第553話 ファーマ―社軍の待ち伏せ
俺達のバイクはラスベガスを脱出し、ロサンゼルスに向かって走り出した。しかし、俺の気配感知は直ぐに違和感を感じる。何かがこちらに向かって飛んできているようで、俺達の居場所を掌握しているように感じるのだ。
「タケル!」
「ん?」
ブレーキをかけてバイクを停止させた。荒野の真ん中で周りには何もないが、乾いた風が吹き俺達の髪を撫でていく。俺が、タケルの側に寄って聞いた。
「この人のスマートフォンの電源は切れているか?」
「ちっとまて……ああ、切れてるぜ」
タケルが見るが、スマートフォンの電源は切れていた。
「それは捨てて行こう」
「わーった。あのー、ボクサーのおっさん。あんたのスマホ捨てるぜ」
「かまわない」
「あと、身体検査もしといたほうがいいな」
「やってくれ」
タケルがボクサーの体をまさぐるが、これといって異常は無さそうだった。
「何もねえと思うが」
「じゃあ、これは捨てよう」
スマートフォンを荒野に放り投げると、土煙を上げて地面に落ちた。再びバイクを走らせ、しばらく走るが、やはり何かがこちらについて来ている。俺はまたタケルの前に出て、バイクを止めさせた。
「まだなんかあんのか?」
「ちょっと待ってくれ」
俺がバイクを下りて、空を見上げて確認する。空の高いところで、何かがこちらを伺っているように見えた。空には雲もあるようだが、その向こうに何かいるのが分かる。
「空接瞬斬!」
手ごたえはあった。何か飛行機的な物が、落下していくのが分かる。
「よし」
俺達は再び走り出す。だが何故か違和感が無くならなかった。何故か、こちらの位置を把握されているように感じてしまうのだ。そして、その感覚はやはり的中してしまう
ギャギャギャ! とタケルが止まり、その先を見て言う。
「なんで分かったんだ? スマホは捨てたんだけどな」
タケルの視線の先には、明らかに戦闘車両のような物が数台止まっていた。今まで見て来た、米軍の物ではなく漆黒の不気味な集団だった。
「タケル……あそこには、ゾンビ化兵と、恐らく試験体もいる」
「気配感知か……。しかし待ち伏せ? 俺達の事がバレてんのか?」
「分からん」
するとボクサーが、バイクの後ろでぽつりと言った。
「俺かもしれん」
「どういうことだい?」
「この体を治すと言われ、何かの注射を打たれた」
俺とタケルは顔を見合わせた。もちろん、それが原因かは分からななかった。
まだ敵は、こちらに何かを仕掛けてくる様子はない。そこで俺がスマートフォンを出して繋げる。
「ヘイ、オオモリ」
「あ、どうしました?」
「ボクサーを連れて来たんだが、敵に感知されている。どうやら待ち伏せされていたらしい」
「あー。だと、恐らく相手の7G回線なのかもしれません」
「ナナジー回線か」
「6Gでも僕はゾンビを停止出来ましたからね。下手をすると、位置を掌握するぐらいは分るのかもしれません」
「何か注射をされたと言っている」
すると、アビゲイルに電話が変わる。
「ヒカルさんの感知で、ボクサーにゾンビ因子は感じますか?」
「ある。試験体の因子に似ているが」
「適合者……その後に注射を打たれたのですよね?」
「そのようだ」
「ナノマシンを注入された可能性があります。血中にあるナノマシンを感知しているのかも」
「なんだそれは?」
「細かい機械と言ったらいいでしょうか? ファーマー社はその研究もしていました」
俺がもう一度ボクサーを探るが、試験体の因子しか見当たらない。だが敵はこの細胞を認識しているか、ナノマシンとやらを認識しているのかもしれなかった。
「どうする? ヒカル?」
「まず、目の前の敵を片付ける。だが、追手は次々来るだろうな」
すると、電話の向こうでアビゲイルが言った。
「阻害することは出来ます。放射線防護服を着ればいいかと」
「……そんな物がどこかにあるのか?」
するとタケルが俺に言う。
「日本では消防所にあったぞ」
「決まりだ」
そして俺が敵に向かおうとすると、ボクサーが慌てて止める。
「ど、どうするつもりだ?」
「アイツらを蹴散らす」
「まて。俺は、あの薬を使って強くなったんだが、アイツらには敵わなかった」
「知っている」
「なら話は早い。その俺をもってしても、アイツらにはかなわなかったんだ。あんたらも強いようだが、さっき仕留めた四人とは訳が違いそうだぞ。それに銃を持った奴らが、あんなにいるじゃないか」
「ああ。それなら問題ない」
「問題ないって……」
「それよりタケル。この二人を守っていてくれ」
「あいよ」
「じゃあ、まずは殲滅する」
「そ、そんなに簡単に、こっちは三人と子供一人だ」
「いや。俺一人で殲滅するから問題ない」
「……」
どうやら敵も、じわりじわりとこちらに近づいてきているようで、一瞬の殺気を感じた。
ギイン! 俺が剣で斬り落としたのは狙撃の弾だった。そこで俺は三人に言った。
「伏せていた方がいい」
「言う事聞こうぜ」
「あ、ああ」
「うん……」
二人には、何が起きたのか分かっていないらしい。敵はどうやら荒野にも潜んでいて、そこからここを狙って狙撃して来たのだ。既に方向と位置は確定し、そのむき出しで寝そべる体も確認した。
「やはり……クキは別格なんだな。他の狙撃手は、こんなにも分かりやすいものなんだ」
