第56話 東京都心
俺達のバイクがヤマザキ達のトラックに追いつき脇を走っていると、ヤマザキが窓を開けて俺達に話しかけて来た。
「おお! かっこいいじゃないか!」
するとタケルが返事をした。
「だろ? ヒカルチョイスだぜ」
ヤマザキとタケルがバイクについて話をしている。するとユミがバイクを見て言った。
「そういえば、映画でそういうバイク乗ってたやつあったね!」
俺が答える。
「そうだ。俺はそれを見て乗ってみたいと思ったんだよ」
「センス良いね」
そういってユミがニッコリわらっている。なんと言うか、その笑顔は眩しくてとても印象に残るものだった。タケルと俺が仲良くしているのを嬉しそうに見ている。
「じゃあこのまま都心部に進むぞ、タケルはバイクの後ろでいいのか?」
ヤマザキが俺の後ろに乗っているタケルに言った。
「は? 俺はここが良いんだよ!」
するとユミが言う。
「あら? 私の隣りより、ヒカルの後が良いんだ」
「ばーか、そういうんじゃねえよ。おりゃ単車に乗れるのがうれしいんだよ」
「そっか…よかったねタケル」
「まあな」
そしてヤマザキが俺に言った。
「都心部を抜けるのには都市部を走るより首都高に乗った方が良い、すぐそこにインターチェンジがあるから乗ろう」
「わかった」
そしてトラックとワゴン車は細くて曲がった道を登っていく。俺とタケルのバイクもその後ろから着いて行った。首都高に上がってみると、やはりそこにゾンビは居なかった。放置車両もそれほど多く無く、都市部を進むよりも効率がいいようだ。するとタケルが後ろから言う。
「人間が活動してた時は、昼間となりゃ首都高は混んだんだぜ。ゾンビの世界になって封鎖されたりいろいろあって、こんな状態になったんだ。今では好き好んで東京に来るやつなんかいねえだろ? だから貸し切りみたいになってんのさ」
「あの時、空港までそう時間がかからなかったからな」
「ああ。それなのに今回は東京に来るのに三日かかっちまった。念のため二泊もしたからな」
「都市部のゾンビの数を考えればそれでいいんだよ」
「確かに暗闇じゃ俺達が危なかったな」
「ああ」
「東京なんてよ、普通に暮らしてた頃は夜通し明るかったんだぜ。だけど今は灯りがねえからな」
「DVDで知った。本当に発達していたんだな」
首都高は壁がある為、外からは見えづらい。俺達が車で走っていてもゾンビは気づかないだろう。だが、ここから見えるビルにはゾンビの気配が数多くあった。
「しかし、ゾンビの数がひどい」
「まあな。東京にゃ腐るほど人がいたからな。ほとんどが逃げ遅れてゾンビになっちまった」
「さすがにこの数だと、ゾンビと生きた人間の見わけも難しくなってくる」
「やっぱそうか、ヒカルでもそんな感じか」
「少し時間がかかるな。集中する時間が必要になる」
「まあそりゃそうだ。ハンパない数だろうからよ」
「そうだな」
前世とは人間の数が違うのだろう。おびただしいゾンビの気配がする。
しばらくすると壁も低くなり周りも見えはじめた。高いビルがいくつもあり、このうちのどれかに拠点を作る事ができそうだ。その中でもとりわけ高い、とんがった塔が見えて来た。
「タケル、あの左に見えるひときわ高い塔はなんだ? 先がとがっているあれだ」
「ありゃスカイツリーだよ。日本一高い建物だ」
「あれを拠点にするのはどうだ?」
「うーん。居住空間としては厳しいな」
「そうか。それは却下だな」
「守りには良いかも知れねえけどなあ」
「拠点にはしばらく住む予定なんだ。だから皆が生活して疲弊しないところが良い」
「ならよ、高層ホテルがいいんじゃねえか?」
「なるほど。宿泊施設か、だがまず内部にいるゾンビが気になる」
「ああ、なるほどな。とにかく物件を探すしかねえか」
「それには皆を安全な所に」
「だな」
しばらく進んでいくとヤマザキのトラックがハザードを点滅させて止まった。ワゴンが後ろに止まり、俺がバイクをヤマザキのトラックの隣りにつける。
「ヒカル。このあたりからビルを物色しようと思うんだが」
「わかった」
「港区だからな、東京の中心も中心だ。ビルもより取りみどりだぞ」
すると俺の後ろに座っているタケルが言った。
「ヒカルとも話し合ったんだがよ! ホテルが良いんじゃねえかって」
「確かに、それが良さそうだな」
「だけど、ホテルだとゾンビがいるだろうってさ。だからいろいろみて見ねえとさ」
「わかった」
俺はゆっくりと周りを見渡す。だがどれを見ても同じで良く分からなかった。
「ならバイクで走りながらめぼしい所をさがす。俺達が先行するぞ」
「行ってくれ」
俺達のバイクが先行してビルを眺めていく。何処まで行ってもビルだらけで、ビルによってはゾンビが多く巣くっているのと居ないのがあるようだ。
「タケル! ビルによってゾンビいたりいなかったりするぞ!」
「どういうこった?」
「例えば、あのビルにはいる」
