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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第51話 見せたいもの

 国道四号線を進んでいくと広い河の橋に差し掛かった。橋から下を見ると河は緩やかに流れているようだ。このあたりには住居などは無くゾンビの気配もなかった。


「河だ」


 俺がポツリと言うと、運転しているユリナが言った。


「利根川よ」


「トネガワ?」


「そう。この国の三大河川の一つ」


「河があると言う事は、海もあるのか?」


「もちろん。これは太平洋という海に繋がっているわ」


「タイヘイヨーか」


「そう」


「この世界にも海があるのか…」


 しみじみと言う。俺は、前世の勇者パーティーで海にたどり着いた時の事を思い出していた。あのとき俺達は神器を求め、大きな港町から他の大陸へ向かう船に乗ったのだった。


「ヒカルの世界にも海はあった?」


 ミナミが俺に聞いて来た。


「ああ。綺麗な海だった」


「思い出があるのね。私も海は好きだよ」


「なんというか心が安らぐ。だが航海となると話は別だがな。嵐ともなれば容赦なく牙をむいて来る」


「そうなんだね」


「この国以外にも大陸はあるのか?」


「あるよ。と言うかこの国は小さな島国なんだ」


「小さな島国?」


「そうだよ」


「小さな島国か。もしかしたら、民家密集しているのは国が小さいからか?」


「たぶんそうだろうね。大陸はもっと広いのよ」


 そういうことか。この国にやたらとゾンビがいるのは、国が狭いからかもしれない。武器を持たなければ、あっという間にやられてしまうのもうなずける。ゾンビやスケルトンが密集する、死の谷のような状態になっているのだろう。


「大陸とやらはどうやって行くんだ?」


「それこそ、最初にいた空港から飛行機で飛ぶのが普通かな。あとは船で行くとかね、だけど今は飛行機も船も動いてないの」


「港には行ったのか?」


「ううん」


「もしかしたら動いている船があるんじゃないのか?」


「それがね。まだ平和な頃に船でもゾンビが出て、到着したころには船は全滅してたのよ。だから船での渡航が禁止になったりしたの」


「そう言う事か」


 武装もせずに体術も身についてないとなると、ゾンビが出てしまえばあっという間だったろう。俺なら片っ端から海に捨ててやるところだ。


 マナが前を見て言う。


「標識が出て来たよ」


 運転しているユリナも標識を見て言った。


「本当だ」


「春日部一五キロ、東京四十六キロだって」


「都心まで一時間ちょっとってところね」


「いま、時間は四時くらいだから、陽が落ちる前にはつくと思うよ?」


 だが俺の答えは同じだった。


「到着してから安全なビルを探し拠点にふさわしいかの調査が必要だ。そして恐らく東京でトラックが立ち往生してしまったら、俺達の誰かに被害が出るかもしれん」


「それはダメね」


 気づけば民家や大きな建物がちらほら見えるようになってきた。ヤマザキには言っていたのでそろそろトラックは止まると思うが、このあたりに一晩過ごせる良い場所を確保すべきだ。


「あ、ウインカー」


 前のトラックが、左にウインカーを上げて止まった。ワゴンをトラックの脇に止める。窓を開けてマナがトラックのヤマザキに聞く。


「このあたりで一夜を過ごすの?」


「もう越谷だからな、その前にタケルが寄りたい場所があるって言うんだよ」


 そう言うと、ヤマザキをどけるようにタケルが窓から顔を出して言った。


「あのさ! ヒカルにいろいろ見せてやりたいんだよ!」


 タケルが何かを訴えている。


「どうした? タケル?」


「テレビとDVD持ってきたじゃねえか! 発電機もあるしよ! どうせこのあたりで一夜を越えるならDVD見ようぜ! あそこにDVD屋があんだよ!」


「ディーブイディーを見る?」


「まあ見りゃわかる」


 確かに興味はある。だがこればかりは皆の意見も聞く必要があった。


「ヤマザキは良いのか?」


「ゾンビはヒカルが何とかしてくれるのだろう?」


「もちろんだ」


 すると車の中に座っている女達が口々に言った。


「みようよ! ヒカル!」

「そうね。ていうか私達も映像なんてしばらく見てないし」

「良いと思うよ。まあ安全な場所を確保してだけどね」

「それは皆で力を合わせればできるよ!」

「じゃ、決まりって事で!」


 俺はタケルに言う。


「行こう」


「よし来た! じゃレンタルDVD屋にゴーだ」


 そして俺達が乗る車が駐車場に入って行く。気配感知で内部を探ると二体のゾンビが居た。


「ゾンビがいる。片付けてくるからまっていろ」


 そして俺はバールを持って、レンタルディーブイディー屋のドアに行く。ドアは鍵がかかっておらず普通に開いた。内部に侵入すると、離れた場所二カ所にゾンビがうろついている。


