第542話 焦り出したファーマー社
縮地で消えた俺は次の瞬間、ゾンビ化兵達が乗ったワゴン車の上に居た。裁判所に辿り着く前に、始末しなければならない。みるみる裁判所が近づいて来たので、俺はすぐに行動に移した。
「さて」
シュパ!
天井を丸く切り抜いて、ストンと中に飛び降りる。屋根の鉄板ごと下に降りたのだ。
「な……」
「えっ……」
「へっ……」
突然、車内に落ちてきた俺を見て敵が唖然としていた。あまりの出来事に、咄嗟に動く事も出来ないでいる。その銃口が俺にむくまえに、村雨丸を振りぬいた。
「屍人 冥王斬」
ジュパン! 内部から水平に円を描くように、六人のゾンビ化兵ごと車を斬る。すぐさま天井の穴から飛び出して、裁判所のビルの屋上へと飛び移った。
ドン! ガガガ!
下の道では、上下に分かれた車が、街灯のポストに激突して止まる。
「事故だ!」
次の瞬間、ボウッ! と車が火を噴いて燃え始めた。オリバーのそばには、あの屈強なボディーガードが二人囲み、周りを警戒しているようだった。依頼者らしき人たちも、その後ろに隠れて震えている。
「よし」
オリバー達が危機感を感じてくれるだけでいい。それがあれば、ボディガードも慎重に動くだろうし、俺も彼らを守りやすくなる。
そのまま路地に飛び降りるが、皆は燃える車に目がむいており俺に気づかない。燃え盛る車を尻目に、俺は認識阻害のスキルで人ごみに紛れる。オリバー達は真っすぐ、裁判所の前に止めてあるワゴン車まで走り抜けた。オリバーと依頼者が乗り込んで、ワゴン車が出発する。
「来たな」
そこに、クキが運転するワゴン車が現れた。俺が飛び乗って言う。
「あのワゴン車だ」
「乗るのを見てた」
見失わないように、急いで後を追いかける。
「ファーマー社が早速、仕掛けてきた」
「そうか、あの燃える車はファーマー社か」
「ゾンビ化兵が乗っていた」
「そうかい」
「ツバサ達の車は?」
「すでに、オオモリがオリバーらの宿泊先を突き止めて、先に向かってるよ」
「よし」
「恐らく、オリバーが頼んでいるセキュリティはプロだ。俺達の車を、敵と勘違いするかもしれん」
「なら、追うのをやめてオオモリ達に任せればいいか?」
「いや……さっきの出来事で、行先が変わる可能性もある」
「なるほど」
俺達のワゴン車は、オリバー達が乗る車を見失わないようにつける。道は混雑しており、こちらも普通のワゴン車なのでそうそう目立たないはずだった。
するとミオのスマホが鳴った。
「はい」
ミオが、しばらくうんうんと頷いて電話を切る。
「大森君から。オリバーさんの乗る車のGPS反応は、目的地からどんどん離れてるって」
クキが答える。
「やはりな」
「それとツバサが、周囲で銃を操作した音を聞き分けたみたい」
「流石にツバサは耳が良いな。それで、どうするって?」
「むやみに接触せずに、様子を見るみたいよ」
「それがいい」
そして、ミオがスマートフォンの画面を見て言う。
「大森君から、追跡のデータが来た」
「よーし。それじゃあ、付かず離れず行くぞ」
そうしてクキは距離を取りつつ、オリバー達のワゴン車を追う事にした。しばらくすると、ワゴン車がある地点で停まるのを確認する。俺達が現地に到着すると、ワゴン車は既に居なくなっていた。
クキがミオに聞く。
「GPSの反応は?」
「動いてない。この近くに居る」
それを聞いて俺がミオに言う。
「どっちだ? 人が多くて気配感知が難しい」
「えーっと、こっちの方角かな?」
指をさした。俺は集中して気配感知を広げ、大勢の人間の中からオリバーの気配を探った。とりわけこの都市は人の数が多く、多くの中から見分けなければならない。次々に人間の気配を利き分けて、その先に微かにオリバーの気配を感じ取った。
「いた」
「見つけたか」
「皆はここで待機。オオモリ達も呼び寄せろ」
「了解」
「俺が行く」
そう言って車を降り、高速でオリバーの気配がした方へと進んだ。するとそれほど高級そうじゃない、ホテルではない住居ビルが見えて来る。どうやらホテルに行くのをやめて、隠れ家に潜伏したようだ。
