第575話 人間を減らしたがっている存在
アメリカは、煙の立ち込めている大都市と、まだ何も起きてないのか煙の上がってない場所があった。ジャンボジェットは都市の上を飛び越え、一時間でワシントンの空港が見えて来る。
「ダレス空港の管制室、聞こえますか! 緊急着陸します! 聞こえますか!」
シャーリーンが管制塔へと連絡を取っているが、全く返答が無かった。そのまま空港上空を旋回して、様子を確認していた。
「ダメですね」
「さて、何処に下りるか」
滑走路には燃えた飛行機の残骸や、進入してきたゾンビ達が溢れていた。このまま飛行機を降ろせば、残骸にやられて爆発する恐れがあるらしい。
「じゃあ、俺が先に降りる」
俺が言うと、オリバーのボディガードが言う。
「なっ。ジャンボジェットから降りるだと?」
「そうだ」
「気圧でドアが開かんぞ」
「大丈夫だ」
そこで、クキが言う。
「ヒカル! 降りたら滑走路に火を。あの状態だとわからん」
「ああ」
そしてシャーリーンが、空港の上空へ飛行機を回してくれた。そこで俺はすぐ扉のハンドルを回して、強引にドアを開く。凄い風が入り込んで来るが、構わず地上へと落下していく。
ドン! と落ちてすぐ、日本刀を構えた。
「飛空円斬!」
ズバッと空港にいるゾンビ斬り、直ぐに次の剣技を繰り出した。
「強推撃!」
壊れた飛行機を、次々吹き飛ばしてやる。それでゾンビの残骸も吹き飛び、滑走路が露わになった。
「炎蛇鬼走り」
ゴウッ! と滑走路に火で引かれた線ができた。すると旋回していたジャンボジェットが、俺を通り越し着陸した。だがまだ、滑走路に残っていたゾンビの残骸に滑ったようだった。俺は縮地で追いついて、ジャンボジェットの車輪を掴む。
ギューと音を立ててジャンボが止まり、ハッチからタケルが顔を出した。
「助かった。滑ってたからよ」
「そうだと思った」
そして飛行機から、滑り台のようなものが出て来て皆が滑り出て来る。シャーリーンがお礼を言った。
「ありがとうございます。ミスターヒカル」
「無事でよかった」
「もしかしたら、止まれなかったかもしれません」
「すまん。タイヤを壊しちまった」
俺が指をさすと、オリバー達があっけに取られている。そこで、オリバーのボディーガードが言った。
「そもそも、手づかみでジャンボを止める人がいるのですね」
だがそこでタケルが、建物の方を見ながら言う。
「そんなこた、どーでもいいんだよ。ヒカルだからな」
「そんなことって……」
「出て来たぜ」
飛行機の音を聞きつけた、ゾンビ達がこちらに向かって走って来る。
「飛空円斬」
見える範囲のゾンビは消し、そしてオリバーに聞く。
「で、何処に行けばいいんだ」
「ホワイトハウスだ」
「よし」
すると、オオモリがタブレットを見ながら言う。
「車で一時間かかりますね」
「それじゃあ、車を確保しようか」
俺達はすぐにその場を動き、ゾンビを倒しながら空港内を通過して外に出てみる。
「車は腐るほどあるな。だけど、これでは道路が通れないぞ」
オリバーの言葉にタケルがまた答えた。
「そんな細けえことはいいんだって、ヒカルがなんとかすっからよ。とにかく、皆が乗れる車を探すぜ」
「細かい事では……」
「そんなもんは、何とでもなるよなあ。ヒカル」
「ああ、直ぐに車を探してくれ」
そしてバスを見つけた。タケルが一瞬でエンジンをかけると、それを見たオリバーの父親が笑ながら言う。
「あんちゃん。めっちゃ、悪いやつだな?」
「いや。必要だからやってるんだけどな」
「隠すな隠すな」
「まあ、品行方正ではないけどよ」
「私は好きだぞ」
それを見て俺は思った。エイブラハムといい、オリバーの父親といい、年老いた彼らは何故かタケルのような奴が好きなようだった。その話を聞いて、エイブラハムが笑っている。
俺がタケルに言った。
「散らかった車はどけてやる。後ろをついてこい」
「あいよ」
渋滞のまま止められた、路上の車を吹き飛ばしながら進んでいく。同時に都市に気配感知を巡らせると、ゾンビと生きている人間は半々。どうにか、生き延びている人間もいるらしかった。これはニューヨークも同じことで、早くしなければ全滅してしまう。
高速道路の入り口で、クキが俺に言う。
「よし! ヒカル! 乗れ!」
俺がバスに飛び乗ると、少しずつスピードを上げて進み始めた。
「まあ、そんなにスピードは出せねえな。あちこちに車がある」
「だと、一時間ではつかないですね」
それを聞いてオリバーが言う。
「仕方あるまい」
オリバーの父親も腕組みして言った。
「ワシントンもこのありさま。はたして、ホワイトハウスは無事なのか」
「情報が入りませんから、行くしかないです」
「大都市ほどひどくねえか?」
確かに、大都市ほど大きな被害にあっているようだった。それを見て、クキが言った。
「ファーマー社は、大規模攻勢にでたな」
「そうみたいね」
「いったい、こんなことして何の意味があるのか」
「適合者探し……」
「そもそも、適合者を探し出してどうするつもりだ」
「それは、分らないけど」
俺達の話を聞いた、オリバーの父親がボソリという。
「これは……しばらく前から……富裕層の間の噂話で囁かれている事だな。富裕層じゃから、わしらのところにもそんな情報が回って来ておった」
「それはどんな?」
「うむ……」
何故か口が重くなる。
「人が増え過ぎたので、減らすという話じゃ」
「人を……減らす?」
「そう。無駄な人間を減らす」
それに、タケルが運転しながら突っこむ。
「いやいやいや。それにしたら、減らし過ぎだろ」
「うむ」
そしてオオモリも口を挟む。
「タケルさんの言う通りです。経済も破綻するし、誰に何のメリットがあるんです?」
「わしもそう思う。だけど、聞いた事があるんじゃ。人間の未来のためとかなんとか」
「人間の未来の為?」
「そうじゃ」
どういう事だろう? そこに対し俺が聞く。
「人間を減らす……まるで魔王のような考え方だ」
「魔王?」
「そうだ。魔王は人間を不要だとしていた」
「まるで物語のような話じゃな」
「物語ではない。俺はそれを信じて戦った」
「人がいらんと?」
「俺は最後に気が付いた。愚かだったのは人間だったと」
「人間が愚か……それは、間違ってないがのう」
「だが、人は学ぶ事が出来る」
「そうか、そうかもしれんがな」
そして俺達のバスは二時間近くかけて、ワシントンの町へと到着するのだった。