「ここはなんだ?」


 今までの店とは違い、まるで図書館のような作りになっていた。周りをきょろきょろ見ながらも、一体目のゾンビを片付ける。すぐにもう一体に近づくと、さっきのゾンビと同じ服を着ていた。


「仲間か?」


 すぐにゾンビを片付けて二体を一か所に横たわらせた。他に扉が無いかを探ると、裏手の方に一カ所入り口があった。だが、そこの扉には鍵がかかっていた。内部の安全を確認した俺は、すぐに外に呼びに行く。


「片付いたぞ。車に鍵をかけ忘れないようにな」


 俺が言うと全員が下りて来てディーブイディー屋に入り、ヤマザキが入口の鍵をかけた。


「とりあえずこれでゆっくり見れるだろ」


「ああ」


 この店は今まで見たどの店とも違う。俺はその不思議な空間に誘われるように、店内をさまよい始めた。そして陳列されている物を手に取ってみる。だがそれは本では無く写真が貼ってある箱だった。するとタケルが声をかけて来た。


「それで映像が見れるんだよ」


「これでか?」


「そうだよ」


 俺は箱をひっくり返したりしてみるが、こんなもので映像が見えるとは思えなかった。


「てかさ、俺ちょっと気になっていたのがあってな。まずタケルの事スー〇ーマンだっていったろ? それとさ、あとはアニメなんだよ。俺もあんま詳しくねえけど、もしかしたらと思ってよ」


 俺はタケルの言っている事がまるでわからない。だが彼の言うとおりにしようと思う。そこにユリナとマナとミオがやって来た。ユリナが俺の前に出してくる。


「こういうのも良いかと思って」

 

「それはなんだ?」


「世界の絶景と宇宙の風景」


「そんなものが見れるのか?」


「そうよ」


 そして今度は、ツバサとミナミとユミが来て言う。


「こういうのもあったよ! 漫画で見る日本の歴史」


「それはなんだ?」


「この国の過去が見れるものよ」


「そんなものがあるのか!」


「そうよ」


 するとタケルが言った。


「てかそんなん、ゾンビの世界になる前だったら絶対に借りなかったな。だけどヒカルには丁度いい気がする」


 するとヤマザキが言った。


「ヒカルは何か見たいものはあるか?」


 そして俺はタケルをチラリと見て言う。


「レースは見れるのか?」


「お! 待ってろ! 今持ってくる!」


 そしてタケルがレースのDVDを持ってきた。あと皆がそれぞれに自分の好きなものをカゴに放り込んでいく。俺は訳が分からないので、とりあえず入り口の前で待つことにした。しばらくすると皆が集まって来る。


「みんなもういいか?」


 ヤマザキが聞くとユミが言った。


「みんなすっごくいっぱい持って来たけど良いかな?」


 するとヤマザキが答えた。


「これから時間はたっぷりある。今日に限らず俺達はずっと生きていくんだからな」


「そうだね…じゃもっと持ってこようかな」


 するとツバサが言った。


「そうだよ。これからずっとだと暇になっちゃう、私ももっと持ってくるわ」


 そう言うとまた全員がカゴを持って店の中に散らばっていく。結局かなりの数のDVDを集めて、皆が両手にカゴを持っていた。どうやらそれぞれに興味のある物が違うようだ。俺は皆が集めるのを興味津々に見ている。


「全部トラックに詰め込もうぜ」


 タケルが言い。俺が外のゾンビを探査する。


「ゾンビはいない、行こう。そして、この周辺で堅牢な建物を探すんだ」


 ヤマザキが入り口のカギを開けて、皆が外に出て車に乗り込むのだった。外に出ると陽が傾いており陰を長く伸ばす。


「もう夕方なんだね」

「なんか一日長かったよね」

「結構いろいろ回ったもんね」


 そういいながら、女達は少し疲れたような表情をした。俺の想定通りこのまま東京に行っていたら、彼女らの誰かに被害が出た可能性がある。俺は問題ないが皆にはそれほど体力が無いのだ。ここぞという時に動けるように、体をじっくりと休ませる必要があった。


「明日は東京だ。装備の見直しもしたい、皆ゆっくり休むんだ」


「「「「「はい」」」」」


 皆が返事をする。俺達の車は市街地へと足を踏み入れるのだった。

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