俺はすぐにそのビルの路地裏に滑り込み、一気に五階建ての屋上まで飛び移る。念のため敵の襲撃に備え、金剛と結界は発動させていた。そのまま一気に屋上から、四階のオリバーが潜んでいる部屋のベランダに降りる。
窓の外から中を覗き込むと、オリバーと依頼者たちがいて、ボディガードも一人一緒にいるようだった。もう一人のボディーガードは玄関付近に気配がする。
「伝えてやるか……」
俺はコンコンと窓を叩いて、両手を挙げて待った。ボディガードが銃を構えて、こちらへやって来る。
「貴様! 何者だ! ファーマー社の差し金か!?」
「違う。俺はオリバーに伝えに来ただけだ」
「動くなよ。動けば脳天に穴が開くぞ」
「動かない」
だがそこにオリバーが来て、ボディガードに言った。
「ああ。私の客だよ。危険な者じゃない」
「しかし。このようなところに潜伏するなど」
「ああ、たぶん。このラッキーボーイに入れない所はないはずだ、そうだね?ラッキーボーイ」
「そうだ」
「それは……」
「いいからいいから」
窓を開けてくれたので、俺は手を挙げたまま中に入った。
「昨日ぶりだなあ!」
「危ない所だったぞ」
「裁判所の前の事故か!?」
「あれは、ファーマー社だ。本気で仕留めに来た」
「やっぱりそうか! あんな大事故、変だと思った。こっちに逃げて正解じゃな」
「裁判で情報を開示したのか?」
「本当に少しだけの真実を、幾つか小出しにな。それでも、充分核心をつく事が出来たわい」
「そうか。それがファーマー社に火をつけたらしい」
「なるほどなあ。敵さんは、そんなに動きが早いのか」
「それも、強力な武装集団が来ていたぞ」
「ふふっ。あははは!」
皆が突然笑うオリバーを見る。
「なぜ笑う?」
「それだけ、あの情報の信憑性が高いという事だ。それが確証されたわけだな」
「それはそうだ。俺達が、直にファーマー社から盗んだものだからな」
「本当に感謝しかない。これまでのらりくらりしておった奴らも、一気に真剣になったという訳だな」
「だが、危険だぞ?」
するとそこでオリバーが、セキュリティの男に言う。
「そう言う事だそうだ」
「そばには、我々がいます」
だが俺は首を振る。
「無理だ。普通の人間に奴らは止められん」
「これでも俺達は、元特殊部隊だが?」
「フォートリバティで、結構な数の特殊部隊がやられた」
それを聞いて、オリバーとセキュリティだけじゃなく、依頼人たちも目を丸くした。
「街が消えたというニュース……あれはファーマー社だったのか?」
「そうだ」
「そうだったか……」
そこでセキュリティの男が聞いて来る。
「爆撃を受けたのでは? などとニュースでは流れていたが?」
どう説明したものか……俺がやったとは言いにくい。
「まあ、そんなところだ……」
「ファーマー社について、改めて再認識じゃな。相当なバックが付いていると思って間違いないだろう」
「そのようですね」
そこで俺の気配感知に、一階付近から何かが伝わってきた。どうやら武装している人間達が、ここに入り込んできているようだ。
「武装している奴らが一階に入り込んできているが……仲間か?」
「いや。まだ来ないはずだ。その打ち合わせはしていない」
ボディーガードがそう言った。
すると俺のスマートフォンがなる。それを取って通話を繋げると、クキからの連絡だった。
「怪しいのが入ってったぞ」
「こちらでも察知している」
「気を付けろ。ま、相手が可哀想って感じだがな」
「忠告はもらっておく」
そして俺がスマートフォンを切って、ボディーガードに敵が二階に上がってきた事を告げた。
「どうしてわかる?」
そこで俺は、オリバーを見てニヤリと笑う。
「俺は勘がいいんだよ」
するとオリバーも笑って言った。
「ラッキーボーイの言うとおりにしよう」
「我々が撃退しますが?」
そこで俺がセキュリティに行った。
「俺が行く。窓に近づくな、彼らを守れ」
「わ、わかった」
そして俺は再びベランダに出て、無造作にそこから飛び降りたのだった。




