第515話 華麗な尾行の撒き方
アトランタに向けて飛ぶ飛行機の中で、何処に着陸するべきかの話し合いをしていた。アトランタの空港になど降りればまた拘束されてしまうだろうし、街中に降りても目立って警察が来るだろうと皆が言う。更にはファーマー社や米軍の追跡がある可能性もあり、どうにかして誤魔化す必要があった。
そして、逃走作戦を考えたオオモリがスマートフォンをかざす。
「このあたりが良いんじゃないでしょうか?」
それにタケルが答えた。
「アトランタ・モータースポーツパークか。いいね」
「でしょ」
そしてそれをクキに告げた。
「九鬼さん。モータースポーツパークとやらに飛行機を降ろせますか」
「やってみよう」
しばらくしてクキが言う。
「見えた。あれだな」
「あー。上から見るとそんなに大きくも無いですね」
「問題ない。良い直線があるから、あそこに降りてみよう」
高度をどんどん落として行くと、場内を走っているスポーツカーが見えた。だがクキはお構いなしに、そのスポーツカーの後ろに飛行機を降ろして行く。
タケルが大笑いする。
「おお! 焦ってんぜ!」
「もっと飛ばしてもらわんとぶつかる」
だが車達は大慌てで横の砂地へと外れて行った。そこを堂々と俺達のプロペラ機は走っていた。
クキが大声で言う。
「皆! 逃げる準備をしとけ」
「「「「「「了解」」」」」」
飛行機が止まり、ハッチを開いて全員が一気に降りた。そして目もくれずにクキが走り出し、皆がそれに従ってついて行く。森林地帯に入り込み、振り向けば飛行機の周りに人が集まってきていた。
「びっくりしてるぜ」
「そりゃいきなり飛行機が下りて来たらな」
そんな俺達の会話を聞きつつもクキが言う。
「武。お前の出番だ。こう言う所にはトラック的な物はないか?」
「多分、車載トラックがあるだろ」
「そいつを頂こう」
「りょーかい」
俺達は建物がある方に進み、雑木林からフェンスを壊して中に侵入していく。
「ここいらにあるのは乗用車。あっちにガレージがある」
青い屋根のシャッターが開いた建物がずらりとある。タケルがそちらに進み、車を見ながら言う。
「カッコイイ。マッチョなスポーツカーがずらりだ。飛行機騒ぎで皆がではらっちまってる」
「今はそれはいい。人数が乗れないからな」
「へいへい」
タケルは後ろ髪を引かれるようにそこを通過し、その奥の方に目的の車を見つけたようだ。
「車載トラックみーっけ」
だがその周辺にはチラホラ人がいた。それを見てクキが俺に指示を出す。
「ヒカル。あれ全員眠らせてくれ」
「ああ」
認識阻害で近づいて、働いていた三人ほどを眠らせた。直ぐにタケルがエンジンをかけて皆を呼ぶ。
「車載トラックの後ろは剥きだしだ。あぶねえから皆どこかに捉まって乗ってくれ」
「武! 押さえるとこないんですけど」
「わりい! 九鬼さんとヒカルで何とかしてくれや」
だが俺が見ても捉まるところは無さそうだった。
「みんな中央に座って乗れ。振り落とされそうになったら俺が何とかする」
皆が中央による。エイブラハムが面白そうに言った。
「転げそうじゃわい!」
「大丈夫だ。俺が落とさない」
「とにかくへばって乗れば大丈夫じゃろ」
そして車載トラックは駐車場から街道に出た。道はそれほど広くはないが、車がすれ違う事は出来そうな道だった。オオモリが窓から顔を出してこっちに言う。
「数キロ先に、ドーソンビルという町があります。そこで車を乗り変えましょう」
「了解だ」
俺達の車載トラックが街に到着すると、タケルがトラックを停めて言う。
「あそこのドライブインに、飲料水のトラックが停まってる。あれをやるぜ」
そして皆がそこで降り、タケルと別れて違う場所で待っていると、飲料水の印刷されたトラックに乗ってタケルがやって来た。
「後ろに乗れ」
