第550話 壊滅したラスベガス
バイクで走る俺達の視界に、ラスベガスから立ち上る煙が見えてきた。それは広範囲に広がっており、このあたりには渋滞で動けなくなった車達がいた。そこにバイクを止め、侵入経路を考えている。
「本当なら、四時間から五時間はかかるところだがな」
「どうにか二時間で付いた」
「たぶん警察も、スピード違反の二台のバイクを探して大騒ぎだと思うぜ」
「そんな事を言っている場合ではない」
「ちげえねえや」
その場所にはチラホラと残っている人たちもいて、テレビを見たりゲームをしたりしている。どうやらこれらはラスベガスに向かっていた車のようで、この何キロか先で軍が閉鎖している事を知らないのかもしれない。バーベキューをして酒を飲んでいる奴もいて、なんと言うお気楽な国民なのだろう。
そこでタケルが、近くに居た家族に言う。
「軍が閉鎖してんだ。多分何日も動かないと思うぜ」
「と言ったって、身動きが取れないんだ」
「車が動くうちに、Uターンしたほうがいいと思うけどな」
「ご忠告ありがとう。それで、君らは?」
「ベガスに、ちと用事があるんだ」
「なんだ、それなら私達と同じじゃないか」
「いや、そうじゃねえぜ。あんたら、ゾンビの餌食になりてえのか? 可愛い子供達もゾンビにやられてしまうぞ」
すると家族たちが顔を見合わせて、次の瞬間大笑いした。
「プッ! あーははっは! ゾンビだってぇ?」
「そうだ」
すると子供が言った。
「お兄ちゃん。あれは映画の中だけの話だよ」
「違うんだよ。あれは本当で、ベガスでそれがおきてるんだよ」
すると母親がタケルに言う。
「ちょっと、うちの子を怖がらせないでもらえます? 夜眠れなくなっちゃうでしょ」
「いや……眠れる眠れないじゃなくて、軍の閉鎖を破って出てきたらマズいんだよ……」
「からかうのもいい加減にしてくれ。こっちは昨日から、ここに居て気がたってるんだ」
「いやいや。一日たって解消しねえってのが、変だって思わねえのか」
「にしてもゾンビなんて」
「駆除に手を焼くと、核弾頭が飛ぶかもしれねえんだ」
「おだやかじゃないねえ。あんたらいったいなんだって、そんな事を言うんだ?」
「助かってほしいからだよ」
「タケル。急ぐぞ」
そしてタケルが念を押す。
「とにかく危険だからよ。早く引き返す算段を付けた方がいいぜ」
「まあ、ご忠告は聞いておくよ」
そして俺とタケルは再び、道路じゃない土のところを走り始める。この地面だとそれほど速度を上げる事は出来ない。
「やべえなあ。これじゃ日本の時と全く変わらねえ」
「彼らは知らないからな」
「だなあ。気づいた時には遅いんだけどな。俺達はそれを経験した」
「そのためにも、一刻も早く、アビゲイルに因子を届けねばならん」
「だな」
渋滞は数十キロに及んでいたが、その先ではやはり軍隊が道を閉鎖し堰き止めている。銃を持った奴らが、金網の上の見張り台のようなところにいた。
「まあ、あれで正解だけどな」
「まだゾンビは溢れていないようだ」
「こっちに流れて来てねえだけかもしれねえ」
「道路だけ閉鎖しても意味がないのだが」
「恐らく、ゾンビ対策なんてマニュアルがねえんだろうよ。迂回しようぜ」
バイクで道を引き返したところで、左手に積み上がっている土の山を登る。するとその先にキャンピングカー売り場が見えてきた。その先には荒野が広がっており、俺達は道なき道を突っ走り始める。
左手には煙の上がるラスベガス、空には先ほどからヘリコプターが何機も飛び回っていた。
「ヘリがいっぱい飛んでんなあ」
「武装してる。兵士と、そうじゃない奴が乗ってる」
「んじゃ、救出してんだろうよ」
生きる命があれば救う。軍隊も必死のようだが、既に陸路では移動できない状態なのかもしれない。俺とタケルのバイクが、荒野からラスベガスに向かって進路をきった。だが荒野のあちこちにも街があり、工事車両なども置いてあるようだった。昨日までは、日常生活を送っていたのであろう。
そのそばを通りかかったが、人の気配はせずにどうやら避難をしたようだった。するとそのそばの荒野の先から、何機ものヘリコプターが浮かび上がる。
「あの空港から出てるみてえだな」
「逃げて来たのだろう」
「でもよ、こんなのでゾンビを止める事は出来ねえぞ。この町はどこからも入れるようになってるしよ、道路だけ閉鎖したってダメなんだけどな」
「暴動している人だと思ってるんだろう。人なら砂漠を歩いてはいけないからな」
「ゾンビは関係ねえからなあ」
そして俺達のバイクが、荒野から住宅街の方へ入っていくとボロボロになっている家や、あちこちで煙の上がる場所があった。
タケルが言う。
「お出ましだ」
「既にここまで来てるのか」
俺の気配感知にも、多数のゾンビの気配が伝わってきた。生存者も多少、立てこもっているようだが、既に街のあちこちにゾンビがうろついているのだった。
「どうする?」
「構っていては時間がかかる。ゾンビ化人間と試験体を探すしかないだろう」
