第55話 疾走するバイク
四号線を進み始めると、あっという間に民家の数が増えて来た。今までとは比べ物にならない建物の数に、ゾンビの気配も多くなって来る。多くの車が散乱しており、道路も進み辛い状態になってきていた。
運転しているミナミが言う。体力も回復して運転が出来るようになったのだ。
「やっぱりさ、ゾンビいるね」
俺が南に尋ねた。
「そうだな。ここは東京か?」
「草加だから、まだ埼玉よ」
「東京じゃなくてもこんなに建物があるのか?」
「このあたりから東京まで建物は途切れないよ」
「俺が東京から出た時は橋の上を通ったが、あれは高速道路だったな?」
すると一緒に載っていたミオが言う。
「そうだよ、高速道路の方が車が少なかったよね」
「そうだな。住宅地の周辺は車もゾンビも多い」
「そう、だから高速道路を使っていたの。だけど空港で賊に襲われたからね、仕方ないと思う」
「なら、まずは車を止めない事だ」
「わかった」
するとミオがトランシーバーを使って、前方を走るトラックに連絡を入れた。
「ヒカルが車は止めない方が良いって」
すると返事をしてきたのはタケルだった。
「まてよ。止まらねえって、バイク屋はどうすんだよ」
「俺のわがままに皆をつきあわせる訳にはいかん」
するとタケルの隣りで運転しているヤマザキが言う。
「いや、ヒカル。俺達はお前にここまで連れて来てもらったんだ。ヒカルはずっと俺達を守るばかりで、何かの要望を言った事はない。たった一つの希望も叶えられないのなら、俺達の旅路に意味があるのかね?」
「しかし…」
すると同じ車内にいた女達が口をそろえて言った。
「そうだよ。せっかく来たんだし行こうよ」
「そうそう、ヒカルは絶対行くべきだ」
「だって乗りたいんでしょ? バイク」
「タケルが乗ってたんだもんね、だからでしょ?」
「ああ、なるほどね。じゃ行こ―!」
ミオ、ユリナ、マナ、ツバサ、ミナミが順番に俺に伝えて来た。
「みんな…」
するとトランシーバーの向こうからタケルが言って来る。
「なら、あの作戦で行こうぜ! 車を停めるところは無いんだし、俺とヒカルが車を降りてよ。そんで皆は車で周囲を回るんだよ。俺達がバイクを回収したら合流すればいい。俺がこれから連れてく店には絶対に気に入るマシンがあるしな」
「…わかった。なら行こう。トランシーバーは俺達も持って行く。距離があいても使えるか?」
すると向こう側からヤマザキが言う。
「まあ、これの通信距離は四百メートルくらいらしいがな」
「離れると聞こえないのか?」
「まあ、そう言う事になるが、離れずに区画の周りを回ればいいんだ。日本てのは碁盤の目のようになっているからな」
「ならば極力離れるな。もし何かあればトランシーバーで連絡をよこせ」
「わかった」
話が決まるとタケルが言った。
「よっしゃ。話が決まれば後は決行あるのみ」
「おう」
「南! バイク屋は左手に見えて来るからな、そこで車を止めてくれ」
「はい。いよいよ東京だね」
「やっぱゾンビの数が半端ねえ。だけど前に来た時より怖くねえ気がするな」
今度はタケルの隣りのユミが言う。
「だーい好きなヒカルがいるもんね」
「ばーか、もちろんヒカルは嫌いじゃねえが、アイツは頼もしいんだよ」
「まあねー」
軽口を叩きながらもトランシーバーがきれた。しばらくすると運転しているミナミが言った。
「足立区に入った。いよいよ東京だよ」
「そうだな。前のトラックがゾンビを潰してくれるだろう。その後ろをついて行くんだ」
「はい」
またトランシーバーが繋がり、タケルが俺に言って来る。
「降りるぞ、装備は問題ねえか?」
「問題ない、フル装備だ」
「はは、ヒカルがフル装備とか言うとおもしれえな」
そう、タケルの言う通り俺はDVDによってかなりの言葉を覚えたのだ。恐ろしくスムーズに皆と話せるようになったのが嬉しい。
