第565話 内部の裏切者
臭い下水道をしばらく歩きながら、隣りにいるオオモリが現在位置をスマートフォンで確認している。しかしながら、かなりの距離を歩いたので、年老いたオリバーに疲労の色が見え始めた。ボディーガード達は、鍛えているのでオリバーほどでは無かったが、一部の者達は、動揺しているようにも見える。
「疲れたか?」
「し、しんどいな」
「そうか」
「私より年上であろうエイブラハムさんですら、なぜそんなに元気に歩き続けられるんだ?」
すると、ミオがオリバーに説明した。
「彼と一緒にいるとそうなるんです」
端的な説明だった。だがオリバーは、俺を見て深く頷く。
「ラッキーボーイといるとか……まあ、そうなんだろうねえ」
「はい」
だがその時、俺の気配感知が何かを察知した。
「下水道に何かが入り込んだようだ」
そう言うと、皆が俺を見るので重ねて言う。
「撃退して来る」
それにクキが答えた。
「いや、ヒカル。こちらの位置を知らせるようなもんだ」
オオモリも頷く。
「このまま進むのは得策じゃないですね。近くの入り口を探して地表に出ましょう」
皆が出口を探していると、ツバサが小さな声で言う。
「あったわ」
そこにはハシゴがあり、地上に登っていけるようだった。クキが先にハシゴに手をかける。
「先に外を確認してくる」
クキがスルスルと登って行き、マンホールを開けて外を見た。そのままマンホールから外に出て、手招きをする。タケルがオリバー達に言う。
「さあ、早く上がってくれ」
「わかった」
一人一人ハシゴに手をかけて、列になって外に出て行った。タケルが俺に聞いて来る。
「敵さんは、近づいているか?」
「真っすぐにではない。だが、明らかにこちらを追ってきているようだ」
「鼻が利く奴なんだろうか?」
「わからん」
タケルに続いて、俺が地上に出た時、異変が起きていた。何故か、ボディーガードの一人が、オリバーを羽交い絞めにして、こめかみに銃を突き付けていたのだ。
「なっ!」
タケルが声を上げようとするが、俺はそれを手で制する。オリバーが、申し訳なさそうに言った。
「すまん」
だが俺達ではなく、オリバーの側近のボディーガードが、オリバーを抑え込んでいる奴に言う。
「やめろ。何をしているんだ!」
すると、他の全員がオリバーの後ろにスルスルと動いた。そして全員が銃をこちらに向ける。どうやら、側近以外は全て寝返ってしまったようだ。
「な、おまえら」
「おいおい。流石に解らねえか? 国を相手にしているようなもんだ。もう無理だろ」
「馬鹿野郎。この人達が我々を逃してくれると言っているんだぞ」
「リーダー。あんた本当に馬鹿になっちまったのか? 軍隊を相手に出来る人間なんている訳ねえだろ。完全に洗脳されちまってんだよ! あんたもオリバーも」
「だが、強いのは本当だっただろう!」
「にしたって、軍隊に勝てるわけがない!」
なるほど、こいつらは半信半疑で付いて来ていたというわけか。俺がピクリと動こうとした時、オリバーが裏切ったボディーガード達に言う。
「それで、お前達は、どうするつもりだ? もう戻れんぞ」
「あんたを、ファーマー社に差し出して寝返る条件にさせてもらうさ」
「くくっ。あーっはははは。極限は、こうも人間を愚かにするものかね」
「黙れ!」
「大穴に賭けてこそ人生だろうに」
「黙れと言っている! これはギャンプルじゃない! 生死をかけた戦いだ!」
「笑えるねえ。流れすら読めんとは」
「流れ? あきらかに、あんたとこんな東洋人たちについていったら破産だろ」
そこで俺が、オリバーに言う。
「俺はあんたを逃がすと約束した。それは遂行していいか?」
オリバーが答えずに、羽交い絞めにしているボディーガードが言う。
「おいおい。変な真似をしたら、コイツを殺す。お前らも丸腰だろう」
「どうだ? オリバー」
「やってくれ」
既に思考加速と身体強化をかけている俺は、次の瞬間、全ボディガードを周り元の位置に戻る。こいつらには何が起きたか分かるまい。
「で、どうやってオリバーを殺す?」
