第519話 ダラスのルイジアナフライドチキンで青春
ジェフ・ベイツ誘拐事件は、どのテレビ局でもでかでかと扱われていた。しかもそれに合わせたように、ザ・ベールの犯行声明が出る。そのおかげで、テレビもインターネットもそれに関するニュースでもちきりだった。
オオモリが言うには、もっと情報が拡散するのを待つらしい。
「とにかく今は燃料を投入していくだけですよ。既に政府のホームページや、国家感染症研究所のホームページに掲載する準備は出来ています。今は世界中の注目の的にする必要がありますからね。今は誘拐から戻って来たヒーロー扱い。とはいえ著名人がジェフ・ベイツを批判するような事を言えばそれを拡散し、SNSで有名人が呟けばそれを拡散します。いずれもっと高い地位にいる人間を追い詰める為に」
タケルがポカンとオオモリを見つめている。キャンピングカーの中で小さなテレビを見つつ、そんな話をしているのだった。
「おまえすげえな」
「それもこれも、僕がばら撒いたAIウイルスちゃんの力です」
それにマナが言う。
「キモいって」
「そんなぁ」
だがそれを聞いていたアビゲイルが言う。
「気持ち悪くなんてありません。そのおかげで、いろんなことが出来ているのですから」
「ま、まあそうね」
俺達は今、ニューメキシコ州に向かってハイウェイを走っていた。もちろんスピード違反をすると止められるので、法定速度を守って走り続けている。広い道は何もない平野の上にただひたすら続いており、気候も気持ちの良い感じだった。
そしてツバサが言う。
「十時間以上乗ってるから、お尻が痛くなってきちゃったわ」
それにシャーリーンが答える。
「まもなくダラスに到着します。そこで物資の補給をしますのでもう少し我慢してください」
「はーい」
そしてクキが運転席から言う。
「立体交差が見えて来た。降りるぞ」
そして俺達はハイウェイを下りる。
「あっちの方に高層ビル群があるわね」
窓から見える先にビルがそびえ立っている。
「都市内には入りません。仲間との接触はショッピングセンターで行われます」
クキが言う。
「なら、そこで飯も食おう」
「はい」
そして俺達は地図を頼りに、ショッピングセンターの駐車場に入った。家族連れや主婦が歩いていて、駐車場はひっきりなしに車が出入りしている。シャーリーンがスマホを見ながら言う。
「まだ仲間は来ていません」
同じ姿勢を取っていたタケルが、うーんと背伸びをしつつ言った。
「んじゃ、まずは飯だな!」
「「「「わーい」」」」
皆がぞろぞろと下りて行くと、俺達アジア人の集団が珍しいのか、目を引いた。
「別れた方が良いな」
「そうね」
俺にはミオとマナとツバサとミナミが付いて来た。そしてミオが俺に言う。
「何食べる?」
「肉が良い」
するとツバサが指をさして言う。
「ルイジアナフライドチキンだって! あれよくない?」
「「「さんせーい」」」
決死の旅を続けているが、こうしてみると四人ともただの女の子。本来は、恐ろしい敵と戦う事など無い人種だ。人の死もたくさん見て来て、それでもこうして明るく振舞っている。
けなげな彼女たちを楽しませてやりたい。俺は突然そんな風に思えた。
「良し! 俺が凄くいっぱい食うところを見せてやる」
なぜ、俺がそんな風に思ったのかは分からない。だが、こんな平和な土地を旅している間に、そんな気持ちが首をもたげてきたのだ。俺が変な事を言ったからか、四人とも俺をポカンとした顔で見ている。
「ど、どうしたのヒカル?」
「武ならいざ知らず、ヒカルがそんな事を言うなんて」
「武に何か吹き込まれた?」
「そうなんでしょ?」
だが俺は首を振った。
「タケルは何も関係ない。アイツはアイツでエイブラハムとピザを食うんだとか言っていた」
「そ、そうか。なんか突然だからびっくりしちゃって」
「金はあるんだろ?」
