第492話 アメリカに漏れ出すゾンビの脅威
二台のバイクが走っていくと、俺達がバスを海に落とした橋は片側が閉鎖されていた。どうやら警官が大勢やって来ているようで、バスの落ちた辺りには潜水している奴らが見える。
「迂回すっか」
「そうしよう」
迂回の道はすぐに見つかり、俺達はモービル湾を難なく通過して閉鎖された先に進むことができた。だが一時間もしないうちに、今度は車の行列に巻き込まれてしまう。市民達が車を降りて先を見ているようだった。俺達はバイクをゆっくりとすすめ、車を降りている奴に聞いてみる。
「何があった?」
「わからん。もう一時間以上動いていない」
「そうなのか」
車の中から幼い子供が二人、こっちを見て手を振ってきた。タケルが手を振るので、俺も一緒に手を振る。すると子供らは嬉しそうに笑っていた。
ふと違う車から降りている奴が言った。
「マジかよ!」
俺が尋ねた父親が、そいつに訪ねる。
「何か分ったかい?」
「これを堰き止めているのは州兵らしい」
「軍がこれをやってるのか?」
「前の方にいる知り合いが教えてくれたんだ」
俺とタケルが顔を見合わせる。軍隊が堰き止めているのだとすれば、答えは一つしかなかった。
そしてタケルがスマートフォンを取って繋ぐ。
「おう、俺だ」
「武か。状況は?」
「幹線道路はダメだぜ。軍が閉鎖している」
「そうか。こちらはモービル湾を迂回中、車だとかなり時間がかかってしまうな」
「大森に言って、抜け道を探してくれ」
「了解だ」
タケルがスマートフォンを閉じて俺に言った。
「他の道を探そうぜ。諦めて戻っている奴らもいるようだし」
「それしかないな」
道と道の間にある緑地から、反対車線に移っている車もいた。俺達も反対車線に移り違う道へと降りる。するとオオモリから、連絡が入った。
タケルがそれを見て言う。
「オオモリがネットで迂回路を見つけたらしいな。大きな幹線道路には、どこも軍隊が出てるってSNSで言われてるらしい」
「なら迂回路を行くか」
「かなりジグザグだがな」
タケルが、スマートフォンを見ながら道を探し進んで行く。何もない田舎道だが、その分車も通っておらずスムーズに進むことができた。進めるところではアクセルを開けて、距離を稼ぐしかない。
「舗装もされてねえようなとこを行くんだな。それだけに軍隊もいねえけどよ」
俺達が荒れた道を走っていると、舗装された道路に出た。再び加速して進んで行くと、その先で何か騒ぎが起きているようだった。どうやら車が多重で衝突しているらしく、道の脇に車両が落ちている。
俺はタケルにバイクを停めるように言う。
「ただの事故じゃない」
「なんだ」
「ゾンビがいる」
「なんだって? こんな所まで来てるのか」
俺達はバイクを下りて、その事故現場に近づいて行く。
「救急車はまだか!」
「警察も来ないわ」
「死んじまうぞ!」
事故にあった人達は、車の中で蠢いている人間達を助けようとしているらしい。だがその蠢いている人間はゾンビで、皆は藻掻いていると見ているようだ。鍵がかかっており、シートベルトもしているので外には出てこない。するとそこに、工具を持って来た奴がいる。
「バールで開けよう!」
タケルが俺をチラリと見るので、俺は背負子から一瓶の新型ゾンビ破壊薬を取り出す。そして人知れずそれをふわりと撒くと、じきに車の中の蠢く奴らが動きを止めた。
「マズいぞ! 気を失った!」
「早く!」
瓶を空っぽにして、俺達はその場をそっと立ち去る。
「ゾンビが漏れて来てるな」
「定期的に、破壊薬を撒いて行くしかないか?」
「だが、ニューオーリンズでも大量に使うぜ。それにこっちの方向にだけ来てるとは限らねえ。ここから先に撒いたところで、他の地域に抜け出られればどうしようもない」
「タケルの言うとおりだ」
「見かけたら救いもするが、ここはまず大元を叩かねえと」
「急ぐしかないか」
そして俺達は再びバイクを走らせた。その途中でもゾンビの気配はあり、とにかく新型ゾンビ破壊薬をまき散らしつつ進むしかなかった。
「銃声が聞こえるな」
「マジか…」
「いくぞ」
銃声の方向へ向かっていくと、バリケードが作られており、警官隊がうろつくゾンビを制止してるところだった。
「止まれぇ!」
「ダメだ止まらん!」
「撃て撃て!」
だが体を撃っても、ゾンビはもちろん活動を止めなかった。そして俺達を見た警察が言う。
「こっちに来るな! 避難するんだ!」
俺達はそこから離れて話し合う。
「あのままでは決壊するぜ。警察が居なくなりゃ歯止めが効かなくなる」
「ここから投げよう」
そして俺はゾンビ破壊薬を二瓶ほど取り出し、ゾンビの集まっているあたりに投げ込んだ。するとそこを中心にゾンビ達がバタバタと倒れだし、警察達がそれを見てあっけに取られている。
「行くぞ」
「おう」
俺達が煙の立ち上っている方角に向かって走っていくと、橋がかかっている場所に差し掛かる。車の間を彷徨うかのようにゾンビが歩いており、どうやら先の出口あたりにゾンビが密集しているようだ。 しかし橋の上に乗り捨てられた車には、生存者もいるようだった。
「ここもゾンビでいっぱいか…」
「あっちがニューオーリンズだな」
「爆発してるようだ」
「恐らくゾンビと戦ってんだろ」
「橋の上の車の中で生きている人らもいる。破壊薬を散らしながら進むしかない」
「行くか」
バイクで進みながら、俺は背中から村雨丸を抜きさる。
「刺突閃十連」
車に群がっているゾンビを倒し、俺達のバイクはそれらを縫うようにして橋に侵入した。ゾンビ破壊薬を取り出しては投げ、橋の上のゾンビを機能停止させていく。
するとジェット機の音が聞こえ始めた。
「また飛行機だ」
するとその飛行機が、橋の先に見える都市に対し爆撃を始めた。
「ヒカル! 空爆してるぞ!」
「まだ生きている人もいるだろうに…」
俺達は急ぎ空爆されている都市に向かって、バイクを走らせる。出口あたりには既に生存者はおらず、俺はバイクを運転しながら広範囲の剣技を繰り出す。
「飛空円斬!」
見えている範囲のゾンビが倒れる。
「どうするよ! ヒカル! 空爆はまた来るぜ!」
「できるだけ生存者を逃がすしかない」
「わかった!」
そして俺達は地獄と化した、ニューオーリンズへと突入してくのだった。