皆がトラックの後部ハッチを開けて乗り込む。オオモリがハッチを締める時に言った。
「この先にシルバーシティとか言う街があります。そこで車を乗り換えます」
そしてクキが段ボールから、缶ジュースを二つとって言う。
「武と飲め」
「あ、はい」
そしてトランク内のランプをつけて、俺達の段ボールから飲み物を取ってジュースを飲んだ。しばらくするとトラックが停まり、後ろのハッチが開けられる。
「降りてください!」
俺達が下りて歩きだす。長閑な農村地帯で、家と家の間にだいぶ距離があるようだった。そこを歩いているとシャーリーンが言う。
「馬牧場ですね。どこかに馬を運ぶトラックがあるかと」
タケルが言う。
「んじゃ、そいつを頂こう」
そして探し回ると、馬小屋の裏手に小型のトラックがあった。タケルは直ぐにエンジンをかけ、俺達がその後ろに乗り込むとオオモリが言う。
「この先にマットという町があります。そこでまた乗り換えましょう」
「了解」
そしてまた数十分後、俺達は車を乗り捨てる。
「ガススタに、トラックがいる。あれを頂く」
タケルがそう言って走って行った。俺達もついて行き、荷台に乗り込み出発すると、ガソリンスタンドの中から慌てて走り出してくる人がいた。恐らくはこのトラックの運転手なのだろう。
そして俺達はカミングという町でまたトラックを下りる。そうやって車を乗り継ぎながら乗り捨て、アルファレッタという所に来たところでシャーリーンが言った。
「ここまで来れば、組織の者と合流出来ます。あと車を盗むのはやめましょう」
皆が頷いた。そして俺達はそこの町の、大きなショッピングセンターに紛れた。
「ここまで細かく乗り継げば、警察も車をすぐに見つけるだろうし、そう大きな事件にはなりません」
オオモリが言い、マナが感心したように答えた。
「あんたも、いつの間にかずる賢くなったもんよね」
「そりゃ、揉まれましたから」
オオモリのスマートフォンで連絡を取り、一時間の後にシャーリーンがカリムの組織の人間を呼んだ。
「ありがとう」
「いえ。指示ですので」
そう言ってカリムの手先は、やって来た車に乗って行ってしまった。俺達は用意されたキャンピングカーに乗り込み、アトランタを目指す事になる。
シャーリーンが用意したキャンピングカーの中には、全員分のスマートフォンとノートパソコンが置いてあった。衛星通信の機器や米ドル札も詰みこんであり、しばらくは困らなそうだ。
パソコンを開いて弄り始めるとオオモリが言う。
「申し分ないですね。こんな短時間に、なんでこんなスペックのパソコンを用意出来るんでしょう?」
するとシャーリーンじゃなくてタケルが言う。
「石油王ってのはすげえんだよ。俺達にとっちゃ神様みてえなもんだ」
「なるほどです。とりあえず、全員のスマートフォンを再セッティングします。それと、愛菜さんは自衛隊に通信を繋いでください」
「わかったわ」
そしてクキが言う。
「手際が良いな大森。とりあえずは全体の状況を掴むことからか?」
「後手に回りたくありませんから」
オオモリが準備をしている間に、俺は完全結界に詰め込んだ試験体を出す。
「アビゲイル。コイツはどうするつもりだ?」
「アトランタの本部に潜入して、解析と対策を打てればと思います」
「敵地ではあるが」
「そこは。お任せします!」
すると皆がニヤニヤしている。
「なんだ?」
するとミオが笑って言う。
「みんなね。ヒカルならどうにかしてくれるって思ってるのよ。アビゲイル博士もそう」
「そうか」
そこでシャーリーンが俺に言った。
「あら。ヒカルさん。クーラーボックスに、レミーマルタンが積んでありますわ。それに新調したル〇ヴィ〇ンのスーツもあるようです」
そう言って、美味そうな酒のボトルを見せて来る。
「……もらおうか」
俺はキャンピングカーで、久しぶりにうまい酒を飲み始めるのだった。




