第517話 アメリカ人の協力者と接触
俺達が国家感染症研究所のトップであるジェフ・ベイツの誘拐を企んでいる時、ザ・ベールのハンジから連絡が入った。もしそのような計画があるのなら、ザ・ベールを名乗ってやってほしいと依頼が来る。シャーリーンがカリムに連絡し、そこからザ・ベールのハンジに繋がったのだ。
そして夜になり俺とクキがの二人が、スーツに身を包みアトランタの中心地に出かける。
「メカニクスビルという町にある、レッド・ロック・ドッグってバーだ」
「ああ」
夜のアトランタは人も多く、車どおりも多い。スマートフォンでチェックしながら街を歩けば、あちこちの壁に落書きがされているようだった。
「治安はいい方じゃねえだろうなあ」
「だが、アメリカのギャングはアフリカの奴らよりましだ」
俺はコンゴ共和国のギャングと比べて言う。
「まあ、確かに」
俺達はギャングに絡まれる事無く、無事に店に辿り着いた。
「ここだ」
「ああ」
バーに入ると、そこそこ人が入っていて、騒がしく酔っ払い達が話をしているようだった。酒の匂いが漂い、煙草の煙が薄く浮かんでいる。カウンターに座ってクキが注文した。
「旅人に喜ばれる酒を二つ」
すると渋い髭の、恰幅のいいマスターがコクリと頷いて、俺とクキの前に酒を置く。俺達はそれを一気に飲み干し、クキがカクテルのグラスが乗っていたコースターをめくる。
「なるほど。ここだってさ」
見ると、街にある酒の醸造所へ来るように書いてあった。
「用心深いな」
「そりゃそうだ。敵が敵だけにな」
「だな」
そうして俺達が代金を払おうとすると、マスターが笑って言う。
「ふふっ。英雄からは金はもらえない」
俺とクキが目を合わせ、コクリと頭を下げて店を出た。
「あれも、仲間か」
「そうらしい」
そして俺達は再び歩き、指定された場所に到着する。中に人の気配があるが、醸造所は静まり返っており、灯りが灯っている気配も無い。
「ここだな」
「中に三人」
「待ってるんだな」
俺達は門を飛び越えて、人が待っている場所へと向かう。そして中に人がいるのを確認し、俺が扉をノックした。
ガチャり。
「いらっしゃい」
周りを気にしつつ中に入ると、男達が立ち上がって俺達を見る。三人ともラフなシャツを着てデニムを穿いた、タケル曰くアメリカンな格好をしている奴らだった。睨みをきかせて、俺達を威嚇でもしているのかという雰囲気だった。
「ヒカルだ」
俺が言うと三人が突然、破顔する。
「おお! あんたがヒカルか! 本当だ! 高級スーツを着てやがるぜ!」
「まじだ! その杖! 刀なんだって!」
「あんたが、ミスター九鬼か。リーダーなんだろう?」
矢継ぎ早に質問して来る。やたら明るくて、最初の雰囲気はどこへやらだ。
「九鬼だ。ハンジから連絡をもらって来た」
「支部のザ・ナイト・ウォッチメンというチームを組んでいる。マックスだ!」
「サムだ!」
「ベンだ!」
陽気な連中らしい。
そして、そいつらはごそごそと段ボールを俺達の前に置いた。
「これだ」
パカリと開けると、そこにはザ・ベールのお面が入っている。それを見てクキが聞いた。
「なるほどな。他に何か聞いているか?」
だが三人が顔を見合わせて言う。
「いや。これだけだ」
「これだけ?」
すると少しだけ怪訝な顔で言う。
「ここはいろいろと危険な街なんだよ。俺達みたいな素人が生き残るためにはこれが精いっぱいだ。だからザ・ベールから送られてきたこれを渡すだけで終わり。この土地で普通に生きている人間だからな」
それを聞いて俺が言う。
「充分だ。無理をせずに、この土地で安全に生きていけ」
「あ、ああ。随分とものわかりが良い人なんだな」
