第494話 ヒーローでは無くて勇者の人命救助
ビルからビルへと飛び移り、俺達は生存者を逃がすためゾンビを駆除して行った。だが俺達が全てを救うまで、軍隊は待ってはくれないようだ。
スマートフォンに連絡が入る。
「大森です」
「どうした?」
「爆撃機が飛んでいきました」
「くっそ。何度も爆撃しにくるんだな」
「とにかくなんとかしてください。僕らは僕らで、ある施策の為に動いてます」
「ある施策だあ?」
「二人ならなんとかできるでしょ! とにかく頼みましたよ!」
プツッ。
「おい」
スマートフォンの通話が途切れた。
「はは…ある施策だってよ。いったい何だってんだ?」
「それより、爆撃機をどうする?」
「米軍は墜とせねえだろ。多くの人を救う為にやっているんだからな」
「そうだな…なら爆弾を落とさせないようにすればいいのか?」
「そいつだ! あの剣技でそうしてくれ!」
「わかった」
航空機の音が聞こえて来たので、そちらに向かって村雨丸をかまえる。すると数機の爆撃機が都市にむかって、爆弾を落とし始めた。
「空接瞬斬! 十連!」
爆弾は空中で爆発を起こし、地上に落ちる事は無かった。
「よーし、その調子で爆撃から市民を救いながら、ゾンビを片付けて行こうぜ!」
「そうしよう。しばらくはこの町を離れられそうになさそうだ」
するとそこに、またオオモリから連絡が入った。
「武さん!」
「なんだよ!」
「ゾンビ破壊薬はどのくらいありますか?」
「あと半分くらいかな」
「分かりました! あと使わないでください。以上です! 頼みましたよ!」
プツッ!
「おい」
またスマートフォンが途切れた。タケルが言う。
「なんだってんだ? 薬使うなってさ」
「何か考えがあるのだろう」
「ここいらのビルの人らは何とかなったが、まだ生存者は大勢いるぞ」
「オオモリ達に考えがあるようだ。仕方がない。その間は虱潰しにゾンビをやろう」
「へいへい」
それから俺とタケルは、ゾンビ破壊薬を使わずにゾンビを駆逐する事にした。
そこでタケルがビルで生き残った人らに言う。
「なあ、あんたら。ここを出た方が良いぜ」
「外はゾンビだらけだ。ここに待機して救助を待っていた方が良いのでは?」
「いや爆撃されたらおしまいだ」
「確かに……」
彼らは俺が爆弾を迎撃したとは思っていない。ここで日本刀を素振りしていただけに見えただろう。
「ゾンビが居たら、俺達が駆除して行くからよ」
「銃ももたずに?」
「とにかく大丈夫だよ」
俺達は屋上からビルの中に入り、エレベーターに向かって行った。空調から入り込んだ新型ゾンビ破壊薬は、館内のゾンビを倒してくれたらしい。
ピッ。となってエレベーターが開くと、その中にも動かなくなったゾンビが居た。
「タケル。ボタンを押しててくれ」
「あいよ」
タケルがエレベーターを開けている間に、俺がゾンビを廊下に放り出す。
「あんたら、恐ろしくないのか?」
生存者の問いにタケルが答える。
「うーん。慣れ?」
「慣れるものか! こんなもの」
「まあ……普通はそうだよなあ……」
タケルが複雑な表情をしている。だが、もう何年もこうしているので慣れて当然だ。しかもタケルはレベル十くらいになっていて、中級冒険者くらいの力があった。既にゾンビを恐れるという感覚は無くなっている。
「とにかく乗れ」
生存者達を乗せてエレベーターが下りていくと、なんと途中の階層で停まった。
「ぞ、ゾンビじゃないのか?」
男が焦っているが俺が言う。
「いや。奴らに知能は無い」
「だとすれば…」
停まってエレベーターが開くと、男二人に女一人が立っていた。男が男に肩を貸しているが、どうやらゾンビ因子が入り込んで具合を悪くしているようだ。
「た、助けてくれ!」
そしてタケルが言う。
「乗れ!」
だが乗っている奴らの一人が言った。
「だめだ! そいつはもう噛まれている!」
すると他の奴らも同調する。
「そうだ! 化物に変わるぞ!」
「だめよ! 乗せちゃ!」
エレベーターの外の奴らが懇願した。
「おねがい! きっと治療すれば治るわ!」
「だめだ!」
だがそこでタケルが凄みを利かせ、バグンとエレベーターの壁を殴ると鉄板に穴が空く。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ! とにかく乗せろつうの!」
皆が青ざめているが、三人は静かにエレベーターに乗って来た。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「頑張れ!」
なるほど見上げたものだ。ゾンビになると分っていて助けて来たらしい。なので俺は、すぐにゾンビ因子除去魔法を発動する。
ぱぁ!
