第564話 ロックダウンのロサンゼルスから脱出
俺達の話合いで決まった事は、オリバー達がロサンゼルスから脱出するならばそれの手助けをする事。だが、恐らくファーマー社の狙いは、ロックダウンで封鎖された町を、オリバーが派手に動き出すのを待っているだろうと言う事だった。
そこで、オリバーにその事を聞いてみる事にしたのだ。クキが静かに尋ねる。
「恐らくあまり時間が無いだろう。脱出を希望するか?」
だが逆に、オリバーがこちらに聞いて来た。
「君らは、どうするつもりかね?」
「ファーマー社に対する反撃、それとこれ以上のパンデミックの抑制だ」
「そんな事が可能なのだろうか?」
「わからない。今は西海岸の一帯と、カナダの一部だ。もちろん、それが全土に広まる可能性はある」
「アメリカ軍や警察組織と君らとの、共同作戦はどうだろうか?」
「ファーマー社が潜り込んでいる可能性の高い組織と、作戦を共にするつもりはない」
「……確かに……そうかもしれんが、全部ではないはずだ」
そしてシャーリーンがオリバーに尋ねる。
「オリバーさんとしては、何処の組織がやったと思っていますか?」
「それは……すまんが分らん」
「だとすれば、やはりミスター九鬼の言うように、共同作戦はできません」
「こちらが集めた信用に足る者たちであれば、どうにかならないかね?」
しかしそれには、クキが首を大きく横に振る。
「オリバーさん。あんたは何も分ってない。ファーマー社もGOD社も、もちろん危険ではある。だが、あんたの目の前にいる、その金髪の優男。信じられかもしれんが、アメリカ軍に匹敵するか、それ以上。いや、世界が束になってかかっても、どうしようもないほどの存在なんだ」
「は? 何を言ってるんだね? 流石にラッキーボーイが強かったとしても、一人の人間が、そこまでのはずがない。世界の軍が束になって敵わないなど、スー〇ーマンじゃないか」
「スーパーマン? あんな弱いヒーローと一緒にしない方がいい。そこの大将を、もし敵に回したとしたならば、それはそれで世界が滅ぶんだよ。もちろん、大将はそんな事しないがな」
「そんな馬鹿な……」
オリバーもボディーガードも、俺を信じられないものを見る目つきで見る。
そしてボディーガードも、苦笑しながら言った。
「この、高級ブランドのスーツの優男が……世界に匹敵? あんた、それはいくらなんでもないだろう。まるで、核弾頭にすら勝てると言わんばかりじゃないか」
だがこちらの仲間達は、誰一人として笑う者はいなかった。するとそこで、エイブラハムが声を出す。
「ほら。やっぱり信じられんじゃろ、九鬼君。ワシだって、この目で戦いを見るまでは、信じられんかったからのう」
「もとより、信じてもらえるとは思ってませんよドクター」
またそこで、オリバーが言う。
「ならば、尚更のこと共同でやれば」
しかし今度はミオが言う。
「アメリカ軍や警察……、いや、アメリカはヒカルを野放しにしてくださいますか?」
「そ、それは……」
「アメリカだけに限りません。世界は、ヒカルをノーマークで居てくださいますかね?」
「無理かもしれん。だが、ラッキーボーイはどう思うんだね?」
「俺はどうとでもなる。世界が牙をむけば、ただ殺されるのを黙って待ってはいないだろう。だが、ここにいる仲間や日本にいる仲間に危害を加えるなら、容赦はしない。徹底的にやる」
俺は素直な気持ちを告げた。だが、なぜかその部屋の中が張り詰めた空気になってしまう。
オリバーは手をひらひらさせていった。
「スーパーヒーローだからって、博愛主義者。全ての人間を、愛するわけではないってことか」
「俺か? 俺は、好きな人は守るぞ。あと救える命ならば救うが?」
「あーははははは! わかった! ラッキーボーイと一緒にいるという事はそう言う事か!」
クキが苦笑しながら言う。
「分かってもらえたかい?」
「ラッキーボーイも普通の青年という事だな。映画の正義の味方像を考えすぎてたかもしれん。ただの青年が強大な力を持って、自分が守りたい者のために戦っている。そう言う事で間違いないという事だな」
「そう言う事だ」
俺も何を言われているのかは、よくわかった。だから捕捉するように言う。
「俺が世界を滅ぼしたくないのは、仲間達が悲しむからだ。みんなが世界を救いたい、ファーマー社を壊滅させたいと言うからやってる。だが俺が今戦っているのは、俺の意思によるものだ」
「いいねえ。青春だねえ。終わりが始まりそうな世界でも、夢を見て戦っている訳だな」
「そうだ」
「良く分かった。ラッキーボーイの存在は抑止力になりそうだが、信じる人間など居るはずもない。軍隊と匹敵する個人など、信じる方がおかしいだろう」
クキが頷いた
「分かってくれたか。もし、アメリカ軍がヒカルとぶつかったら、アメリカは世界一、軍事力の無い国になってしまうだろう。確実に軍事バランスは崩壊する」
「まあ、言葉ではわかった。心が信じてはいないが、そうなのだろう」
「まあ、無理もない。それを踏まえたうえで、どうするかを聞きたい。ロサンゼルスを脱出するならば、俺達がそこまでは護衛をしようと思っている」
「気遣いありがとう。だが、それには及ばんよ。私らだけなら、脱出する算段はついている」
するとそこに、他のボディーガードが入ってきて言う。
「オリバー様。薬品工場が火災です」
「いよいよか」
「はい」
「ミスター九鬼の忠告通り、皆を逃がしておいてよかった」
だが、そこでクキが言う。
「それより敵の動きが早い」
俺は、そこでみんなとオリバーに言った。
「そのようだ。既にここに向けて気配が近づいてきている」
「も、もうかね」
「誤算か?」
「流石に、ここがバレるとは思わなかった」
「ならば、予定変更だ。ロサンゼルスを脱出するまで露払いをしてやる」
俺が言うと、ボディーガードがオリバーに言う。
「恐らくは、申し出を受けた方がいいかと」
「わかった。なら、すまないが脱出させてほしい」
「よし。全員、出る準備はできているか?」
「出来ている」
「行こう」
俺は、気配感知を行いながら敵の気配が薄い方角に向かって出る。オリバーとボディーガードが続き、仲間達が後ろを守るようにして出発した。裏手の雑木林に入り、スルスルと進んでいくと丘の上に出る。そこからはロサンゼルスの夜景が見渡せた。
「綺麗」
ミオが言う。
「今のところ、この町は守れている。だが、いつ試験体が来るか分からん」
「何とかしなくちゃね」
「ああ」
ボン! と、研究所の方向から火の手が上がった。黒い煙が立ち上り、俺がみんなに言う。
「急ぐぞ」
それから林を抜け、するりするりと住宅の敷地を縫って歩いた。タケルがエイブラハムを持ち上げて、軽々と塀を越えるのを見てオリバーが感嘆のため息を漏らす。
「ラッキーボーイだけじゃないって事か……」
「まあ、そういうことだ」
いつしか市内はサイレンが鳴り響き騒がしくなってくる。クキがマンホールを指さして言った。
「ちょっと臭いが、そこを行こう」
そして俺達は、マンホールから入って行き、下水道を歩き始めるのだった。