前のトラックが停まり急いでタケルが下りたので、俺もすぐに車を降りる。だが、このスライドドアと言うのがもどかしい。俺はそれが閉まるまで車の前で待つ。だがゾンビまでは距離があり、何事も無くドアは閉じるのだった。むしろタケルが一目散に俺の所に走って来た。そして俺の考えている事を見透かしたように言う。
「スライドドアってもどかしいよな。俺が危うくゾンビに食われるところだ」
俺達が話しているうちに、トラックとワゴンがすぐに出発した。俺はトランシーバーのボタンを押してヤマザキに話しかける。
「聞こえるか?」
「問題ない。まあ離れたら聞こえなくなることもあるが、とにかく周囲をまわっているから、気にいったバイクをゆっくり選んでくれ」
「わかった」
すると今度はミオが言う。
「私達ドライブしてるからね。ゆっくりどーぞ」
「ありがとう」
早速タケルが指さす方向を見るが、ゾンビがウロウロし始めた。
「すぐそこの赤の看板だ」
「急ごう」
俺はバールでゾンビを粉砕しながら、タケルの言っていた看板の店に到着する。
「シャッター閉まってんね」
「内部にゾンビはいないぞ」
「そりゃ好都合だ。入り口にいってみっか」
「ああ」
俺とタケルは駐車場に入り、入り口に行くが鍵がかかっていた。
「割るか?」
タケルが言うので俺はやめさせる。
「いや。まずは周囲を回って空いてるドアがあるか探して見よう」
「わかった」
駐車場に一体ゾンビが居たが、すぐにそれを粉砕して進む。だが裏の入り口もシャッターも全て閉まっているようだった。タケルが言う。
「どうするよ」
俺は上を指さす。二階があるので、その窓から入ると言う。
「あ、ジャンプすんのね?」
「そうだ」
「まあ、慣れたから問題ねえ」
「行くぞ」
俺がタケルを掴んで二階の窓に飛ぶ。そしてすぐさま一つの窓ガラスの真ん中をくりぬいた。するとタケルが少し呆れたように言う。
「まあ、手慣れたもんだな。ルパ〇〇世も真っ青だ」
「それも見たな。だがあれは架空の話だ」
「メンバーでいったら、ヒカルは石〇五右〇門だな」
「あれは参考になった。剣があれば次は銃の対策が打てる」
「ははは…。弾を斬るっつーのな」
「そう言う事だ」
「ヒカルにかかればフィクションもノンフィクションになっちまう」
「フィクションはいろいろ見たが、ある程度実現可能なものはあったな」
「笑える」
「なら笑って言え」
「へいへい」
そしてバイク屋の内部に侵入する。俺達はすぐに、一階のガラス窓から見えていたバイクが大量に置かれている場所に向かった。するとそこにはずらりとバイクが置いてあった。
タケルが嬉しそうに言う。
「おー! あるある! 旧車もあるみてえだけど、ヒカルがDVDで気に入ったのはどんなんだ?」
「えっと、形は覚えている」
「まずはゆっくり見ようぜ」
「ああ」
タケルが嬉しそうにしているのを見ていると俺も楽しくなる。そしていろんなバイクがある事に、俺も胸が躍る。
「おお!」
タケルが声を出して喜んでいるので、俺は側に行ってみる。
「どうした?」
「ゼッツーあんだけど! まじか!」
「珍しいのか?」
「まあ名車だな」
「そうか」
「お、おい! こっちにゃヨンフォアだぞ!」
「楽しそうだな」
「めっちゃ楽しい。だけどヒカルが欲しいのはこういうのじゃねえんだろ?」
「形が違うな。だがこれも愛着がわきそうだ」
「まあ整備とかの問題もあるしな、新しい方がいいんじゃねえか? まあ名残惜しいけどよ」
俺がDVDで見たのと似ているのがあったので、そこにタケルを連れて行く。
「これだ」
「こりゃ随分新しいのをえらんだな。なんかのヒーロー物で見たか?」
「そうだな。実はゾンビの映画で見たんだ。こういうヤツに乗ってた」
「これはニ〇ジャってやつだ。最新のやつだよ、排気量千CCもあるんだぜ。確か三百馬力くらい出るはずだ」
「馬が三百頭分か」
「ま、そう言うこった」
「気に入った」
だがタケルは少し考え込む。
「まあ、キーはついてるようだし動くだろうけどな。千CCともなると操作は難しいぞ」
「教えてくれれば何とかする」
「わかったよ」
そしてタケルが俺に鍵を回すように言う。
キュキュッ! ドルゥン!
