第566話 ファーマ―社の駐屯地に一撃離脱
夜の丘陵地帯を歩きながら、オリバーが俺達に謝っていた。自分達のせいで、俺達の使命が失敗する可能性があったと思っているようだ。だが俺は、それに対して首を横に振る。
「オリバーの協力無くして、ラスベガスは救えなかった」
するとタケルの背中におぶさっている、ルーサーの息子が言う。
「パパが助けたんだよ」
「ああ、そうだな」
「だが、シアトルがまだ。カナダにも広がった」
「その前に、ファーマー社を駆逐する必要がある」
「ああ、ラッキーボーイ。どうやらそのようだね」
しかしながら、この先にあるファーマー社の拠点を潰したところで、終わる事はないだろう。エンハンサーXの拡散により、第二第三の適合者が見つかっていくはずだ。いや、それだけではない。ファーマー社がゾンビパンデミックを起こしているのは、それによって適合者を探し出している可能性があるということだった。
それに気が付いたのは、研究していたアビゲイルとオオモリだ。ナノマシンには、試験体因子を保護する機能が備わっていて、感染後も自我をもたせられる可能性があるのだという。
「適合者を探す理由はなんなのだろうか?」
オリバーが言うが、俺達にもそれは分からなった。むしろ、なぜこれをやっているのかを、俺達は知りたいがために、ファーマー社の拠点に向かっている。
オオモリが言う。
「この丘陵を越えた先に、奴らの拠点があります」
そしてクキが皆に伝える。
「よし。ここからはより警戒を強めていく。とにかくヒカルとツバサの指示を聞け」
俺の感知か、ツバサの音を聞き分けるスキル。それによって、ドローンの存在を先に知る事が出来る。それに見つからないように進む必要性があった。
ロサンゼルスの各所に、ゾンビ破壊薬を撒いたものの、それを上回る試験体が大量に現れたら危険な状態になるだろう。その前に、何とかファーマー社を叩いて止めたかった。
そして丘に登り終えて見下ろした時、俺達の視界にテント群や車が置かれている場所が見えた。
「ありました」
暗視ゴーグルを覗きながら、オオモリがみんなに伝える。
「よし。俺とオオモリ、マナとミナミ、クロサキが情報をとってくる。残りはここから監視して、異常を捉えたら連絡をしてほしい」
「了解だ」
「クキ。タケル。みんなを守ってくれ」
二人が頷く。そしてツバサとミオが、マナとミナミに言う。
「気を付けて。変な気配がするわ」
「むしろ、ヒカルとの潜伏だから問題ないわ」
「うん」
そして俺達は二手に分かれ、丘陵を静かに下っていく。どうやらドローンの監視は無く、俺達は夜の暗闇の中を、拠点の側まで近づく事が出来た。
「なるほど。ゾンビ化兵と人間の兵士がいるようだ」
「うわ。ゾンビ化兵がいるんですね」
「安心しろオオモリ。問題はない。それよりも、ここで情報がとれると思うか?」
「わかりません。なにか手がかりがとれると良いんですけど」
「ここにいる奴らを全滅させて、敵の情報を入手出来るまでどのくらいだ?」
「十分ってところですね。そのうちに、援軍が来てここに攻撃を仕掛けてくると思います」
「自爆の可能性は?」
「それも、あります。ですが、いつもの基地と違って爆弾は見つけやすいかと」
「わかった。爆発しそうなら、それも抑える」
皆が俺を見ている。
「行くぞ!」
俺達は静かに、敵の拠点のそばに張り付く。手で動きを示し、俺はその場で皆に待つように言った。
「思考加速。最身体強化。最脚力向上。金剛。結界。認識阻害。隠形」
そしてそれから三十秒の間に、その拠点に居た人間とゾンビ化兵を抹殺する。直ぐにオオモリとマナを読んで、ミナミにスマートフォンをチェックさせた。俺は周辺を警戒しつつ、二人が情報を入手するのを待った。そして数分後、俺はオオモリに呼ばれた。そこには機械が並べられている。
「これを全部持って行きたいんです。既に通信網に対しては、僕のAIウイルスを入れました。GOD社のAIに負けないように、バージョンを変えましたが、どこまで通用するか」
「上出来だ」
「撤退しましょう」
そして俺達はすぐさま、ファーマー社の拠点を去る。しばらく離れたところで、俺が皆に先に行けと言った。皆が頷いて、俺をその場に残し先に行く。
「剛龍爆雷斬」
俺の剣先から火の玉が飛び、テント村に落ちると大爆発を起こした。爆撃された偽装をしておこうと、クキに言われたとおりの事をしたのだ。
皆と合流し、俺達は丘陵を下り始める。森の中に入って進んでいくと、沼地が現れてそのほとりに、木でつくられた建物が見えてきた。
「コテージだ」
俺が気配感知をしても、そこに人の気配はしなかった。
「人はいない」
するとオリバーが言う。
「恐らくは別荘だろう」
「ちょっと、場所を借りよう」
そして俺達は、その無人のコテージに入り込み、持ってきた端末を並べてみる。
「データが詰まってると思います。ベルリンで見た、ファーマー社が持っていたのと同じものです」
「で、どうするね?」
するとシャーリーンが背負っているものを降ろした。
「衛星通信が繋がります」
「直ぐにやりましょう」
そこに端末を並べて行き、オオモリとマナが繋げていった。
「ひとまず情報をバックアップするために、違う場所に送ります」
「わかった」
「量も多いので、三十分くらいかかるかもしれません」
「急ごう」
そして通信を開始した。
「ちょっとあたりを見て来るわ」
ミオとツバサとミナミが、コテージを出て行く。恐らくあの拠点を爆破した事により、米軍かファーマー社が動くだろうと言う事だ。そして、すぐにヘリコプターの音が聞こえてきた。どちらのものかは分からないが、じきにこの周辺にも敵がやってくるかもしれない。
「通信終わりました」
「よし。直ぐに場所を移そう」
「ヒカルさん。武さん。奪取して来た端末を粉々にして、湖に捨ててもらえますか?」
「わかった」
「りょーかい」
俺とタケルが端末を破壊し、全て湖に投げ捨てる。追跡の恐れもあるらしく、俺達を追跡できないようにしたのだ。
コテージを出たところで、シャーリーンが言う。
「通信のついでに、車を用意させました。直ぐに来ます」
それを聞いて、オリバーが俺達に聞いて来る。
「仲間は、君らだけじゃないのかね?」
「ああ、世界に仲間がいるんだ」
「そうか。なら、ラッキーボーイにお願いがあるのだが」
「なんだ?」
「恐らく、敵側についているやつらの検討がついた」
「なんだと?」
「君らから見せてもらった情報と、クレイトンの情報を調査してわかったんだが」
「なんという、機関だ?」
「グローバル・プロトコル維持機構。通称GPPAという機関だ」
「それはどういう機関だ?」
「国務長官直轄の、秘密組織だよ」
それを聞いて俺達がざわめく。
「国務長官?」
「ああ」
「マーガレット・ブラッドリー」
繋がった。俺達が、怪しいと睨んでいた名前がここにきて浮かび上がる。麻薬カルテルと、国務長官、巨大薬品会社、巨大IT企業がそろい踏みして来た。それから俺達は丘陵地帯を下りて行き、シャーリーンが準備してくれた車に乗って、その場を後にするのだった。




