第518話 国家感染症研究所の局長を拉致
ジェフ・ベイツを捕らえるのは、赤子の手をひねるよりも簡単だった。オオモリのハッキングにより、全スケジュールを把握する事が出来、国家感染症研究所へ来る日があっさり分かったから。
そして俺達は、ザ・ベールのお面をかぶり車を襲撃。なにやら防弾ガラスとか言う物を使った車に乗っていたが、紙切れを切るより容易く斬れた。そこで俺は全員の意識を刈り取り、銃を出そうとした運転手のポケットにザ・ベールの手紙を忍ばせる。
拉致して連れて来たのは、街の郊外にあった廃屋工場跡地。その広い屋敷の中で、椅子に括り付け麻袋をかぶせたジェフ・ベイツが座っている。
「な、なんだ! お前達! 何をやっているのか分かっているのか! わ、私は…」
そこでミオが言う。
「知って居ます。国家感染症研究所の最高責任者、ジェフ・ベイツさんでいらっしゃいます」
「お、女?」
「私達は、ザ・ベールの一人」
「う……対抗……組織。本当にあるのか」
「本物よ」
「……」
どうやら、ザ・ベールの存在は知っているようだ。そこでミオが尋ねる。
「知っているようね」
「お、お前達。誰を敵にしているか分かっているのか?」
「さあてね。私達はあなたにそれを聞きたいの」
「し、知らんぞ。私のバックにはとんでもない組織が付いているんだぞ」
だがミオがあっさり言う。
「ファーマー社でしょ」
「なっ……」
「図星?」
「い、いや」
何か口ごもっている。
「今、死にたくないならいいなさい」
「なにもない」
「じゃあ、こっちが言うわ。あなたの他にも、医薬品食品安全省薬事局長、国務長官、がグルでしょう」
「う、うう……」
ジェフ・ベイツがガタガタと震え出した。どうやらこちらが、かなりの情報を知ってる事に驚いているらしい。
「あなたの口座に、定期的に多額の不明金が振り込まれているけど。幽霊企業からの振り込みだった。その先にはどんな組織がいるのかしら?」
「そ、それは……」
「言わなきゃ。直ぐ殺すけど」
それでも震えて何も言わない。
ミオがクキに目線を送ると、クキはジェフ・ベイツに繋がったケーブルの先にある機械を触る。
バババババババ!
「あがああああああ」
グッ! と動きが固まり、ジェフ・ベイツの髪の毛が坂立つ。
「止めて」
クキが外す。それは電気ショックを与えるもので、シャーリーンが組織に用意させたもの。
「あ、が……はあ、はあ」
「さて。心臓が止まらなくてよかったわね」
「や、止めて……くれ……」
「話せば、やめてもいいわ」
「な、なにをだ」
「振り込んだ相手は?」
「し、調べはついてるんだろう……?」
「あなたの口から聞きたいのよ」
…………。
「さあ」
するとジェフ・ベイツが言う。
「待てよ……その声……」
「あら、気づいた?」
「正義の女帝……」
「光栄ね。あなたみたいな地位の高い人に知られてるなんて」
「スイスにいたと思ったが……網の目を潜って来たのか」
「さあてね。でも、私がここに来たという事は、どうなるか分かっているかしら?」
ジェフ・ベイツは諦めたように言う。
「言えば……私は殺される」
「誰に?」
「分からん。だが命は無いだろう」
「あなたが殺される前に、相手を止めれば何とかなるんじゃないかしら?」
「そんなに甘いものじゃない。バケモノがいるんだ」
「なんだ。そんなこと? どうでもいいわ」
するとジェフ・ベイツは観念したように言う。
「……振り込んだのは、ファーマー社だ」
ミオがジョディを見る。録画ができたか? という合図だ。カメラを構えたジョディは深く頷いた。
「医薬品食品安全省薬事局長や国務長官にも振り込まれてたわよね?」
ガクリと頭を落とし答える。
「そうだ」
「そう。記者に嗅ぎつけられたり、捜査のメスが入ったりしたはずだけど?」
「……」
答えないので、ミオがクキを見る。クキが機械のスイッチを入れた。
「あがぁぁぁぁぁぁ!」
「切って」
「ハアハア」
「国家感染症研究所の人なら、どのくらいで自分の心臓が止まるか分かるわよね?」
「や、やめて……くれ」
「教えて」
「そ、そう言うのが現れたら、連絡をすることになっているんだ!」
「どこに?」
「分からない。だが番号だけ教えられていて、私の携帯からじゃないと連絡は繋がらない」
「そう……そこに連絡をするとどうなるの?」
「もう、嗅ぎまわっている奴らが、目の前に現れる事は無くなる」
「消されるって事?」
「そうだろう……その先までは知らないんだ!」
「それは、誰がやってるのかしら?」
「本当にわからない! 連絡をする事だけが義務付けられている」
「そう」
するとオオモリが、ミオに指で作った丸を見せる。どうやらオオモリは先を突き止めたようだ。
「もう、いいわ」
「殺すのか……」
「どうしようかしら?」
「や、止めてくれ」
