第563話 跡形もなく吹き飛ばすファーマー社の手口
ロックダウンのロサンゼルスで、俺達はまだ身動きが取れずに、秘密の研究所の一室に集まっている。密かにゾンビ破壊薬を製造しつつ、情報を探っていた。悪夢は、確実に広がっていることが分かった。
「ゾンビパンデミックが、シアトルの隣、カナダのバンクーバーにまで及んだか」
クキが情報を見て、悔しそうな顔で言う。それにオリバーが聞いて来た。
「このようにして……ジャパンも滅んだのかい?」
「そうだ」
「まもなく、ゾンビ破壊薬が揃う。それを散布しに行けば、シアトルは止まるだろうか」
「エンハンサーXの広がりと、ファーマー社の動きが予測できていない。シアトルが止められても、また他の都市が狙われるだろう。それに、シアトルの状況が分からないし、アメリカ軍が待ちかまえている」
するとオリバーも深く頷いて、頭を抱えてしまった。だがそこに、オリバーのボディーガードがドアを開いて飛び込んできた。
「クレイトン様!」
「どうした!」
「屋敷が! お屋敷が襲撃されました!」
「なんだと!」
皆が立ち上がり、血相を変えたボディーガードを見る。焦りの浮かんだオリバーが、俺達を見渡す。
狼狽えているのが分かり、クキがオリバーの代わりに言った。
「ファーマー社だ」
「わが家が狙われたのか!」
そしてタケルが俺に言う。
「助けに、行こうぜ!」
俺は黙って村雨丸をもち、タケルも武器を持つ。だがクキが言った。
「まて! お前達。 それよりオリバーさん! ここや、秘密工場はバレてはいないだろうか?」
「バレてはいないはずだが……情報は完全に隠蔽している」
その時、音が鳴り窓ガラスがガタガタと揺れた。
「爆発音だ」
俺がぽつりと言うと、オリバーが叫ぶ
「状況を! 何が起きた!」
ボディーガードが部屋を飛び出ようとしたところに、他のボディガードが飛び込んできた。
「爆発です! お屋敷の方向から!」
「お、屋上にいこう!」
オリバーとボディーガードが走り、俺達も後に続いて階段を駆け上った。屋上に行くとオリバーの屋敷の方角が、もくもくと黒い煙が立ち上がっているのが見える。
オリバーが大声で言う。
「状況を調べる必要がある!」
「イエス!」
そう言ってボディガードが走り出そうとするが、それをクキが制した。
「死ぬぜ。アイツらはヤバイのを連れて来てるかもしれない」
「だが!」
「これは誘いだ」
それを聞いたオリバーが聞く。
「誘い?」
「それが、奴らのやり口だ」
オリバーとボディーガードが顔を見合わせる。
「どうしてそう思う?」
そこでクキが少し考え込むようにしたが、直ぐに口を開く。
「俺は昔、仲間と知り合う前にファーマー社に雇われた事がある。これは、間違いなく奴らの誘いだ」
「なんだと」
「俺は傭兵だった。人間を餌に敵をおびき出すのが、ファーマー社の常とう手段なんだ」
「だが、救わねば!」
「いや。もう助からん! それよりも、まだ死んでいない人達を助ける事に全力を尽くしたほうがいい」
「ミスター……九鬼……」
歯を食いしばるクキの口から、血が流れている。噛みしめて唇を切ってしまったらしい。
「オリバー、クキ。ひとまず俺が見て来る」
「ラッキーボーイ……」
「クキ。それでいいな?」
「ああ。ヒカルなら、敵に追跡される恐れはないだろう」
「何故、襲われたのだろうな?」
「わからん。何らかの情報が漏れたか……」
「充分警戒しろ!」
「そうだな」
そして俺は、そのままその建物の屋上から飛び降りる。身体強化と縮地を使いながら、あっという間にビバリーヒルズのオリバーの屋敷周辺まで来た。煙が上がっていて、サイレンが鳴り響いている。周辺の住民はそれぞれ、車で家を出て避難を始めているようだ。直ぐに民家の敷地伝いに、オリバー邸を目指した。
「これは……」
あの立派な屋敷が、跡形もなく吹き飛んでいた。消防や警察が集まっており、現場検証を行っているようだった。周辺にゾンビの気配はなく、これ以上ここにいる事は不要だと考え、俺はすぐに秘密の研究所に戻った。
「も、もう見て来たのかね? ラッキーボーイ」
「ああ……」
「どうだった?」
「残念ながら、跡形もなく吹き飛んでいた」
「そうか……生存者は?」
「見た所には居なかったが、わからん」
それを聞いて、ミナミが残念そうに言う。
「オリバーさん。それも奴らの常套手段なのです」
「そんな」
「研究所も全て爆破で証拠隠滅してました。消したいものは、核を使っても証拠隠滅を図ります」
「くっ!」
「これが、奴らのやり口なのです」
「そんな……」
そしてクキがオリバーに言う。
「完全に戦争が始まったという事です」
「……」
「オリバーさん。ゾンビ破壊薬は出来たところまで、工場の人間に金を渡して仕事を打ち切れ」
「わかった」
まだ7Gの対策は出来ていないが、クキの判断は俺も賛成だ。人が多くかかわっているという事は、どこかにほころびが出るかもしれない。
「まだ、ルーサーも戻ってはいないが?」
「それはそうだが、オリバーさん。今は、それよりも優先すべき事がある」
「何をすれば?」
「このロサンゼルスで、ファーマー社を迎え撃つ準備をする」
オリバーもボディーガードも、クキの言葉を聞いて深く頷いた。パンデミックの始まった、アメリカで国の存亡をかけた戦いが始まったのだ。
そこでタケルが言った。
「だがよ。日本がやられた時よりも、奴らの攻勢が速い。阻止できると思うか?」
それには俺が答える。
「タケル。それでも、俺達はやれることをやるしかないんだ」
「……そっか。やるしかねえな」
「そうだ」
オリバーはすぐに手配をし始め、俺達はどうやって拠点を動かすかを検討し始める。ギリギリまでオオモリとアビゲイルの研究はさせるが、完成する前に動かねばならないだろう。ここまではクレイトンの人脈がものを言ったが、既に機能しないと考えて良さそうだった。
そしてクキが俺達に言う。
「さて、軍かFBIか、はたまた工場の人間か、どっかに裏切者がいるな」
「ああ。今は調べようがないがな」
そしてクキが言う。
「オリバーさんよ。しばらく、外部との連絡を絶ったほうがいい」
「わかった。そうしよう」
恐らくは、何処からか情報が漏れて、オリバーを抹殺するために邸宅を攻撃したのだろう。事件をもみ消すために、爆破したと皆で結論づける。
そしてクキがオオモリのところに行くので、俺も一緒に行った。
「大森」
「あ、はい」
「どっかから情報が漏れた。オリバー邸が爆破された」
「うわあ」
「これから、オリバーとも話さないといけない。状況次第では、彼らと距離を置く必要もある。研究の状況はどうなっている?」
「残念ながら、まだ難しいですね」
「わかった。まもなく、ここを出る。荷物をまとめておけ。アビゲイル博士もそのつもりで」
「わかりました」
そして俺達は仲間達だけを集め、ここを脱出するための作戦を話し合うのだった。