「なななな! なんだあ!」
「光った! 空爆か!」
光が収まると、ゾンビ因子の奴が真っ白になってひょこっと立ち上がる。
「あれ?」
そして俺が言う。
「本当は噛まれてないんじゃないのか? 見せてみろ」
そいつが血だらけの服の部分を差し出して来た。俺はそこをなぞりながら、回復魔法をかける。
「何だ?」
「どこを怪我してるんだ?」
バッ! と腕をめくりあげるが何処にも傷が無い。すると助けた奴が言った。
「な、なんだよ! 勘違いかよ!」
「い、いや…確かに噛まれた気がしたんだが」
そこで俺が言う。
「気が動転していたのだろう」
「そ、そうなのかも」
ようやく中に居た連中も言う。
「人騒がせだな! ちゃんと確かめてくれよ!」
「す、すまなかった」
エレベーターが動き出すが、また違う階層で人が乗って来た。ようやく一階に到着したころには、エレベーターが満員になっていた。エントランスにゾンビが大量に倒れているのを見て、皆が驚愕の表情でざわついている。
「なんでゾンビが死んでんだ!」
それにタケルが言う。
「元々死んでんだよ。それを言うなら動きを止めたんだって感じだな」
「な、なんであんたは冷静なんだよ! キレたり冷静だったり訳が分からない」
「ずっと冷静だぜ? おりゃ」
自動ドアが開いて外に出ると、路上にもゾンビは倒れている。皆が外に出て、ある人が叫ぶ。
「あっちにゾンビがいる!」
「本当だ。だけどここまではずっと倒れてるな」
「変な感じだわ」
変でも何でもない。俺達が新型ゾンビ破壊薬を撒いたからだ。
「とにかく行くぞ。生存者を探さねばならん」
「わ、わかった」
そして俺達が進んで行くと、数人の集団が恐る恐る歩いているのが見える。それを見た生存者が大声で声をかけた。
「おおい! こっちだ!」
するとその人らは、こちらに気が付いてやって来た。そして、そいつらが俺達に言う。
「あなた達、武器ももたずに?」
「逃げるので精一杯だった!」
するとタケルが相手の武装をみて冷静に言う。
「バールは正解だ。けどゴルフクラブはイケねえ、小回りが利かねえからゾンビに取りつかれちまう」
「そ、そうか。あんたは何だって、そんな鉄球をぶら下げてんだ」
「頭を吹き飛ばすに丁度いいんだよ」
「な…そうか…」
そこで相手側の中から、屈強そうな白人の男が言った。
「とにかく脱出するんだ!」
それにもタケルが答える。
「うーん。町は軍隊が囲んでて、多分外に出してくれねえぜ」
「なんだと?」
「とにかくよ。生きてる人間を救うのが先決だぜ」
「そんな事をしていたら、ゾンビに食われてしまうだろう」
「あー、それなら俺達が適当にやっからよ。あんたらは生きてる人探しに協力してくれや」
だが、その屈強そうな男が怒りに満ちた表情で言った。
「なんだと? そんな申し出は受けない!」
「ん? そう? じゃあいいや。ついて来れる人だけついてくりゃいい。人数は多い方が安全だと思うけどなあ」
「なんだと……」
物分かりの悪い男がごねている。構っている時間はあまりない。
「俺についてきたい奴だけついてこい。一緒にビルから来た人らはどうする?」
「もちろん、あなた達について行くさ。いきなり屋上に現れたような人らだからな。特殊部隊かなにかなんだろう?」
「違う」
すると屈強な男がニヤッと笑って言う。
「じゃあ何だってんだ? 優男さんよ」
「勇者だ」
「あはははは! 勇者? こんなハイブランドのスーツを着た優男の勇者がいるか!」
信じてもらえなかった。
「ま、いいんじゃね。ヒカル、好きにしてもらえばいい」
すると屈強な男が一緒に居た連中に言う。
「このイカレタ奴の言う事を聞くか、俺について来るか決めてくれ」
