第546話 ファーマ―社対策と異変の発見
オリバーと酒を酌み交わしていたが、なぜか俺につきあってオリバーはすぐに酔いつぶれてしまった。ボディガードが俺を送ると言い出したが、オリバーから離れないようにしろと忠告する。
そして俺は、入り口までボディガードと一緒に出て、もう一度忠告する。
「やつらは本当に危険だ。もっと人数を増やせ」
「武装した人間が二十人もいるんだが」
「足りてない。そして出来ればこの邸宅周辺にも、もっと私服で警らさせるようにしろ。異変を感じたらすぐに動けるようにしておくんだ」
「忠告は聞いておく」
「俺がそう言っていたと、オリバーが目覚めたら言え」
「わかった」
「そして、この銃を一丁置いて行く」
俺は、クキに言われて持ってきた銃をボディーガードに渡す。
「銃ならいくらでもある」
「いや。普通の敵ならそれでいいが、死なない敵が現れるかもしれない。その時は迷わずお前がこれで撃て。だが今は銃弾の数が限られてる」
ここまでにゾンビ破壊薬入りの銃弾は無くなってしまったが、アビゲイルは俺の血を使って血清とやらを作ったのだ。それを加工した弾丸に含め、装填したのがこの銃だった。
「わかった」
「死なない敵に使うんだ。わかったな」
「ああ」
俺はボディガードに別れを告げて、走り出し屋敷の角を曲がって消えた。念のためビバリーヒルズの周辺を走り回り、敵が来ていないかを確認するが、それらしき者はいなかった。
「一応。仲間の警護は回っているようだな……」
今は、アビゲイルがアジトで、俺の血清をせっせと作っている頃だ。だが、ここの警備全員に渡せるほどの弾丸は準備出来ていない。万が一ゾンビ化兵に襲われたら、警備の奴らは全滅する可能性がある。だがまだ、表立ってクレイトン家に宣戦布告はしないだろうと、シャーリーンが言っていた。
そしてそのまま、仲間達の元へと走った。ドアの中に向かって言う。
「戻った」
「おかえりなさい」
ミオが迎え入れてくれた。俺が中に入ると、シャーリーンが聞いて来る。
「どうでしたか?」
「オリバーは動くそうだ。だが、気になるのは警備体制だ。アビゲイルの血清と、クキがやっている銃弾の加工を急がないとだめだ」
それを聞いて、ミオが言う。
「総出でやってるけど、手作業だとやっぱり数が増やせないみたい」
「そうか」
アジトの別室では、アビゲイルと皆が銃弾作りをしていた。オオモリは相変わらず、パソコンと壁のモニターを睨んで情報を追っている。
まずオオモリの所に行くと、オオモリが俺に言った。
「お帰りなさい」
「どうだ? 何か変わった事はあったか」
「まあ……ありまくり……と言った方がいいでしょうね」
「なんだ?」
「これを見てください」
そう言って、正面に置いてある大きなモニターに動画を映す。そこには鎧のような物を身に着けた男達が、変わった形の玉を追いかけていた。
「ん?」
「わかりました?」
「コイツが異常だ」
「アメリカンフットボールっていう競技なんですけどね。この人が変だなって」
みな体が大きいが、その中で中くらいか少し小さいくらいの男が大男を吹き飛ばしたのだ。体の質量を考えても、その破壊力が尋常ではない。
「映像ではハッキリは分からんがな」
「ここ数試合前から、いきなり頭角を現したみたいなんです。元はそれほどパッとしない選手だったんですが、いきなりフィジカルが強くなったと言われています」
「本人は何と言っているか分かるか?」
「練習方法を変えたと言ってますね」
「練習? 体術も何もない。この当たり方からしても、絶対に当たり負けるはずだ」
「はい。まるで、自分の命など惜しくないと言わんばかりの当たりです」
「そのようだ」
「細いのに強いヒカルさんみたいな感じですよね?」
その男の腕は引き締まっていて筋肉もついている。だがその筋肉量から考えてもおかしな状況だった。
「これはどこで?」
「各地で試合はありますが、ロサンゼルスかラスベガスにも遠征に来ます。調べておきます」
「そうしてくれ」
「そして、もっと凄いのがこれです」
次はロープで囲まれた場所で、手袋をつけて殴り合っている映像だった。
「ボクシングなんですけどね」