俺が指さすとタケルが言った。
「ありゃマンションだ。住んでるやつらがゾンビになっちまったんだろうよ」
「あの隣りの隣りのビルにはあまりいない」
「ありゃ恐らくオフィスビルだな」
「その先のビルにはいるぞ」
「ありゃホテルだよ」
そう言う事か、恐らくゾンビの拡大が始まったのは夜だったのだろう。夜に人がいる場所にゾンビが多いのは、そう言う事だ。俺は一旦バイクを止めた。ヤマザキ達のトラックが後ろに停まる。
「ヒカル! どうした?」
ヤマザキが俺に聞いて来る。
「流して見た結果だが、ホテルとマンションにはゾンビが多い。だがオフィスビルにはゾンビが少ないようだ。計画を言うぞ」
「どんな?」
「先にオフィスビルに拠点を構える。そこで皆が待機している間に俺がホテルを探す。そしてホテル内のゾンビを全て駆逐して、そのホテルに拠点を変える。どうだ?」
「確かにその方が安全だな」
「そうだ」
「なら決定だな」
そして俺が一つのビルを指さして言った。
「あのビルが比較的ゾンビが少ない」
「よし! ならそこに向かうか」
「ああ」
俺達の車列は首都高を降りた。すると高速の下にはぞろぞろとゾンビがいるようだ。俺達の車を見て手を上げて向かって来るが、進む速度の方が早いので追いつくはずも無かった。
「やっぱ、いるなあ」
タケルが言う。
「いよいよだ。とにかく目当てのビルに向かう」
「へいへい」
目当てのゾンビの気配が少ないビルに向かうと、ビルの前には適当な数のゾンビがいた。そこで皆を降ろすのは危険だと思った俺は、バイクを加速しバールを持ってゾンビの群れに走る。
「お、おいおい! あぶねえって」
「俺に任せておけ」
俺はバールに魔力を溜めていく。そしてゾンビが前に迫ってきた瞬間に、魔剣の剣技を発動させた。
「フレイムソード!」
ブゴォオ!
バイクに乗った俺のバールから大きな炎が上がり、俺がそれを振り切ると前方にいる五十メートル四方のゾンビが焼けて消滅した。
「うあっち!」
「悪い」
「いや…すげえよ。でもバールが溶けちまったな」
「あと三本ある」
「次はどうすんだ?」
「あそこにある大型バスを使う」
「使うって?」
俺は黙ってバスに向かってバイクを走らせる。
「推撃!」
ズドォゴ!
バスは大きく後ろに吹き飛び、多くのゾンビをすりつぶしながら滑っていく。それでゾンビ達を追いやる事は出来た。俺はバイクをUターンさせて、ヤマザキのトラックの脇を走った。
「あのビルの入り口付近にトラックをつけろ! 二階の窓から侵入する!」
「了解! 古着屋の時と同じ要領だな!」
「そうだ!」
そしてヤマザキのトラックはビルの手前に止まった。そして俺はすぐさまワゴンに向かい、女達に次の指示を出すのだった。
「いいか! 車は一度捨てる! すぐにワゴンの屋根伝いにトラックの屋根にのるんだ! ぼやぼや出来ないぞ!」
女達は青い顔をして頷いた。すぐさまワゴンをトラックの脇に止めて、女達がトラックの天井に乗っていく。俺はバイクを降りて周囲を警戒し、その間にトラックの運転席からヤマザキとユミも天井に上がっていく。
「よし! タケル! 俺達も行くぞ!」
「よっしゃ」
俺はタケルを掴んでトラックの上に飛び乗った。
「まっててくれ!」
トラックの天井から見上げた場所にある窓に飛びついた。壁に張り付きながらガラスに向かって剣技を繰り出す。
「円斬!」
ビルの窓を一メートルほど丸くくりぬく。そして下に向かって叫んだ。
「ひとりひとりだ! 俺が連れて行く!」
すぐにトラックの天井に戻った俺は、最初にタケルを掴んでビルに飛んだ。穴を潜って中に入るタケルにバールを預ける。
「まだ内部のゾンビは気づいていない! 俺は周りがフレイムソードの炎で守られているうちに、女達を連れてくるから警戒していてくれ!」
「了解だ!」
そして次にミオを連れて行く。
「つかまれ!」
「うん!」
それから俺は一人一人女達をビルの窓から中に入れていく。最後にヤマザキを連れて窓に飛び移って言った。
「入れ!」
「わかった!」
すると中から悲鳴が聞こえてくる。
「きゃぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁぁ」
「来るな! 来るな!」
俺が急いでビルの中に入ると、タケルがバールで二体のゾンビと戦っていた。俺はすぐさま縮地でタケルの元へと飛び、二体のゾンビの頭を吹き飛ばした。
「すまん! 遅くなった!」
「問題ねえよ!」
「この階にはあと二体! ここで待っていろ!」
「おっけ」
そして俺は速やかにビルの内部に進み、二体のゾンビを処分するのだった。上階にはそれほどゾンビはいないようだが、全く居ない訳ではない。俺はすぐに皆の元へと戻る。
「ここから上に向かう! 一階づつ進むから心してついて来てくれ」
皆が返事をして、俺を先頭にビルの奥へと進んでいくのだった。
やっぱ東京はゾンビが多!




