第541話 ファーマ―社訴訟裁判の後に
オリバーに俺達の潜伏するホテルがバレた為、すぐに違うホテルへと拠点を移す。もちろんカリムのホテルなので、調べられても俺達の行先がバレる事はない。
ファーマー社を相手に訴訟しているという事を知り、俺達はオリバーに重要な情報を渡した。その為にまだ薄暗い早朝から、次の行動指針を決めるための話し合いをしている。
「クレイトン家の護衛能力、そしてオリバーの動きをしばらく見張るか」
俺が言うとクキが頷く。
「だな。いきなり殺されたんじゃ、俺達も夢見が悪い」
そこでシャーリーンが言う。
「しかし、クレイトン家はかなりの財力もあります。こちらが変に嗅ぎ回れば、我々に火の粉がかかって来る場合があります」
「俺達が睨まれるという事か?」
「はい」
タケルが呆れ気味に言う。
「まあ……ファーマー社は手段を選ばねえからな。普通の守りじゃ守り切れねえかもな」
ミオが言う。
「そうよね……。で、ヒカルが言うのは、陰から見守ってみるって事かな?」
「そうだ。全て陰からやる」
「なるほどです。ミスターヒカルの言う事は分かりました」
「どうだ? オオモリ。オリバーの動きをキャッチできるか?」
「はい。既に、彼のスマホにも僕のAIウイルスが入ってますから」
「上出来だ」
コイツの仕掛けは、非常に面白い物だった。なんでも、オリバーのスマホに繋いだり通話したりすれば、AIウイルスとやらが広がり、全ての情報がオオモリに伝わって来るらしい。
「ほら、ヒカルさん。噂をすればですよ」
「動くか?」
「そうみたいです。盗聴内容を聞きます?」
「ああ」
そしてオオモリがパソコンを弾く。クレイトンと、誰かが話をしているのが聞こえてきた。
「クレイトンです。予定通りに法廷に行きます」
「わかりました! 先生! お待ちしております」
「うむ。まあ……今日はあまりいい結果は出ないかもしれん……」
「そうですか……」
「っと、思っていたのじゃがな。もしかしたら、ある程度、相手を揺さぶれるかもしれんぞ」
「えっ!」
「まあ、詳しくは言えんが。後は法廷で、どうやらあんたら被害者はラッキーだったよ」
「そうですか、わかりました!」
「それでは四時間後ロスで会いましょう」
「はい!」
通話が終わり、それを聞いてタケルが言う。
「早速。動くようだぜ、どうやら」
「悠長にはしていられん」
だけどタケルが楽しそうに言う。
「あの弁護士の爺さん。法廷に立つ前に、ラスベガスで遊んでたんだな」
それを聞いて、ツバサが言う。
「そんな遊び人、信用できるのかな?」
だがそれに、クキが笑って言う。
「よっぽど人間らしくて、信用に足ると思うがな」
「そういうものかしら?」
「翼。遊び心満載の、武や大森をどう思う?」
「あ、信用出来るわ」
「そうだ。人間らしいってのは、そう言う事でもある」
「なるほどね」
「言って見りゃ、裏表がないって事だ」
「わかったわ」
「じゃ、急ぎましょう」
シャーリーンの声に、皆が準備をし始める。もちろん行先はロサンゼルスだ。まだラスベガスの富裕層の調査はしてないが、その前にクレイトンの護衛を考えねばならない。特に裁判の前より後が問題で、ファーマー社が核心を突かれてどう動くのかが心配だった。
そして俺達はホテルを後にし、目立つキャンピングカーはやめて、二台のボックスカーをレンタルして行く事にした。
早朝のラスベガスは、夜ほど騒がしくはない。ジョギングをしているような人もいれば、犬を散歩させているような人もいる。至って平和な光景が広がっていた。
ラスベガスからロサンゼルスまでは、約四時間弱で到着した。その町並みを皆が見ている。
「大きな町だ」
俺が言うと皆が頷いた。
「ヒカル。とりあえず裁判所付近にいくぞ」
「ああ」
オオモリの追跡で分かった、裁判所のそばに車を停めてみていると、オリバーが警護と共に入っていくのが見える。
「入った」
「さて。どうなるかね?」
「待つしかないだろう」
そこに少し停まっていると、コンコンと窓ガラスを警官に叩かれた。
「はい」
「車動かして」
「わかりました」
「なら、俺とタケルは降りよう。クキ、行ってくれ」
「了解だ」
ミオが言う。
「気を付けてね」
「そっちもな」
俺達が車を降りると、クキが車を出発させた。すると、後ろにいたツバサが運転する車にも、声をかけれられている。車の中から、ミナミとシャーリーンとクロサキが下りてきた。そしてツバサが運転する車も行った。
俺達は合流して話す。
「やはり都会だけあって、潜伏する場所が難しいですね」
シャーリーンが言う。
「仕方ない。急だったし、これで十分だ」
「はい」
すると、ミナミがスマホを取り出す。
「大森君から。とりあえずまだ裁判が始まったばかりらしいわ。近くのカフェの場所を伝えてきた」
「んじゃ、そこでゆっくり待つとしようぜ」
俺とタケル、ミナミ、クロサキ、シャーリーンが、裁判所近くのカフェに入る。しばらくすると、どうやら二台の車も、駐車場に入ったらしい。
「どうします?」
「まずは待機だ」
シャーリーンがスマートフォンでクキに伝えている。それから俺達はカフェを出て周りを確認したり、またカフェにはいったりして数時間を費やした。このロサンゼルスと言う町はとても慌ただしく、多くの人種が行きかっており、今まで見たどの都市よりもその傾向が強いようだった。
そこで、ようやく動きが出たようだ。
「大森君からよ」
「なんと言っている?」
「裁判は今日で決着つかなかったみたい」
「こんなに時間をかけてか?」
俺が言うとクロサキが答える。
「まあ……大抵はそうだと思いますよ。日本とアメリカでは違うかもしれませんが」
だがそこでタケルが言う。
「んじゃ、みなさん。サングラスと帽子の準備はいいかい」
そして俺達はサングラスをかけ、帽子をかぶってカフェを出るのだった。
クロサキが電話をかけた。
「九鬼さん。こちら動きます。駐車場を出てもらえますか?」
「もう出た」
「了解です」
早ければファーマー社が動く可能性がある。こんな平和な日常をいきなり壊す可能性も少なくない。
そして裁判所の道向かいに到着すると、丁度オリバーと共に被害者の家族が出て来たところだった。
「来た」
そして俺が四人に指示する。
「二人ずつ散開しろ。タケルとシャーリーン、ミナミとクロサキで状況次第、仲間の車と合流だ。俺は彼らを追跡する」
「りょーかい」
「わかったわ」
二組に分かれて、裁判所の両側に回り込むように動いた。どうあってもすぐに駆け付けられるようにしつつ、俺は集中してオリバーを見ていた。
そしてすぐに反応が生まれる。それは俺の気配感知に引っかかった、一台の車の反応だった。なんとその車に、ゾンビ化人間が乗っていることが分かる。
「普通の人間なら気づかなかったものを」
俺はニヤリと笑い、フッと縮地でその場から消え去るのだった。




