第561話 ロサンゼルスのゾンビ対策と拾い物
俺達はロックダウンのロサンゼルスを駆けまわり、ゾンビ破壊薬をふりまきまくった。俺とクロサキが組になり、警察所を周って空調から建物内部にゾンビ破壊薬を充満させる。
「どうですか?」
「効いている」
「急に倒れてびっくりしてるでしょうね」
「静かになれば、警察官も対応が楽になるだろう」
「では、私達は行きましょう」
あちこちで鳴り響くサイレンが、少しだけ収まったような気がするのは、気のせいではないだろう。俺はクロサキを抱いてビルの屋上から飛び、離れた所に着地した。
「はは……これだけは、慣れませんね」
「あと数か所あるからな。急ごう」
「ええ」
警察官の格好をして、ロックダウンの町を歩けば、それほど目立つことはなかった。だが本物の警官との接触は避けなければならず、スマホで指定されている病院に向かうのも、路地裏から路地裏へと目立たぬように移動する必要がある。どうやら、ゾンビが病院にも運び込まれているらしいのだ。
だが俺達が走っていると、明らかに汚れた街に足を踏み入れてしまう。ロックダウンだというのに、路上に人が座ってたり、路上にテントが設置されたりしていた。壁には絵が描かれており、それらを見て俺が言う。
「雰囲気が変わったな」
「ダウンタウン。このあたりはスキッドロウですね」
クロサキがスマホを見ながら俺に教えてくれた。
「路上にテントがあるぞ」
「あれは路上生活者です」
「道路に寝ている奴もいるが?」
「薬物中毒だと思います。貧困層やマフィアが多い犯罪の多い町です。私もヒカルさんとじゃなかったら、足を踏み入れる事は無かったと思います」
「ちょっとまて」
「はい」
俺は精神を集中させて気配感知を広げ、違和感の元を見つけた。
「エンハンサーXそのものか、もしくはそれを使用した奴がいる」
「……麻薬の売人が闊歩する町ですから……。やはり、ロサンゼルスにも来てましたか」
「やはり……か」
「ええ。オリバーさんが言う通り、メジャーリーグ、バスケットボール、アイスホッケー、アメリカンフットボール、そしてボクサーや有名人が沢山いる町ですから」
そして気が付けば、偽装警官の俺達を遠巻きにして見ている連中がいる。明らかに、人相がいいとは言えず、それらがぞろぞろと増えだしてきた。
「何か集まって来た」
「事件が無い限り、警官でも寄り付かない危険な街です。警戒しているのでしょう」
「銃を持っているな」
「だと、思います」
「俺から離れるな」
「わかりました」
俺はクロサキを庇いながら歩きだす。すると、その集団は警戒しながらも、ぞろぞろとついて来た。そして少し歩いていると、目の前にぞろぞろと大柄な男達が現れて、俺達が行く先を塞いだ。
「おいおい。白人のポリとアジア女のポリだ」
そしてそいつらは、腕に刻まれた入れ墨を隠しもせず、さらに俺達に近づいてくる。それに対してクロサキが言う。
「距離をとりなさい」
すると男達は顔を見合わせて、へらへらと笑う。
「距離をつめたら、どうすんだ? ロックダウンで、警察は大忙しだ。今はやりたい放題なんだよ」
そして、ジリッと距離を詰めて来る男。
ホルスターから銃を抜いて、クロサキが男に銃を突き付ける。
「距離をおいて!」
「おいおい。それをどうするつもりだ? この人数で。ポリの行方不明なんて珍しくねえぞ」
次の瞬間ギラリと、周りの男達の殺意が膨れ上がった。
「思考加速。最加速。身体強化」
周りにいた住人の懐や尻から、全ての銃を抜き取って奪う。
「あれ?」
「銃がねえ」
「俺もだ」
「俺も」
俺は銃を大量に手に乗せて、そいつらに向かって言う。
「お前達が探しているのは、これか?」
「あ! おれの!」
「俺のも!」
「なんで!」
「くそ!」
そして戦意喪失させなければならなかった。俺はその数丁の銃を手で丸め、泥団子のように丸くしていく。三十センチくらいの鉄の塊が出来たので、それを男達の足元に投げた。
「返してやる」
「うそ……だろ」
「馬鹿力なんてもんじゃねえ」
「逃げた方がよくねえか?」