「こっちはもっとはっきりしてる」
「そうなんです。こちらのボクサー昔はすごかったんですけど、もう引退間近と言われていたんです。最近は戦績もそれほどパッとしなかったんですが、ここにきて連戦連勝なんです。それよりも驚きなのは、最近の試合で相手が死にました」
「見れるか?」
「はい」
男が殴り合っているが、明らかに片方の被弾率が高い。それなのに、全く怯む様子もなくガンガン前に出ている。
「今のパンチを受けたのを見ましたか?」
「顔面が吹き飛びそうだったな。頭が揺れたはずだ」
「はい。それなのに、意識を飛ばす事も無く、ガンガン前に出ています」
「むっ?」
その状態で、打たれ続けている男が最後に放ったパンチが異常だった。そのパンチで相手の頭が異常なくらいに曲がり、そのまま倒れ込んで動かなくなった。
「前代未聞だそうです」
「折れたな……」
「はい。あの太い筋肉で覆われた首が折れたそうです」
「お互い同じ様な大きさ。そして腕と背中の筋肉から考えてもありえん」
「脳内出血とか、心不全とかならあるんですがね。なんと、骨がねじ切れそうだっみたいですよ。まるでヒカルさんやタケルさんが殴ったみたいです」
「この世界の人間の力じゃないな……」
「はい。それで、この男はチャンピオンに返り咲いたんです」
「こいつはどこにいる?」
「こっちはすぐにつかまるかもしれません。ラスベガスに住んでるみたいです」
「なるほどな」
「ただし。ファーマー社のエンハンサーXを使ったかどうかは定かじゃないんです。状況から不振だと思うだけで、本当に練習したのかもしれませんし」
「実際に見てみる必要があるという事だな?」
「はい」
俺とオオモリが話をしていると、ガチャリとドアを開けてミナミが入って来た。
「ヒカル。お帰りなさい!」
「ああ」
「言われたとおりに食べ物を用意したわ」
「エイブラハムの言った通りの食材か?」
「ええ」
俺が部屋を出ていくと、エイブラハムが台所で料理をしていた。
「おお、ヒカルよ。帰ってきたかね」
「少し前に戻って情報を見ていた」
「そうかそうか。血になるものを買ってきたが、本当にこんなに食えるのかね」
俺達の目の前にあるテーブルの上には、赤い肉の塊が置いてある。その脇には緑の草があって、まっかな血の塊のような物が置いてあった。
そしてぐつぐつと煮えている寸胴鍋と、大きなフライパンの上では肉が焼けていた。
「食える。出してくれ」
「赤みの牛肉十キロと、レバー五キロ、ほうれん草が五キロもあるんじゃがな。これを一食で行くのか?」
「ああ。一旦それを平らげたら、アビゲイルに血を提供して寝る」
「わかったのじゃ」
そう。俺は血清を作るために、大量に血を作る必要があった。血を作る食材を、エイブラハムがミナミと一緒に大量に買って来たのだ。それを料理してくれたので、俺はそれを一食で食う事にする。何回分かを買ってきたようだが、俺は恐らく一日で食いつくしてしまうだろう。
皿に盛られたそれを口にした。
「うまい」
「一応合わせて赤ワインもある」
「くれ」
そして俺は、一気に肉を喰らって緑の草を食った。ワインも二本ほど空け、全て食い終わったところでエイブラハムとミナミが呆れた顔をする。
「本当に食べたのにお腹が一切出てない……」
「不思議じゃのう」
「ご馳走様。アビゲイルのところに行く」
「う、うむ」
直ぐにアビゲイルの所に行くと、皆がせっせと作業をしていた。出来た血清を加工した銃弾に入れ込んでおり、俺が入っていくと皆が顔をあげる。
「お、帰ったか」
「血の準備が出来た」
そこでアビゲイルが言う。
「今朝も、とったばかりですよ?」
「問題ない。直ぐに作れる」
「わ、わかりました。では採血を」
そして俺はゆっくりと血を提供し、それが終わるとアビゲイルが言う。
「めまいとかはしませんか?」
「一切ない。もっと取れ」
「いえ。一旦寝てください」
「わかった」
そのまま俺は寝室に行って、直ぐに体に身体強化をかける。
「ヒール! 蘇生! 新陳代謝向上! 細胞活性!」
体が次々に光り輝いた。体温が上がり軽く発汗し始める。俺はすぐに目をつぶり深眠に入るのだった。




