第568話 アメリカに広がっていくゾンビの脅威
米軍基地までもう少しというところで、俺達は車を止めた。ヘリコプターや飛行機が飛ぶ、轟音が響いたからだ。俺達は車を降りて、空を見上げている。飛んでいくヘリコプターを見て、クキが言った。
「ずいぶんと騒がしいな」
オオモリがずっと情報をとろうとしているが、インターネットも制限がかかってるらしく、未だに他の地域の状況が入って来ない。
そこでオリバーが言う。
「これは……思ったより深刻な状況のようだ」
「どうやら、そのようだな」
そこで、タケルがオリバーに聞く。
「こりゃ、どうなってると思う?」
「おそらく……ラスベガスや、シアトルだけじゃないって事だよ」
「マジかよ」
画面を見つめながら、オオモリが悔しそうにする。
「くっそ、情報がとれないから分らない」
だいぶカリカリして、頭を掻きむしっていた。オリバーが静かに言った。
「テレビもネットも通じない、国中で何かが起きているんだろう。これは……戒厳令だ」
クキが大きく頷く。
「間違いないだろう。基地も警戒態勢に入っている」
「だが、ニューヨークまで、陸路じゃ二日はかかる」
「仕方ないんじゃないか? オリバーさん」
「私の予想だが、もう一刻の猶予も無い気がするんだよ」
「なら、やはり。アメリカ軍を頼るか」
「この状況じゃ、厳しいかもしれん」
「いや、この状況だからこそ、稼働している航空機を盗める」
「そうなのか?」
「ああ」
話がついて、皆が車に乗り込んでいく。軍隊は恐らく、総動員で動いているだろうと言う予想だった。それだけに、直ぐに動ける航空機が押さえられると踏んだのだ。
そして俺達は、途中で車を乗り捨てる。オリバーとルーサーの息子を背負って走った。
「エドワーズ空軍基地に行くぞ」
「まだ距離があるぞ」
「ああオリバーさん。軍隊が警戒して周辺に居たら、捕まっちまう」
「なるほど」
そして俺達は道なき道を歩き、フェンスに向かって歩いて行く。空軍基地では次々に航空機が飛んでいき、そして着陸しているようだった。
「あれは……救出者じゃないか?」
ヘリコプターからぞろぞろと、一般人が下ろされていた。
「好都合だ」
俺とクキの会話を聞いて、オリバーが尋ねて来る。
「何が好都合なんだ?」
「あそこに、我々が紛れてもおかしくはない」
「なるほど」
そして俺達はフェンスの側に腹ばいになり、じっと基地の中を見ていた。やはり次々に市民が運び込まれているが、それが非常に危険な事が分かる。それを見て俺が、みんなに言った。
「マズいぞ」
「どうした?」
「発症しそうな奴がいる」
「急ぐしかあるまい」
「米軍の意識を逸らす」
俺は基地の向こう側、フェンスの外の荒野に向けて剣を構える。
「俺の技が炸裂したら、兵士が動くだろう」
「了解だ」
「剛龍爆雷斬!」
俺の剣から小さな火の玉が飛んでいき、基地を飛び越えて向こう側に着弾する。
ドゴォォオ!
大きな爆発が起きて、兵士達が騒然となり、市民達が慌てて逃げ始めた。だがその時、俺が確認している奴がゾンビに変わるのが分かった。
「先に行くぞ!」
フェンスを斬り捨てて、俺は一気に市民達が騒然としている場所へと走る。
「刺突閃! ゾンビ破壊薬を!」
「はい!」
人ごみに紛れ、それぞれが周辺に向かってゾンビ破壊薬の小瓶を投げ捨てた。その事で苦しんでいたゾンビが動かなくなり、数人がその場にへたり込む。
そしてクキが言った。
「あの、チヌークを奪取する」
指さす先には、二枚のプロペラが付いた大きなヘリがある。今、飛び立とうとしていたところのようだが、剛龍爆雷斬の影響で飛ぶのを見合わせているようだ。
「俺が内部の数名を制圧する」
そう言って、後部の開いたハッチから飛び込むと、中では軍人たちが待機していた。
「思考加速」
そして俺は次の瞬間、そこに座っていた奴らの意識を刈り取る。そのまま前方に行くと、操縦席に二人座っていたので、そいつらの意識も刈り取って後ろに運んだ。
「ピィ!」
口笛を吹くと、仲間達が一斉に乗り込んで来る。倒れている軍人を見て、オリバーが聞いて来る。
「殺したのかね? ラッキーボーイ」
「眠っているだけだ」
するとクキが言う。
「軍服を拝借しよう」
軍人を下着姿にして、俺とタケルとクキが、せっせと外に運び出した。
