第479話 ハイチでギャング襲撃を制圧
カリブ海では何も脅威は見つからず、俺達は何事もなくプエルトリコに到着した。プエルトリコはとても美しい街で、観光客が沢山いる島だ。だがそこでおかしな話を聞く事になる。
クキが、BARで隣に座った奴に話を聞いていた。
「封鎖されてるというのはハイチかい?」
「そうだよ。ハイチには行かない方が良い」
「なんでだい?」
「死人が歩いてるんだと」
それを聞いて俺達が目を合わせる。
「詳しく聞かせてもらいたい」
「魔術だよ。そんで死人が動いてるんだ」
「魔術」
「ハイチの魔術だよ。ゾンビを知らないのか?」
だが、その男と一緒に飲んでいた奴が言う。
「馬鹿だな。あれは都市伝説だよ。本当に動くわけがないだろう」
「いや。本当らしい。じゃなきゃ閉鎖されるもんか」
「疫病かなんかじゃないのか? 水際対策だよ」
「いや、俺は確かに聞いたんだ」
「騙されてんだよ」
「信頼できる筋から聞いたんだがな」
「ハイチは今、治安が悪いんだよ。だから渡航禁止になってるってだけだろ」
「…まあ確かにそうかもしれないけどな」
「そうだよ。とにかくギャングが多いんだからな」
「ああ」
「ハイチは世界から取り残されたんだよ」
そしてクキはその席にチップを置いて言う。
「いい話をありがとう。一杯飲んでくれ」
「すまないねえ」
俺とクキがBARを出て皆の所に戻り、聞いてきた話をした。本来ならばバミューダ海域の調査に乗り出すところだが、観光客たちが話しているのを小耳にはさんで調査していたのだ。
皆は既に警戒態勢に入っており、ゾンビについての情報を待っていた。
念のため皆はクルーザーから降りずに、港で待っていたのだった。
「どうだった?」
「町じゃまともな情報は取れないな」
「そう……」
オオモリが言う。
「もともと治安は悪化していますから、入国は非推奨になっていますね」
「また…危ない街か……」
そこでクキが言った。
「混沌に包まれた国ほど、ファーマー社にとっては格好の餌食だからな。世界に見捨てられたような国は、実験をするならもってこいだ。まるで東洋の島国のようにな」
「日本か」
「ああ」
そしてシャーリーンが言う。
「ミサイルが飛んだ場所に近いところで、怪しい話を聞くとなると信憑性は高いですよね。ローマしかりサンパウロしかり、ハイチも標的になった可能性は高い」
そこでタケルが言う。
「ふーん。んじゃ、ヒカルが水泳しなくても済むかもしれねえって事だな」
「それが関連づいていればな」
「ま、百聞は一見に如かずだろ」
それを聞いて皆が目を丸くしてタケルを見る。
オオモリが言った。
「た、武さん! ことわざなんか知ってたんですか!」
皆の視線を感じたタケルが、それこそ信じられないという顔でオオモリを見る。
「てめえ…いま俺の事馬鹿にしたろ?」
「い、いえいえいえいえ! してません! してません!」
「このやろう!」
ヘッドロックをしてグリグリされている。だがいずれにせよ確認をしに行く必要はあった。
既にシャーリーンが船の給油を終わらせており、俺達は一路ハイチに向かう事になる。
「現在は普通に港から入る事はできません」
「どこかの崖に接岸して乗り込むしかなかろう」
タケルがエイブラハムに気を使う。
「大丈夫かい爺さん。結構歩くぜ」
「若返ったわしにゃ、どうという事はないわい」
そして俺達はハイチの湾岸に到着した。クキが言うには湾岸警備艇もいないし、こんなに無防備に侵入できるのはおかしいと言っている。装備を全て持って上陸し、シャーリーンがクルーザーの航海士にプエルトリコに戻るように伝えた。
クキが指示をする。
「まずは民家のあるところまで進もう」
歩いてすぐに街が見えて来て、俺達はその街に潜入した。しかし人々は普通に暮らしをしていて、それほど危険な感じはしないように見える。だが俺達が異様な集団に思えたらしく、歩いていると皆が家に入り窓を閉めた。
「何かに怯えているようね」
「こんなところに観光客は来ないだろうからな」
タケルがあっけらかんと言った。
「んじゃ、邪魔するものがいねえってことじゃねえか」
「まあ、たしかに」
