第491話 タイムロスを取り戻すために
皆のいる場所に向かっている途中でも、次々とヘリコプターが飛び去って行くのが見えた。俺達が人の気配を避けながら進みつつ、タケルが空を見ながら言う。
「またヘリかあ。ニューオーリンズはどうなってるんだろうな?」
「拡大してるだろう」
「タイムロスだ。こうしている間にも、絶対にゾンビは広がってるよな。マジでなんとかしねえと」
「仕方あるまい。まずは合流だ」
「しかも、靴がブカブカでうまく走れねえ」
「そいつも問題だ」
「なんとかなんねえかな!」
イライラして文句を言うタケルと俺の前に、ショッピングセンターが見えて来た。
「タケル。あそこでお前の靴を仕入れるぞ」
「おっしゃ」
俺達はそこに何食わぬ顔で入り込み、出てきた時には全く違った格好になっていた。盗んだ服をそこに残し、丁度良いサイズの服に身を包む。
「やっとしっくりくる」
「俺は気に入らん」
「ヒカルのデニム姿を初めて見た。GジャンとTシャツを着るとめっちゃ若く見えるぜ。アメリカ人って言われても皆が信じる」
「タケルみたいな恰好だ」
「おりゃチノパンだけどよ。いつもとあんまり変わってねえ。でもこのスタジャンいいな」
「それは何のマークだ」
「野球チームだな。そのチームのジャンパーだよ」
「俺はとにかく、スーツに着替えたい」
「濡れてるから仕方ねえよ。ほんと、スタイリッシュだよなあ…ヒカルは」
俺達はGPSを頼りに向かっているが、クキ達もこちらに向かっているようだった。するとようやく相手から連絡が入る。
「おう! 武だ!」
相手はクキだった。
「武か、俺達はバラバラに動く事にした。十人でぞろぞろ動くと目立つ。お前達は動くな、こちらからそっちに合流する事にしたんだ」
「あー、んじゃホームセンターを見つけたから、そこに入ってるぜ」
「そうしてくれ」
俺達は見えて来たホームセンターに入る。買い物客もいっぱいいるので、俺達は難なく紛れ込むことができた。そこで客のようにしながら、タケルと二人で話をしていた。
「タケル。日本を彷徨っていた頃を思い出すな」
「ああ。あんときゃホームセンターが、生命線だったよな」
「こんなに充実しているものなんだな」
「ヒカルは荒らされた店しか見てねえもんな」
「ここにある物資を使えば、ゾンビの防ぎようはいくらでもある」
「俺も見方が変わったぜ」
俺達がしばらく物色していると、ようやく声がかかった。
「ヒカル!」
「ミオ!」
「カジュアルな格好してるから分からなかったわ。何処からどう見てもアメリカ人」
ミオとマナとオオモリだった。スマートフォンで俺達の位置を確認しつつ、店の中を探していたらしい。
するとオオモリが言う。
「ゾンビはかなり拡大しています。軍隊も動いているみたいですが、パンデミックの勢いの方が大きいみたいです」
「マジかよ! ロスもいいとこだ」
「はい」
「航空機も、もう何機飛んで行ったんだか分からないわ」
「車の手配は?」
「シャーリーンさんがしたけど、もう少し時間がかかるみたいよ」
「そうか」
そしてミオが言った。
「仕方ないわ。ひとまず、ここのカフェで待ちましょ」
店舗脇にファーストフードの店があり、俺達はそこに入って待つことにする。するとようやくクロサキとミナミ、アビゲイルとエイブラハムがやって来る。だが固まると目立つので、彼らは違う席に座るようにした。その間も俺達は時間を気にし、オオモリが告げるゾンビの被害を聞いている。
そしてスマートフォンを見ていたタケルが言う。
「ようやく九鬼さん達が来た」
クキとツバサとシャーリーンが来たので、俺達は店を出て店から少し離れた所にある道で合流する。
俺が聞いた。
「シャーリーン。車は?」
「すみません。あと二時間ほどかかります」
「なら誰かが先行するべきだ」
オオモリが言う。
「この近くにバイクショップがありますね」
「どうしてもバイクを手に入れたい。大型の車でもたもたしていたら、更に被害は拡大する。ニューオーリンズは、かなり危険な状況にあるはずだ」
ミオが俺に言った。
「ヒカルと武が先行するという事ね?」
「そういうことだ。俺達なら、警察に追跡されても逃げ切れる」
「わかったわ」
皆でオオモリが調べたバイクショップに行き、中に入るとタケルが湧いた。
「マジか、日本車だらけだ」
「よし。俺はこれにする」
「おっ。Z900Rか! んじゃ俺はこれだ」
「それは?」
「CBR1000RRだ」
そしてシャーリーンがキャリーケースから金を出し、店の主人は喜んで売ってくれた。最初に免許と言われると思ったが、プレゼントだと言ったら了承してくれた。店を出てバイクを引っ張っていると、シャーリーンが手配した車がようやく届いた。バスだと目立つので、RV車を二台用意したらしい。
「よし。じゃあ俺は着替える」
「あ、待ってるぜ」
俺は荷物から、スーツを取り出してそれに身を包んだ。やはりこのスーツは凄く着心地が良い。そして俺とタケルがバイクにまたがり仲間に言った。
「スピード違反に気を付けろ」
それにはシャーリーンが答えた。
「分かっています。それと…全員分の免許証が届きました」
俺とタケルもそれを受け取り、バイクのエンジンをかける。そこでアビゲイルがリュックを差し出して来た。
「ここにゾンビ破壊薬が入っています」
「わかった」
俺がそれを背負い 日本刀を仕舞いこむ。俺とタケルはヘルメットをかぶり親指をあげた。
「ヒカル! 武! 充分に気を付けてくれ。軍隊も不審者には容赦のない状況だと思う」
「わかってる。クキ、皆の事を頼む。先に行ってまってる」
「ああ」
「よっしゃ。んじゃヒカル! いくぜ! 遅れんなよ!」
「誰に言っている」
「言うねえ」
俺とタケルはアクセルを開け、皆と離れてニューオーリンズへと向かうのだった。




