第505話 速やかに基地に潜入する方法
未だに軍関係車の往来はあるが、食べ終わったレストランにいつまでも居座るわけにいかない。会計を済ませて店を出ようとすると、店員の女から声をかけられる。
「サイレン鳴ってるし軍関係の車しか通らないから、道路が閉鎖されてるかもしれないよ」
「よくあることなのか?」
「ほとんどないけど、基地で何かがあった時は、この通りは閉鎖されるからさ」
旅行者のふりをしているので、タケルが女に尋ねる。
「車を拾うんなら、どっちに行けばいい?」
「車拾うなら南の四〇一号に行けばいいよ。反対は基地になるから行っても仕方ない」
「サンキュ。美味かったぜ」
「いい旅を」
そうして俺達は店を出る。駐車場にも車はいるが、何人かが様子を見に表に出ているようだ。けたたましいサイレンを聞いて、何事かと思っているのだろう。
「騒ぎになってんな。ヒカル」
「剛龍爆雷斬は、ちょっとやりすぎたかもしれん」
「なんで、あの技にしたんだ?」
「クキ達が囚われているのなら、ツバサが必ず気が付く。技の音を聞いて行動を起こすかもしれん」
タケルが苦笑いして言う。
「その可能性は高いぜ。騒ぎに乗じて何かするだろうな」
「だとすれば、そろそろ頃合いだろう?」
俺達が道沿いを歩いていると、向こうから車がやって来る。
「ありゃ、パトか?」
「パト? 警察か?」
「よく見りゃあれはMP、軍の警察だな。壁に穴を開けたし、きっと怪しい奴を探してるんだろ」
「……なら俺達は、充分怪しいだろう?」
「だなあ」
「ならタケルも怪しそうな顔をしておけ」
「そいつはいいや。ヒカルいいアイデアだぜ」
俺達はその車が近づいて来た時に、サッと反対側を向いて歩きだす。
プワッ!
とサイレンが鳴り、その車がとんぼ返りでこっちに回って来た。
「そこの二人、止まりなさい」
俺達はしらばっくれたふりをして、そのまま歩いて行く。
「聞こえないのか? 止まれ! スーツとTシャツの二人!」
とりあえずそれを聞いても、俺達は速足で歩いてみる。すると数台が来て、ぐるりと周りこむように前を塞がれた。俺達は立ち止まり、不遜な態度で車を睨みつける。
すると中から、屈強な男達が何人も降りて来て言う。
「手を挙げろ!」
俺達は言われるように手を挙げた。
「そのままこっちへこい!」
俺達が行くと、そいつらが一斉に近づいて来て体を押さえつけた。
「車に手を着け!」
一人の男が俺に言う。
「これは杖か?」
「そうだ。足が悪いからな」
「そっちの男のリュックには何が入っている?」
タケルが答える。
「見たらいいだろ。大したものは入ってねえ」
そうしてMPがリュックを取り上げ、中を開いてみる。
「こりゃなんだ?」
モーニングスターを見てMPが驚き、タケルがさらりと答えた。
「旅行中は物騒だから、護身用に持ってるんだよ」
「こんな物騒な物をか?」
「だって、アメリカはいろいろとあぶねえだろ」
次にいくつかの札束を取り出して言う。
「この大金はなんだ?」
「旅行にゃあ金は必要だろ! おろして来たんだよ!」
「持ち歩いてるのか?」
「現金主義なんだよ」
「じゃあ…これは?」
ゾンビ破壊薬の薬瓶を持って言う。
「除菌剤だよ。何か食う時とか除菌するだろ。蓋開けて臭って見ろよ」
するとMPは言われた通りにする。他の奴を見て言った。
「確かに除菌剤のような匂いはする」
だが次の瞬間、タケルの身体検査をしている奴が言った。
「この銃は?」
腰に挿していた拳銃を取り上げられ、タケルが答える。
「物騒な国だろ。護身用だよ」
「まて、お前外国人だな。携帯許可を取ってるのか?」
「んなもん知らねえよ」
そして他の奴が聞いて来た。
「お前アジア人だな」
「悪いかよ」
すると、すぐに肩から無線を外して言う。
「旅行中のアジア人が拳銃と鉄の棍棒を携帯しています」
「確認しますお待ち下さい」
そうして俺達は車に手を着いたまま、その後の返事を待つ。すると無線の向こうから声が聞こえた。
「他に武器は持っていますか? 起爆装置やドリル、手榴弾などは?」
「もっていません。ただ拳銃の許可はされていない物と思われます」
「確認します」
なんだ。さっさと捕えればいいのに、何か手続きに手間取っているようだ。だが無線の向こうから来た返事は、俺達の期待する物とは違った。
「拘束を解いてください。我々が追っている者ではないかと思われます。警察に任せて良いかと」
「了解」
そしてMPは俺達を離す。だが俺とタケルは目配せをして、焦りつつどうするかを考えた。
「行っていいぞ」
ここで逃がされては、俺達が基地を探るのに手間がかかりそうだった。
何故か次の瞬間、俺達は同時に、近くにいたMPを軽くなでるように殴る。
「ぐえ!」
「うが!」
そいつらは軽く吹っ飛び、周りが一瞬唖然とした。そしてタケルが啖呵をきる。
「勝手に人の尻を探っておいて、なんだその態度は!」
すると次の瞬間、周りの奴らが一斉に銃を向けて来た。
「手を挙げろ!」
俺達二人は素直に手を挙げる。
「な、お前達……何がしたいんだ」
「は? 気に入らねえからぶん殴っただけだ」