すぐにエンジンがかかった。
「うわ。調子いいな。でな、右手の部分を回すとエンジンが回る。そしてそこについているのが前のブレーキレバーだ、左手はクラッチをきってギアを繋げるのに使う。左足でギアを操作してスピードを上げたり下げたりも出来る。左足は後ろのブレーキだ」
「わかった」
「えっと、分かったからってすぐに運転出来ると思えんけどな」
「覚えたぞ」
「ブレーキはバランスを見て前後にかけるんだぞ、ギアはきちんとスピードに合わせて調節するんだ」
映画では物凄くスムーズに走らせていた。あとは感覚で掴むしかないが…
「まあ、やってみる」
俺はバイクにまたがった。馬よりは低いがかなり安定感があるように思う。そしてタケルに言われるように右のアクセルに手をかけた。
「ふかして見ろよ」
俺は言われるがままアクセルを開ける。
フォン!
おお!
「どうだ? すげえだろ?」
「ああ凄いな」
フォンフォンフォン!
「おっ、いい感じだ」
「それでどうなる?」
「じゃあ俺がケツに乗って操作を教えながらやってみっか」
「頼む」
タケルが俺の後ろに座って、手とりあしとり操作を教えてくれた。
「よし、じゃあ皆に合流するぞ」
「もう行くの? だ、大丈夫か? 俺もよく考えねえで誘ったけど、俺は腕が一本ねえからな運転出来ねえぞ」
「だから俺が代わりにやるんだ」
「…」
「どうした怖気づいたか?」
「はんっ! 馬鹿言え! 俺が単車でビビるかっつーの!」
「ならトランシーバーを頼む。皆の位置はおおよそ掴んでいるからな」
「わかったよ」
そして俺とタケルがガラスの外を見る。
「ありゃ? ヒカル見ろよ! バイクのエンジン音でゾンビが集まって来たみたいだぞ」
「なら、蹴散らしてやろう」
俺はタケルに教えられるがままに、バイクのクラッチをきりギアを入れる。そして真っすぐゾンビ達がいるガラスを見据えた。
「へ? まさか?」
「そのまさかだ!」
俺は右手のバールに剣技を発動させる。
「推撃!」
俺のバールから剣撃が飛び、バリーンとガラスが割れて数体のゾンビが吹き飛んだ。そこを見計って、俺は一気にクラッチを繋げアクセルを目いっぱい回す。
「おわ!」
タケルが落ちそうになって、俺の肩をがっちり掴んだ。思いのほか力が強く振り落とされる事はないようだ。
ブオーーーーーン!
数体のゾンビを吹き飛ばしてバイクが外に出た。すると正面に中央分離帯が迫って来る。思ったより加速がいい、車とは全く違う発進力だ。
「しっかりつかまれ!」
「おう!」
そして俺は車体を思いっきり左に傾けて中央分離帯をさけて左へ急旋回した。それと同時にギアを上げてアクセルを回す。
バイクの加速は凄かった。タケルが落ちないように俺を更にがっちりと掴んだ。
「‥‥‥‥」
タケルが黙っている。どうしたのだろう? もしかしたら怖気づいたのだろうか?
「タケル?」
俺が尋ねると次の瞬間。
「きっっっんもちいぃぃぃぃぃ! さいっこう! もっとイケー!」
よかった。俺はタケルが恐怖に身がすくんだと思った。むしろタケルはがぜん意識が高まってきたようで、俺をけしかけるようにスピードを上げろと言う。
「よし!」
俺はすぐさま皆の車が走っている方向へと向かった。散乱する車やゾンビを右に左にかわして、スムーズに加速していく。
「ヒカル!」
凄い風だが後ろでタケルが叫んだ。
「なんだ!」
「ありがとな!」
「なんだ?」
「俺をまた単車に乗せてくれてよ! お前は最高なやつだよ!」
「ふっ! つかまってろ!」
俺は更にアクセルをふかして加速するのだった。そしてこの感覚には俺も快感を覚えていた。エンジンの音と振動が腰に伝わり、アクセルを開ければ開けるだけスピードが上がる。間違いなく馬などよりもはるかに速い。俺はこのバイクにめぐり合わせてくれたタケルに感謝の気持ちでいっぱいだった。俺とタケルの頬を強烈な風が撫で、二人は同じ空間でこのスピードを満喫していたのだった。
バイクはカッコイイぜ