そして俺がミオに言う。
「破壊薬を何本かくれ」
「はい」
俺はそれを受け取ると、基地の方角に散らばるように投げ込んだ。これで多少は抑制できるだろう。
「行くぞ!」
するとオリバーの側近のボディガードが言う。
「俺もヘリを操縦できるぞ!」
それを聞いてクキが頷いた。
「なら俺と一緒に頼む」
「ああ」
後部ハッチを開いたまま、大型のヘリコプターが浮上した。オリバーが、心配そうに言って来る。
「だが、盗んだら撃墜されるのではないだろうか?」
すると俺が答える前に、タケルが笑って言う。
「ヒカルが乗ってる航空機を、撃墜できるわけがない」
「どういうことだ?」
「相手の攻撃が来れば分かるさ」
だがそこで、オオモリが首を振る。
「そもそも、この状況で、米軍にそんな余裕があるとは思えませんよ」
「うん?」
「操縦席の通信を聞いてください」
皆が静かに聞き耳を立てると、慌ただしい声が飛び込んで来る。それは通信機の向こう側から聞こえているようだった。
「そちら生存者は?」
「ビルの上に逃げている人らを救出する」
「気を付けろ! 何機ものヘリが堕ちている」
「了解だ」
それを聞いてオリバーが言う。
「なるほど、軍用回線は生きているという訳か。やはり大変な事になっているな」
「そうみたいだ」
空を飛び始めて、ラスベガスの上空に差し掛かるが、次々にヘリコプターが飛び去っていくようだ。
気配感知でも、ゾンビは殆どおらず、本格的な生存者の救出に入っているらしい。
「気配感知では、ラスベガスにはゾンビは殆どいないようだぞ」
「んじゃ、さっきの回線は、シアトルか?」
「だろうな」
「こりゃ、いよいよだな。まるで、日本のあの時みてえだ」
するとオリバーが興味深そうに聞いて来た。
「こういう状態だったのか? ジャパンは」
「そうだ。状況からして、その始まりに似てるかもしれねえ」
「問題だな……」
「急ぐしかねえだろうな」
「ニューヨークはどうなっているのか?」
「行かねえと分らねえだろう」
するとクキが、機内のスピーカーから話してくる。
「これは、八百キロくらいしか飛ばない。燃料はあるが、それほど航続距離は無い」
するとオリバーは前の方に行き、操縦席に告げる。
「ワイオミング州に米軍の基地がある。そこで同じように出来るかね?」
「やってみよう」
それから一時間と少しの間飛んでいると、先に煙が上がっているのが見えた。
「なんだありゃ?」
クキが言う。するとオリバーが答えた。
「空軍基地だ……」
「なんてこった」
そして俺達のヘリコプターが上空に来て下を見れば、ゾンビがうようよと歩いているのが見えた。どうやら、救出者の中から発生したゾンビが、蔓延してしまったようだ。
「くっそヤベエ」
「クキ! ハッチを開けろ!」
グーっと、後部のハッチが開いたので、俺はそのまま走ってそこから飛び降りる。
ズン! と地上に落ちると、米軍基地のあちこちにゾンビが蔓延っていた。
「飛空円斬」
視界に入っているゾンビが全て斬れおちる。そして基地の建屋上空に来た俺達のヘリコプターから、ゾンビ破壊薬がポロポロと落とされた。
そのままチヌークヘリコプターが着陸し、ハッチからみんなが飛び出してくる。
そしてクキが言った。
「とにかく急ごう! 飛べそうな航空機を探す!」
そして俺達が周辺を走った。ゾンビが倒れているが、やはり救出に待機しているヘリコプターはある。俺達はまた新たに、ヘリコプターを奪取して飛ぶ。
だが……なんと次の基地でも、火の手が上がっていたのである。
するとオリバーが言う。
「アイオワでもか……という事は、東海岸も……」
「ニューヨークは大丈夫なんだろうか?」
「わからん」
そこでクキが言った。
「信じたくはないが、どうやら全土に渡っている可能性が高いな」
「くそ!」
タケルがドンと、床を叩く。
「壊すなよ」
「加減してるさ」
アメリカの深刻な様子に、ルーサーの子供がぽつりと言う。
「パパ……どこにいったんだろ」
それにタケルが答えた。
「いや、お前のパパは問題ないよ」
「そうなの?」
「……そうだ」
「そうか……」
ゾンビは試験体を襲う事はない。だが、米軍には攻撃対象にされるだろう。どうにか切り抜けてくれることを祈るしかなかった。