「いや。わざわざ危険な事に首を突っ込むな。あんたらは何をしている人なんだ?」
「おりゃ整備士だ」
「私はITエンジニアですね」
「自分は証券マンだ」
「なら、それを普通にこなせ。荒事は全て俺達がやる」
そんな事をしている時に、俺の気配感知に敷地に入って来る人間の気配を感じ取った。
「人が来た」
するとサムが言う。
「分かるのか? 実はザ・ベールから言われたのはそれだけだが、もう一つだけお願いがあるんだ」
「ほう」
コンコンとドアがノックされて、一人の女が入って来る。
「どうも」
サムが言う。
「私の彼女だ。ずっと国家感染症研究所のジェフ・ベイツの不正を追っている、記者なんだ」
「ジョディです」
「危ない土地に呼んですまない。ジョディ」
「いいのよ。仕事が終わったところで、車で真っすぐ来たわ」
「そうか」
二人の話が終わったところで俺達が名乗る。
「ヒカルだ」
「九鬼だ」
「あの、突然ごめんなさい」
「いや。何かしたいのか?」
「ジェフ・ベイツに接触すると聞きましたので……」
それを聞いて俺とクキは何を言いたいのか分かった。それを聞いてクキが答える。
「非常に危険だ。彼らにも言ったが、深くかかわるのは命に係わる」
「いえ。これは私の父の弔いでもあるのです」
それを聞いて俺とクキがまた顔を見合わせる。
「聞いてやろう」
「ああ」
実はジョディの父親は、国家感染症研究所の不正を暴こうとしていた記者だったらしい。だが謎の死を遂げて、その意思を受け継いで自分も記者になったのだとか。だから覚悟は決まっているようで、俺達はどうしたらいいかを考える。
クキが言う。
「直接的な攻撃は非常に危ない。だが、真実を知ってそれをどう料理するかはあんたの自由だ。俺達はこれからジェフ・ベイツの身柄を拘束する。そこで尋問をするわけだが、そこに同席する事は可能だ」
「……それは、CIA的な事をするという事でしょうか?」
「どういうことだ?」
「国家の脅威となるものを排除したり、その関係を探って攻撃したり、スパイ活動をしたりとか?」
難しい問題だった。ジェフ・ベイツがどれだけ関与しているかが鍵。ファーマー社の悪事に目をつぶるだけでなく、関与しているとなると殺害してしまうかもしれない。
俺達が沈黙していると、マックスが言う。
「ほら。サム、だから言っただろう。俺達のような素人集団じゃ関わらねえほうがいいんだよ」
「それは分かっている。だけど私は、ジョディの思いを遂げさせてやりたいんだ」
「わかるけどよう……」
だがそこで俺が言う。
「我々は、この国では正体不明の存在だ。だからいつでも消える事が出来る。だが、あんたらはここで生きていかねばならん。いつも、命の危険を感じながら生きる事になるやもしれん」
「分かっています。でも、私は何としてもやりたい!」
ジョディの眼差しは真剣そのもので、瞳の奥には復讐の炎が燃え盛っていた。聞いてクキが言う。
「あんたが手を下す必要はない。だが、あんたが望む形に持って行くことは出来るかもしれん。どうせ乗り掛かった船だ。あとはあんたの判断になるが、それでも良ければ一緒に行こう」
「わかりました」
それを聞いてサムが言う。
「なら! 私も!」
だがクキがそれを制する。
「それはダメだ。万が一は、ジョディさんを守れるのはあんただ」
「だが」
すると、それを聞いていたマックスがサムに言う。
「サム。ミスター九鬼の言うとおりだ。ジョディに何かあったら、お前が守るしかないんだ」
「……わかった。ジョディ! 気を付けるんだよ!」
「俺達と行動するうえでの危険はない。俺達が去った後、どうするかを考えてくれ」
「「「ああ」」」
話が付いた。俺達は段ボールを担ぎ、ジョディを連れて醸造所を出るのだった。