だが誰の手にも、銃など握られてはいなかった。そして俺はそいつらに向かって言う。
「これか?」
銃を両手に抱えて、ボディーガード達に見せた。オリバーも既に、俺の後ろにいる。
「な、なんでわしはここに?」
だが状況を一瞬で悟った、側近のボディガードがそいつらに銃を向けて言う。
「形勢逆転だな?」
「な、なななな!」
裏切ったボディガード達は慌てて、動こうとするが、側近が、足元に向けて銃を撃った。
プシュッ! という音なのは、サイレンサーをつけているからだ。
「動くな。次は頭を狙う。俺の銃の腕は知っているよな」
すると全員が手を上げた。オリバーが俺の前に出て、そのボディーガード達に言う。
「こうもあっさり賭けが終わるとは。まるで、ラッキーボーイとカジノでもやってるようだ」
そこでクキが言う。
「ワザと生かしてるって分かるな」
裏切ったボディーガード達が、ゴクリと喉を鳴らした。
「ど、どうするつもりだ?」
クキが先頭に立っている奴に近づき言う。
「お前が内通者か?」
「違う」
「もし、俺達がオリバーさんに同行しなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「……」
そこでオリバーが高笑いする。
「ははは! そうか、私を殺すつもりだったか。ファーマー社への土産として」
「くそ!」
「で、どうする? 君らは、ラッキーボーイに命を握られているという訳だ」
すると他の奴が言う。
「逃がしてくれ。もう、あんたらには関わらない。もちろん、このまま消えるつもりだ」
「お、俺もだ」
「そうだ! 誰にも言わない」
オリバーが腕組みをして考える。だが答えは、オリバーの側近からだった。
「この業界で裏切りは、ご法度だ。俺はオリバー・クレイトンに恩義がある。その命を、危険にさらす奴らを生かしてはおかん。悪いが、オリバー様、ここは私に任せてほしい。あんたの大事な、友人たちの手を汚す事もしない」
パスッ! パスッ! パスッ! パスッ!
眉間に穴の開いた死体が四つ転がった。森の中を走る街道で、道路の上に死体が転がっている状態だ。
「死体を隠そう」
俺が四人の死体を、ぽんぽんと森林の木の上に投げてひっかけていく。
「凄い力だ」
側近のボディガードがあっけに取られている。
「あんたは、裏切らなかったんだな」
「オリバーさんは、俺の人生の恩人だからな」
「そうか」
だがそこで、クキが言う。
「さあ、もたもたしていられない。この番狂わせで、オリバーさんの護衛が一人になっちまった。悪いが、一緒に来てもらった方がいいかもしれない」
「確かにそうだね」
「二人を信じていない訳ではないが、スマートフォンを出してくれ」
俺が手を出すと、二人がスマートフォンを出した。
「ヒカル。潰してくれ」
俺は二つのスマートフォンを、握りつぶして粉々にする。
「すまんね」
そしてオリバーが言った。
「それで、何処に?」
「ファーマー社を急襲する」
「どこにいるか分かるのかね?」
するとオオモリがにやりと笑って言った。
「通信のハックに成功しました。現在の奴らの拠点をキャッチしてます」
オリバーとボディガードは唖然としている。そしてぽつりと言った。
「ミスター大森。君は……何者なんだね? 恐ろしい技術を持っているようだが」
「あー、えーっと。普通のプログラマーです」
「そんなばかな」
「本当です。ヒカルさん達と旅してたら、こんな風になっちゃいました」
「全く面白い人達だ。せいぜい邪魔をしないようにするよ」
それにタケルが答える。
「あんたらは、俺達が守るさ。ファーマー社と法律で戦ってきたあんたが居なくなるのは、俺達としても都合が悪りいからよ」
「ふふ。つくづく私はついている。私に賭けた、この男も」
ボディーガードを見た。だが、側近は無表情で答える。
「すみません。部下を管理できていなくて」
「しかたあるまい」
そして俺達は動き出す。街道沿いを進めば目立つので、雑木林を山の方に向かって登っていく。オオモリが敵の場所を示し、俺達はその拠点に直線で歩き始めるのだった。