「うん」
シャーリーンが、資金を用意してくれているので問題は無い。店に入れば美味そうな匂いが立ち込め、店内では家族連れが飯を食っていた。そこで俺とミオがカウンターに行き、注文を始めた。
ミオが女達から聞いて来たメニューを注文する。
「えーっと、チーズチキンバーガー二つと、エッグチキンバーガー二つ、あとはチキンセットを四つ、飲み物は全部ジンジャーエールで」
「はい」
「ヒカルはどうする?」
俺がメニューを指さしながら言った。
「では、チーズチキンバーガーを十個。それとチキンを五十個とポテトを五人分。シュリンプを十人分くれ。飲み物はコーラの一番デカい奴を三つくれ」
「ホワい?」
俺はミオに言う。
「伝わらなかったか?」
「いや。その数に驚いているみたい。持ち帰るのか? って言ってるわ」
「店内で」
俺が言うと店内が騒然とする。厨房の中から男が出て来て、またミオに聞いているが、ミオはとにかく用意してくれとお願いした。
「かしこまりました」
それから席で待っていると、次々に料理が出て来て置ききれなくなった。すると店員がやってきて、隣のテーブルもくっつけて乗せてくれる。
店内の家族連れが注目しているが、俺はその子供達にニヤリと笑って食い始める。次々に料理を腹に収めて、ミオ達も唖然とし俺が食うのを見ている。すると家族連れの親父や、子供達が俺を応援し始めた。
もちろん次々に腹に消えても、腹が出る事は無い。俺の筋肉はそんな事では変化しない。
「頑張れ兄ちゃん!」
「凄い! ヒーローみたいだね!」
「良く入るなあ!」
周りの家族がそんな事を言う。だが俺はニヤリと笑ってどんどん放り込んで言った。最後の肉を食ってコーラを飲み干した時には、店内の全員が拍手をしていた。
「凄いな兄ちゃん!」
「すごおぉぉい!」
「カッコいいぞ」
俺はタケルのように、ガッツポーズをとって子供達に見せつける。
すると厨房から、男がやってきて俺に記念品を渡して来た。記念品はフライドチキン十個。
「サンキュー」
俺が言うと、男がニッコリ笑って言う。
「おかげでお客さんが行列出来てるよ。もしよかったらまた来てくれ」
「機会があればな」
そうして俺達は、子供達の羨望の眼差しを受けながら店を出て来る。
「すごぉぉぉ!」
「ちょっとヒカル! お酒だけじゃないんだ」
「子供達のヒーローだったわよ」
「ほれぼれしちゃう」
皆が喜んでくれている。
やって良かった。これぐらいしか、皆を喜ばせる芸などないからな。
そんな風に思いつつ、キャンピングカーへと戻ると、クキが顔を出して言う。
「なんだ。フライドチキン屋に行列が出来てたぞ? なんかあったのか?」
そしてミオが事の顛末を告げる。すると男らが大笑いして拍手していた。
「どんな風の吹き回しだよヒカル」
「喜ぶかと思ってやった」
「珍しいな。ヒカルがそんなことやるなんて」
そして俺はフライドチキン屋からもらった土産を、待っていた奴らに渡す。
「これは土産だ」
「おっ。美味そうだ」
「頂きます」
そしてシャーリーンが言う。
「そう言う一面もあるのですね。ミスターヒカル。なんだか嬉しいです」
「ずっと車に揺られっぱなしで、つまらないかと思ってな」
「うふふ。補給は終わりましたので、まいりましょうか」
「そうしてくれ」
そうして俺達のキャンピングカーは、ダラスのショッピングセンターを出発し、高速道路に乗って西に向かう。テレビでは、誘拐から解放されたジェフ・ベイツの、これまでの功績などが紹介されている。
それを見てオオモリが言った。
「こんないい番組を組んでもらっても、ジェフ・ベイツはビクビクしてるんでしょうねえ」
「破滅のカウントダウンか。可哀想なこった」
「いい気味だわ」
「まあな」
皆はフライドチキンを美味そうに食いながら、そんなテレビをボーっと見ているのだった。