「これでは情報の取りようがない。大森はインターネットに情報が出ていないと言ってる」
「閉鎖されてますからね。情報が表に出ないようになってます」
「だが絶対に何かはある」
更に市場のようなところに来ると人が増えて来た。雑多に物資が置いてありかなり活況のようだ。
そしてミオが言う。
「ハイチならフランス語が通じるわ」
「よかった」
俺達が市場に紛れると、周りの人間が珍しそうに見ている。
「やはり、ここでアジア人集団というのは珍しいようだ」
「声をかけてみましょう」
ミオが市場の女に声をかけて話を聞いた。
どうやらここはドミニカ共和国との国境で、隣国から物資が流れ込んで来るらしい。だがいろいろと気を付けた方が良いと言っている。首都のポルトープランスはもちろん危険だし、最近はこのあたりまで足を延ばしてくるギャングがいるらしいのだ。今日みたいな活況な日は、特に危ないのだとか。
「なんでも、最近首都で大量にギャングが殺人を行ったらしいわ」
「ポルトープランスか…」
「逮捕された人が、ゾンビが増えた理由の原因を作った人がいるからと言っているみたい」
するとオオモリがようやくデータを見つける。
「あった。ギャングの蛮行と書いてます」
「いずれにせよ、そこに行かないと分らんな」
そして俺達が市場を歩いていると、なんと情報は向こうから飛び込んで来る。
「ギャングだ!」
その掛け声で、市場の人らがサーっと片付けを初め、その場を逃げ出し始めた。皆が慌てて片付けたり逃げたりしている中を、俺達は声がした方に歩いて行く。
すると市場の人が言う。
「あんたらみたいに目立つのは率先してやられるぞ! 逃げた方が良い!」
「忠告ありがとう」
ミオがそう言ってにっこりと笑った。それでもお構いなしに、雑踏の中を進んで行くと、さっき忠告してくれた人が言った通り、向こうの方からこちらに近づいて来た。
「お前達はなんだ? なにじんだ?」
その集団は皆が悪そうな面構えをしており、拳銃や自動小銃を持っている。どうやら市場の物資や金を目当てに、襲撃に来たらしかった。
そこでクキが答える。
「田舎のギャングが一般人に迷惑かけてんじゃねえよ」
ジャキ!
皆がこちらに向けて銃を構えた。
だがクキが言う。
「おいおい。知らねえぞ、俺は良くても皆が許してくれねえ」
そのうちの一番悪そうな顔をしたやつが、よりにも寄ってミナミに近づいて行く。
「まずは! この女からだ!」
そう言ってミナミに手を伸ばそうとした。
シュキン!
「ん?」
そいつは、無くなった自分の手首を見て不思議そうにしていた。手首から血を噴き出して、ようやく大声で叫ぶ。
「うっぎゃぁぁぁぁぁ!」
ミナミがスッと身を紛らわせるように、既に違う奴の背後に立っている。そいつのどてっぱらから日本刀が突き出ており、自分に何が起きたのか分からないようだった。
プシャアアア!
と血を噴き出して倒れる。
「この!」
と数人が銃をミナミに構えるが、手首を切られてうずくまっている男をタケルが片手でつかみ上げ、そいつらに向けて思いっきり投げつける。
ドゴッ!
「ぐげ!」
「ぎゃ!」
「あぼっ!」
何人かが吹き飛ばされ、驚いた奴らがタケルを驚愕の眼差しで見ている。
「う、撃て!」
「どこ見てんのよ」
ミナミが、男に歩みより足を切り落として転がす。
「ぐぎゃああああ!」
クロサキが市場の人に聞く。
「警察は来ないの?」
「警察? 来やしないよ! アイツらが去った後でゆっくりやってくるだろうさ」
「どうして?」
「自分らも死にたくないからさ」
「どうやら、そう言う事ですヒカルさん」
「なら、二人くらいさらっていくか」
「わかりました」
既に半分はタケルとミナミが片付けた、俺はそのうちの二人の意識を刈り取る。
「タケル、ミナミ、どうだ?」
「ああ。終わった」
「こっちも」
そこでクキが言う。
「潮時だ」
あちこち欠損したギャングを尻目に、俺達は二人のギャングを回収してその市場から離脱するのだった。後は警察が来て処理をしてくれるだろう。市場を離れたところで、俺達はギャング二人を地面に転がし周りを囲むのだった。




