第560話 ロサンゼルスに忍び寄るゾンビの陰
縋りつく息子を説得したルーサーは、俺達とバイクに乗ってロサンゼルスを飛び出した。出来上がったゾンビ破壊薬を、リュックサックに入れてハー〇ーダ〇ットソンに跨るルーサーは凄く様になっている。
荒野の、高速を途中まで一緒に走っているとき……。
俺が手を上げてバイクを止める。後ろをついてきたルーサーと、タケルが俺の合図に停まる。
「どうした?」
「やはり、完全には防ぎきれていないようだ」
「マジか」
そしてルーサーが聞いて来る。
「どういうことだ?」
「ゾンビに感染した人間は、ラスベガスを抜け出して来ているということだ」
「そんな……」
タケルが俺に言う。
「ヤベエな、ロサンゼルス……」
「ああ。既に入ってしまったかもしれん」
「下手をすれば、ファーマー社が来るか……」
乾いた風が吹き、砂埃が舞う高速道路。だが明らかに、ゾンビ因子の気配はある。そうなれば、途中の町にも入り込んでいる可能性が高い。するとルーサーが俺達に言う。
「あんたらは、ロサンゼルスに戻ってくれ」
「だが、軍隊が待っているかもしれんぞ」
「なあに、真っすぐいかなければいいんだろう」
「アメリカ軍が、いるところは通れない」
「ベガスは庭だって言ってるだろ。それに、俺も体は強くなっているんだ」
確かに普通の人間ではない。下手をすれば、米軍の銃撃を受けても死なない可能性はある。
「ゾンビだと認識され、攻撃される可能性も否定できん。入ったはいいが、出て来れないかもしれない」
「覚悟の上だ。早くしなければ、核弾頭が打ち込まれてしまうんだろう?」
「そうだな」
「それに、ロサンゼルスが何かあれば、アメリカは終わってしまう。あんたらは、工場と仲間達を守らなければならない」
ルーサーは、覚悟が決まっており、俺とタケルは目を見て頷いた。そして俺が言う。
「数棟の高層ビルの屋上に噴霧器を設置したら、とにかく急いで脱出するんだ。時間で噴射が始まるようになっているらしい、その前に必ず息子のところに帰ってこい】
「そうだぜ。チャンピオン、あんたにゃ待ってる人がいるんだ」
「……あんたらは優しいんだな」
「あんたもな」
「んじゃ、行って来る」
そしてバイクのアクセルを握り込み、ルーサーはラスベガスに向かって行った。
「やつは、自分のプライドをかけて行ってしまった」
「流石はチャンピオンだ」
「タケル。こちらも、悠長なことは言っていられない。恐らくゾンビはロサンゼルスに入り込んでいる可能性が高い」
「どこで気が付いた?」
「途中の壊れた車から、反応がした。間違いなく、ここまでゾンビ因子は来ている」
「急がねえとな」
「ああ」
俺達は踵を返して、真っすぐにロサンゼルスに向かって走る。本来ならもっとルーサーを警護するところだったが、俺の感覚が警戒しているのである。
そして、人のいないロックダウンのロサンゼルスを走っていると、出てくるときには居なかった警察の車がいた。俺達はそれを避けるように、迂回し他の通りを走り始める。だが、その先にも警察が居たので、俺達はバイクを止めて様子を見た。
「なんか、警戒体制がきつくなってるよな」
「そのようだ。出てくるときは、こんなに出回っていなかった」
「なんか、問題あったんだろうなあ」
「出た可能性がある」
「ゾンビか」
「もしゾンビを、暴徒だと思って捕えたら警察はどうする?」
「とにかく、スタンガンを使ったり、銃を使ってでも鎮圧して手錠をかけて警察に連れてくだろうな」
それを聞いた俺は、スマートフォンを取り出して言う。
「ヘイオオモリ」
「なんです?」
直ぐに出た。アイツは、いつ繋げてもすぐに応答する。
「ちょっと気になる。ロサンゼルスの警察所の位置をしりたい」
「すぐ送ります」
オオモリが送ってくれた地図に従い、そのまま警察所に向かって走った。すると警察署の周りに、パトロールカーが乱雑に止まっており、忙しなく無線などが流れていた。
「タケル。建物の中にゾンビがいる」
「うわ。やっぱり、暴徒だと思って、連れて来てしまってるか……」
「ラスベガスか、シアトルか、閉鎖が遅かったのだろう」
「そりゃそうだ。ロックダウンしたところで、自覚症状のない奴は多分いたはずだぜ」
「どうするか?」
「……警察所に突撃して、いきなり狂ったように暴徒を殺し始めたら、俺達は大量殺人犯になっちまう」
「確かにそうか……だが、放っておけば、拡大してしまうかもしれん」
「帰ってオリバーさんに相談してみようぜ」
「わかった」
俺達は再びその場を離れ、真っすぐに秘密の研究所に到着した。俺とタケルは急いで、オリバーを探し話を始める。
「オリバー。話がある」
「ど、どうしたね。ラッキーボーイ」
「ロサンゼルスの警察署に、ゾンビの気配があった」
「なんだって?」
タケルが俺に合わせて言う。
「多分。警察は暴徒だとでも思ってるんだ。放っておけば、じきにゾンビが広がるぜ」
「わかった。一応根回ししてみよう」
直ぐにスマートフォンを繋げて、どこかに電話をし始めた。そして仲間達が聞いて来る。
「とうとうゾンビが……来ちゃったかあ」
ツバサがおでこを押さえて、残念な表情を浮かべる。そこで、ミナミが言った。
「ありったけのゾンビ破壊薬をルーサーが持って行ったけど、また新しいのが作られてると思うし、それを持って各警察署に回ったらどうかしら?」
「なるほどな」
「空調に仕掛ければ、警察所に行き渡るでしょ」
「ミナミの言うとおりだ」
そこに電話口を抑えたオリバーが言う。
「どうしたらいいだろう?」
「暴動を起こしている奴は、即射殺なんだがな」
「そういう訳には……」
そこでシャーリーンが言う。
「手分けしてゾンビ破壊薬を、街で噴霧するしかないのでは? 警察所に侵入して、空調に仕掛けるのも手分けしてやりましょう」
するとオリバーが言う。
「そういう事ならいい考えがある」
「なんだ?」
「ロサンゼルス市警の制服がある。装備もな。それを着て動き回れば、ロックダウンの町でも動き回る事が出来るだろう」
それを聞いて皆が頷いた。
「では、用意するまで三時間ほど待ってほしい」
「わかった。待つ事にしよう」
そしてオリバーが、すぐ電話をつづけた。
それから、きっちり三時間後に、人数分のロサンゼルス市警の制服と装備が揃う。
「だが、警察との接触は避けなければならない。すぐにばれる」
「了解だ」
全員が警察の格好をして、ゾンビ破壊薬を持ちロサンゼルスの町に散らばっていくのだった。