俺は感心する。
「閃光孔鱗突!」
狙撃してきた奴は、脳天から尻の穴にかけて胴体の中央を失った。そして俺は金剛と結界、身体強化を施して敵に向かい縮地で距離を詰めた。
次の瞬間、装甲車の間で銃を構えていた男の隣りに立ち、そいつに話しかける。
「何を狙ってるんだ?」
「なにって……おまえ……」
違和感を感じたのか、こちらを見たので首を飛ばした。直ぐに反対側の奴も脳天から、股の間に斬り下ろして消える。
ドサ。ドサ。ドサ。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
敵が、ようやく気が付いたようだ。
「敵襲!」
一斉に臨戦態勢に入るが、その時、俺は既に上空五十メートルに浮いている。
威力を極力押さえて剣技を放った。
「剛龍爆雷斬!」
装甲車の間に、火の玉が落ちて大きな爆発を起こし、先頭車両がひっくり返る。爆心地に居たゾンビ化兵は全て飛び散り、飛ばされた車両に潰されて身動きが取れない奴もいた。
「砲撃だ!」
「どこから!」
「わかりません」
「あ、あれを出せ!」
そう言って皆が装甲車を見た時、既に壊れたその車の亀裂から爪のような物が出ていた。
「もう、外に出てる!」
「に、逃げろ!」
周りの奴らが離れようとすると、その車からバキッ! という音と共に羽の生えた筋肉の塊が出て来た。丸まっていたそれが広がると、三メートルほどの人間の形になり、体中が収縮を繰り返していた。そしてすぐに、逃げ惑う兵士をつかまえてヘルメットごと頭を噛み切った。
「ヒィィィィ」
「ウワァァァァ!」
ベッとヘルメットを吐き出し、直ぐに次の得物に飛びつく。ゾンビ化兵は銃を構えて応戦するが、頭と腕を掴まれて引きちぎられた。さらにそいつは、逃げようとする集団に向けて、装甲車を両腕手で掴み放り投げる。
ズシン! という音と共に、兵士達が潰れ、断末魔の声を上げた。
「だいぶ、性能が上がっているようだな」
俺は着地と同時に、逃げている奴らに向かって剣技を放った。
「屍人飛空円斬!」
シャイン! と一閃、目に見えている範囲の兵士とゾンビ化兵が斬れ落ちる。それを見て、目の前の羽の生えた試験体が吠えた。
「グギャアアアアアア!」
「醜いな」
試験体は俺を確認し、片手に持っていたゾンビ化兵の頭なし死体を放り投げて来る。
シュキン! 目の前で両断したところに、試験体が突進してきていた。
「知恵があるのか」
「ガギュルガギュル!!!」
顎が広がり、バカッ! と、口が必要以上に広がる。そいつは俺を食うつもりで、こちらに飛びかかってきたらしい。
「だが、お前の一部は持ち帰らねばならん」
俺の肩にその巨大顎が食らいついたが、金剛と結界により鋭い牙は全く通らない。
「俺は、美味くないぞ」
頭を振ろうとしているようだが、俺はびくとも動かなかった。
「どうする?」
するとそいつは羽をバタバタさせた。
「なるほど」
俺の体が少し浮いたところで、試験体がにやりと笑った気がした。
「残念だな」
俺は試験体の頭の上半分を握り、剣技を放つ。
「乱波斬!」
ババッ! 至近距離で受けた剣技により、何百の肉片となって飛び散る。俺の手には頭の四分の一が握られおり、他は肉の雨になって地面に降り注いだ。
ズシャ! と飛び降りたところで、砕けた肉片たちを見るとどうやら結合を始めている。
「やはり。改良されているか……」
だが様子を見ていると、上手く再生は出来ないでいるようだ。
「細切れにすると無理のようだな。あのスライム状のやつとは違う訳だ」
俺が握っている試験体の一部が、ブルブルと震えてそいつらを集めようとでもしているようだ。
「残りはいらん。蘇生斬!」
するとビチビチ動いていた肉片が、ただの肉片になって動きを止めた。俺が握っている、頭部の一部だけが、うずうずと動いている。俺は次に、逃げたファーマー社を全て仕留めた。そして肉片を持ったまま、タケル達のいるところに近づく。
「そのまえに」
俺は試験体の一部を放り投げて剣技を放つ。
「絶対氷結!」
ピシィィィ……。
凍ったそいつを手に取り、タケルに言った。
「入れ物の缶をくれ」
「あいよ」
俺はそれを受け取り、完全に凍り付いた試験体の一部を入れて蓋をし鍵をかけた。一連の流れを見ていたボクサーが、自分の息子に言っていた。
「おまえの言うとおりだ。コイツはマジもんのヒーローなんだな」
「そうだよ!」
子供が嬉しそうに言う。
そしてタケルが言った.
「んじゃ、次は消防署だな。ちっとまて」
スマートフォンを覗き込むと、既に近い場所にある消防署の位置を、オオモリが送ってくれていた。
「こっからニ十分ほどだ」
「念のため、試験体の一部とゾンビ化兵の一部は俺が運ぶ。タケルは二人を頼む」
「ああ」
だが子供が言う。
「僕は勇者のバイクがいい!」
「……なら前に乗れ」
そして二台のバイクは、近くの町へと急行した。探すまでも無く、地図に従って行くと消防署があり、そこには人の気配がしている。
道路の前から消防署を眺め、俺達はどうするかを考えていた。
「消防士がいるなあ……強奪するか?」
「いや。それもまた、大騒ぎになる」
するとボクサーが言った。
「俺が話してみる」
「そうか」
ボクサーのいう通りに、俺達は消防署に入ってみる事にしたのだった。




