第529話 ロズウェルのモーテルに潜伏
治験者たちを救出しに来た救急隊が騒然としている中で、俺達はこっそりと荒野の闇に紛れて消えた。警察車両が来る前に消えようと、クキが指示を出したからである。ランプの明かりが照らしている範囲を離れ、荒野の方に進み高台を登った。そしてクキが俺に言った。
「じきに、治験者たちは、俺達が居なくなったことに気が付くだろう」
「追われるだろうか?」
「いや、恐らくは他の事で大きな騒ぎになる。こっちに構っている暇はないさ」
「なるほど」
空には満点の星が輝き、気温の低さも相まって鮮明に見えていた。街道沿いでは、せわしなく救急車両が飛び出して行っているようだ。また遠方の方からも、点滅するランプが近づいてきているのが分かる。
タケルが言う。
「あの死にそうな二人大丈夫かな」
「わからん」
そこでエイブラハムがぽつりと言った。
「現代医学を信じるしかないじゃろう」
「だ……な」
「我々もすぐに動く必要があるぞ」
「そろそろ動くか」
それを聞いてオオモリがスマホを眺めながら言う。
「ですね。電波が入るので、どっちに行けばいいかわかります」
「よし。皆、体力は大丈夫か?」
誰も無理だとは言わなかった。俺達は、すぐ都市部の方に向かって歩き出す。暗闇の中ではあるが、星の灯りだけでも問題なく歩く事が来ている。それから一時間ほど歩いて行くと、街の灯りが見えて来た。
「街だ」
「んじゃ、一旦あそこで車パクるか」
「そうしよう」
そして俺達はぞろぞろと街に入り、彷徨っているうちに工場のようなところを見つける。門は閉まっているが、中にはずらりとトラックが停まっていた。
「ダンプか。仕方ねえが、あれを拝借しよう」
そして皆がコクリと頷く。タケルがすぐにエンジンをかけ、皆が荷台に乗り込んだので、俺は門の鍵を斬って入り口を横にスライドさせた。ダンプがゆっくりと出てきたので、そのまま門を閉めて俺がダンプに飛び乗る。
既にオオモリがネットを繋いで情報収集し始めていた。そしてシャーリーンが言う。
「ロズウェルに向かってください。車と物資をそこに手配します」
「了解」
「空気が汚れてないからか、夜空が綺麗よね?」
「そうね。美桜もいろんなところを旅行するのが夢だったもんね」
「まさか、こんな形で叶うとは」
そしてオオモリがスマートフォンを確認しながら言った。
「さっきの件、さっそく騒ぎになってますよ。メディアが大騒ぎしてます」
「どんなふうに?」
「行方不明になってた人らが、大量に発見されたって言われてます。じきにファーマー社の情報に辿り着くでしょうが、今のところは繋がってないようです」
「出たら、直ぐに消されるでしょうけどね」
するとシャーリーンがオオモリに言う。
「いつもどおりのパソコンスペックでいけますか?」
「問題ないです! 僕のAIウイルスちゃんは、どこでもリンクできますから」
「それでファーマー社の、メディアやネットの証拠隠滅を防げますね」
「任せてください!」
それを聞いていたアビゲイルが、スッとオオモリに近づいて言う。
「ミスター大森。あなたは素晴らしいわ、本当の天才です」
「そ、そんな事無いですよ! これはヒカルさんが体を変えてくれたおかげです。えっと、思考加速?」
するとアビゲイルはオオモリの手を取って言う。
「この世界では、あなたはとても強いわ」
「そうですかね?」
そんな話を聞きながら、マナがこっそりツバサに耳打ちしている。
「ねえっ。アビちゃんがタメ語なんだけど」
「本当だ」
「やっぱ、そうよね?」
「うんうん」
それに俺が質問する。
「マナ。そう、とはなんだ?」
「いいのよ。ヒカルは知らなくて」
「そうか……」
それから俺達は、再び盗んだ車乗り継ぎ作戦をしながら、ロズウェルの町へと到着する。適当なところで車を乗り捨てて、今日の宿泊施設を探した。
シャーリーンが言う。
「あそこに、さびれたモーテルがありますね」
「そこに身を隠そう」
「数部屋、空いてればいいのですが?」
「二つもあればいいだろう」
「はい」
シャーリーンが受付に行き、直ぐに鍵をもらって戻ってきた。
「二部屋なら空いてるそうです。ちょっと窮屈になりますが」
「構わん」
一つの部屋に、男五人。そしてもう一つの部屋には女が七人になる計算だが。適当に散らばって入った。テレビをつけると、どのチャンネルでも治験者救出のニュースでもちきりだった。
オオモリが言う。
「シャーリーンさん。物資が届くのはいつですか?」
「流石にここは大都市から遠いので、明日の午前になりますね」
「わかりました」
そしてクロサキがテレビを見ながらクキに言う。
「警察が動くでしょうね」
クキが頷く。
「だろうな。この場合、どのくらいで動くもんだ?」
「まずは聞き込みでしょうから、直ぐにはチームを組んでは行かないでしょう。生存者達の証言の信憑性もありますし、ある程度裏取りをしておかないと問題になりますからね」
「いきなりは行かないという事か」
「そうですね。一週間はかかるかもしれませんし、その間に証拠隠滅されるかもしれません」
「なるほどな」
そしてオオモリがまた言う。
「迷惑配信者のふりをしてみるってのはどうですかね?」
「迷惑配信者のふり?」
「例えば、ヒカルさんと誰かがビデオを持って入るんです。しかもライブ配信で、勝手に入ったという体で中で起きている事を放映するんです」
「……」
「はは……すみません。ダメっすよね」
だがクキとクロサキが顔を合わせてオオモリに言った。
「ありだな」
「ありですね」
「本当ですか?」
「そうだ。基地の中でワザと犯罪行為を起こすんだ。こっちが悪いようにな。盗んだり壊したりしてもいいだろう」
「そうするとどうなりますか?」
「こちらからファーマー社に成りすまし偽装の被害届を出す。そうすれば警察も踏み込まざるを得なくなる」
「そっか。あとは誰が行くかですかね?」
「そう言う悪い事って言ったら」
そう言ってクキとクロサキがタケルを見る。
「へいへい。やりますとも」
「目だし帽を忘れずに」
「りょーかい」
そして俺とタケルが、もう一度ファーマー社の研究所に入る事になるのだった。




