第497話 ニューオーリンズのギャングスター
湾岸に近づくほど、壊滅的な空爆の被害を受けていた。本来なら試験体を制御する役割の、ゾンビ化人間も見当たらないし、もしかすると米軍の空爆にやられたのかもしれない。
「生存者がほとんどいない」
「ゾンビに噛みつかれるだけじゃなく、機関銃やロケットランチャーまでぶっ放されちゃ、生き延びれるわけねえ。それにこのあたりは、重点的に空爆されてるようだ」
「まるでゾンビが海から上がって来た事が、分かっているようじゃないか?」
「確かにな。なんでこっち側から来たって分かったんだ?」
「潜水艦の動きを、知っていた奴がいるとしか思えん」
「やっぱ、シャーリーンが言ってたみたいに、国のお偉いさんが一枚かんでるって事か」
「そう思える。攻撃指示が的確過ぎる」
瓦礫の山を避けながら、死人の町と化したニューオーリンズをバイクで走っていると、ようやく生存者の気配を感じ取る。
「タケル。武装している人間がいるんだが?」
「よくこんな状態で生きてたな! てか後から入って来たのか?」
「わからんが、どう思う?」
「ああ、軍隊か警察かファーマー社か分からねえな」
「いや…一般人かもしれない。行動がバラバラで、統率がとれた動きはしていない。どこかに固まって、籠城しているようにも思える」
「生存者が武器を取って、どうにか生き延びたか? もしかしたら地下に居て助かったとか?」
「それもあり得るだろう。逃げるように教えてやった方が良いんじゃないか?」
「そうしてやっか」
そして俺達がバイクを止めて、生存者の気配のするビルに近づいた。
だが俺はタケルを、ビルの壁際に引っ張る。
ダダダダダダダ! 突然、機関銃の銃撃音が聞こえて来た。
タケルが大声を出す。
「撃つな! ゾンビじゃねえ! 人間だ! 生きた人間様だ!」
銃声が止む。
「タケルは俺の後ろに隠れてろ」
「あいよ」
俺達がそこに行くと、全く壊れていないビルがあった。完全に空爆の被害を逃れており、中に人がいるのが分かる。すると中から突然、叫び声が聞こえて来た。
「手を挙げろ!」
俺達は素直に手を挙げた。
「コッチヘ来い!」
言われたとおりに、そのビルの入口へと向かっていく。そしてタケルがもう一度言った。
「俺らはゾンビじゃねえし、感染もしていねえ! 警戒を解いてくれ!」
「入れ!」
ドアが開いたので、俺達は手を挙げたまま中に入る。すると唐突に、銃床で俺の顔を殴ってきた奴がいる。
ガン!
「痛ってぇぇ!」
殴って来た男はたまらず、自動小銃を床におろしてしまう。
「なにやってんだ!」
「岩の塊でも叩いたみてえだ!」
そして俺が仕込み杖を振る。
コン! コン! コン!
周りを囲んでいた奴らを軽く殴って、意識を刈り取った。それを見てタケルが言う。
「おー、可哀想に。いきなり気絶させられて」
「話が通じていなかったからだ」
「つうかみろよ。随分とガラの悪い奴らだ」
「一般人では無いという事か?」
「多分だが、こりゃギャングだな」
「良く生き残ったな」
「地下にでも隠れてたんだろうか?」
「奥に気配はある」
三人は見張りだったらしく、このフロアーには人はいない。
「行ってみっか」
どうやら酒場のようだが、ここにいたのは今の三人だけで、他の気配は奥と地下にいるようだ。俺達が奥に進み扉を開けると、そこに裏に抜ける廊下があった。その先にドアがあり、どうやらこの中に人の気配がするようだ。
タケルがノックする。
「なんだ」
奥から返事が聞こえる。そしてタケルは、そのままドアノブを掴んで開いた。
「ハローハロー」
「な、何だてめえらは!」
「表の奴らはどうした!」
「何、勝手に入って来てんだ!」
そう言って、男達は一斉に銃を構えた。
「よせよせ! 俺たちゃ喧嘩しに来たわけじゃない。ただこんな所に居たら、そのうち空爆の餌食になると思って忠告しに来たんだ」
「はん! ここにゃあ、フランキーさんがいるんだ。爆弾なんか落ちて来ねえよ!」
「フランキー、さん? 誰だそりゃ」
「なんだよ。よそ者か?」
「ああ、今日ついたばかりだ」
「わざわざ、ゾンビと空爆の町に来るアホがいんのか?」