「了解だ」
バイクの音につられ、ゾンビがこちらに寄って来るが、それには構わずに奥へと進んだ。そしてタケルがスマートフォンを取り出して言う。
「えーっと。例のボクサーの家はこっちだな。それともジムに行った方がいいのかね?」
「どこから始まったのだろうな」
「分からねえ。俺達がニュースを見た時は、ベガスは荒れ果てた姿だったからな」
「なら、ジムに行ってみるか」
「よっしゃ。付いてこい」
そしてタケルがスマートフォンの地図を頼りに、ジムがある方へと進んでいく。先に進めば進むほど、人の気配が少なくなりゾンビが増えていった。
「知性の無い奴ばかりだな」
ガウガウと声を出しながら、俺達のバイクを追うゾンビ達。ほぼ手遅れの状態のようで、一帯はもう人が生きれる環境には無かった。
「あれだ!」
特徴的な建物が現れる。そこが、エンハンサーXを使用したボクサーが所属するジムらしい。
「ゾンビを少し排除する」
「了解」
俺はバイクを下り、
「飛空円斬」
見える範囲のゾンビを切って落とした。だがじきに、またこちらに流れて来るだろう。
「いくべ」
「ああ」
俺達はバイクを下りて、そのジムへと向かって行った。中にゾンビがいるが、まずは手がかりがないか探る必要があった。入ってすぐに、ゾンビ達がこちらを振り向く。タケルが無造作に歩いて行って、モーニングスターでスキルを使った。周囲のゾンビが、一気に潰れていなくなる。
「まずは、あのボクサーがいるかどうか探そう」
「んじゃ、おりゃこっちに行く」
「派手に潰せ」
「あいよ」
そして二人は別れてあちこちを探した。だが何処にもあのボクサーはおらず、結局建物の中にいたのは普通のゾンビだけだった。
「あーあ。勿体ねえなあ……未来の世界チャンピョンがいたかもしれねえのに」
「仕方がない。既に人ではなくなっている」
「んで、奴のロッカーを見つけたぜ」
二人でロッカーに行き、俺が鍵のかかった扉を斬る。そしてそこにぶら下がっている上着から、エンハンサーXの気配を感じた。
「やはり、薬を使ったようだな」
「やっぱそうか」
「問題は薬を使った奴が何処に行ったかだ」
「まったくよ。つうか、ゾンビがこれだけ広まってるつうことは」
「間違いなく。ファーマー社が動いてるだろう」
「だよなあ。このボクサー、関係してると思うか?」
「無いとは言い切れん」
「あれか、博士の言っていた、適合者か?」
「知性を保っているのならそうだと言っていた」
「ぶっ壊れてる可能性もあるんだろ?」
「その通りだ」
俺達はその事務を後にし、外に出てバイクにまたがる。
「そいつん家に行って見るか」
「そうしよう」
そして俺達は、荒廃するラスベガスの中心に向かって進んでいくのだった。あちこちではヘリが飛び交い、銃声が聞こえて来る。
「銃声だ」
「警察か軍か、いずれにせよ俺たちも撃たれっかもしんねえぞ」
「家まで地図をおぼえる。見せてくれ」
思考加速をして、タケルが見せた地図を覚える。そして俺はタケルに言った。
「ついてこい」
俺がバイクを急発進させると、遅れずにタケルが付いて来た。これで警察や軍に打たれる事はないだろう。うろつくゾンビと、散乱する車を避けて進み、俺達はボクサーの家の前まで来た。俺がバイクを止めると、タケルがその横に止まる。
「あそこか」
「そのようだ」
「随分、堅牢な屋敷だな」
「探るぞ」
俺達は高い塀を乗り越え、屋敷の中に飛び込むのだった。だが……屋敷の中には人の気配もゾンビの気配もない。
「静かだな」
「入ろう」
屋敷に侵入して直ぐに気が付く。
「血の匂いがする」
「まじか」
「こっちだ」
俺達がそこに行くと、 何人かが倒れている。そして俺はその死体を確認する
「これは、ゾンビじゃないのに銃殺されているぞ」
「ひょっとして、こっちの子供もかい?」
俺がその子を見ると、同じ様にゾンビじゃないのに殺されていた。そして屋敷を探してみると、また人が死んでおり、違う部屋にまた子供の死体があった。
「こりゃひでえな」
「押し入りだろうか?」
「こんな堅牢な屋敷にかい?」
その時だった。地下に気配がする。しかも人間の気配が。
「地下に一人いるようだ。どこかに地下に行く階段があるはずだ」
「よし」
だが、どこを探しても地下に続く階段がない。ある部屋で、タケルが何かを見つける。
「この床の一部だけ鉄だ。ここが入り口じゃねえのか?」
「どうやって開ける?」
「さて?」
「斬るか」
そして俺は剣技を繰り出した。
「断鋼裂斬」
ギィン! と裂け目が出来て鉄の扉が落ちる。
「随分分厚いな。十センチ近くあるぜ」
「なんだここは」
「たぶんよ。パニックルームかシェルダーだ」
「隠れ家か?」
「そんなところだろうよ」
俺達が下におりて、気配のする方向に行く。暗く灯りが灯らないので、タケルがスマートフォンのライトをかざした。
すると……部屋の片隅に震える、小さな子供の姿があったのだった。




