第522話 治験者を開放していく
この研究所も今まで潜入して来た場所と似ており、複雑な地下構造をしている。真っすぐ下には向かっているが、奥のエリアにも何らかの施設がありそうだ。ダンジョンというほどではないにせよ、今までの経験が無ければ目的地までたどり着くの容易では無かっただろう。だが、今回は逃げて来た道案内人がいる為、まっすぐに目的の階層に辿り着いた。
「この先だ。通気口から抜け出て来たんだが、あなた達なら何とかするつもりなんだろう?」
そこでタケルが言う。
「正面突破だよ」
「この先は、堅牢な鉄の扉が何重もあるのだが」
「あって、無いようなもんだ」
その言葉通りに、俺が剣技で人が通れるくらいの穴を作る。それをみて男が言う。
「いったいそれはなんていう武器なんだい。見たところ、サムライソードに見えるが」
それには俺じゃなくミナミが答えた。
「サムライソードよ」
ミナミも新しい日本刀を持っていて、制圧するのに散々人間を斬って来た。血のりで切れなくなってきたと言っているが、それだけの階層を下りて来たのだ。ミナミは一度、米軍に捕らえられたため、シャーリーンが用意した日本刀を手にしている。男が目を丸くして言った。
「ジャパンアニメのあの技は本当だったんだな」
「そうよ」
ミナミは自信満々に答えていた。大好きなアニメのようだと言われ、よっぽど嬉しいのだろう。
俺達が先に進むと、いよいよゾンビ因子の気配が濃厚になって来た。
「ゾンビの気配が濃い」
それにアビゲイルが答える。
「ここに持ち込まれたか。もしくはここで生まれたかですね。いずれにせよ、生存している治験者たちが生きていると良いのですが……」
そこで助けた男が言う。
「不吉な事を言わんでくれ。俺の妻と娘もいるんだ」
「申し訳ありません」
確かに人間の気配がするが、それが生存者であるかどうかは分からない。だが俺の気配感知に別の反応がある。
「お出ましだ」
俺が気配感知で掴み取っているのは、ゾンビ化人間の気配だ。
「侵入がバレたか」
「そのようだ」
曲がり角の向こうに四体のゾンビ化兵が走り寄ってきているが、俺は村雨丸に手をかけてそいつらが角を曲がる前に剣技を発動させた。
「屍人斬 炎蛇鬼走り」
ゴウと村雨丸の先から炎の蛇が出現し、それが地面を這って廊下を曲がっていく。ゾンビ化兵の気配が消えたのを確認し皆に言った。
「行くぞ!」
皆が付いて来る。男も、あっけにとられつつ並んで走った。そして広い場所に出る。その先はいくつもの扉があって、その中に人間の気配がしていた。だが数人はゾンビ因子を体内に有しているようだった。
男が俺達に言う。
「ここが、治験者が捕らえられている場所だ」
「まるで牢屋だな。こんな所に閉じ込めてるのか?」
「そうだ」
「あんた良く逃げ出せたな」
「生存者達が騒ぎを起こして、その隙に食事のカートに紛れ込んだんだ」
「命がけだったのか」
「そうだ。早く助けてほしい」
俺とタケルが、その牢獄のような扉をひとつひとつ壊して行った。だが人々は中に固まって、扉を開けても出てこないようだ。その一つ一つに女達が声がけをして行く。
「助けに来ました! 出てください!」
「無事ですか! 逃げましょう!」
「具合の悪い人はいますか!」
肌に血管が浮き出て目が充血している、ゾンビになりかけの人間もいる。それらは隔離されていたようで、俺は一気にゾンビ因子除去施術の魔法を発動した。皮膚からゾンビ因子が排出されて真白になっていく人達。ようやく自分の足で立ち始め、部屋から出てくる。
結構な人数を助けたが、どうやらこの奥にも収容所があるらしく、次の扉も破って入っていく。するとそこにも大勢の人が囚われていた。再びゾンビ因子除去を発動するが、もうゾンビになっていて手遅れの人間もいるようだった。
その時。
「エマ!」
「お父さん!」
よかった。どうやら逃げた男が娘と再会したらしい。娘は大泣きしながらも男にしがみついている。顔が真白になっているので、ゾンビ因子を投与されていたのだろう。父親が娘に聞く。
「母さんは?」
「うえええ。連れて行かれちゃったのぉ」
「なんだと!」
男が真っ青な顔で俺達を見る。そして俺は女の子に目線を落として、もう一度話を聞く。
「お母さんは、あれに変わっていたかい?」
「ううん。普通だった。私が……もう変になってて……」
すると、それを聞いたアビゲイルが言う。
「インドのチェンナイで会った、シャンティのようになっているのかもしれません」
人魚にされていた、ゾンビ化人間の子供の事を言っている。
「ここでもあの試験をしているのか」
「耐性があるか、抗体を持っている可能性がありますね。手術を受けているかもしれません」
「そうか、急がねばな」
「やはり、耐性のある人間を探してゾンビ化手術を行っているんです」
アビゲイルの言葉が終わるとすぐ、俺は精神を研ぎ澄ませて、ゾンビ化兵とは違う反応を探した。気配感知が広がっていくと、その気配はもう一階層下にあった。
「急ぐぞ! 救出を早めよう!」
皆が急ぎ生存者達を救出した、既にゾンビになったものは破壊するしかなく、皆は淡々とそれらを処理して行く。
だが生存者の一人が言った。
「殺したのか!」
「違うわ」
「そいつは俺の知り合いなんだ!」
「もう、手遅れよ! ゾンビになっていたわ」
「錯乱していただけだ! ゾンビなんてあるわけ無いだろう!」
なるほど、このような状況になっても受け入れる事が出来ない奴らがいるようだ。だがそれに構っている時間は無く、クキが声を大きくして言う。
「とにかく! ここから脱出するなら俺達の力が必要だ! まずは従ってくれ!」
「お前達を信用出来ない!」
逃げて来た男が言う。
「違う。この人らは特殊部隊なんだ! 俺達を助けに来たんだ」
「特殊部隊だからと言って、人を殺して良い理由にはならん!」
まずいな……。
するとシャーリーンが俺に言う。
「究極の状況とストレスで、錯乱状態になっているようです。今は放っておきましょう」
俺達が頷いて、タケルが大声で言う。
「んじゃ、ついて来れる奴だけついてこい!」
そういうと、三分の一が俺達についてくる事を拒んだ。だがこれはどこに行っても同じ、ニューオーリンズでも似たような事が起きた。
そうして俺達は、その三分の一のグループと別れて更に奥へと入っていくのだった。




