第496話 親友がレベルアップした
オオモリのドローンは、ニューオーリンズのあちこちにセーフティーゾーンを作っており、生存者達が外に出て右往左往している。その中を疾走するタケルのバイクは、何にもぶつかる事はなかった。
「バイクがヤベエほど思う通りに動く。ゾンビの血、爆発の破片、飛び出してくる人、全部が手に取るように分かるぜ。スローモーションのように感じる」
「それが思考加速だ。レベルが上がった事で、タケルにも高度な思考加速が使えるようになった」
「ヒカルみたいな能力か? 力だけじゃなくか?」
「そのようだ。元よりレーサーとしての能力があったタケルは、それに特化したようだ。元々体も出来上がっていたしな」
「もう一つあるんだぜ!」
「なんだ?」
「戻してもらった腕なんだが、びっくりするほど力が強いんだよ」
「それは元の細胞じゃないからだろう。完全に新しい細胞で作られているからだ」
「ははは。いよいよ人間離れして来たってわけだ」
「悪かった。俺が腕を斬ったからな」
「馬鹿じゃねえの。ヒカルが斬ってなかったら、おりゃゾンビになって東京で核の餌食だ」
「結果はそうだが、ゾンビに噛まれる前に助けていればよかった」
「結果もへったくれもねえって、おりゃ命の恩人の為に走って来たんだ」
「そうか」
タケルは凄いスピードから十字路を直角に曲がり、ビルの間を突き抜けていく。するとその先にはゾンビが積み上がっていて、行く手を遮っているようだった。
「振り落とされんなよ!」
「好きにしろ」
タケルはバイクの前輪を上げて、壊れた車を踏み台にするように乗り上げジャンプした。バイクは一気にゾンビの山を飛び越えて、その向こうへと着地しタケルがバイクを止める。
「見つけたぜ」
山がセーフティーゾーンとの境目になっていて、俺達はゾンビの群れの中に降りたのだ。
「飛空円斬」
見えるゾンビを全て斬り捨てると、その向こうに三メートルほどの大きさの新型試験体が四体いた。そいつらは、あの海上基地で見たのと同じロボットのように見える。俺達を見つけても、いきなり襲いかかっては来ずに、じっとこちらの様子を伺っているようだった。
「おいおい。ファーマー社のやつら、四体も逃がしたのかよ」
「この状況から見て、あの試験体には知能がある可能性があるな。セーフティーゾーンから、薬品が流れてくるのを遮っているんだろう」
「ま、大したことねえ! やりますか!」
「ああ」
俺達はバイクを下りて、四体の新型試験体に向かい合う。
「さっきの飛空円斬では倒せなかった。気を付けろ」
「だな。何発耐えるか殴りがいがあんぜ」
「銃火器を使うぞ」
「ひゅー。ゾンビが銃火器とはいただけないねえ」
「まあ、俺達に当たる事は無いがな」
そして俺とタケルは、一気に新型試験体に走っていく。すると試験体は両手を構えて、機関銃を撃って来た。俺もタケルも思考加速が使えている為、銃弾の軌道は既に読めている。そして俺は一体に肉薄し、直ぐに剣技を繰り出した。
「冥王斬!」
バグン! と新型ゾンビの外殻を割ってみる。すると中から、ぶよぶよのむき出しの筋肉のような物が出てくる。
「屍人斬!」
バシュン! シュウシュウ!
新型試験体の中身が直ぐにしぼんで、急速にその活動を停止させた。試験体を殴り続けているタケルが言う。
「コイツだけは俺がやる!」
「分かっている」
タケルに機関銃を撃っている、もう一体の試験体に向かって大技を繰り出した。
「大龍深淵斬!」
バグン! 装甲ごと真っ二つに斬れるが、まだ動こうとしている。
「屍人斬!」
また筋肉を縮ませるようにして萎んでいく。
それをチラリと見てタケルが言う。
「塩をかけられたナメクジだな」
ガン! ガゴン! ズゴン!
タケルは、殴りながら笑顔を浮かべていた。自分の力を、フルパワーで使えている事に歓喜の気持ちがこみ上げているのだ。俺にも経験があり、よくわかる。すると今度は離れた場所にいるもう一体が、大砲のような物を構え始める。
バシュゥ!
ロケットランチャーという奴だ。
「推撃!」
ドゴン!