「まあ……運が悪かったな」
「なんだ? 助けてもらいてえのか?」
「いや。助けてやろうと思ったんだが、救いがいらないのならもう行くよ」
するとその場にいた男達が静かになる。俺達がそのまま出ようとすると、声をかけられた。
「まてよ。何か怪しいな」
「怪しくねえって、ただ立ち寄っただけだ」
すると一人の男が奥のドアから出て行った。タケルがイライラして言う。
「あのなあ。俺たちゃ急いでんの、分かる? ユーノウ?」
「急ぐったってどこに行くんだ」
「このゾンビ騒ぎを起こした奴らを、ぶん殴りに行くんだよ」
「なに?」
すると出て行った奴が戻って来た。そいつの後から、貫禄のある黒人が入って来る。
「こいつらか?」
「へえ!」
そいつは特に威圧する事も無く、静かに俺達を見た。
「それで?」
「ボス。こいつら、ゾンビ騒ぎを起こした奴らをやりにいくって言ってます」
「なんだと……」
そこでようやく表情が変わった。
「そういうこった。だから、ちょっと急ぐんだ」
フランキーが言う。
「まて。話を聞かせろ!」
「あっ?」
「タケル、イラつくのも分かるが、まずは話してみよう」
「わーったよ」
そして俺がタケルの前に出て言う。
「ある、筋から聞いたんだが、海からゾンビが運び込まれたらしい。だからそこを叩いて、俺達はこの騒ぎを収めようと思っている。だがその道すがら、ここで生き延びている人を発見したから立ち寄ってみた。地下にも大勢いるようだが、ここにいると空爆の被害にあいそうだと思って忠告しに来た」
すると脇にいる手下が言う。
「ボスにゃあ、弾は当たらねえんだよ! ハードラックを寄せ付けねえんだ」
フランキーが男を睨む。
「俺が、この人らと話してるんだ」
「す、すいやせん!」
そしてフランキーは俺達に言う。
「ここにゃあ、一般人の生存者が大勢いる。確かにあんたらの言うとおり、いずれは空爆の餌食になるだろうが、外に出ればゾンビの餌食になる。それでも逃げた方が良いって言うのか?」
「一般人?」
「まあ、あんたらは知らないかもしれないが、俺はここでギャングスターと言われている。俺の強運は町では知られているんだ。そこで一般人が匿ってくれと、俺のところに飛び込んで来た。だからそいつらを匿たって話だ」
「なるほど。外に出てもらえれば分かる、所々のゾンビが倒れて動かなくなっている」
「それを信用しろと?」
「そうだ」
するとフランキーは腕組みをして考え始める。手下たちも口を開く事は無く、ただ黙ってフランキーの言葉を待っているようだった。
「あんたらは、俺がギャングスターだといっても眉一本も動かさなかった。こちらは銃を持っていて、あんたらは見たところ銃を持ってはいない。俺達をどうこうしようって気は無さそうだが、二人だけでゾンビを運び込んだ奴らをやりに行くって言ってる。特殊部隊か?」
するとタケルが軽く嘘をついた。
「まあそんなところだよ。正体は明かせねえ」
「なるほど。ゾンビが停止したってのは本当らしいな」
「ある地域ではな」
するとフランキーは手下に言う。
「いつまでも穴倉に籠ってるわけにゃあいかねえ。そろそろお天道様を拝みに行くとするか」
「「「「「「「へい!」」」」」」」」
手下が地下に行くと、ぞろぞろと女子供や老人達が出て来た。それを見てタケルが言う。
「ギャングっつうから何かと思えば、あんたいい人じゃねえか」
すると手下が言う。
「おい! ボスに馴れ馴れしい口を利くんじゃねえ」
だがフランキーは手下に言った。
「うるせえ!」
「す、すんません」
そしてギャングと一般市民と共に、ビルの外へと出て行く。外で大量にゾンビが倒れているが、その向こうでは蠢く奴らが居た。そこでタケルが言う。
「特殊部隊の薬でこうなった。このエリアの外にはまだ動いているゾンビがいる」
「なるほどな。特殊部隊は嘘じゃねえようだ」
嘘だが。
「とにかく俺達は湾岸へ向かう」
「ならばついて行く。俺の勘がそう言っている」
フランキーにそう言われ、タケルが俺を見たので俺がタケルに言った。
「連れて行こう」
俺達はギャングと一般市民を連れて、湾岸へと向かう事になったのだった。