そいつらが走り出す前に、俺は仕込み剣を背中から抜き、ベルトと腰のボタンだけを斬り裂いた。するとストンと、ズボンが落ちる奴がいて転んでしまう。それにつまずいて数人がバランスを崩したので、俺はトントンと足で蹴って転がした。数人は走って逃げたが、俺はその転んだやつの一人を首を掴んで吊るした。
「聞きたい事がある」
「ぐっ! あぐ!」
俺は相手に聞こえるように、クロサキに対して言う。
「他の奴らも、逃げたら撃て」
「はい」
そいつをポイっと地面に捨てて、俺は足を胸に押し付けて言う。
「麻薬の売人を探している」
「し、しらねえ!」
グイっと足に力を入れる。ボキボキとあばらが折れる音がした。
「ゴフ!」
そいつは血を吐きだしてバタバタしている。
「肺に骨が刺さったんだろう。放っておけば死ぬぞ」
そして次に、座り込んで見上げている奴を睨む。
「麻薬の売人に連絡をとれ」
「い、イエス!」
スマートフォンを取り出して電話をした。すると俺の気配感知に、同時にスマートフォンが鳴る音が聞こえた。場所が分かったので、俺はしゃがみ込んで血を吐いている奴にヒールの魔法をかける。
「はあはあ。あ、あれ?」
「素直にしていれば、こんな事にはならなかった」
「や、やめてくれ」
「もう、お前らに用はない」
そして、スマートフォンをかけている奴に言う。
「お前も、もういいぞ」
「わ、わかった」
俺はクロサキを連れ、そいつらを放って走り出す。その電話の先の気配が、突然動き出したからである。だがもう、そいつの気配は覚えてしまった。
「こっちだ」
「はい」
路地をぐるりと回り、その気配が走る先で俺達は路地裏に隠れる。するとそこに、慌てたように走って来る奴がいた。俺達に気づかずに近づいて来て、前を通り過ぎるときに足をかける。
ドササッ!
「痛てぇ!」
ドン! とすぐさま、そいつの背中に足を乗せた。そいつは首を捻りつつ、こっちを睨むように見た。
「さ、サツ! 二人じゃねえじゃねえか」
「お前に聞きたい事がある」
「な、なんだ。俺は何にも悪りい事はしてねえぞ」
そこでクロサキが言う。
「麻薬を売っていて、悪い事をしていないはないわ」
「な、アイツら……」
どうやらコイツのことを、ばらしたと思っているらしい。
「あなた、新しい薬もってるでしょう?」
「はあ? 知らねえ」
俺はそいつの髪を掴んで、ぶらりとぶら下げた。
「いでででで」
そいつが暴れて、俺の腕を掴んだり顔を蹴ったりしてくるが、もちろんどうという事はない。
「い、岩みてえだ」
そしてそいつが懐から銃を出すしぐさをするが、それにはクロサキが言う。
「これ?」
「い、いつのまに?」
「とにかく、直ぐにその薬を渡しなさい。あれは、とても危険なものなの」
「わ、わかったー! 渡す! 渡す―!」
とりあえず俺が手を放すと、ドサリと尻餅をついて地面に座り込む。何とか立ち上がって、俺達に向かって言った。
「す、直ぐに持ってくる」
「いや。連れていけ」
「い、いや……それは」
「早くしろ」
チャッ!とクロサキの銃が、そいつに向けられる。だがそいつは、何かに気が付いたように言う。
「あんたら……ポリじゃねえだろ……」
「早くしろ」
俺が殺気を叩きつける。するとそいつは、一瞬気を失いそうになり、フラフラとふらついて建物の壁に手を着けた。
「わかった? 本当に殺すわ。早く連れて行って」
「分かった……わかったよ」
そしてそいつはフラフラと歩きだす。路地裏を戻り、あるビルに入り込んで階段を上り始めた。ボロボロの安っぽいアパートのようで、廊下に人が座って俯いていた。
どうやら、それも麻薬中毒らしい。
その一番奥の部屋に向かい、ガチャリと鍵を開けた。エンハンサーXの反応が強まり、俺はそいつの意識を刈り取り部屋に入っていく。エンハンサーXの袋を開けて、試験体破壊薬を振りかけた。
クロサキのところに行くと、銃を構えている。部屋に数人の人間が居て、手を上げていた。
すぐさま全員の意識を刈り取る。
「スマートフォンをあつめよう」
「わかりました」
人数よりも多いスマートフォンを集めて、次々にリュックサックに放り込んでいく。そして俺達はその部屋を後にして、指定されていた病院へと急ぐのだった。




