやすい」
俺が構えをとり、仲間達が後ろに下がる。
「推撃」
ズン! バリケードが吹き飛び、先にいるゾンビ達を押しつぶす。こちらの音に反応したゾンビ達が、うろうろとこちらに向かってきた。
「飛空円斬」
ゾンビは、一気に崩れ落ちた。
「な、何が何だか……」
「今のところ、試験体がいないから片付けやすい」
「片付け……やすい……」
「ああ」
そしてまた、タケルがひょいひょいと歩きだす。ゾンビが倒れ、橋の上は血まみれだが俺達はもうその道は慣れていた。オリバー達が、戦々恐々とした感じで歩いて行く。その脇を歩きながら、クキが言う。
「たまらないだろ。市民がどんどん死んでいくんだ」
「そうだな」
「俺も、一度は日本で諦めた」
「そうか……辛いものだな」
「そんな感情すら追いつかない。それが、このゾンビパンデミックだ」
「悲しんでいる暇もないか。もう君らは、麻痺しているようだ」
「ここにいるメンバーは、全員そうやって家族を失ったものたちだからな」
「自分らが体験して、初めて分かるってもんだな」
「そういうことだ」
橋の反対側にもバリケードがあり、俺はそれをまた推撃で吹き飛ばす。するとその奥にも、またゾンビが続いていた。
「ここも、突破されていたか」
そこで前を歩く、タケルが振り向いた。
「つうか、ホワイトハウス大丈夫なんかな?」
「どうかな。流石に想像も出来んわい」
そのままゾンビを処分しながら進むと、大きな広場に大量にゾンビが蠢いていた。
「大統領公園が……」
「おいおい。ホワイトハウス、どーなってんだよ。これで、生きてる人いるのか?」
そこで俺がタケルに言う。
「みんなを少し下げさせてくれ」
「あいよ。みんな、こっちだ」
皆が来た道を下がり、俺は身体強化をかけた。
「思考最大加速。筋力強化。筋力最強化。脚力強化。脚力最強化」
ドン! 俺の周りにオーラが広がった。その事で、ゾンビ達が一斉にこっちを向いた。
「ひとまず、一キロ圏内のゾンビを消す」
バシュッ! 俺はそこから消えた。
まずは、大統領公園のゾンビを、飛空円斬で刈り取る。バタバタと削り取り、俺はすぐに路地や周辺にいるゾンビを片っ端から倒す。止まったような時間の中で、次々にゾンビを消し、地域を解放していく。三十分ほどかけて、一キロ圏内のゾンビを全て処分した。
そして皆の元に戻る。
ビシュ!
「お、おわ!」
「うわああ!」
「なんだ!」
オリバーと父親とボディーガードが驚いている
「突然出てきた!」
そこで俺が言う。
「今のところ、周辺一キロのゾンビは消した。ホワイトハウスに行くなら、今のうちだ」
「ど、どういうことかね?」
タケルが笑う。
「そういうこったよ。行こうぜ」
俺達は、ようやく目指していたホワイトハウスへと近づいて行く。真白の建物の周りには、バリケードが作られており、その中に人の気配がある。
「中に、人がいるぞ」
「恐らく、ゾンビをおびき寄せないように静かにしてたんだろ」
「ゾンビ対策としては、ある意味正解だ」
「バリケードを作って大人しくしておく……か」
「ある程度、性質を知っている奴がいるんだろう」
俺達はバリケードの前に立つ。そこで、クキがオリバーの父親に言った。
「どうか、声がけを」
「うむ」
スーッと息を吸いこんだ。
「クレイトンだ! 大統領に用件があって来た! グレイブ・クレイトンが来たと伝えてほしい! この事態を知っている者を連れてきた! 一度話をさせてほしい!」
だが中から返事はない。そこで、俺が言う。
「押し入るぞ!」
「まて!」
中から声がした。そこでまたオリバーの父親が言う。
「頼む! 話をさせてほしい!」
「そこで、待っていろ!」
しばらく待っていると、バリケードの向こうに黒づくめの男達が現れ、その先頭に仕立てのいいスーツを着た奴が立った。
「大統領次席補佐官だ! 君らは何者だ!」
「グレイブ・クレイトンだ」
「く、クレイトン? あの、グレイブ・クレイトン」
「そうだ。君も名前くらいは聞いた事があるだろう」
「少々おまちください」
「あんまり、待たせんでくれよ」
それから少し待っていると、どうやらグレイブ・クレイトンの顔を確認しているらしい。
「本物のようだ。入ってくれ」
「うむ。仲間もいるが」
「護衛の人達の銃は、預からせてもらいます」
「わかった」
バリケードが開いて、中に入る事が出来た。身体検査をされ、取られたのは銃だけ。俺の仕込み杖も、各自の武器も取り上げられなかった。
そして周りの黒服たちが、驚いた顔をしている。
「こんな軽装で、良くここまでたどり着いたものだ」
「まあ、いろいろあるんじゃ」
ホワイトハウスの中には、そこそこの人数がいた。それを見て、オリバーの父親が言う。
「だいぶ残っておるようだが」
「何とか生き延びた者達です」
「そうか。それで大統領は」
そして俺達は、奥の部屋へと連れていかれるのだった。