すると一緒に来た奴らは、屈強な男について行くようだった。それを聞いてタケルが言う。
「んじゃ。達者でな、あんまり無茶しねえ事をおすすめするぜ」
「アジア人があんま舐めた口をきくなよ」
「へいへい」
そして、その一団は俺達から離れて行った。タケルがもう、今の事を忘れたように俺に言う。
「つうか、パトカー探そうぜ! 拡声器ついてんだろ? それで生きてる人間を集めよう」
「なるほど。名案だ」
すると、一緒に来た生存者達が慌てる。
「お、おいおい! そんな事をしたらゾンビを集めてしまうだろう!」
「大丈夫だよ。このあたりのは全部倒れてんだろ? それにゃあ訳があるから、あんたらは気にしなくていいよ。それに、もしゾンビがきたら適当につぶしゃあいいだけだし」
「そんな、か、簡単に言って…」
「警察車両なら銃があるかもだぜ? 頭を狙えば死ぬし、ゴルフクラブよりましだぜ?」
「確かに」
タケルに言いくるめられて、俺達はパトカーを探して歩き始める。すると乱雑にぶつかり合った車の中から、生存者がパトカーを見つけた。
「あそこにパトロールカーがあるぞ!」
「あんた、目がいいねえ! サンキューな」
そして俺達はパトカーに行き、生存者に依頼をする。
「エンジンはかかるな。運転しながらついて来てくれ」
「俺達は皆を護衛する。だから生存者に声をかけて欲しい」
すると生存者の男が言った。
「な、何て言ったらいい?」
タケルが答える。
「ゾンビで身動き取れなくなって困ってる人はいませんか? だろうな」
「わかった」
そしてゆっくりパトカーが進み始め、進行方向に倒れたゾンビを俺とタケルが蹴飛ばしてどけていく。しばらく町を進んでいると、建物の三階付近から声がした。
「おーい。おーい」
「おっ! 生存者みっけ!」
そしてタケルが拡声器のマイクを使って言った。
「助けが欲しいか?」
「たすけてくれー! 通路にゾンビが居て動けない!」
「わーった。待ってろ!」
そこで俺がその建物に行き、外から三階まで登って部屋に辿り着く。すぐにそこの連中に聞いた。
「あんたたちは何人だ?」
「三人です! 家族です!」
両親と小さい子供らしい。そして俺は下に来たタケルに向かって言う。
「タケル。受け取れ!」
「あいよ」
ひょいひょいっと、両親の首根っこをつかまえて外に放り出した。
「うあああああ」
「きゃああああ」
そして残った子供を抱いて、俺はそのまま三階から飛び降りる。すると両肩に両親をがっしりと抱えたタケルが居た。
「あー、奥さん失神しちゃった」
「な……」
旦那が唖然とした顔をしていた。そして俺は奥さんに気を入れる。
「う…うう…。あれ? あたし…」
そして俺は女に子供を渡してやった。
「に、逃げられたのね! 私達!」
すると、一緒に来た生存者達が、目を真ん丸にして言う。
「あ…あなた達は……本物の……ヒーロー?」
それに俺が答える。
「いや、勇者だ」
「い、今、三階までひょいひょいって登ったよね?」
「ああ」
そして女がタケルに言う。
「そこのあなた。落ちてきた人を、軽く受け止めたわよね」
「まあ、痛てえ思いはさせたくねえしな」
「「「「「「あんたらいったい何者!!!!」」」」」」
いつもより押さえて力を使ったつもりだったが、この人らにとっては異常に見えてしまったらしい。
「あー、ヒカル。仕方ねえよ、空爆があるまでにどれだけ救えっかが鍵だしよ。この際、出し惜しみしてらんねえわ」
「そうか。仕方ないか」
唖然とする人らに説明する事もせずタケルが言った。
「んじゃ! 次行ってみよう! 助けてほしい人はいないかねーって拡声器で言って行こう」
それから俺達の、地道な生存者救出作戦は始まったのだった。