俺の直前で爆発したが、何か細かいものが飛び散って襲い掛かって来る。しかし金剛と結界により守られているので、それが俺を傷つける事は無かった。
こいつらを相手して、前世のアイアンゴーレムを思い出していた。アイアンゴーレムも全身が鉄で出来ていて、火炎の魔法を使って来る奴だった。これは銃を使う分、そいつより強いかもしれない。
縮地で近距離に近づいて、構えている砲身を斬る。
「断鋼裂斬!」
バッカン! 鎧が二つに分かれ、中から筋肉の塊が出て来る。
「屍人斬!」
またナメクジのように縮はじめた。そして俺がタケルの方を見ると、なんと新型試験体が、三十センチ四方の鉄の塊になっていた。動かなくなりながらも、試験体の反応は消える事が無い。
「まだ死んでない。破壊薬の銃弾を使った方が良いだろう」
「了解だ」
タケルが腰から銃を抜き、隙間に突っ込んで撃つ。
パン!
シュウシュウと気配が消えた。すると次の瞬間タケルの体がパアッと輝いた。
一瞬タケルは呆然としていたが、次の瞬間大きな声で言う。
「ッシャアアアアアアア! レベルアップきたぁ!」
更にタケルの体つきが変わる。
「どんな感じだ?」
「なんつうか。うまく表現できねえんだが、めっちゃくちゃ力が有り余ってる感じだよ」
俺の見立てでは、中級冒険者の域を超えている。
「もしかしたらだが、俺の剣技のような、スキルが使えるようになったかもしれんぞ」
「ヒカルみてえな?」
「初期の段階だがな。俺が言った通りにやって見ろ」
「ああ」
そして俺はタケルを連れて、止まった大型バスのところに行く。
「構えはこうだ」
「こうか?」
「それでいい。そして目の前のバスが敵だと思え。そのあり余った力が、お前の鉄球から外に放出されるようなイメージをしてみろ」
「力が外に放出されるイメージか。イメトレはレースでやってたから得意だぜ」
「その要領で良いだろう」
「イメージ出来たぜ?」
「その鉄球から、力が出るイメージで撃ちぬくんだ。気が漲っているから、うまくいけば技が発動する。お前は単純だからいいんだ。何か技名を考えろ」
「技名?」
「それが言霊となって、技に力が乗る」
「よっしゃ!」
タケルが精神を集中させた。思いっきり振りかぶって、その鉄球をバスの腹に向かって撃ちおろす。
「爆裂鉄拳!」
ゴバン!!
バスが前と後ろだけを残して、完全にぺしゃんこになっている。
「うおおおおお! なんだこりゃあ!」
「これがスキルだ。俺の重力天雷斬のような重力系の技だな」
「バスがペッちゃんこになりやがった!」
「これをゾンビの群れに墜とせば、大量に潰せるだろう?」
するとタケルは突然静かになった。背中を丸めて震えているように見える。
「タケル?」
「ち、ちくしょう。やっとだぜ! やっとヒカルの役に立てる!」
「泣いてるのか?」
「バーカ! 汗だよ汗!」
「そうか」
「もうおんぶに抱っこじゃねえぜ!」
「いままでも、いろいろと助けられたがな?」
「いや。いっつも助けてもらってばっかりでよぅ!」
「まあ……なんだ。お前は友だからな。今までタケルが居たからやってこれたところもある」
「そいつは俺のセリフだ」
スマートフォンが鳴り、タケルが涙を拭いて出る。
「あいよ」
「自衛隊から、ファーマー社の潜水艦が乗り入れた場所の位置情報が来ました」
「送ってくれ」
「もう送ってます。どうします?」
「あー、俺とヒカルでいってぶん殴って来るわ」
「わかりました。気を付けてください! こちらはそろそろ軍隊から目を付けられそうですので、外洋に抜けます。それでは海岸線で落ち合いましょう!」
「りょーかい」
電話が切れ、タケルが場所を確認する。
「ここにファーマー社の潜水艦が乗り入れたらしい」
「面白い。タケルの力を思う存分ふるえるじゃないか」
「だな!」
「ほら。バイクを頼むぞ」
「ああ。レベルの上がった俺の走り見せてやんぜ」
「楽しみだ」
そして俺達は再びバイクに乗り、指定された湾岸沿いに向かって走り始めるのだった。