すると転がってる奴が起きて来て、タケルと俺をグイっと道路にねじ伏せた。
「貴様。優しくしていればつけあがりやがって!」
「連行しろ!」
武器を取り上げられ、俺達は無事に捕らえられた。金網に囲まれた後部座席で、後ろ手に手錠をかけられて座り、俺達がおとなしくしている。
前に乗っている奴が言った。
「クソやろー。なんで殴った」
「ムカついたからだよ」
「大人しくしてればよかったんだ」
「うるせえよ」
他の車列と別れ、俺達の車だけが基地の方に向かった。そこでタケルがMPに聞く。
「ずいぶん騒がしいじゃねえか、いったい何をそんなに騒いでんだ?」
「お前達には関係ない。手間をかけさせやがって」
「そっちが声かけて来たんだろ」
「お前達が怪しかったからだ」
「そうかそうか。やっぱりオーラは隠せねえか」
「黙ってろ」
そうして車は、基地へ入るゲートをくぐる。
「この二人は?」
「連行してきた」
「怪しいのか?」
「いや。俺を殴ったからだ」
「チンピラか」
「頭を冷やさせてやる」
「やりすぎるなよ」
なるほど、これは逮捕ではなく、基地の中で懲らしめようと思っているようだ。一番いい形で、俺達は基地に入り込めたらしい。
基地の陰に車を停め、運転している奴が言う。
「ここらでいいか?」
「ああ」
そうして、後部座席のドアを開けて言う。
「降りろ! 分らせてやる!」
俺達は黙って従い、後ろに手錠をかけたまま降りる。
「そこに立て」
「へいへい」
俺とタケルが直立で立つ。すると男は唐突にタケルを殴った。だがタケルはびくともせずに、頬でそのパンチを受け止めていた。
「グッ」
「どうした?」
「こいつ……なんか変だぞ」
するともう一人がタケルの腹を殴る。
「うあ!」
そいつは手を擦って唖然としていた。タケルが言う。
「なんかしたか? そんなへなちょこパンチじゃ聞かねえぞ」
「この!」
どかどかとタケルを殴る蹴るし始めたが、タケルは平然とそれらを受けきっていた。だが、一方的に殴られているタケルを見ているうちに、俺が腹立って来た。
ドカ!
ビュン!
男が十メートルほど吹き飛び、もう一人の奴があっけに取られていた。
「なっ……」
俺はブツンと、手錠をひきちぎり男の頬を軽くたたく。
バアアン! 吹き飛んで大人しくなった。
「し、死ぬんじゃねえか?」
タケルがびっくりしている。
「いや。タケルが好き勝手殴られてるのを見て腹が立った」
「俺は、なんてことねえぜ」
「気分の問題だ」
「まあいいか。俺達の荷物はトランクに積んでたぜ」
「よし」
俺は車に行って、ハッチの下に手をかけ引きちぎる。中にリュックと仕込み杖が積んであった。
「簡単に潜入出来ちまったな」
「だが、かなり人がいて、何処に仲間がいるか気配感知でも見つけ辛い」
「奥に入るしかねえな」
「行こう」
転がっている二人は死んではいないが、しばらく目を覚まさないだろう。とりあえず車のところに運び、後部ハッチに放り込んだ。
基地内には沢山の建物が建っていて、何処にいるかは皆目見当がつかない。
「まるで町だな」
「しらみつぶしに行くか」
俺達はまず、背の高いビルを目指して行く。
「敷地内にも店とかがあるんだな」
「なら、屋根伝いに行くぞ」
俺はタケルを掴んで、一気に近くの建物の屋根に飛び乗る。そのまま真っすぐにビルに向かって走ると、あたりを警戒するように、軍人たちがうろついているようだった。
「眠らせた奴らを見つけるだろうな」
「ああ、そのうち騒ぎになるだろう」
目的の建物について、タケルが言う。
「マジか。こりゃショッピングモールだった」
「こんな所にはいないな、もっと先に進むぞ」
俺とタケルは屋根から飛び降り、建物を縫って先に行く。兵隊に見つからぬように広い場所に出た。
すると唐突にサイレンが鳴り始める。
「なんだ?」
「タケル。向こうで騒ぎが起きている、暴動か…何か争いが起きてるな」
俺とタケルは顔を見合わせニヤリと笑った。そしてタケルが言う。
「んじゃ、彼らが逃げられるように俺達が派手にやるか」
「そうだな」
俺達は地上を走り、止まっている軍用車両を見つける。
「タケル? コイツの燃料タンクはどのあたりだ?」
「あー、ここだ」
「離れていろ」
「あいよ」
「炎龍鬼斬!」
バシュッ! ボゴン!
車が爆発する。
「おー! いいねえl」
タケルは目の前にある、RV車を思い切り蹴飛ばした。音を立てて、車は壁にぶつかり大破する。
「俺もそうしてみよう」
近くにある装甲車を思いっきり蹴り上げ、建物の向こうに放物線を描いて飛んで行ってしまった。
「やっぱ、ヒカルには敵わねえな」
「タケル。なんか知らんがスッキリする」
「だろ! 蹴れ蹴れ!」
そうして俺達が次々に車を蹴飛ばしていると、こちらに向かう軍人の気配がしてきた。
俺は直ぐにタケルを掴み、急速に離れて建物の屋根に飛び乗った。俺達が暴れたところを見ていると、次々に兵隊が現れあたりを警戒し始めている。
そしてタケルが言った。
「んじゃ、他をぶっ壊しに行こうぜ」
「いいだろう」
俺達は次に破壊する場所を探して、巨大な基地内を走り始めるのだった。




