第567話 限りなく成功確率の低い作戦
俺達は無事に、ロサンゼルスを抜け出す事に成功した。その車中で、オリバーがある提案をして来る。
「このまま一緒に行動しても、クレイトン家の力が使えん。敵が強大なのは分かったが、それでもこちら側についている人間は必ずいる。それに、子供も一緒では足手まといになるだろう。どこかで我々を降ろし、こちらも何らかの手を打つ必要があるのではなかろうか」
確かにオリバーのいう通りではあった。だが、オリバー達の持っているスマートフォンは、追跡の可能性を考えて捨ててきた。
「どうやって連絡を取るつもりだ?」
「どうにでもなる。それよりも、あんた達が気にしてるのは、マーガレット・ブラッドリーなんだろう」
「そうだ。もっといるがな」
「ふむ。医薬食品安全省のガブリエル・ソロモンと、ファーマー社のモーガン・ウイリアム」
オリバーに付け加えて、オオモリも言う。
「あとはGODの開発者。テッド・グローバーです」
その名前は、GOD社のサーバールームから奪取した情報にあった。どうやら、ナノマシンの開発責任者らしい。
「そんな大物ばかり、どうするつもりなんだい?」
クキがさらりと答える。
「攫うのさ」
「さらうなら、居場所を特定しないといけない。どうするつもりだね」
「まあ、そうだな」
「クレイトンのネットワークを使うのはどうだい?」
「裏切りは出ないか?」
「保証は出来ん。敵が何処に入り込んでいるのか分からん」
俺がオリバーに聞く。
「その時は、オリバーが殺されるんじゃないか?」
「もちろんそうなるだろうね、ラッキーボーイ。だが、隠れてばかりもいられないさ」
「安全を確かめた方がいいだろう」
「いやいや、そんな悠長なことを言っている時間はないのでは?」
その通りだった。状況は一刻を争う。もたもたしている暇はなかった。
「そこで、クキが言う」
「どうするよ。みんな」
そこで、タケルが言った。
「多数決で決めるしかねえよな。降ろすか一緒に行くか」
「よし。決めよう」
だが……その結果は、丁度半分ずつになった。
六対六。
クキ、シャーリーン、アビゲイル、エイブラハム、オオモリ、クロサキ。
それに対して、
タケル、ミオ、ミナミ、ツバサ、マナ、俺。
見事に、途中で参加した組と、最初から一緒に日本で生き抜いてきた組に分かれる。確実に冷静に判断している組と、感情的な判断をしている組だ。
「困ったな」
オリバーが頭をかいた。そして俺に向かって言った。
「ラッキーボーイたちが、私の身の安全を心配してくれているのは分かる。だが、これはアメリカという国が存続するか否かの瀬戸際なんだ。私は何としてでも、アメリカを生き延びさせたいのだよ」
「だが、死ぬかもしれんのだ」
「しかし、時間との勝負」
そこで、タケルが言った。
「んじゃあよ。仕方ねえから、オリバーさんに俺達がついて行くしかねえんじゃねえか」
それにはオリバーが答える。
「いや、私が狙われているんだ。あんたらも巻き込んでしまう」
「んなもん、いまさらだろ。俺達だってわかってんだよ、クレイトン家の力が無いとかなり厳しい事くらい」
「ミスター武……」
「でもよ、一宿一飯の恩義。あんたにゃあ死んでほしくねえんだよな」
「だが、いま私が命をかけずしていつかける?」
「だよなあ……気持ちは痛いほど分かる」
するとタケルが俺に向く。
「ヒカルが決めてくれ。それなら、俺たち全員が従う」
そこで俺は、オリバーに聞いた。
「どうやって、敵の情報を調べるつもりだ?」
するとオリバーはしばらく黙って、ぽつりと言った。
「なんとか、大統領に会うしかなかろうな」
それを聞いてみんなが目を見開く。
「「「大統領!!」」」
「ああ」
クキが驚いて聞き返す。
「会いたいと言って、簡単にあえる相手ではないだろう?」
「いや。私の父の力を借りよう」
俺達は顔を見合わせる。
「オリバーの父親なら、会えるのか?」
「大統領とは古い知人なはずだよ」
「なるほど」
そして俺達は話し合った。そしてほどなくまとまる。
「なら、オリバーのいう通りにしてみようか」
「本当かね!?」
するとタケルが、面白そうに言った。
「だって、あんたが死んだら、大統領に会うチャンスを逃してしまうだろ?」
「ふむ」
そしてシャーリーンが言う。
「あなたのお父様は、どちらにいらっしゃるのですか?」
「全くの反対側。ニューヨークの一等地に住んでるよ」
「ニューヨーク……」
話し合った結果、俺達はニューヨークへ行く事にする。
「ならば、急がねばなるまい。どこかで、飛行機に乗った方がいい」
「だが、それだと足がつく」
「すまんが、ここからは賭けだ。空軍基地へ向かってほしい」
「敵か味方か分からんのだろう?」
するとオリバーが笑って言う。
「ラッキーボーイは、米軍とも戦えるのだろう? その時は、向こうの勢力ごと潰してくれ」
「なんだと」
「それならばいいだろう?」
「……わかった」
「大きな賭けだが、よろしく頼む!」
そして俺達は一路、アメリカ空軍基地を目指す事になった。マーガレット・ブラッドリーはアメリカ国防長官である。アメリカ軍に接触するとなると、敵に情報が入る可能性があった。
そこで、俺がクキに言う。
「ならば、米軍の飛行機を盗もう」
「了解だ。大将」
「あーっ! ははあはは! アメリカ軍の飛行機を盗むか! そりゃ面白い」
だが、そこでルーサーの息子が聞いて来る。
「でも、僕のパパはどこに帰ってくるの?」
それにはタケルが答えた。
「ベガスを救った英雄様だ。恐らくは、生き延びるだろうさ。アメリカを助けたら、お前のパパを迎えに行こうぜ」
「ほんと?」
「嘘は言わねえ」
「わかった」
もちろんルーサーが、まだ生きているかもわからない。だがタケルは本気で言っていた。それもアメリカという国が存在してこそ。
「不確定要素だらけだが、俺達ならなんとかできる! だよな! ヒカル」
「そのとおりだ。最善を尽くすよう頑張ろう!」
「「「「おー!」」」」
その光景を見て、ルーサーの息子も笑っている。今こうしている間にも、アメリカがむしばまれている。俺達は、限りなく成功確率の低い作戦を始めようとしているのだった。