「あなたなんか殺しても意味は無いかしら。もう行きましょう」
「ど、何処に連れて行くんだ!」
「帰りたいのでしょう?」
「殺さないでくれ!」
確かにコイツは悪人だが、傀儡に過ぎない。コイツを殺したところで、敵からすれば口止めとなるだけ。第二のジェフ・ベイツが作り出されるだけだ。
それから、クキとタケルがベイツを椅子に括り付けたまま、ワゴン車の後ドアから積みこんだ。口に猿轡をかけて、オオモリがその耳に音楽をかけたヘッドホンをかける。
「どうかしら? これが真相です」
ミオが言うとジョディが答える。
「私が思っていたよりも、もっと強大な組織が居たんですね」
「そうなんです。だからこそ、要注意なのです。下手をすればあなたも、彼氏も仲間も殺されてしまうでしょう。残念ながら、あなたのお父様はさっき聞いた通りです」
「分かりました……」
だがそこで、オオモリがジョディに言う。
「でもこのデータを見てください」
そこには不正な入金の情報や、口座からの紐づけ、どういう経路から来たのか、またジェフ・ベイツが隠している様々な情報がまとまっている。ハッキングにより、サーバーから抜き取った情報だった。
「これの一部は差し上げます。だけど、恐らく手に余るでしょう。だから僕に任せてください、あなたのお父さんの無念は僕がきっちり落とし前をつけます」
「あなたが?」
「明日の朝には、そいつがやった悪事が、ネットワーク上の至る所にばら撒かれます。敵がフェイク判定をしようと躍起になっても、各個たる情報として国家感染症研究所のホームページ上にも公開します。また、国家のサイトにもハッキングして、オフィシャルとして残します」
「国家の? そんな事が可能なのですか?」
「はい。消しても消しても、自動で掲載し続けます。サイトを閉じても、勝手に公開するようにします」
「なっ……あなた方は……いったい……」
「正義の女帝と仲間たちです」
「そうでした……そうですね。わかりました。ではお願いします」
そしてプチプチとオオモリがパソコンをいじる。
「あと、あなたの口座とサムの口座に結婚準備金を振り込んでおきます」
「えっ?」
「大丈夫。絶対に足はつきません。突き止める事は不可能なシステムですから。お父さんを取り戻す事は叶いませんが、あなたが幸せになればいい。ああ、ついでにマックスとベンの口座にお小遣いを振り込んでおきますか。喧嘩になるといけないですしね」
「そんな事が……」
「はい」
そして尋問は終わった。
「とりあえずこいつを捨てるか」
「だな」
そして俺達はジェフ・ベイツを、ジェフ・ベイツの家の前に縛ったまま降ろすことにした。ジェフ・ベイツの屋敷は超高級街にあり、とても大きくて高い壁に囲まれているようだった。ジェフ・ベイツは震えていたが、とりあえず俺が運んで置いて来る。
ついでに俺は、ザ・ベールのお面をつけたまま自宅の監視カメラに手を振った。そして縮地でその場から消え去り、数百メートル離れたワゴン車に戻って来た。
「どうでした?」
「恐らく周囲に監視している奴らがいた。俺が行くと、丁度駆けつけてくるところだった」
「やはり警察ですね」
「ははは。ヒカルをつかまえる事なんて出来ねえけどな」
そしてオオモリが言う。
「じゃ、ジェフ君の家族に電話しますか?」
と、スマホを繋げて、ミオに渡した。
「逆探知不可能にしてあります。恐らく警察がいるでしょうから」
ルルルルル。ルルルルル。
そして家族が出る。
「ベイツです」
「ああ、奥様?」
「誰?」
「ザ・ベールの正義の女帝と申します」
「何を言っているの! 主人は! 目的は!」
「もう、いらない。とりあえず、玄関先にご主人をお返ししたわ。これから大変だと思いますけど」
プッ! と電話を切る。
皆が、ミオを違う人を見るような目で見る。
「なんか、本物になっちまったなあ」
「ほんとうですね」
「そ、そんな事は無いわ! ただ、私は腹を立てているの!」
「「へいへい」」
その後で、ジョディをファーストフードに連れて行くとサムが迎えに来る。
「ジョディ!」
「サム!」
二人はきつく抱き合っていた。
「ではジョディさん、サムさん幸せに」
ミオが言うと、二人が手を振って礼をする。そこから車が通り過ぎると、二人は車に乗り込んで走って行ってしまった。
そこでアビゲイルが言う。
「あとは……彼らがどう生きるかですね」
だがオオモリは笑って言う。
「でも、馬鹿らしくなるほどのお金を入れましたから」
タケルが聞いた。
「いくら入れたんだよ」
「百万ドルずつ」
「は……」
そしてみんなが声をそろえて言った。
「「「「ふたりで三億円!!!!」」」」
「旅行も行けますよ」
するとアビゲイルがニコニコ笑って言った。
「あなたはやっぱり最高です。ミスター大森」
「そうですかね?」
何故か女達は顔を合わせて、ウンウンと頷いているのだった。




